001 転生した私
事故で死んだはずの私は、異世界に生まれ変わった。
最初に気付いたのは、生まれてすぐだった。困惑したし、混乱したけど、赤ちゃん生活でそれは吹っ飛んだ。搾乳や排泄、自分では何も出来ないって言うのが、どれだけ辛いか思い知らされた。 今は一歳。ハイハイで自由に動き回れるようになって、行動範囲も上がった。
言葉も大分分かるようになったし、話すのは苦手だが、家の人の話を盗み聞きしたりして色々情報を集めている。 まあ、元の世界に未練はないし、帰る方法を探そうとか、そういった気持ちはない。ただ、明らかに地球じゃないのだ。とても気になる。
私の両親は、とても美しい。父は海のような蒼い髪にオレンジがかった金色の瞳で、母は豪奢な濃い黄金の髪にエメラルドグリーンの瞳。どちらも、テレビでもついぞ見た事がない美貌の持ち主。…髪も瞳も、染めた人工的な色ではなく自然な綺麗な色だ。地球ではないだろう。 それに、私が生まれたのは裕福な家らしく、家も結構大きく使用人もいる。現代と言うより中世ってイメージで、それだけならまだ昔に生まれたと思うだけだ。使用人さんの髪や瞳も紫や緑だけど。
でも、流石に魔法、と言われるような物を見せられ、地球だと思うなんて無理だった。
ここは、異世界。それは間違いないと思う。夢じゃないなんてとうの昔に自覚済みだし、転生なんて妄想の産物のような現象を信じざるを得ない。 転生については、何故こうなったかは分からないが、取り敢えず受け入れた。ぶっちゃけうろ覚えなのだが、死に際に来世がどうこう思ったのが叶ったと思っておく。 まあ、私は自覚してるくらいには楽観的なので、難しい事は後回しにする。考えても答えは出ないしね。
「あら、レイちゃん。こんな所で何をしているの?」
「う?」
ハイハイで廊下を進んでいると、前から母が現れ私を抱き上げた。母の緩く波打つ長い髪が私に掛かる。ふくよかな胸に抱かれ、言い様のない安心感に包まれた。
「ふふ、お部屋に帰っておねんねしましょう?」
「あい」
母は優しく微笑み、私の白い髪を撫でた。
どうにも慣れない、無償の愛を与えてくれる手や目。無性に恥ずかしくて、母の胸に抱き付いた。
部屋に帰り、私は双子の妹と共にベッドに寝かしつけられた。隣にいる妹と見下ろす母を見て、はふぅ、と息を吐き思考の海に潜った。
私は、四人兄弟の次女として生まれた。姉は五つ上で兄は二つ上、そして妹は双子だ。姉が魔法を教わってる様子を、最初こそ唖然と見ていたが、今では結構積極的に見ている。 簡単な魔法ばかりだったが、ドキドキした。
魔法があると知り、私も使えるのかとワクワクしていると、急にメニューウィンドウが現れ、驚いた。まだ生後数ヶ月だったので、メニューを隅々まで見て確信。――『create world online』通称CWOでのキャラクターのデータを引き継いだようだった。ログアウトはないし、ちょっと変わっている部分はあるが、そのままだった。
CWOは、豊富な職業豊富なスキル豊富なレシピがある。割と気軽に転職出来るが、転職前に得たスキルは現在の職業をカンストさせないと使えないのだ。まあ、生産系は使えるのだが、圧倒的な自由度を誇るCWOの唯一不自由な所と言えば、これだった。
現在の私は遊び人Lv.53。上限レベルは1000だ。当分遊び人以外の職業スキルは使えないな。元々私は、全職業を極めると出る隠し職業を極めたので、殆ど使えない。遊び人は二回目だ。
ステータスは見えないので分からないが、それは引き継いでない気がする。多分、だけど。
何故こんな力があるかは知らないし、この世界がCWOの世界なのかも知らない。分からない事だらけだが、これだけは言える。私は、異常だと。
だって、私は生まれた時、指輪を握り締めていたのだから。
古ぼけ色褪せている、白と黒の三つの輪が交差した土台に花の蕾のような石が付いた指輪。誰も、勿論私も見た事がない指輪で、母のお腹の中にいた時から持っていたらしい。母も、知らない指輪だけど。
今は紐を通して私の首に掛かっている。両親だっておかしく思ってるだろうに、全然気にしてないように妹と平等に接してくれている。有り難いが、私としては本当はどう思っているのかが、凄く気になる。
私は二度目の人生を送れて、しかもこんな温かい家庭に生まれられてとても幸運なのだろう。だけど、どうにも距離の取り方が分からない。家族の記憶なんて殆どないから、どう接すればいいかちょっと分からないのだ。
親の遺産も雀の涙ほどの子供の世話なんて、誰もしたがらず、私は親戚中を盥回しにされ、結局施設に入った経験がある。一時期は大人嫌いになったほどだった。まあ、よくある事なんだろうけれど、幼い私は傷付いた。
だからだろうか。こうして愛されると、どうしたらいいか分からない。…愛されてると思って良い、のかな。良しとする。第一、疑いより戸惑いが強い。
ふっと意識を浮上させ、今にもくっつきそうな瞼を上げた。
互いに遠慮しない家族の皆を見ていると、私もその一員になりたいと思う。だから、私は彼等と家族になる努力をしようと思う。
子守歌を歌いながら優しい眼差しを私と妹に向ける母に、そう思った。
まだ一歳。時間はたっぷりあるんだ。焦らなくていいよね。
微睡みながら、私はそうつらつらと考えていた。いつの間にか、眠っていて、夢を見ていた。家族と心から笑い合い、愛し合う夢を。
「あらあら。ふふ、レイったら珍しく笑ってるわ。どんな夢を見ているのかしら」
とっても幸せな夢だよ。私の目標のね。
話題がコロコロ変わって読みにくいような…。書き方が纏まらない不思議。
主人公はネガティブでぐるぐるグダグダ考えすぎる癖に楽観的なタイプです。