恐らく四話だろう
「お久しぶりです!結城さん」
「ああ、うん。久しぶり」
結城は改めて海の妹、雫を見る。
雫の服装は勿論制服。雫の行ってる高校は芦田高校では無くスポーツの名門高に通っており制服の胸の部分には大きくその高校を示すワッペンがついている。体格は女性にしては大きく海とは違ってガッチリとして女性にしては背も高い。顔はこれも海とは違って男性に近く、私服で歩いているとよく男に間違えられるらしい。
空手を子供の頃からやっていたせいか口調が少し、他の人とは違うし、性格も男らしい。
そのせいで人によっては好き嫌いがあるかもしれないが、別に結城はそんなことはどうでもよかった。結城が雫を苦手な理由それは
「結城さ~ん。結城さん師匠より強いんでしょ?オレに稽古つけてくださいよ~」
「いや、それはちょっと…」
結城が雫が苦手な理由、それは雫が左手につけている緑色のリストバントのせいだ
数ヶ月前
「黄色の鬼とは少しめんどくさいな…」
結城はジャージで木刀を持ちながら日本であり日本で無い場所のジャングルにいた
この時は朝早くであったため朝飯には間に合うようにと急ぎながら結城は鬼を探していた
鬼を見つけるために歩き回っていると
「う、うわーーー!!!
くるな、くるな化け物!!!こっちにくるな!!」
とあまり遠くない場所から声が聞こえてきた
(慌てぶりから新人だな…
早めに助けて帰ろう)
結城は声がしたであろう方向へ全力で走った。少し広い空間に出たと思ったらそこには愛くるしさが微塵も感じられない巨大なリスのような生物がおり、そのリスからは六本の触手のようなものが生えていてその触手は今にも女性に襲いかかろうとしていた
「今日はこれで終わりかな?」
結城は木刀を構えるとある一定の距離を保ったままでリスの触手に向かって木刀を降り下ろした
ボタボタボタ
結城が木刀を降り下ろすと六本の触手は全て何かに切断されたように地面に切り落とされる
自分の腕と同じ触手を切り落とされ悲鳴を上げるとリスは目の前にいる女性を飲み込もうと大きく口を開けた
「う、ウワアァァアアア!!!
たす、誰か助けてー!!!」
女性はあまりの恐怖に目を閉じる
いつまで立っても来ない痛みに疑問を感じ目を開けると目の前には口を開けたまま止まっているリスがいた。
「大丈夫か?」
止まっているリスの胴体が徐々にずれ始め真っ二つに割れるとリスの向こう側には結城が立っていた
「あ、ありがとうございます…
あれ?結…城さん?」
「も、もしかして…雫ちゃん?」
結城は制服の雫を見慣れていたため私服の雫には気付かなかったようだ
「結城さん…これはなんですか?ドッキリですか?オレを怖がらそうとしてたんですか?」
「違う。今から説明するからよく聞くんだ―…」
結城は何人もの人にこの世界のことを説明しているためスムーズにわかりやすく伝えることができて雫も結城のおよそのことは説明で納得がいった
「じゃあこれからどうやってオレは生きていけばいいんですか?」
「俺の知り合いに結構この世界に慣れている人がいるからそいつから学んで。ちゃんと紹介はしとくから」
「結城さんが教えてくれないんですか?」
「いや、俺はちょっと…」
「オレ結城さんがいいんですけど…」
「無理です!あ、そろそろ帰れる!じゃあ!!」
そう言って結城は現代に戻っていった。
それからというもの雫は生きていくために結城に紹介してもらった人物に生きていく術を学び始めた。
雫の師匠は生きていく術を雫に教えながらよく結城のことを話していた。
「あの坊主はな、ある戦いの生き残った中の一人らしくてな…。俺はその戦いにその頃は参加してなかったから詳しくは知らないんだがその戦いに参加していた師匠によると『あれは英雄の中の一人だ。私なんか足下にも及ばん』と言ってたよ。俺は師匠が最強と信じていたためそのことが信じられなくてな、自分一人である程度戦えるようになってから師匠に許しを貰って、ここへ引っ越したんだよ。坊主を探すためにな…
ある時、あの世界に行ったんだよ。その時はリストバンドが紫になっていてこれは少しヤバイなと思っていたやさき…
大量の鬼が現れたんだよ
それはおよそ100近くはいたと思うね。俺は何とか30ほどは倒せたんだがまだまだ修行が足りなかったようでそこから一匹も倒せなくなった
その時だよ、たまたま近くを通りかかった坊主は残りの70の鬼を10分もかからず殺しやがった。その光景を見てから師匠の言ったことは嘘じゃなかったと思い知らされたよ。
そこからだ、俺と坊主の繋がりは」
「じゃあ師匠が結城さんと戦ったら負けますか!?」
「やりあったことは無いが恐らく勝負にならんだろう。俺の師匠でさえ数10分もつのが限界だと言ってたしな」
「そうなんですか!わかりました!」
その言葉を聞いて以来雫は結城に興味を持ち始め結城に会うたびに稽古をつけて下さいと言うようになった
―現代に戻る―
「お願いします!!何でもするんで稽古をつけて下さい!!」
雫は兄の海が結城の隣にいるのにもかかわらずに必死に結城に頭を下げて頼んでいる
「ねぇー、結城。稽古って?もしかしてゲームの?」
「ちげぇよ!!
