侵入者に怯える悪役令嬢
最近は毎日ラルフ様とお兄様と夕食をとるようになりました。
ラルフ様は相変わらず、固まってしまいますが…
『メイリン様はどんどん美しくなりますね。』
「そうでしょうか?そんなにすぐは綺麗にならないと思うのですが…」
『ふふふっ。きっとラルフ様と一緒の時間が増えたからではないでしょうか。』
「ラルフ様と…」
毎日ラルフ様とお会い出来るのはとても嬉しいです。
以前はほとんどひとりで食事をしていましたし…
『メイリン様!ラルフ殿下とアーク様がいらっしゃいました。』
「え?」
先ほど一緒に夕食をとったばかりなのに。
「メイリン!無事か!?」
「メイ、大丈夫か!?」
何かあったのでしょうか?
「はい。これから寝支度をしようかと思っていた所ですが…?」
「そうか…良かった…」
「ラルフ様もお兄様も王城でお仕事があると仰っていましたが何かあったのですか?」
「兄上の離宮とこちらの離宮に不審者が侵入したのだ。ミリム嬢は不審者を見ていないのだが、門番が一階の庭で捕らえたそうだ。」
「この離宮でも先ほど近衛兵が捕らえて尋問する所だ。」
また問題が…
「私が狙われているのですね?」
「兄上の離宮で捕らえた不審者はミリム嬢とメイリンがどちらの離宮にいるかわかっていなかった。まだはっきりはしていないが、たぶんメイリンが狙いだと思う。」
「そうだね、魔法の事を言っていたそうだから。最上階に移っていて良かったかもしれない。」
「そうですか…お姉様にも…」
私のせいでお姉様が危険に…
「メイ、大丈夫。姉上はアダム殿下と兄上がついている。それに、メイのせいではないからね?」
「そうだな。メイリンが気に病む必要はない。私達がついているからな?」
「はい…あ、一階にいる側近の方達は…?」
「それは問題ないよ。彼らが発見して、近衛兵に捕らえさせたんだ。私達も合間に訓練をしているからね。」
「そうだな。メイリンを守る為に我々も努力をしている。大丈夫だ。」
「はい。」
良かった…
あ。
「メイっ!」
「メイリンっ!」
「申し訳ありません…安心したら力が抜けてしまいました。」
お兄様に抱きかかえてもらい、ベッドに運んで頂きました。
「私が運びたかった…」
「殿下。諦めてください。」
「むっ…」
何を諦めるのかしら?
「ありがとうございます。もう眠るだけですから、お仕事に戻られても大丈夫です。」
「いや、日が沈む時間からは必ず隣で仕事をするよ。城の仕事は一階にいる側近達に任せよう。」
「そうだな。それが一番安心だ。」
大丈夫なのかしら…?
城でしか出来ないお仕事があるのでは?
「気にしなくていいよ。今日城に行っていたのは新しく入ってきた執務を確認して振り分けるだけだったし。」
「城でしか出来ない仕事は資料がこちらにあれば問題なくこちらで出来るのだ。」
「そうでしたか…」
「心配しなくても大丈夫だよ。」
「はい…お兄様。少しだけ…我儘を言ってもよろしいでしょうか…?」
「ん?なんだい?」
「眠るまで手を握っていただいても…いいでしょうか?」
「あはは。いいよ。殿下は執務に戻っててください。」
「…私が握っていてもいいのではないのか?」
「あくまでも、婚約者です。メイはまだ未成年なのでダメですよ。」
「ラルフ様、ラルフ様に手を握って頂いて眠るのは恥ずかしいです…」
「うっ…そうか。そうだな、わかった。ゆっくり休むといい。」
「ありがとうございます。」
「おやすみ、メイリン。」
「ラルフ様、おやすみなさいませ。」
「ぐっ…」
ラルフ様は口をおさえて部屋を出て行かれました。
なぜかしら?
