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オセロ

作者: 雪猫
掲載日:2026/09/28


何だこれは。


こんなの、僕の知っているオセロとは違う。


どういうことだ。






僕はオセロが得意だった。


クラスで対戦した時も、必ず僕が勝った。


僕に勝てる者など、どこにもいなかった。


僕のクラスから火が点き、


小学校全体でオセロが流行った。


僕が流行らせたと言うべきか。



そして遂に、生徒達の要望を受けて


小学校で


オセロ大会が開催されることが決まった。



僕は張り切った。


今まで全戦全勝の僕は、


学校中から優勝候補と目されていた。


先生達も、声を掛けてくれた。


優勝出来て当然と、自分でも思っていた。



大会に向けて、皆、僕に教えてくれるよう頼んで来た。


だが、僕には先約があった。



隣の家の一つ年下のその子は


グズでのろまで、僕がいないと何も出来なかった。


オセロも、僕が教えてやらないといけない。


勉強はちょっと出来るが、それだけだ。


可愛くないし、目も悪い。


眼鏡がないと隣の僕の顔も見えない。


両親同士仲が良く、その子の親にも頼まれている。


僕は帰宅すると真っ直ぐ


隣のその子の家へ向かった。



「そうじゃない。そうじゃない」


僕は彼女の手を取って、石の位置を変えさせた。


「ここだと直ぐに引っくり返される。


どうしてそうなるんだ。本当にバカだなぁ」


僕はいつも通り、彼女を叱る。


気分がいい。


それに、叱らないと覚えないんだから、


しょうがない。


オセロが上手くなるには、こうするしか方法はない。


また彼女の手を取って、教える。


手を取ると、彼女は緊張する。


僕はため息をついた。


「意識するなよ。ブスなんだから」


彼女は暗い顔で、無言になった。




その後、


十数回、バカと罵ったら、


彼女は泣き出した。


僕はうんざりした。


そのまま置いて帰った。



翌日、学校帰りに行くと、


彼女の親に「具合が悪いの」と入れてもらえなかった。



多少厳しくしたくらいで


仮病まで使うのか。


僕は怒って、彼女に教えるのを止めた。


大会で負けて、泣きべそかいても知ったことか。



数日後、一つ学年が下の、彼女のクラスメート女子数人が


『彼女は僕を嫌っていた』


『彼女が休んでいる原因は僕にあるのではないか』と言って


取り囲んできた。


男友達が来てくれたから、怯えて彼らは逃げて行ったが、


何が原因で、そんな根も葉もない噂になったのか、


意味が分からない。



そんなことより、僕は、目の前に迫った大会に向けて


特訓していた。


同学年の別のクラスの奴が、


僕の唯一のライバル、


もう一人の優勝候補として、噂になっていた。


全く負ける気はしなかったが、


油断する程、馬鹿じゃない。



そして遂に、その日を迎えた。







僕は驚いた。


そして、拍子抜けした。






もう一人の優勝候補が


一回戦で負けていた。


1枚の差で。


僕は奴を負かした者の姿を見た。





彼女だった。




驚き、沸き立つ周囲の中で


僕はがっかりしていた。



偶然の勝利。


ただの運。


せっかく奴を倒すために特訓までしたのに。



ああ。


面白くなくなった。



でも、まあ、いいか。


これで僕の優勝は


確実だ。




僕は順当に勝ち上がった。


そして、当然、決勝へ。


自分以外の対戦を見る気もしなかったので


誰が決勝の相手なのか


直前まで知らなかった。





そこに彼女がいた。





唖然とした。


それまでの彼女の対戦を確認したら、


1枚差、2枚差と、


本当に、運だけで


ここまで勝ち進んでいた。




なんだそりゃ。


こちらは特訓までしたというのに。


運だけで勝ち進みやがって。



しかたない。


皆が見てる前で、


大差で勝って、


泣かせてやる。


お前が悪いんだからな。





決勝戦が始まった。





僕が白。


彼女が黒。





何か変わっているかと思ったが、


何も変わらない。


いつも通りの彼女だ。


悩んでいる割に


考えなしに、石を置いている。




駄目だこりゃ。


だから言ったのに。


僕は黒を白へ、引っくり返す。


勝負にならないな、こりゃあ。



進むにつれ、


勝敗が誰の目にも明らかになっていく。


白、白、白


段々と、白が多くなっていく。




彼女は長く悩んでいる。


僕がまだ、タイム計10分の内の1分も使っていないのに


彼女はもう8分も使っている。


何を悩んでいるのやら。


僕はわざと、あくびをしてみせた。


無駄無駄。


もう降参すればいいのに。







ふと、何か


盤面に違和感があった。


気のせいだろうと思った。






いつも通り、


さっと石を置こうとして、


瞬間、間違いに気づき、


慌てて正しい所へ置いた。




危なかった。


あそこへ置いたら、


逆に多く取られる所だった。


まあ、置いたとしても、


彼女は気付かなかっただろうけれど。




次の番、


また、さっと置こうとして、


止めた。


ここは駄目だ。



じゃあ、こっち。



ん。



ここも駄目。






あれ?






