恐らく一話だろう
ピピピピピピピピ
午前六時半
携帯のアラームが鳴った
「んぁ…、朝か…」
低血圧なのか結城は朝には弱いようだ。手探りで携帯を探し手に取るとアラームを解除する
「はぁ………」
結城は寝ぼけながらベットから立ち上がると前日の夜に用意しておいた学生服一式に手を伸ばす
結城が通っている学校は特に指定の制服が無いため一般によくあるカッターと黒いズボンだ。
「しんどー…」
制服に着替え終わると朝御飯を食べる為に学校の教材を入れてあるカバンを持ちリビングに降りようとしたとき机の上に置いてある緑色のリストバンドに目が止まる
「一応いれとくか…」
緑色のリストバンドを手につけるのでは無くカバンの中に入れるとそのまま部屋を出てリビングに向かった
「パンでいい?」
「…ん」
リビングには結城の母親、『智里』がすでにいた。
智里はオーブントースターにパンを入れて焼き始める
「結城~
朝刊取ってきて」
「…だる」
結城は小さく文句を言い朝刊を取りに行った
結城はポストに入っている朝刊を取ると母親に渡す前に一番大きなニュースだけを見る
『101人目の行方不明者兵庫ででる!!』
新聞には大きくそう書いてあった
「ふーん、兵庫ねぇ…
誰が死んだのかは知らんけど恨むなら兵庫のやつらを恨みな
俺の手は兵庫まで届かん」
新聞は行方不明としかかかれていないが結城はすでにその行方不明者が死んでいるということがわかっていた
「ほれっ、朝刊」
結城は家に帰ると智里に朝刊を投げ渡す
「ありがとう。パン焼けたわよ」
結城は智里からパンを貰いテーブルに座るとパンを食べ始める
「また、行方不明者だって…怖いわね」
新聞を読んでいるの母親から声がかかる
「俺もさっき見たけどそれ兵庫だろ?
俺らが住んでる滋賀県は田舎やし大丈夫やだって」
「そりゃ…私達が住んでる場所は兵庫に比べると田舎かも知れないけど、安心は出来ないわ…
ここらの地域では行方不明者はまだ出てないけど端の方だと一人出てるじゃない…」
智里の言うとおり滋賀県は他の県と比べて半年前から出始めた行方不明者の数は極端に少なく未だに一人しか出ていなかった
「あんたも気を付けなさいよ」
「いやいや、俺も確かに気をつけなあかんけど一番気をつける必要があるのは親父だろ…
仮にその行方不明者が人為的な物であったとして」
弥之家の大黒柱の『弥之 大寺』は結城と会う日があまりない。大寺は別に海外出張などに行っている訳では無いが働いている場所が24時間稼働している工場の為三交代勤務であり帰って来る時間は早朝だったり昼間だったり真夜中である為誰かに拐われてもわからない
ということだ
智里も結城の言うことに納得しているのか少し虚空を見ながら考え事をしている
「…そうね
お父さんは特別何か対策してもらわないといけないかもね」
「防犯ブザーを数十個持たしたら大丈夫じゃね?」
「その案いいかも知れない…」
「ふざけて言ったつもりなんだけどな…」
すでに智里の耳には結城の言葉が届いてはいなかった。
「ごちそうさん」
結城はパンを食べ終わると食器を台所に置き、そのまま洗面所に移動する
「(兵庫のやつらは雑魚なのか?それとも、あの時のような異常な鬼が出てきたのか?)