「メイ、ホットミルクを飲むかい?」
「はい、いただきます。」
お兄様が侍女に持ってきてもらうように言ってくださいました。
「メイは心配しすぎるからね。警戒は大事だけど私達をもっと頼ってほしいな。」
「私は頼りすぎだと思うのです。」
「いや、もっと頼っていいくらいだ。私はもっと頼ってくれたら、と思っているよ。」
「アークお兄様…ありがとうございます…」
「ほら、ホットミルクを飲んで休みな?」
「はい、お兄様。」
ホットミルクを飲んで落ち着きました。
少しお話をしてぽかぽかして眠くなってきました。
「メイ、手を握っているから眠っていいよ。」
「はい。おやすみなさい、お兄様…」
「おやすみ。」
お兄様が手を握ってくれていたので安心して眠る事が出来ました。
「……っ!」
『メイリン様っ!?』
「あ…ごめんなさい。大丈夫です…」
『また夢を見てしまったのですね?…汗を流しに行きましょう?』
「はい…ありがとうございます…」
『大丈夫です。私共がいますから。』
「はい…」
不審者の事があったからでしょうか?
また夢を見てしまいました。
最近はあまり夢を見なくなってきたのですが…
汗を流して着替えをしました。
『そんなに申し訳なさそうなお顔をしなくても大丈夫ですよ?』
「…ありがとうございます。」
『メイリン様、ラルフ様がお見えになりましたが…』
「あ…はい。お入りいただいても大丈夫です。」
『かしこまりました。』
「メイリン、大丈夫か?怖い夢を見たのだろう?声が聞こえてきた。」
「申し訳ありません、ご心配おかけして…」
「いや、問題ない。…眠れそうか?」
「リラックスできるお茶を飲んで、少し落ちついてから眠ろうと思います。」
「そうか…では、私も一緒にお茶を飲もう。」
「良いのですか?明日も早いのでは?」
「構わない。基本的に起こしに来るからな。」
「そうなのですか?」
「放っておくと日が高くなるまで寝てしまうのだ。」
「ふふっ、ラルフ様がお寝坊さんだとは知りませんでした。」
「たまにアークが怒りながら部屋にくるぞ?」
「お兄様が起こしに来るのですね。」
ラルフ様と他愛もないお話をしました。
「どうだ、落ちついたか?」
「はい、ありがとうございます。ゆっくり眠れそうです。」
「そうか…では私も寝るとしよう。」
「ラルフ様、おやすみなさい。」
「おやすみ、メイリン。」
ラルフ様は頭を撫でて部屋を出て行かれました。
すごく優しいですね…
『メイリン様、もうおやすみになりますか?』
「ありがとうございます。もう眠れそうです。」
『ふふっ、ラルフ殿下は素敵な方ですね。』
「はい、とても素敵な方です。優しくて。」
『えぇ、メイリン様が愛おしくて仕方がないのでしょう。』
「愛おしい?恋愛とは違うのかしら?」
『きっといつかメイリン様にもわかる日がきますよ。』
私にはまだ理解出来ない事があるのね。
『さぁ、もうおやすみになってください。』
「はい、おやすみなさい。」
侍女がベッド横で眠るまで側にいてくれました。
翌朝、アークお兄様がお部屋に来てくださいました。
「メイ、おはよう。」
「おはようございます、お兄様。」
「昨夜また夢を見たのだろう?怖がらせてしまったんだね。」
「はい、とても怖い夢を見てしまいました。心配をおかけしてごめんなさい。」
「いや、メイは少しも悪くないから大丈夫だよ。メイドが昨夜の事を話していたから様子を見に来たんだ。」
「ありがとうございます。朝からお兄様とお話出来て嬉しいです。昨夜はラルフ様が来て落ちつくまでお茶をしました。」
「そうか…殿下が。」
「はい。夜中だったので少しどきどきしました。」
「あ。そうだな…そういう時は部屋に入れてはいけないよ?」
「…はい、わかりました。」
「夜中に女性の部屋に入るのはよくないからね。今回だけだよ?」
「あ…失念していました…申し訳ありません。」
「次に同じような事があったら侍女達とお話をする事をおすすめするよ。」
「はい、お兄様。」
「じゃあ、私は仕事をしてくるよ。休憩の時にまた来ようかな。」
「はい、じゃあ休憩の時間をお待ちしていますね。」
「わかった。そうだ、メイの手作りお菓子が食べたいな。」
「わかりました、頑張って作ります。」
「楽しみにしてるよ。」
お兄様はぎゅーっと抱きしめてから部屋を出ていきました。
休憩の時間までにお菓子を作らなければ。
今日は暑いからプリンにしましょう。
きっとお兄様とラルフ様は喜んでくださるわ。
『とても元気になられて良かったです。』
「心配かけてごめんなさいね?」
『いいえ、気にしないでください。それで何を作るのですか?』
「暑いからプリンにするわ。」
『では、料理長に材料をお願いしておきますね。』
「あと、エプロンをお願いします。」
『かしこまりました。』
ラルフ様は喜んでくださるかしら?
