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 あなたはサイコパスと関わった事がありませんか?

 無い人は幸せな人です。

 異動でやって来た課長は、バイタリティがあり精力的に仕事に取り組む人です。傍目からはとても魅力的に見える人なんです。

 でも、一緒に仕事をしていると、「あゝ、この人は他人の気持ちがわからない人なんだ。」と気づいたのです。

 専門家に言わせるとこういう人からは「逃げなさい。」と言われるようです。


 はい、こちらはコノハナサクヤ生命夢応援テレフォンです。

 あなたの夢を応援させていただきます。

 今日は、どうされましたか?


「あっ」と電話の向こうで声がしたが、そのまま暫く無言であった。

「もしもし、大丈夫ですか?」

「あっ、はい。」と答えると意を決したように、「夢とは関係ないのですが、誰かに話をしないと気持が治まらないのです。こんなことでも聞いてもらえますか?」

「大丈夫ですよ、私で良ければお話をお聞きします。」

 気持ちの良い声というのだろうか聴きやすく温かみのある声です。


 私は、電気工事会社を早期退職して帰郷し、自治体立大学で施設担当の契約職員になりました。係長が事務職のため技術的な仕事は自分がすることになり、いつの間にか担当係長という肩書きになりました。

 2年目に係長が定年退職をして私が係長の職務代行になりました。つまり、技術的なことだけでなく施設の貸出しなども担当することになったのです。


 ここの職員構成は4層構造、一番上に自治体から派遣職員達がいます。全員が役職者です。

 次に大学プロパーの職員達、出世しても課長までで自治体からの派遣職員に頭を押さえられています。

 3層目が契約職員、1年毎の契約で最長5年間の契約です。

 自分はここにいます。最下層は、パート、短時間職員達です。

 この大学には、ほとんど異動というものが無いようで、5年10年と同じ職務をしている人が多いのも特徴です。

 皆さんやる気が無いわけではありませんが、例年通りという言葉が大好きな人が多いのも事実です。


 衝撃的だったのは、大学の主人公が誰であるかということを職員は忘れているようなのです、学生も教師も自分たちの都合で振り回しています。たらい回しなど当たり前です。まるで自分たちが一番偉いかのようです。

 中に改革を試みる者がいても共感なんてありません。DX化に少し踏み込むと、ややこしい、バグった、果ては去年まではこれでよかったと去年までの形で紙の書類が出てきたりします。でも、それに慣れ便利だと分かると黙ります。誰も褒めてはくれません。ましてそれが契約職員が行ったものであれば尚更です。

 こういう職場の特徴でしょうか、契約職員の途中退職も多いようです。「あの職場のプロパーの誰々さんは契約職員をあごで使うし、マウントを取りたがる。」なんていう聞きたくもない情報が入って来ます。


 施設担当で2年が過ぎました。

 2年も居れば嫌になるには十分な職場で、施設の維持は技術職が面倒を見れば良いという投げやりな体制は、技術職ならば建築も設備も電気も更には水道から植栽に至るまで全て分かるものだと思い込んでいるようです。

 しかも、施設担当にはプロパー職員が配置されていません。契約職員は契約期間が定められていますから、事務の引継ぎが上手く出来ません、実際、過去にも契約職員の一斉退職で係が大崩壊するようなことがあったようです。


 今でも以前のことは引き継がれてないことが多いんです。それでも構わないと思われているようです。あまりに酷い体制に嫌気が差しながら、子が大学を卒業するまで後1年は、と片目どころか両目を瞑って3年目を迎えました。


