悪役令嬢と夕食の約束した第二王子
【第二王子 ラルフ】
なんだ?
執務に戻ろうとしたら、メイリンがジャケットの裾を掴もうとしていた。
まさか…
「メイリン、寂しいのか?」
メイリンは驚いている。
無意識か?
「可愛すぎるっ!」
なんて可愛らしい。
思わず抱きしめそうになったが、メイリンに手を出さない約束だった為に護衛に止められてしまった。
すると、メイリンはとても寂しそうにしているではないか。
くそっ…
「え…あの…ダメ、なのでしょうか…?」
「何がだ?」
メイリンが顔を隠した。
まさか、メイリンは抱きしめて欲しかったのだろうか?
『殿下、少し失礼します。』
メイリンの侍女が私の護衛と話をしている。
なんだ?
『殿下、お耳を』
護衛が耳元で、侍女がメイリンを抱きしめてあげて欲しいと言っていたようだ。
『それ以上のことは目溢し出来ません。』
メイリンを抱きしめるて、こっそりと顔を見ると、嬉しそうにはにかんでいるではないか…
くそっ…
なぜ、メイリンに手を出さないなどと約束したのだ…
婚約者なのに全く手を出せないなんて…
本当に悔しいな。
せめて15歳までは待つように言われている。
あと数日後にやっと14歳だ。
随分と時間が立ってしまったので夕食を一緒に食べる約束をして執務に向かった。
『殿下。メイリン様にあのように見送りされて嬉しいのはわかりますが…』
ん?
『そろそろ執務室ですから緩みきった顔をなんとかしないとアークにバレますよ?』
慌てて顔を引き締める。
執務室に入って、執務に没頭して緩みそうになる顔を更に引き締めた。
「殿下…何かあったのですか?」
やはり、アークは鋭い。
「いや、早く終わらせて離宮に行かなければならない。」
「メイとは先程会ったではないですか?」
「夕食を一緒に食べる約束をしたからな。早く執務を終えないと。」
「…ちゃんと我慢してよ?」
「わかっている!」
メイリンが望んだ場合はどうなのだろうか?
「もしも…メイリンが望んだら…」
「それは…望んだらですから。」
「そうか…」
それは…メイリンがどこまでを望むかということになるな?
今日初めてメイリンに抱きしめるという行為を望まれたのだ。
それは間接的にだが。
だが…とても可愛らしくて、美しくていつまで待てるか…
いや、今は我慢をしよう。
メイリンが15歳まであと1年か。
日々美しくなっていくのだ。
本当に我慢出来るだろうか…
「殿下。夕食までに終わらなかったら私も同席しますから。」
「はあっ!?」
「当然。そんなに遅い時間にふたりきりなんてさせられないからね。」
「うっ…」
「メイを嫁がせるのは不本意なのに姉上まで王家に嫁がせるなんて酷いのは殿下達だから。」
「酷いな…」
「殿下達が酷いんだよ。」
くっ…
仕方ないではないか。
メイリンは私にとって唯一無二の女性だ。
兄上にとっても。
そして、ミリム嬢もまた唯一無二の存在なのだ。
それ以上の女性がいれば后探しなど必要なかった。
あの姉妹に敵う令嬢がいないのだ。
それに、身分や容姿を見なくてもそれ以上の器量良しも存在しない。
「それでも、私はメイリンを后にしたいのだ。」
「義弟になるのなら、それなりにしっかりしてくれ。」
「そうだな…」
その後はきっちりと執務をこなして、夕食に間に合わせた。
「はぁ…やれば出来るじゃないか。」
「煩い。まだ義弟ではないのだから、不敬だ。」
そうはいってもアーク以上の友人は存在しない。
コールマン公爵家は存在が大きいのだ。
この縁は大事にしなければな。
「アークも離宮に来るのか?」
「あー…行きたいのですが、私も兄上もまだ仕事がありますので。」
仕事か…
自分の仕事を後回しにして、私の執務を手伝ってくれていたのだろう。
「そうか…今度埋め合わせをする。」