昨夜のお詫びも兼ねて…プリンじゃ足りないわね。
本当に嬉しかったのだから。
ラルフ様に喜んでもらえる物は何かしら?
ハンカチくらいしか差し上げたことがないわ。
何かないかしら?
『メイリン様、準備が整いました。』
「ありがとうございます。」
『側近の方達の分も作られるのですか?』
「そのつもりなのだけれど?」
『でしたら、アーク様とラルフ殿下には別の物もご用意されたほうがよろしいかと思いますよ。』
「それはなぜかしら?」
『おふたりは特別な方ですから。ラルフ殿下には一番特別なもの、アーク様は少しだけランクを落としたものがいいと思います。』
「特別…わ、わかりました。そのようにしてみます。」
特別…
クッキー
アイス
パンケーキ
パフェ
どうしようかしら…?
あ、プリンパフェはどうかしら?
だとするとクッキーをクランチにして、生クリームとアイス。
アイスも料理長に覚えてもらいましょう!
数時間かかるけれど工程は多くないから、冷やしている間にプリンを作ってからクッキーを作れば…
「決まりましたわ!」
『ふふっ、今度は何を作られるのですか?』
「(それは…まだ内緒です。)」
『では、楽しみにしておきますね。』
驚くかしら?
ふふっ、何かやる事があるのはとても嬉しいわ。
厨房で料理長と作りたい物を説明して手伝ってもらえる事になりました。
アイスの作り方を説明して、一緒に作りました。
『アイスというのは冷たいクリームのようになるのですね。初めてです。』
「ふふっ。私も物語に出ていて異国の料理の本を見て再現してみたかったのです。」
『私はあまり本を読まないので、新しいレシピはワクワクいたします。』
「最近はとても暑いので、きっと美味しいですよね。」
『楽しみです。』
前世で時間つぶしに料理の本を見て、簡単に作れる事を知ったのです。
もちろん初めて作るのですけれど。
台所にも行けませんでした。
私の部屋は一階で、部屋を出るとトイレとお風呂がありました。
トイレは一人で行けるのですが、お風呂は一人では入れなくて…
もちろん、病院では看護師さんとトイレやお風呂に入っていました。
病院では介助が必要でしたから。
「あとは冷やすだけですね。プリンより長く冷やさないと。」
『なるほど。凍らせるのですね。』
「はい。じゃあ、プリンを作りましょう。」
『そうですね。』
その後はプリンとホイップクリームとクッキーを作りました。
『随分とたくさんの種類を作るのですね?』
「はい、ラルフ様とお兄様に特別なデザートを作るのです。」
しばらくしてアイスも出来上がり、ラルフ様とお兄様がもうすぐ休憩するというので急いで仕上げました。
フルーツは苺とバナナと苺ジャムがあったので苺パフェです。
『これは美しい…』
「ふふっ」
『メイリン様、ラルフ殿下とアーク様がお部屋にいらっしゃいました。』
「わかりました。先にお部屋へ。」
『かしこまりました。』
『ではお持ちします。』
「ありがとうございます。残りは側近の方に持って行っていただけますか?」
『それでも余りますよ?』
「ふふっ、皆さんの分です!」
侍女やメイドや護衛、近衛兵の方達はとても嬉しそうで良かったです。
お部屋に急がなくては。
「ラルフ様、アークお兄様。ごきげんよう、お待たせして申し訳ありません。」
