夜更けにお茶をした悪役令嬢
うなされて目が覚めるとラルフ様がいらっしゃいました。
「…ラルフ様?」
これも…夢?
「ラルフ様がなぜ?」
「メイリン、風邪をひくといけない。汗を流してくるといい。私はここで待っているから。」
「はい」
『殿下はメイリン様がとても大事なのですね。』
「え?」
『メイリン様がもしうなされた時にアーク様から側で手を握ってあげる許可をとったそうです。』
それでここに…
『メイリン様がうなされたら呼べと仰ってました。』
「そうでしたか…」
『さぁ、着替えて戻りましょう。殿下が待っていますから。』
「はい」
言われるまま汗を流して戻るとラルフ様が本当に待っていてくださいました…
「ラルフ様。」
「気分はどうだ?」
「はい…少しすっきりしました。」
ラルフ様はアークお兄様にひょっとしたらうなされるかもしれないからと許可をもらっていたそうです。
「そうでしたか…ありがとうございます。」
「眠れそうか?」
「あ…」
正直にお話するほうが良いのかしら?
「そうか…ではホットミルクかリラックス出来るお茶を用意してもらおう。」
「ではリラックス出来るお茶を」
お茶はあらかじめ準備されていたようです。
ラルフ様はいつもと違って落ち着いているように見えます。
なぜかしら?
「メイリンはいつもこのお茶を飲むのか?」
「はい。一番落ち着きます。」
「そうか。他にもリラックス出来たり落ち着くお茶はあるのか?」
「はい。でもこのお茶が一番好きです。」
「私はあまりお茶を気にしたことはないな…」
「そうなのですか?」
「淹れてもらって飲むだけだ。あまり舌が肥えてないからだろうな。」
「じゃあ、ラルフ様が好きなお茶を探しましょう。きっと美味しいと思うものがありますよ。」
「そうだな。だが、メイリンとお茶を飲んでいる時は美味しいと思う。」
私とお茶を飲んでいる時はお茶が美味しい?
以前、食事の時にも言われました。
私と一緒なら、ということかしら?
そうだとしたら…
嬉しい気がします。
「落ち着いてきたか?」
「はい。もう大丈夫です。」
「そうか。では、もう休むといい。アークの許可があったから私が眠るまで手を握っていよう。」
ラルフ様が眠るまで一緒に?
そういえばアークお兄様と眠るまで手を握る約束を…
「ラルフ様が手を握ってくださるのですね…」
「…イヤか?」
「イヤではないのですが…少し恥ずかしい気がします…」
何度か寝顔を見られてしまってはいますが、目を瞑って眠るまでというのは…
やっぱり少し恥ずかしいです。
考えたらすごく熱くなりました。
「大丈夫だ、私も照れくさい。」
…ラルフ様が照れくさいと言って頭をガシガシしていました。
照れるとこのようにされるのですね。
「メイリン。」
ベッドまでエスコートしてくださいました。
何かしら…
すごく心拍数が上がりました。
「本当に手を握ってくださるのですね?」
「もちろんだ。」
うぅ…ラルフ様がいると思うと恥ずかしいのですが…
ベッドに入ると横の椅子にラルフ様が座って、手を握ってくれました。
「おやすみ、メイリン。」
「おやすみなさい、ラルフ様…」
何か話すのも恥ずかしくて、急いで目を瞑りました。
お兄様達と違ってじんわり汗をかいているような気がします。
ラルフ様も心拍数が上がっているのかもしれません。
色々と考えていると眠ってしまったようです。
朝、目を覚ますと侍女達がニコニコしていました。
「おはようございます。どうかしたのですか?」
『おはようございます、メイリン様。目覚めはいかがですか?』
「はい、とてもすっきりした気分ですが…」
『ふふっ、ラルフ殿下のおかげですね。』
「あ…はい、そうかもしれません。」
侍女達はなんだかきゃあきゃあ言っています。
なにかしら?