 母体の自治体からは2〜3年毎に役職者が派遣されて来ます。

 今年やって来た庶務課長は、人当たりの良いバイタリティのある人です。


 ところが、夏に1人、秋に1人と気がつくと課内でいつの間にか2人がメンタルの不調で長期休暇に入っていました。

 どうしたんだろう?と思ってはいたんです。

 元気な30代が次々に休職なんて。

 担当の係長に尋ねても、要領を得ない答えしか返ってきません。

 短期間に同じ職場で・・異常な事です。

 でも、何時か忙しさに紛れ忘れていたのです。


 それは小さな案件でした、校内のブロック舗装が傷み通行するのに危険な状態だと判断した私は課長に状況を説明してから業者を呼び、契約前に工事を実施しました。

 事故になる前に補修できて良かった。と胸を撫で下ろしました。


 数日後、課長に呼ばれました。来客用のテーブルでいきなり「勝手に工事をしやがって!業者は決まってないだろう!」と詰問されなじられて驚きました。

 学校が使っている業者はほぼ決まっています。

 工事の説明をした時に「この業者で」と説明をしていたのですが?

 頭を下げながら「理不尽」と言う言葉が浮かんできました。


 1週間ほどしてまた、呼ばれました。

「何で駐輪場の整備なんかやっているんだ?」

 最初、課長の言っていることの意味がわかりませんでした。

「駐輪場の整備は3年目になります。先生達からの要望で学生が使いやすいように少しずつ整備しています。」

 睨みつけるように、

「こんなことに使う予算なんてないだろう。」って課長の決済印がありますけど。

 なにより職員が自律的に現実把握から対策までを考え懸命にやった仕事ですから、係長として応援しました。全体から見ればたいした仕事ではありませんがこの学校ではめずらしく「少しでも学生のためになれば。」と契約職員が考えて行った仕事です。「褒めてもらいたい」ぐらいです。

 一体何が気に食わないのだろう?

 一仕事一仕事ケチを付けるのが分からなくて。

 もうどうして良いのか・・


 そうこう悩んでいると、経理課の担当者が今年の予算書(内訳書)を持ってきました。

 この学校に来て初めて見た予算の内訳書でした。

 そして中身を見てビックリしました。

 予算にテニスコートの改修が予算要求もしていないのに計上されています。

 予算要求の資料を作るのは自分ですから予算の中身はほぼ把握しているつもりです。

 しかし、現実としてあまりにも突発の事案が多いため予算に計上しても出来ないし、計上していない事でしなければいけないことが多く発生します。一番多いのはエアコンの修理でしょうか。設置してから何十年も放置してきたエアコンが悲鳴をあげるのです。

 ですから毎年、年度が始まる時には予算要求したときと状況が大きく異なっています。つまり、予算通りには執行ができないのです。

 経理課はそれを分かってますから毎年施設関連予算の総合計だけを伝えてきます、中身は任せますということです。

 そしてその時点で施設担当で予算を組み直すのです。

 ところが、今年に限って経理の担当者が「これ、頼むな。」と予算の内訳書を置いていきました。

 後から聞いた所によると庶務課長が経理課まで来て、予算計上したのに施行しない、と苦情を言ったそうです。


 テニスコートはどうしても後回しになります。なんと言っても予算が足りないのですから。

 気がつくと課長は元々私に任せられていた仕事に手を突っ込み掻き回し始めました。その度心の均衡を保つのが難しくなっていきます。


 久しぶりに心療内科に通い始めました。

 元いた会社でもパワハラで心療内科に通った事があります。

 その時は寛解まで6年掛かりました。

 毎日のように細かなことを言われ続けると神経がおかしくなって行きます。じわじわと効くボディブローのようです。

 もうだめだな。

 先ず妻に連絡しました。

「辞めるよ」に対して即座に「いいよ」と返ってきました。


 丁度その日が診療内科の受診日で、先生と話していると涙が止まらなくなりなりました。

 その様子に「しばらく休みましょう。」と診断書を書いてくれました。

 辞表を出すか、診断書を出すか悩みましたが、暫く猶予をもらったと思おうと診断書を持って課長席まで行き「お話があります。」と言いましたが、知らんふりをします。そしていつの間にかいなくなりました。仕方なく部長に受け取ってもらいました。