「あはは、そんなに急がなくても良かったのに。」
「メイリンはなぜエプロンを…?」
「うふふっ、ラルフ様とアークお兄様にお菓子を作っていたのです!」
「メイ、本当に作ってくれたのかい?」
「はい!お母様からいただいたエプロンも使いたかったので。」
「とても可愛らしいよ。殿下?」
「あぁ…エプロンをつけていてもこんなに美しいなんて…」
「ふふっ、ありがとうございます。さぁ、こちらにどうぞ。」
侍女達にパフェを運んでもらいました。
「わぁ…美しいね。」
「プリンと苺のパフェです。」
パフェにプリンがのらなかったので別々になってしまいました。
「メイ、これは?」
「アイスクリームという冷たいデザートです。」
「これは初めて見るな…とても美しいデザートだ。」
「ラルフ様、アークお兄様。見るのではなくて召し上がってください。」
「あぁ、では。」
「じゃあ、私もいただこう。」
「はい。」
アークお兄様もラルフ様も目を丸くして驚いています。
「メイリン、すごく美味しいぞ!このアイスクリームは冷たくてとても美味い!」
「最近暑いからアイスクリームは良いね。それに見た目も美しいし。」
「ありがとうございます!ラルフ様とアークお兄様の分だけ特別なのです!」
「そうなのかい?」
「特別というのはどのように?」
「パフェはラルフ様とアークお兄様のだけで、他の方達はアイスクリームとクッキーとプリンが全部別々にしてあるのです。」
「なぜだい?」
「ラルフ様に昨夜のご心配おかけしたお詫びとお礼で、アークお兄様にご心配おかけしたお詫びなのです。」
「気にしなくていいのに。でもありがとう、メイ。」
お兄様はとても喜んでぎゅーっと抱きしめてくださいました。
ラルフ様は…?
「メイ、殿下が喜びとメイの愛らしさに固まってしまったよ。」
「そうなのですか?」
「いや、固まっていない。なんて言えばいいのか…」
「ラルフ様、美味しかったですか?」
「とても美味しかった。」
「料理長が覚えたので、いつでも作ってくれますよ。」
「そうか…でも私はメイリンが作ってくれるほうがいい。」
「私もメイの手作りがいいな。」
すごく美味しいと喜んでくれました。
「はい、ではラルフ様とアークお兄様の分は私がお作りしますね。」
「よしっ」
「殿下…」
「あ…すまん。つい心の声が出てしまった。」
「ふふっ、気に入っていただけて嬉しいです。」
「アーク…メイリンを抱きしめたいのだが?」
「ダメです。」
「お兄様?」
「今、メイはお菓子を作っていたからとても甘い匂いがするのでダメです。」
「そうなのですか?甘いとダメなのですね。」
「アーク…少しは」
「メイに手出しをするのはまだ早いって言ったでしょ。」
「うっ…」
どうやら、何かお約束をしているようです。
「それより、お礼にはなりましたか?甘い物は疲れがとれるそうです。」
「もちろん。これで仕事の効率が上がるよ。」
「そうだな。」
「良かったです。」
「そろそろ側近の方達も休憩を終えるのでは?」
「そうだね、そろそろ戻るよ。」
「メイリン、また夕食の時に。」
「はい。ラルフ様もアークお兄様も頑張ってください!」
ラルフ様が何か言いながら、部屋を出ていきました。
本当に仲が良いですね。