秘密の魔法を見た第二王子
【第二王子 ラルフ】
離宮でメイリンと夕食後に庭で花の種を撒くのを見ていた。
花に囲まれるメイリンはとても美しい。
種を撒いたあと、使用人達に後ろを向かせた。
「なぜ見られないようにするのだ?」
「それはあまり見せてはいけないからです。」
少し屈んで種に向けて手をあてた。
「魔法か?」
「はい。種を撒いて魔法をかけると数日後には咲いてくれるのです。」
「この魔法は…初めて見た。」
「この魔法は農業等で収穫をするなど役にたつでしょう?その分、私にとって知られると危険と判断してお庭の花にだけ使っているのです。」
「誰か知っている者は?」
「恐らく、お姉様と離宮や屋敷の侍女や護衛は知っているのではないかと思います。」
「そうか…知られないようにしなくてはならないな。」
「はい。ラルフ様には知っておいていただこうと思ってお見せしました。」
なるほど。
これは…食糧難の国などに知られると厄介だな…
「メイリン、どうした?」
「今、あちらで物音が。」
「近衛兵は周囲の捜索をしろ。護衛はメイリンから離れるな。」
二度とメイリンを奪われるわけにはいかない。
私の大事な婚約者。
「メイリン、中に入ろう。私から離れるな。」
「はい、ラルフ様。」
「メイリン、大丈夫だ。」
「ラルフ様、ありがとうございます…」
震えていたことに気づいていないようだが、落ち着くように手を握った。
『殿下、周辺に怪しい者はおりませんでした。』
「メイリンは物音がしたのだな?」
「はい。なんか気配があってそちらを見た時に葉っぱが動きました。」
メイリンは気配を感じたのだ。
間違いなく、何者かがいたはずだ。
「お前達は全く気がつかなかったのか?」
『…申し訳ありません。おふたりを見ていて周囲への警戒を怠ってしまいました。』
「…馬鹿者。明日からもっと訓練をし直せ。」
『…はっ!』
「わかったなら、他の者達と訓練の計画を検討しろ。あと、コールマン公爵の所に行って護衛と近衛兵の配置の見直しを頼んで来い。」
『承知いたしました。』
使えないとは思わない。
だが、油断していたのだ。
私も含めて訓練をしなければ。
侍女達が心配して、落ち着くお茶を用意していた。
指示をされなくても主に尽くす姿は使用人の鑑だな。
「少しは落ち着いてきたか?」
「はい…」
「本当は隣で手を握っていたいのだが…」
駄目だな…
「女性の護衛を用意しよう。」
とりあえず、使いを出すか。
「メイリン、護衛が準備出来たら休むといい。」
「はい。ラルフ様もお休みになりますか?」
「私は少し仕事が残っているから城に戻る。とはいえ…心配だな…」
「そう…ですか…大丈夫です。護衛も侍女達もいますのでお仕事に戻ってくださいませ。」
やはり心配だ。
「少し待っててくれ。」
使用人を呼び、離宮で仕事が出来る準備をしてアークを呼ぶように使いを出した。
少しうとうとしている?
「眠いのか?」
「少し…」
「そうか…」
疲れたのだろう。
これくらいは許されるだろう?
