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星、夜道、花の匂い。

作者: 花凪


 高校の同窓会なんて何年ぶりに出席しただろう。そもそも最初の頃は出欠さえ訊かれなかったし、たとえ仲の良かった子に「行く?」って訊かれても、絶対、首を縦に振らなかったと思う。

 ようやく暖かくなってきて、夜にコートが要らなくなった。時折、甘ったるい花の匂いがするようになった。

 もう季節は春なのだ。

 大通りから一本外れた道は街灯が規則正しく並び、無機質に道を示している。まだこの場所じゃ星は見えない。


 あいつが結婚したと聞いたから、相手はどんなひとで、どんな風にして結婚まで至ったのか、相変わらず照れるときは鼻を右の掌で隠すのか、気になってたまらなかった。


 卒業前、最後に会った夜の公園。ブランコ、に、乗りながら。

 空まで届きそうなくらい高く漕いだあいつは、右手を鎖から離して夜空に腕を伸ばしていた。

『もし星が掴めたらお前にやるよ!』

 ほんとうに手が届いてしまうんじゃないか。そう思えるくらいに、迷いなく。

 ——あたしはそんな風には生きられなかった。

 ブランコだって、怖くて足が地面に着く程度にしか漕げなかった。


 だから平凡なサラリーマンになったあいつに会って、ちょっと丸くなった顔と柔らかくなった目元を見て、思った。


 春は来るのだ。

 誰にでも、暖かな陽射しは降り注ぐ。


 それでも結婚相手のことを幸せそうに話すあいつが掌で鼻を隠す仕草を見て、

どこかほっとしている自分がいた。


 最後に会った夜の公園。

 街灯にぼんやりと照らされて、ブランコが2台。見上げると星が瞬いて。


『遅いぞ!』


 不意に声がした気がしてブランコの脇に視線を遣ると、中学3年生のあいつがにやにやしながら立っていた。

『ごめん、塾が長引いてっ』

 あたしの横を同じく中学3年生のあたしが駆けて行く。あたしが走った後には甘ったるい花の残り香。ううん、これは星の残り香。

 あの日あいつが掴んだかもしれなくて、あたしにくれた星、の。


「……!」

 全身が熱くなって心臓が痛くなって、その場にしゃがみこむしかなかった。


 もう、季節は春なのだ。

ひさしぶりに文章を書きました。

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