まぁ、どっちにしても俺には関係無いか引退した身だし…
俺に出来るのは残党狩りぐらいっと」
結城は顔を洗い歯を磨きくと髪の毛をセットし始める
「いつも思うけど俺どんだけ寝癖ヤバイんだよ…」
寝癖によって跳ねた髪の毛を正常な位置に戻す
結城の髪の毛はショートでそこまで寝癖がつくはずの無いのだがなぜかあちらこちら跳ねていた。
「そろそろ時間かな?」
洗面所で一式することが終わるとリビングに戻る。リビングではまだ「…警棒も捨てがたい」とかわけわからんことを言っている母親がいたがそれを無視しカバンを持つと結城は家を出て自分が通っている芦田高校へと向かった
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芦田高校は結城の家から自転車でおよそ20分先にある学力が中レベルの学校だ。特に何か凄いという学校では無く近所の人達に芦田高校に通ってますと言うと『芦田高校?あぁ…、そう。で、それがどうしたん?』と言われるぐらいの普通な学校であった
そんな芦田高校に通う為結城は朝から自転車を飛ばしている。ちなみに今まで一年とちょっと芦田高校に自転車で通っているが曲がり角からパンを加えた美少女とぶつかり『いたぁ~い』『す、すみません大丈夫でしたか』からの恋は一度もない。変わりといってはなんだがあるのは自転車のベルを鳴らしたとき歩行者の『チッ!』という舌打ちなら数えきれないほどある
「今日は舌打ちは無し…と。」
芦田高校に着くと駐輪場に自転車を止め教室に向かう。教室では数人の生徒がすでに来て談笑していた
結城は無言で教室のドアを開けると中からいっせいに注目される。別に結城が珍しい訳では無い。ただ誰が来たのかと言うことを皆は知りたいわけであり来た人物が結城だとわかるとまた先程のように喋り始める
結城は自分の席まで移動するとカバンを下ろしイスに座り携帯をいじり始める。結城も会話に参加すればいいのでは?と端からみたら思うかもしれないがいかんせん結城とその生徒達はそこまで仲がいいわけでは無くぞくにいう『知り合い以上、友達未満』というやつだ。だから結城は携帯を弄り友達が来るのを待つ。結城が来てから数分経過して時間は08時00分となった
08時30分からHRが始まるのためちらほらと生徒達が教室に入ってくる
その入って来た生徒の中の一人はカバンを席に置くと結城のもとへ向かってきた
「お前今朝のニュースみた?今度の行方不明者は兵庫だって…
怖いな…」
「俺はお前の顔が怖いよ」
「黙れ、死ね」
「遠慮させてもらう」
軽いジョークが二人の間で交わされる。
結城に喋りかけてきた相手『斎藤 務』は中学からの知り合い一緒に芦田高校に来た友達の一人だ。他にも一緒に来た友達はいるのだが結城にとっては務が一番一緒にいる時間が長く親友とも言える存在だと思っている。
務は強面で、野球部でもあり髪型は坊主でがたいもよくその怖い顔が強調され他人はまず務には用が無い限り話かけない。だがそんな顔とは裏腹に気さくで優しく見た目ほど怖くない(怒る時はちゃんと怒る)ためクラスの人達は躊躇いもなく務に話しかけている。
ちなみに結城の顔はどこかムスッとしているようにも見えるし考え事をしているようにも見えるが怒ってるようには見えないという顔だ。特徴は無くしいていうなら髪がショートなので顔全体が見えるということぐらいである。体はムキムキでは無いが歳と体つきに比べたらガッチリしているほうである。結城は部活には所属してはいないが、もし所属していたとして顔と体で判断するのであれば水泳部と言われてもおかしくは無い
「でさ―、今度の休みに映画見に行かねぇ?」
「映画かぁ…、今何かおもろいのあんの?」
「『インセクト』ってやつ。あらすじは突如昆虫化した人間が普通の人間と暮らす為に努力するっていう泣ける映画」
「それ、おもんないやろ…」
「いや、絶対面白いって!!予告編見たけど涙出そうやったし」
「わかった!わかったからその顔で近づくな!他人が見たら絡まれてるようにしか見えんから!」
「じゃあ、いつにする?俺の予定は今週の土曜は練習試合だけど日曜はフリーなんだわ」
「日曜でええよ。俺も70%の確率でいけるわ」
「中途半端やな…、何その70%?」
「美少女の幼なじみからデートの誘いが来るかも「黙れ、幼なじみなんておらんやろ。ってか鏡見てこい」…急な予定が入るかもしれんから」
「そうか。じゃあほぼ行けるってことやな?」
「まぁ、ほぼ行けるわ」
「わかった」
キーンコーン
カーンコーン