『では、朝食にいたしますので仕度をしましょう。』
「はい、お願いします。」
仕度をお願いすると…
「あの…ドレスアップする必要が?」
いつもはこんな風にドレスアップしないのに。
『今朝はラルフ殿下とアーク様もご一緒に朝食をとるそうなので。』
それでドレスアップを…
「そうだとしても朝からこんなにドレスアップするのはおかしいのではないかしら?」
『メイリン様はお姫様ですから。』
お姫様…
『きっとラルフ殿下もアーク様も喜びますよ。』
そうなのかしら…
普通のご令嬢はこんなに着替えるのかしら?
わからないので侍女にお任せしました。
『さ、出来ました。食堂に行きましょう。おふたりともいらしてますよ。』
「はい」
食堂にはラルフ様とアークお兄様が席についていました。
「ラルフ様、アークお兄様。おはようございます。」
「メイ、おはよう。朝から綺麗だよ」
「ありがとうございます」
「…おはよう、メイリン。」
「おはようございます。」
「朝も美しいな。」
「ありがとうございます。」
「メイ、昨日殿下に何もされなかった?」
「起きてしまった時に一緒にお茶を飲んで、眠るまで手を握っていただきました。」
「アーク。私を信用してないのか?」
「あはは。それなりに信用してますよ。」
「お兄様、なぜですか?」
「ん?」
「ラルフ様はとても良い方なのにあまり信用していないのですか?」
「そういう事ではなくて…あー…説明しづらいな。」
「む。メイリン、異性に話すことではないのだ。あ!?」
「ちょっと殿下!」
「異性に…?」
異性に話すことではない?
何かしら?
侍女や護衛、近衛兵を見ると目をそらされました。
「ラルフ様やお兄様は女性には話さないことなのですね。わかりました、聞かないことにします。」
「ありがとう。メイはやっぱり良い子だ。」
「お兄様、私は子供ではないのですが…」
「わかっているよ。」
「はぁ…良かった。」
「殿下。油断するからさっきみたいに余計な事を言ってしまうんだから、気をつけてよ」
「すまん」
「さぁ、朝食を食べよっか。」
「はい。」
「しばらくは離宮で仕事をする事になっているから食事はタイミングが合えば一緒に食べられるよ」
「ではたくさん一緒に食事が食べれますね?」
「メイリンのタイミングがあるだろうが、できるだけ一緒に食事をしよう。」
「はい!」
「私も一緒に食事をするよ。」
「嬉しいです!」
「アーク…」
「なんですか?」
「いや…いい。」
その後は朝食を食べて自室に戻りました。
『良かったですね。』
「はい!食事の時間が楽しみです。」
『ふふふっ、私達も嬉しいです。』
きっといつも心配されているのね…
「ふふっ、ありがとうございます。私も皆さんがいてくれると嬉しいです。」
『メイリン様…』
何人かが涙ぐんでいました。
なぜかしら?
その後は新聞を読んだり、フルートの練習をしました。
楽器はたくさん練習しないと上達しませんし、
自国や他国の情勢をすることで自衛に繋がる事もありませんから。
危機管理は大事なのです。
そういえば、難民の方達はどうなったのかしら?
牧師様はちゃんと役立ててくれているのかしら?
新聞を隅々まで読んでいたら、また難民が入国していると書かれていました。
協会では、炊き出しをしているようですが…
間に合わないほど増えているそうです。
きっと、こちらで畑や食糧の支給があった事を聞いた方達なのでしょう。
援助はされたのでしょうか?
私の予算をそちらにまわせないか提案しましたが…
気になったのでお父様にお手紙を書きました。
それに、牧師様から何か情報は入ったのかしら…
「こちらをお父様にお願いします。」
『かしこまりました。』
気になる記事がいくつかあったので、前日までの新聞を持ってきてもらって読んでいます。
『メイリン様、コールマン公爵とアーク様がいらっしゃいました。』
「え?はい、すぐに行きます!」
どうしたのかしら?
