強面のお姉さんに依存して
私は男性恐怖症だ、学生時代に男の人に乱暴されてから、男という生き物に拒否反応が出るようになってしまった。恐怖症というよりアレルギーに近い、男の匂いを嗅ぐだけで気分が悪くなってしまう。
ドラマやバラエティー番組も男が出てくるから見れない程だ。なんとかアニメなどの二次元なら見ることが出来るぐらい。
それほど重症な私が外に出られるはずもなく、実家で両親と一緒に暮らしている。
そんな私の前に突如現れたのだ。
王子様、いや、この見た目だと暗殺者かな?
目を引くほどの細くしなやかな肢体に、色白の肌と獲物を狩る狼の様な目。高身長で超が付くほどのイケメン。女が彼の前に立ってしまったら自分の首を差し出して、どうぞ食べてくださいと言っているだろう。
私は常備してあるハンカチで鼻を塞いだ。
「あれ?」
いつもならハンカチ越しに臭い匂いが来るはずなのに
イケメンだから?
「どうかなされましたか?」
優しい言葉なのにひんやりとした低温ボイスが
私の心をガッチリと捕らえる。
「初めまして、天羽と申します。最近ここに引っ越して来ましてね。こちら実家の美味しいお菓子です。」
彼女は私にお菓子を渡した後、ニッコリと微笑みこの場を去ろうとした。
「ま、まって!」
無意識の内に声が出ていた。
ここ数年、引きこもっていた私が他人と会話するなんて
「どうかされましたか?」
「あ、あのお名前を、下のお名前も!」
「亜紀です。天羽亜紀と申します」
ピンポーン……
玄関のチャイムが鳴った瞬間私はソファーから跳び起きた。
「あら、亜紀ちゃん! 比奈ちゃん、亜紀ちゃんが来たわよ!」
私は大慌てで玄関に向かった。
「比奈さん、今日は一段と綺麗ですね。髪型も変えたのですね似合っていますよ」
「え?! そ、そうですかね~」
亜紀さんと出会って数週間が経った。彼女は私の為に毎日来てくれる、その度に何か話題をとおしゃれな服を着たり、学生時代のマニキュアをしたり、コンタクトにしてみたりして彼女に興味を持ってもらおうとした。
そして今日は勇気を出して美容院に行ったのだ。
昔から通っている美容院なら皆女性なので安心だが、行くまで男がいるかもしれない。母に一緒に付いてきてもらいながら、なんとか髪を整えることが出来たのだ。
「比奈さん、もしあなたがよろしければ今度デートに行きませんか?」
「え?」
急なお誘いで戸惑った。凄く嬉しい
だけど怖い、買い物すらまともに出来ない私がデートなんて
「……デートはドライブデートです。比奈さんは外に出る心配はありません」
このままずっと家に引きこもり続けるのは嫌だった私は、勇気を振り絞って「はい」と返事を返した。
ドライブデートは楽しい反面、恐ろしかった。
車にいてもガラスの奥に男が見えるからだ。特にトラックの運転手は上から見下ろしているようで余計に怖い。
「……少し休憩しましょうか」
私達は人気のない場所で休んだ。
「ごめんなさい」とあやまる私を彼女は優しく慰めてくれる。
次の日も、その次の日もドライブデートをした。
段々と慣れていき、車の中で会話出来るぐらいになって行った。
「綺麗な海……」
いつしか遠くまで行くようになっていた。
「こんなデートしたかった……」
急に悲しくなっていく、楽しい筈なのに、あの時の出来事が、
沼の様な闇に落ちかけたその時
優しくて穏やかな、柔らかいものが私のキスの概念を塗り替えた。
「驚いた顔になったね、悲しい顔なんかよりそっちの方がまだましだよ」
驚いた顔はすぐに涙でグシャグシャになった。
でもあの時の涙とは全然違うモノだった。
「さあ、帰ろうか」
亜紀さんが私の手をとって車へ案内する。
「あ、亜紀さん、気持ち悪いって思われるかもしれないけど」
「どうしたの?」
「ホ、ホテルに行きませんか? あ、あっち系の……」
私は勇気を出して言った。
「……いいのかい、後悔しない?」
「亜紀さんとなら変われるような気がするの……」
ホテルに着いた瞬間、吐き気が全身を駆け巡った。
あの男との思い出が、ビデオにとられて、脅されて、何人もの男が
「落ち着いて、一緒に行こう」
「う、うん」
彼女のキスが私のトラウマを浄化していく、長い舌が胸からへそにかけてゆっくりと撫でていく、恐怖と快感に襲われながら耐えていると、舌はもう私の股下まで来ていた。
「そ、剃り忘れていました」
「急だったし仕方ないよ……」
彼女の舌が私の中を犯す、嬉しいのに恐怖が勝ってしまう。
「比奈、私の方も舐めてくれない? 怖かったらその分犯してやるぞと思って嘗め回すんだ。下手くそでもいい、不満をぶちまけるように……」
亜紀は海外へ行くことになった。
この時には男性恐怖症はほとんど無くなっていた。
「貴方のおかげで私は救われた。……今度いつ会えるの?」
「分からない、けど立ち止まらなければ絶対にいつか会える。何処にいても君を愛しているよ」
「私も……」
私達はお互いの糸を絡ませながら違う道へと歩み始めた。
いつかまた会う日まで