メイリンを抱き上げてベッドに運ぶことにした。
「あの、重いですし歩けます。」
「重くないし、私が運びたい。」
「…はい。」
あとはアークが仕事の準備してくれば、メイリンの近くにいてやれる。
『殿下。女性の護衛を5人連れてきました。』
「メイ!」
「アークお兄様?」
「私が呼んだのだ。離宮で仕事をすることにした。」
「そう。メイの安心と安全が大事だからね。」
「…ありがとう、ございます。」
「じゃあ、メイは安心して休むといい。私達は殿下の部屋で仕事をしているから。」
「はい。ラルフ様、アークお兄様。おやすみなさい。」
「あぁ、おやすみ。」
「おやすみ。」
メイリンの部屋を出て、隣の自室に入った。
「殿下。詳しく聞かせて欲しいのだが?メイが危険だから安心させるために離宮で仕事をするから準備してこいって…焦ったぞ。」
「それはすまなかった。庭でメイリンが花の種を撒いている時に気配がしたと言って怯えたのだ。」
「いたの?」
「周囲を捜索したが見つからなかった。だが、メイリンが気配を感じたなら間違いなくいたはずだ。」
「確かにそうだな。それでここで仕事をしようと?」
「もちろんだ。二度とメイリンをさらわれてなるものか。」
「もうメイを苦しませたくはないからね。」
アークと今後のことを話しながら仕事をした。
メイリンが気配を感じたのは庭で魔法をかけたあと…
あ。
「アーク。すぐにコールマン公爵と父上と兄上とジャンをここに呼べ!」
「え、なに?どうしたんだ?」
「メイリンの魔法の話を聞かれたかもしれない。」
「魔法の話?」
「急げ!」
とにかく、手を打たなければ。
もしも、この話がもれれば更に危険な目に合わせてしまう。
それは嫌だ。
少ししてアークが父上達を連れてきた。
「ラルフ、どういうことだ?」
「メイに何があったのですか?」
そして、その場の状況を話した。
「メイリン嬢の言っていた花を咲かせるという魔法にそんなことが…」
「父上。この情報が食糧難の地域のものにもれればメイリンは攫われて、奴隷にされるかもしれません。」
「そうだな…」
「メイはその魔法をこっそり使っていたのか…」
「危険が及ぶことを理解していた。だから、魔法を使っている所を見せないようにしていたらしい。」
「メイ…」
「なんとしてもメイリンを守らなければならん!」
「兄上。わかっています。だからこうしてお呼びしたのです。」
「ラルフ殿下、メイの為にありがとうございます。」
「私の娘は誰もが欲しがるが、こんなにも尊い存在だとは…」
「私達のメイは生まれた時から尊いですよ?」
メイリン自慢が始まってしまった。
いつかこの中に私が入るのだろうな…
間違いなく。
自慢していい相手が限られているからな。
いや、婚約が広まればいくらでも自慢が出来るではないか。
さて。
「あー…自慢は今ではなく、解決してからだ。」
「…申し訳ありません。」
「今まで殿下達の婚約者問題があったので今回も同じかもしれないですね。」
「そうだな…必ず守ってみせるぞ。」
「兄上、必ず守りましょう!」
「守るのもそうだが、問題は情報漏洩のほうだ。目先の利益が目的ならその情報は漏れることはないだろうが…」
「なぜだ?」
利益が目的なら情報が漏れないとは…?
「自分の領地の収穫量をまずは増やすだろう?領地の収穫が増えれば懐が潤うし、他の領地より優位に見えるだろうからな。」
そういう事か。
「メイが攫われれば飼い殺しの奴隷だろう…」
「他国に知られれば政治が絡んだあげく、戦になるだろうな…」
「メイリンは我が国の宝だ。絶対に攫われては駄目だ!そして何より私の大事な婚約者だ。」
「そうだな…ラルフ。婚約式の準備はどうだ?」
「以前の準備が出来ていたので、ミリム嬢とメイリンのドレスを作り直す所ですが?」
「そうか…アダムはどうだ?」
「私は婚約を決めてから始めた所です。」
「そうか…早めにお披露目をしてしまえば婚約者問題は片付くのではないかと思ったのだが…」
「陛下。私の娘達をなんだと思っているのだ!どれだけ振り回す気だ。早くすると言ったり、延期すると言ったり…いい加減にしろ。」
「ダニエル。すまん…」
父上達も幼馴染だから、たまにこういう場面を見る。
情けないと思うこともあるが、憎めない人だ。