軽く整えてもらって客室に向かいました。
「お父様!」
「メイ、顔色もいいし、元気そうだね。」
「はい!どうされたのですか?先ほどお手紙を出したのですが…」
「あぁ…読んだよ。ありがとう。その話についてをしたいんだ。」
「わかりました。お兄様はお仕事大丈夫なのですか?」
「大丈夫だよ。私は前日に半分は終わらせるようにしているからね。」
「すごいのですね!」
「あはは、父上に教育されたから当然だよ。」
「まぁ、とりあえず話をしようか。」
「はい。」
お茶を淹れてもらってお話をする事にしました。
「まずは手紙ありがとう。メイから手紙が来てとても嬉しかったよ。」
「では、お父様にお手紙をたくさん書きます!」
「それは嬉しい。」
「父上…」
「あぁ…それで手紙のことなんだが、新聞に掲載されていた難民のことなんだ。」
「はい。」
「難民が増えすぎているんだ。」
「やっぱりそうなのですね?牧師様がいらして寄付をしましたが、配給が全く足りずに難民同士で争いになったと…」
「そうだ。カールからの報告で最初に話をしていた時の2倍以上に増え続けているそうだ。」
「そんなに増えるのは異常ではないですか。」
「それは食糧難の国だけですか?」
「よく気がついたな?」
「どの国でしょうか?」
「コルン王国を挟んだおくにあるカルミナ国だ。」
カルミナ国…コルン王国に食糧の援助をしている国だったかしら?
「カルミナ国はコルン王国と繋がりのある国だったよね?」
「はい。経済援助はできないから食糧を援助していると聞いています。」
「食糧難ではないが、コルンからの難民が入国して窃盗が増えて物価が高騰したらしい。」
それでは…
「食料の収穫量が減ったということですか?」
「やはりメイは賢いな。」
「じゃあ、食料が流通しなくなって物価が高騰したからこの国へ?」
「そうだ。カールから聞くまではどの国からの難民とかの詳細がなくてね。国境警備の者達に調査をさせたんだ。」
「そうでしたか。ではコルンやカルミナの民が…」
「知らなかったよ…」
「私も先日カールから報告されるまで知らなかった。やはり新聞は隅々まで読まなくてはな。」
「そうですか…解決は出来そうですか?」
「難民は時間がかかるだろうね。先に来た難民は畑を貸しただろう?」
「はい。」
「土地には限りがある。後から来た難民は自分もと直談判をしてきているしな。」
「そうですか…」
「ここからはコルンとカルミナとの政治になるだろう。あとは任せていなさい。」
「はい。」
「この事を知っているのは?」
「私と陛下とジャンだ。」
「ジャンお兄様も知っていたのですね。」
「いや、話したばかりだ。アダム殿下に話して、殿下ならどのように対処するかを見たいらしい。」
「陛下がですか?」
「次期国王だからな。そろそろ学ばせなければならないんだ。コルンのバカ王子のようになっては困るだろう?」
「あー…あの頭の悪い王子達ですか。あんな王子にはさせないけどね。」
「あの方達は…極刑だそうです。廃屋のような所に美しい女性達を監禁していたらしいです。」
あの方々の側近やお付の方たちの事は記事になっていませんでした。
どうなったのかしら…
少しでも国の為になる方はいなかったのかしら…
「メイ。コルンの事を思い出させてすまない…」
「いえ…大丈夫です。知らなければならない情勢は新聞で把握していますから。」
「そうか…」
「父上、そのような事をメイは気にしませんよ。」
「はい。大丈夫です。」
お父様はとても辛そうなお顔をしてぎゅっと抱きしめてくださいました。
「それじゃあ私は仕事に戻らなくてはならないから行くよ。」
「はい、お父様。いってらっしゃいませ。」
「メイにそう言ってもらうのは久しぶりだ。やはり嬉しいな。」
「ふふっ」
「アーク、メイを頼んだぞ。」
「はい、父上。」
お父様が行ってしまいました。
少し寂しいです…
「メイ、もう少しで昼食だね。一緒に食べるかい?」
「いいのですか?」
「殿下が頑張ってるし、私も余裕があるからね」
「嬉しいです。」
食事はやっぱり誰かと一緒のほうが美味しいです。
「あはは。本当に嬉しそうだね。私も嬉しいよ。じゃあもう少し仕事してくるよ。」
「はい、頑張ってください。」
ふふっ、お兄様も嬉しそうです。
『メイリン様、今日は夕食の時に着替えましょうか?』
「はい、夕食の時にします。」
『かしこまりました。』
侍女達が楽しそうです。
時間まで地理の本と新聞を読む事にしました。