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全てが上手くいかなくなった【三谷愛理side】



「あー、クッソ。ここなんでずっとエラーでるのよ!」


私はオフィスの机をダンっと叩いた。


イライラする。

ここのところ全てが上手くいってない。


翔平さんは会社を退職することになるし、居候していた家も追い払われることになったし……。


あの人が出世するって聞いてたから、毎月出た給料は全部自分に使ってしまった。


そしたら、あのざまだ。

クッソ……まるで私がハズレくじを引かされたみたいじゃない……。


あんな男に手を出すんじゃなかった。


見てくれだけで仕事も出来ない男にちょっかいを出したのが間違いだった。


そして公表してしまったこともあり、私は今社内で哀れな目で見られる始末……。


「鳴海さんの件できっとピリピリしてるのよ」


「結婚しようと思ってた男の人があれじゃあね……」


クッソ!!

あんな男、結婚なんてこっちから願い下げだ!


もともと捨ててやったというのに。


私に気まずい思いだけ残して消えやがって……。


しかも。

一ノ瀬社長が社長に就任してからというもの、私の給料はどんどん減っていった。


給料の見直しが行われ、もらえた額は新入社員と同じくらいの額。

一方遥はというと、部長に就任していて恐らく私の倍以上の額をもらってる。


許せない……。

なんでアイツの方が上なのよ。


なんでアイツが見染められなきゃいけないのよ。

私の方が上にいたんだ。


ずっと昔から。遥は私の下だったはず。

社長よ……。


一ノ瀬社長に気に入られてることがデカいんだわ。

しかも一ノ瀬社長と遥が一緒にいたところを見たという人まで出てきた。


あの女がしたたかに、仕事のフリをして一ノ瀬さんを誘ったに違いない。


あんな上玉取られるわけにはいかない。


今度こそちゃんと当たりくじを奪い取ってやる。


朝の社長室のドアをノックした。

扉を開くと、一ノ瀬社長がデスクの奥で書類に目を落としていた。


「失礼します、社長。少しお時間よろしいですか?」


にっこりと笑顔を作る。

彼は一瞥をこちらに向けただけで、すぐに視線を戻した。


「何か」


「来期の広報施策について、私なりに整理した資料をお持ちしました。社長の役にも立つかなと思いまして、良ければご覧いただきたくて」


言いながら、一歩だけ近づく。

自然に身体を傾けて視線を合わせた。


淡い香水の香りが、ふっと空気に混ざる。


いい女の香がするでしょう?


「それと……最近とてもお忙しそうなので。もしお疲れでしたら、息抜きにお食事でもいかがですか?」

「……キミと食事?」


一ノ瀬さんは聞き返す。


「え、ええ……。私よく言われるんです。悩み相談を聞くのが上手だって。疲れが吹っ飛ぶって言ってくれる人もたくさんいるんですよ~」


ふふっと微笑みながら伝えると。


「逆に疲れそうだが」


一ノ瀬さんは興味なさげに言った。


「なっ……」


驚いて目を見開く。

一ノ瀬さんは、資料を受け取るでもなく、視線すら戻さない。


「それから三谷さん。仕事は正式なフローで提出してください」


「……はい?」


「来期の広報施策はあなたにはお願いしていませんし、もし提案したいのであれば、まずは部長の月島さんにお願いします」


淡々と返してくる一ノ瀬社長。


「それから……三谷さん。もう少し気を引き締めて取り組んでいただきたい。あなたの勤続年数を考えたら、提出物の質も立ち居振る舞いも、もう少し落ち着いたものであるべきだと思います」


「……っ」


突き放すようなその声に、これ以上言葉が出なかった。


「し、失礼します……」


私は小さく会釈して、社長室を出る。

悔しさと惨めさが混ざって、唇を噛みしめるしかなかった。


……全然じゃない。

どうしてこっちを見ようともしないのよ。


くやしい……。

今まで私に落ちなかった男はいなかったのに。


オフィスに戻り机に肘をついて、考える。

なにか社長の気を引けるようなことはないか。


そういえば……遥のやつ、今度の大型案件の企画を進めてるって言ってたわね。


私の知らないところで、また評価を積み上げる気なんだろう。


そうだ。

いいこと、思いついた。


遥のその企画を取ってしまえばいいんだ!


そしてそれを私の方が先に社長に提案する。

そしたら社長も私の魅力に気づくはず。


そうよ。

全部奪ってやればいい。


出世も、評価も……。


こうやってのしあがってきたじゃない。

私はニヤリと笑った。


夜。

この日は企画を盗むために私は残業した。


気づけば、オフィスに残っているのは私と数人だけになっていた。


こんなに残ったことは今まで一度もない。

遥が早く帰らないから、私がここまで残る羽目になったじゃない。


ようやく遥が帰宅して、今、オフィスには誰もいない。


今なら、誰も見ていない。

すっと視線を落として、遥の席へ向かう。


パソコンを開くと、社員番号を入力してログインが完了した。


「……ふふっ」


すぐにデスクトップに保存されているフォルダを開く。


これだ。

ファイルをUSBにドラッグしてコピーをした。


ちょろいちょろい。

これでもうこの企画は私のもの。


すべてが終わると、私はパソコンを閉じた。


最初からこうすれば良かったんだ。


一から自分でやるなんてダルすぎるもの。


「これで、一ノ瀬さんは私のもの……」


彼に褒められ、実力に気づいてもらった上で私が落とす。


これであたりくじは私のものよ。


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