012 家族が増えた私
駆け足気味です。
私は良い意味で変わり映えのしない平穏な日常を過ごし、ついに出産予定日を三日後に控えた。予定日が絶対な訳じゃないからと、数日前からうちには産婆さんがスタンバってる。
そして、今日。母は陣痛で倒れた。
お昼を食べのんびりしていた。いつ陣痛が始まるか分からないからと、母は部屋で寝ていて、私達は遊びに行っていた。その時に、母は倒れたのだ。
お腹を抱え痛がる母。上体を倒し、脂汗を浮かべる姿に、慌ててしまった。控えていた使用人さんが産婆さんを呼んできて、部屋から出されて漸く落ち着いてきた。
ドキドキしながら、いきなり苦しみだした母を見て泣き出したアリシアを宥め賺す。駆け付けた父も不安げにウロウロと忙しなく部屋の前を行ったり来たりしている。
そわそわ、そわそわと落ち着かない。アイリスもレオンも心配そうに母を呼び、緊迫感にも似た空気が漂った。
大丈夫だろうか……ただそれだけが頭を占める。だがそれも、元気な赤ん坊の泣き声が聞こえてくるまでだった。
弾かれたように部屋の扉を注視する私達。理解が追い付かずポカンとしてしまったが、じわじわと実感が湧いてきた。新しい、家族が出来た…!
扉が開き、入っても良いと言われ、部屋に雪崩れ込む。汗で前髪を額に張り付かせた母が、清潔な布でくるまれた生まれたばかりの小さな命を腕に抱き微笑んでいた。
「アイリ……よく頑張ったね」
「ふふ、ええ…二人目の男の子よ」
両親がキスしてるのを後目に、眠ってる弟を見る。小猿みたいだけど、弟だと思うと不思議と可愛く見える。実際にはまだ可愛いとは言い難いんだろうけどね。
兄弟も皆興味津々に見ている。母が見易いようにしてくれたが、起きてるとこが見たいな。起こしちゃダメかな?…ダメか。
「皆に弟が出来たのよ。よろしくね」
「はいっお母様!」
「はぁい!よろしくねぇ」
「よーしく!」
「よっしく!」
各々笑いかけ、末っ子の誕生を喜んだ。えへへ、これで私もお姉ちゃんだ!アリシアは妹だけど双子だから姉って感じじゃないしね。
…浮かれていた私は、警鐘を鳴らす直感に気付かなかった。言い訳させて貰えば、この時の私は他に何も考えられないくらい幸せいっぱいだったのだ。…ホント、気付けよバカやろぉ。
弟が生まれて、一ヶ月が経ち、小猿から愛らしい赤ちゃんへと変わった。いや、元々愛らしい赤ちゃんだったけど。
まだ名前はないが、毎日会いに行っている。可愛く笑う姿にもうメロメロだ。アリシアは興味津々に見つめている。小首を傾げる弟のあざとさったら!でもそこがイイ!
弟は、鮮やかな緋色の髪に澄み切った緑色の瞳だ。髪は父方の祖母譲りだとか。凄く綺麗な色で、うっとりとした。将来有望だよね、だってお目目ぱっちりでまろやかで天使だもの!最近私のテンションがおかしいよ!
――皆して、こんな感じに浮かれてたんだ。
事は、弟誕生から二ヶ月程経った時に起きた。
朝、いつも通り食事をしていると、ドォォォンッ!!と巨大な破壊音と凄まじい揺れが辺りに響いた。隕石が落ちたみたいな衝撃に、両親は一瞬構え――そして脱力した。
「わ、忘れてた…っ!」
「また(・・)家壊したわね、あの人達っ…!」
どうやら、何が起こったか両親は把握したようだ。泣き出した私達子供を宥めながら、扉の方をチラチラ見ている。私も、精神が肉体に引っ張られたのか泣いちゃいました。
そして、予想外に普通に開けられた扉から、食堂に入ってきたのは。
「やっほ〜!元気元気ぃ〜っ?」
「久し振りじゃの。相変わらず良くも悪くも変わらんのぅ」
「いや、前に会ったのは二年前だから言うほど久し振りじゃねぇし、そんな簡単には変わらねぇよ」
「そやそや。たった二年やで?まあ、孫等は成長が速いから久し振りでもええんとちゃう?もうあないに大きなって…」
美幼女、美男子、美女、美少年の順に話し、此方に近付いてきた。全員絶世の、とか傾国の、とかが頭に付くような美貌通り越して魔貌だ。
金髪緑眼の美幼女と銀髪碧眼の美男子、赤髪金眼の美女に青髪黒眼の美少年――。濃淡は違えど、見た事がある系統の色彩。と言うか、そっくり…。
「もうっ!来るなら連絡してよ、お母様もお父様も!」
「それに、毎回毎回家を壊すなと、何度言わせれば気が済むのですか?バカなんですか?」
「くぉらレンリ!テメェ親に向かってバカとは何だバカとは!」
「子供の家を訪ねる度に破壊する親をバカと言って何が悪いんです?」
「ぐっ…!」
「きゃははっ!リオンの負けぇ〜!それから、いきなり来た方が楽しいの!だから、連絡はしないよぉ〜」
……。…え、親ぁッ!!?