 3カ月間の病休を頂きました。

 この間に思い当たったのですが、課長からすれば私が何時まで経ってもテニスコートの整備に取り掛からないので予算はどんどん減っていく。このままではテニスコートの整備費が無くなるじゃないか、と私に圧力をかけ続けていたのでしょう。課長は最後まで予算は予算書通りに執行出来るものだと思っていたみたいですから。


 心療内科の先生と相談しながら何とか復帰しました。まず課長席に行き「ご迷惑をおかけしました。」と頭を下げましたが無視されました。

 その後、係長としての仕事、係の統制、予算管理もして良いのか悪いのか課長が勝手に行っていました。

 そしてテニスコートの整備工事を実施していました。完全に予算オーバーです。

 周囲の人も見ていたようで係の周りをウロウロし、私を抜きにして職員に仕事を指示していました。

 まるで私が仕事をしないので課長がやってやっているとアピールするかのようです。

「それもパワハラじゃないか!」と言ってくれる人もいましたが、もうどうでも良かったのです。

 ただ、皆さんに迷惑をかけないように穴だらけの課長の仕事のフォローし続けるだけでした。

 窓際の係長として出来ることはやりました。


 課長は自分の趣味のテニスをするために何が何でもテニスコートを砂付き人工芝コートに整備したかった、そのために言うことを聞かない私が邪魔だった。

 私としては、「生命と生活つまり危険な処の補修とエアコンや水道等が優先です。」と保留していました。「どうしてもと言うならクレイコートなら可能かも知れません、ただし、今年度の予算の余裕がある分かってからです。」と当たり前の事を伝えました。

 これで嫌われたのでしょう。私が3人目の長期病休者でした。


 それだけでは終わらず、私が復帰して3か月が過ぎた頃、係の契約職員がメンタルを崩して病休に入りました。4人目です。

 課長から「あなたは周囲に対してパワハラをしている。だから、来年契約するかどうかはあなたの態度次第で決めます。契約職員は正社員とは違いますから私が契約するかどうか決めます。」と言われたそうです。

 我が係に正社員(プロパー)は配置されていません。契約職員で全てを賄っています。他の契約職員がこのようなことを言われたのを聞いたことがありません。

 しかも彼女はプロパーより遥かに積極的に課内でDXを進めていました。その成果は毎年表彰され続けているくらいでした。

 たしかに気は強く、上司であろうと間違っていると思えば直言することがありました。


 その宣告前日、課長と人事担当係長に呼び出されました。

「彼女はパワハラをしている、来年の契約は保留にします。」

 びっくりして聞き返しました。

「パワハラとは具体に何でしょう?」

 課長の顔が獲物を狙うヘビに見えます。

「彼女は周囲の人を威嚇しています。周りの人が怖がって訴えてきました。」

「女性同士、いろいろ有るのでしょうか?」

「女性だけではありません、男性からもです。」

 周囲で男性というと隣の係長とうち(我が係)の職員だけなんですが、そんな事を言うような人はいないように思います。

「それに、あなたは同調して周囲を恐れさせています。」

 えっ、自分がパワハラの加害者?


 ちょっと来てくれ、部長から呼ばれました。

「先日の契約職員の話は嘘ではないんだ、自分も彼女がきついことを言うのを聞いたことがある。」

 ふと、疑問に思い、

「では、どうしてその時に言わないんですか?せめて私に言ってくれれば注意することも出来たんじゃないですか?そうしないと周囲の人は、ずっと恐れなくてはならないじゃないですか。今、この形で言うのは契約を切りたくて言っているようにしか聞こえません。」