結城と務が話終わるとほぼ同時にチャイムが鳴った。周りを見てみるとほとんどの生徒が席についている。先生に怒られまいと急いで自分の席に戻る務を見て結城は少し楽しんでいた
ガララララ
と教室のドアが開いたとかと思うともうすぐ定年間近の担任が入ってきた
「今日は皆にとても嬉しい知らせがあります」
『まさか…』
『この展開、この空気これは恐らく…』
『絶対美少女だ。美少女に決まっている』
とクラスのノリのいい人達は転校生と信じきってテンションが上がっている
「中間テストの教科が一つ減りました」
先生の一言に先程テンションが上がっていたやつらは
『お、おぉ…、そっちか』
『ま、まぁ、悪くは無いけど』
『確かに悪い知らせでは無いけど』
『『『なんだかなぁ…』』』
「君たち転校生がいなくても美少女にははクラスにいるでしょう」
『違う…
違うんだよ先生…
そういうことじゃ無いんだよ』
『わからないのかなぁ~
先生には転校生という魅力を…』
別に芦田高校は男子校と言うわけではなく女子もちゃんといる。その比率は結城がいるクラスで男女=6:4。たまに7:3というぐらいだ
「先生には君たちの言ってることがよくわかりません。
時間も無いのでHRを始めます…」
こうして今日もいつもと同じ授業が始まった
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「ただいま」
いつものように授業を受け友人とたわいもない話をしたあと結城は自宅に戻っていた。自宅に帰り部屋に戻ろうとした時、
「結城!!これ見てちょうだい」
母親に呼び止められ母親のもとへ近寄る。
「なに?」
「今やってるニュース…」
「ん?」
母親が凝視しているニュースに結城も目を向けた。
『三重県の四日市市に住む男性『栗山 真』さん43歳が行方不明になりました
『栗山 真』さんの妻『吉江』さんによると真さんは昨日の朝いつも通りに会社に出社し、定時になりいつものように真さんから『今から帰宅する』というメールを受け取った吉江さんは夕食の支度をしていたところいつまでたっても帰ってこない真さんを心配し連絡をするが、真さんの携帯には電源が入ってなく何か事件に巻き込まれたのではと心配した吉江さんが警察に頼み、昨夜から警察による調査が続いていましたが先程、警察は真さんの失踪を行方不明といたし捜査を打ち切りしました。これにたいし妻は…』
「三重県か…
近いな」
「最近行方不明者の数が増えてきたと思っていたらとうとう一日に一人ペースになってきたわね
結城、あんた本当に大丈夫?」
「俺は大丈夫だよ」
「その自信はどこから沸いてくるのかしら…」
「勿論俺自身から」
「そう…
まぁ、いいわ
話は変わるけど母さん今日は友達と飲み会なの。晩御飯は作ってあるから勝手に食べといてくれる?」
「了解。気をつけていってらっしゃい」
「ありがとう。でも心配しなくていいわ、友達が家まで送り迎えしてくれるから」
智里はそう言うと飲み会に向けて準備をするといって一階にある自分の部屋へ向かっていった
結城も自分の部屋に向かう。部屋に入りカバンを置きベットに寝転がる
「(おかしい…
こんなにも立て続けに出るなんて…、やはり何か異常がおきているのか…
…考えるだけ無駄やな
滋賀の俺には関係無―…)」
結城はあれこれ考え事をしているうちに今日の疲れが出たのか制服のまま寝てしまった
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「あれっ…いつの間に」
日が落ち窓から入ってくる光は隣の家の部屋の明かりくらいであり辺りは真っ暗になっていた。結城は時間を見るため机に置いてある時計を部屋の電気をつけて見る
「20時06分…か
母さんはもう飲み会に行ったやろうな」
そろそろ自分も晩飯を食べようと思ったとき、先程時計を見て何か忘れていることに気づく
「何か足りんよう…
あ、リストバンドか」
いつも時計の横に飾ってある緑色のリストバンドを思いだす。
「今日は帰ってすぐ寝たかんなー」
カバンの中にしまってあるリストバンドを見つけると時計の横に飾った
「よし!飯食いにい…!!」
結城は夕食を食べるため部屋からでようとしたとき、視界にまた緑色のリストバンドが黄緑になっているのが目に入った
「嘘だろ…
二日連続とか…」
結城は昨日とは違うジャージを取りだし制服から着替えるとクローゼットの奥にある木刀を持ちリストバンドを手につける
「腹減ったのに…
はぁ~『鬼狩り』行きますか…」
リストバンドを着けた数秒後部屋から結城の姿は無くなっていた