…ただ雫ちゃんは誰かに俺は『空手が半端なく強い』って吹き込まれたらしく会うたびに稽古をつけて下さいって言ってくるんだよ!」
結城は関係無い人にあの世界のことを言っても仕方ないので即興で適当に作った嘘を言う
「ふーん。結城が雫より空手が強いねぇ
…ふっ」
「ほ~う、またお前は俺を馬鹿にしたな」
「別に~、隠された秘密があって凄いな~と思っただけだよ」
「…やっぱりお前、鼻から下無くなれ」
「嫌だけど」
海はずっとニヤニヤしていた
空気が海と結城に流されていく中、少しの沈黙にまた雫は入ってくる
「それで結城さん。いつオレに稽古をつけてくれますか?」
「つけねぇよ!先生に習えよ!」
「たまには他の人と稽古をやりたいじゃないですか」
「……じゃあ雫ちゃんの先生から許可を貰ってきて
OKが出たなら勝負することを考えるよ」
「わかりました!オレ師匠からOK貰えるか聞いてきます!」
雫は海の部屋を出ていくと階段を下りてどこかに出掛けていった
「……さて、今のうちに逃げるとしますか」
「待ってあげないの?」
「いや~
もういい時間だし母さんが晩飯作ってると思うから帰るわ」
「僕は帰ってきた雫になんて説明すればいいんだよ…」
「なんか適当に言っといてくれ
じゃ!」
結城はカバンを持つとそそくさと海の部屋を出ていき家を後にする。
外は薄暗く人も少ないため一瞬、結城は雫のことを心配するが、
(不審者…は、いても雫ちゃんは撃退するやろうし大丈夫やろ)
そこらへんの人が雫に勝てるわけが無いと思い返すと気兼ねせず自転車に乗りながら結城は家に帰っていった
「ただいまー」
「おかえり」
家から聴こえてくる声は女性だけ、家の中には結城の母、智里だけであった。結城がリビングに入ると既に晩御飯がテーブルに並べられている。
「さっさと着替えて来なさい。晩御飯よ」
「へーい」
結城は部屋に入ると制服から私服に着替える。
「連続で呼ばれんやろ」
カバンの中から緑色のリストバントを取り出すといつものように時計の横に置くと晩御飯を食べにリビングに降りていった
「そういや結城、あんたに手紙きてたわよ」
「手紙?古風な…
誰から?」
「差出人は『山真 栗』って書いてあったわ」
そう言うと智里は結城に封筒を渡した。
(誰だよ…そんなやつ知らねぇよ)
と思いながら封筒を開けると一通の紙が入っていた。
(えーと、
『ややこしい、挨拶は省かせてもらう。覚えてるか?私だ、栗山 真だ。
改めて礼を言わせてもらおう、あのときは君のお陰で本当に助かった。
本来なら直接きみの家にいって礼言わせてもらいたいが、ある意味私は有名人だし妻からできる限り遠出は止めてくれと言われているためあまり変に動けないんだ。
今は君の言った通り生きていく術を教えてくれる人に出合い少しづつだが体を鍛えている
私に生きていく術を教えてくれる人はどうやら君と同じ生き残りだそうで君のことを話すとまだ生きてたかと喜んでいたよ。
今度君と会うときは自分の身は自分で守れるぐらい強くなっておくつもりだ。
もし、何か困ったことがあったならできる限り力になるつもりなので遠慮なく頼ってほしい
私にできる恩返しはそれくらいだ
私の電話番号は―…』
栗山さんかよ!!
まぁ、死なんように頑張って下さい)
「どんな用件だったの?」
「つい最近、落ちてた携帯を交番に届けたんだけど、その携帯の持ち主のお礼の手紙」
「ふーん、律儀な人もいるものね」
「ほんとにそうだわ」
手紙に書いてあった電話番号を携帯に登録し手紙をポケットにいれると結城は智里と一緒に晩御飯を食べるのであった。