 ずっと人事畑を歩いて来た部長は組合交渉の時の顔になっていました。

「そういう方法もある。」


 再び、部長に呼ばれたのは自分の人事の話でした。

「あなたがずっと言っているように、係にプロパー職員を配置しようと思う。」

 これは嬉しいことです。

「ありがとうございます。」

「ただ、君の後任として事務職の係長を配置する。それで、君の席がなくなるんだ、申し訳ないが来年の契約は出来ない。」

 結局、組織はサイコパスの課長を取り、自分と契約職員は退職することになりました。派遣職員は派遣職員を庇ったということです。


 最終日、課長が私に挨拶を促しました。

 2つ言わしてください、

 まず、私が3カ月間の病休を何故取らなければならなかったか、お話しようと思いましたが個人攻撃になるといけないのでやめておきます。しかし、

 皆さんどうか、自分の身は自分で守ってください。

 この職場は決して皆さんを守りません。

 学校のために、仲間のために、もう少し頑張ろうと無理をして身体やメンタルを痛めても誰も褒めてはくれません、皆さんが健康で初めて学校や仲間のための仕事が出来ます。

 自分が一番大切であることを忘れないでください。


 もう一つ、全く反対の話をします。

 あるパワハラ案件が有ります。私は先日、課長と人事担当係長に呼び出されました。

 そのパワハラで私の周りの人が恐れ怖がっているということでした。

 そして、そのパワハラに私は同調していたそうです。

 どなたを威嚇したのか、どの様な威嚇であったのかは教えて頂けませんでしたが、私がパワハラの加害者側にいた事は、衝撃でした。

 私は、他人のことを慮ることができない人は最低の人間だと思っています。まさか自分がその最低の人間になっていようとは思いもしませんでした。

 それ以上に被害者の方は怖い思いをしていたと思います。

 このことに深く謝罪をさせて頂きたいと思います。

「申し訳ありませんでした。」

 ただ、パワハラがあった時に教えて頂けていたら、それ以降のパワハラは防げたと思います。皆さんの恐い思いもすぐに終わった可能性がありました、残念です。

 最後の1年は、はっきり言って酷い1年でした。

 皆さんの来年度以降のご健康をお祈りいたします。

 と悔しい思いをしながら退職しました。


「長い話を聞いてくださってありがとうございました。」

 少し間があって

「大変でしたね。」と優しい声が聞こえた。

「はい、大変でした。」

「でも、これからは自由ですよね。これまで仕事に会社に縛られていたんじゃ無いですか?」

 あぁ、そうだったかも知れない、

「縛られていたんでしょうか?」

「これまでやりたくても時間がなくて出来なかったことが出来るじゃ無いですか?」

 明るく励まそうとしてくれているのを感じるが、

「私は無趣味人間なのです。本を読むくらいが趣味と言えば趣味なのですが、乱読の上にいい加減な読み方なんです。」

「良いじゃ無いですか!これからはゆっくり読めますね。」

「そうできれば良いんですが、再就職先も捜さないと。」

「あてはあるんですか?」

「また、電気工事の現場に戻ろうかと思っています。」

「手に職があるのは強いですね。」

「でも暫くはゆっくりするつもりです。」

 話が弾んでいく。

「そのゆっくりする間に、サイコパスを困らす、とか殺すなんて小説を書いても面白いかも知れませんね。」

「それはいい!気分が晴れそうだ!若い頃は小説家を目指したこともあったんです。」

 学生の頃、小説家も良いかなと思ったことがあった、いつの間にか忘れていた夢ではあった。

「では、小説を書くことを趣味に為さればいいですね。」

「でも、私が書くような拙い小説を誰が読んでくれるんでしょうか?」

 自分の小説を発表し、批判されるのが怖い、無視されるのも怖い、

「別に読んでもらえなくても良いじゃないですか。少なくともここに読者候補が一人いますよ。」

 嬉しい!そうだ、書くだけでいいんだ、自分の小説なんだから他人がどう思おうと関係ない。

「ありがとうございます。素人が書いた小説を載せることのできるサイトがあるようですので、書いてみます。」

「載せたら、題名とペンネームを教えてくださいね。」

 読者1名、十分じゃないか。

「なんか元気が出てきました。」

 最後も明るい素敵な声で、

「良い夢をあなたにも。」

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