だから、コールマン公爵が側にいるのだろう。
ジャンやアークもこんな風になるのだろうか。
「それでは、どうしますか?」
「近衛兵の中で諜報活動が得意な者達をコールマン公爵に回そう。それとアダムも離宮に自分の部屋を作ってミリム嬢を守れ。」
「わかりました。」
ふたりとも成人しているから、当然か。
「ラルフ殿下もお願いしますよ。」
「もちろんだ。そのために離宮で仕事が出来るようにしてある。」
「アダム殿下もそうしてください。」
「そうだな。ジャン、頼んだぞ。」
「わかりました。けど…余計なことをしないでくださいよ?」
「む…わかっている。」
「では婚約式は予定通りに?」
「あぁ。では、婚約式の準備は進めておいてくれ。それと、準備は必ずひとりに任せるな。数人で行うように。どこでどう情報がもれるかわからないからな。」
「近衛兵と護衛もつけましょう。狙われる可能性と誰かが繋がる可能性もありますから。」
「そうですね。見張りは必要でしょう。」
王城が穴だらけだとは思わなかった。
警備体制もそうだが、個々の力が足らない。
情報漏洩に関してはもっと警戒すべきだな。
父上と母上、兄上と私、ジャンやアークの執務室などには勝手に近づけないように見張りを数人外と中に。
王城の出入りは門前でチェックをして…
出入りの記録も毎日報告させるようにして…
「ラルフ殿下?」
「どうした?」
今考えていた話を話した。
「ラルフ、思ったよりも賢いな?」
「父上、私の評価はどうなっていたのですか…」
「陛下。ラルフ殿下はメイの事をとても考えてくれているのです。それに、陛下が考える以上に賢いですよ。」
「メイリン限定だと思っていたが、本当に賢いし…王位継承するか?」
「そうだな…悪くないかもしれないな。」
「陛下、そういうのは軽々しく言わないでください。どこで情報が漏れるかわからないのに。」
「そうですよ。父上も兄上も冗談はやめてください。私はメイリンと第二王子としての役割を務めるつもりなのですから。」
この話が漏れたら、裏で何が始まるか…
「ラルフ殿下、私はそれが一番良いと思いますよ。」
アークも争いを好まない。
王位継承争いなんて、バカバカしい。
「それに、メイはあまり表舞台に出さないほうがいいでしょう。」
ジャンが眉間にシワを寄せて呟いた。
「なぜメイリン嬢を出さないほうがいいのだ?」
「メイはあまり社交場に出したことがないんだ。理由はわかるだろう?」
「あー…」
「美しいと言うだけで、注目を浴びてしまうのです。パーティや茶会に出ないのではなく、出せなかったから。」
「そうですよ。会場に出ただけで人だかりが出来て動けなくなる。」
「出ないのではなく、出せなかったのか?」
「会場の入口からだ。危険すぎて出せない。」
なるほど。
どおりで…
「大変だったんだ。パーティに出したら本当に見失うほど人だかりが出来てしまう。王城のパーティだけはさすがになかったが。」
「なるほど。確かにな…」
「公務も警備をしっかりしないと攫われるだろうな。」
「メイリンが王妃になるのは危険が伴うのだな?」
「言い方が悪くなるかもしれないが、王子妃で良かったかもしれないな…」
「まぁ…それはそうかも知れないけどね。」
兄上は本当に未練がないようだ。
きっとミリム嬢とうまくいっているのだろう。
良かった…
「とりあえず、ラルフの言った通りに見張りを増やすことと城内でひとりで行動はさせないように徹底しよう。」
「そうですね。城内では全ての人間に近衛兵をつけましょう。城内に入る際も予定を必ず提示させるのがいいかもしれません。」
「不便だが、それが一番だろう。」
「あと近衛兵や護衛達の訓練も増やします。」
「そうだな…メイリンのほうがよっぽど強かった…」
確かに…
私も訓練をしよう。
メイリンを私の手で守れるように。
「コールマン公爵。メイリンに教えていた教師を呼んでくれ。私も訓練をする。」
「ラルフ殿下…わかりました。ジャンもアークも訓練をつけてもらうといい。」
「「はいっ!」」
「私も頼む。ミリムを守りたいからな。」
こうして、メイリンとミリム嬢を守る為の訓練をすることになった。
公務や執務もあるが、時間は必ず作る。
強くなって、メイリンと公務を行う必要があるからな。
話し合いを終えて父上や兄上は離宮を後にした。