何か、


置ける所が


少なくないか?




気のせいか。




置ける所は、こことあそこ。


じゃあ、こっちの方が良いか。






瞬時に、彼女の石が置かれる。






え?




何だ?


今まで、あんなに考えてたくせに。




いや。それよりも。


僕の番だ。






あれ?



どこに置ける?




2つしか置ける所がない。




でも、あっちに置いたら


角が取られる。


だから、


こっちだ。






また、瞬時に、


彼女の石が置かれた。





思わず、彼女の顔を見た。


彼女は静かに、盤面だけを見つめていた。




僕は盤面を見た。




置けるのは2つだけ。


置いたら、角を取られるか、


多く黒に引っくり返される所。


他は、


僕が前半で


引っくり返した大量の白が


置き場所を塞いでいる。



僕は苦しみながら、


後者に石を置いた。





瞬時に彼女の石が置かれ、


間の石が黒に染まっていく。





しかたない。


分かっていたことだ。


次。


次で挽回すればいい。





僕は盤面を見た。




置く所は一つしか無かった。



置いたら、角を取られる、その場所しか。





僕は、あっけに取られた。




は?




どういうことだ?


なんでこうなってる?



どうして



こんな





彼女の顔と盤面を交互に見る。


彼女は盤面から目をじっと離さない。




僕は混乱した。




どうしようもなかった。





僕は石を置いた。








瞬時に、


彼女の石が、角を取った。





僕は盤面を見た。






息が詰まった。






置く所がなかった。



どこにも。




必死に探したが、どこにもなかった。


黒は全て白で覆われるか、


黒だけ、白だけで、


黒の向こうに白はなく、


縦、横、斜め、どこを探しても、


白へと引っくり返すことの出来る黒は


盤面のどこにも存在しなかった。









僕は屈辱に苦しみながら


言葉を吐いた。






「パス」







次の瞬間、彼女の石が置かれた。


間の多くの白が黒へ変わった。







また


置く所はなかった。







「パス」







彼女の石が置かれた。







ない。





「パス」








彼女の石が置かれる。


大量に黒になる。






やっと一つ、置ける所が出来た。



しかしこれは、


罠だ。


ここに置いたら、角の黒までの道が繋がるだけ。


次の番で、全部黒に返されるだけだ。




だが、他に置く所はない。


もう、どうしようもない。


何も出来ない。





僕は石を置いた。






瞬時に、彼女は石を置いた。


その列の全てが黒く染まった。






何だこれは。


こんなの、僕の知っているオセロとは違う。


どういうことだ。






あの休んでいた期間だ。



あの期間で、


ここまで、自分一人で仕上げて来たんだ。


僕を倒すために。





僕は彼女の顔を見た。


凄い集中力で盤面から目を離さない。


駄目だ。


彼女にミスはない。





彼女には、完全に最後の盤面が見えているんだ。


そこまでの全ての道筋も。



論理の蟻地獄に、


知らずに捉えられていたんだ。


気付いた時には、


もう何も出来ない。



出来ることと言ったら


彼女が僕の首を絞める、その手伝いをするだけだ。






他の奴らと1枚、2枚差で終わらせたのも、


油断させるためと、


学校中の皆が見てる前で、


僕を徹底的に負かすためだ。





完敗だ。





パスと


1枚置かされることを繰り返し


盤面は、黒に覆われてきた。


白は、あと数枚。




どちらが勝つか、見ている全員が分かっていた。


しかし、


彼女の集中力は途切れない。


盤面に目を凝らしている。






その姿は美しかった。




僕は、いつしか


彼女に見惚れていた。




初めて彼女を見た気がした。




僕は彼女を好きになっていた。







そして


終わりの時が来た。




置ける所が一つだけあった。


そこに置いたら


次の彼女の番で引っくり返され、


全ての石が黒になる。






僕は、そこに石を置いた。







彼女は、そっと


最後の石を置いた。





全ての石が黒になった。


黒い盤面は美しかった。







試合終了だ。







審判が高らかに告げた。



「63枚 対 0枚」




彼女の名前と共に、


周囲に歓声がこだました。



僕への周囲の嘲笑も聞こえる。








しかし、


そんなこと、


今の僕にはどうでもよかった。







僕はもう、


耐えられなかった。



彼女に向かって


身を乗り出して



その場で


告白した。




「好きです。


付き合って下さい」
























彼女は


今まで見たことのない


誇らしげな、美しい


満面の笑みを浮かべて、


言った。






















「お断りです」











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