「あはは。殿下が頑張ってたのは知ってますからメイを待たせないでくださいよ。」
「…わかっている。」
礼を言って離宮に帰った。
離宮に帰ってすぐに食事をすることに。
メイリンは食堂にもういるそうだ。
待っていてくれたのだ。
『殿下。メイリン様が嬉しそうに待っているそうです。』
『殿下のほうが嬉しそうだと思いますけど。』
「煩いぞ?お前達もメイリンを見るのが嬉しいのだろう?」
『そりゃあ…殿下におかえりなさいと言う瞬間を楽しみに…』
「あ…」
そうだった。
離宮に来てから、メイリンと夜に会うのは初めてだ。
いってらっしゃいとは言われたことはあるが、おかえりなさいと言われるのは初めてだと気づいた。
「…行くぞ。」
ラフな服装に着替えて食堂に向かった。
食堂に着くと…
「ラルフ様っ!」
「メイリン、ただいま。」
おかえりなさいを聞きたい為にただいまと言ってみた。
「おかえりなさいませ。お仕事お疲れ様でした。」
「くっ…」
「ふふっ、どうされたのですか?」
メイリンは思ったよりもドレスアップをしていた。
「とても美しい…」
「侍女とメイド達がこのほうが良いと…」
いい仕事をしてくれたな。
あとで礼をしなければ。
侍女とメイド達はとても満足そうだ。
「あぁ…とても美しくて疲れが飛んでいったぞ。」
「ありがとう、ございます…」
『なんて愛らしい…』
『当たり前よ。メイリン様は殿下に恋をしたのだもの。』
執事や侍女、メイドに護衛までが嬉しそうにしている。
メイリンが私に恋をしたのか?
だから着飾ったのだと侍女やメイド達がこそこそ話していた。
それが本当なら、こんなに幸せなことはない。
「ラルフ様?夕食にしましょう。」
「…そうだな。」
夕食をしながら、色々と話をした。
その間も先ほど侍女達が話していたメイリンの恋煩いの話を考えていた。
それが本当ならもっと仕事を頑張ってメイリンとの時間を作らなければ…
「ラルフ様。やはり、夕食にドレスアップしたのはやりすぎでしたか?」
しまった。
考え事をしていたなんて、失礼だった…
「いや…とても似合うし、綺麗だ。私の婚約者だと思うと…」
「思うと?」
「あー…毎日メイリンを見ていたいと思っただけだ。」
『ほら、やっぱり。』
『良かったですね、メイリン様。』
メイリンの侍女達が嬉しそうなのはなぜだ?
「また夕食を一緒にする時が楽しみだ。」
本当に楽しみだ。
だが、美しすぎて…
「我慢が難しいな…」
「我慢ですか?」
「あ、いや…前にも話をしただろう?」
以前、メイリンに抱きしめる以上のことをしたいのだと伝えたことがある。
メイリンは驚いた顔をして、赤くなった気がする。
気づいたのだろうか?
少し離れた所で侍女達がメイリンを見ている。
私の執事達もだ。
話の内容までは聞こえていないようだが…
私の執事達はメイリンを見て顔を緩ませている。
くそっ…
見せたくないが、夜にふたりきりにはできないと言われれば確かに…
見られていなければ確実に…いや、考えるのはやめておこう。
色々と想像してヤバそうだ。
「ラルフ様。そろそろ休みましょう。」
「…そうだな。」
『では、メイリン様。寝支度をしましょう。』
「はい。ラルフ様、おやすみなさい。」
「うっ…おやすみ。」
おやすみなさいも初めてだ。
結婚したら毎日メイリンにおはようもいってらっしゃいもおかえりなさいもおやすみなさいも言ってもらえる…
私はなんて幸せな男だ。
おやすみなさいと言っても、メイリンの部屋は隣。
侍女に聞くとまだ時々夢を見てしまうらしい。
メイリンが望むなら…
というか、私がそばで悪夢から守ってやりたい。
続き部屋は15歳までは扉を開けない約束をしていた。
メイリンが15歳になったら続き部屋の扉を通じて夜もいられるようになる。
メイリンの許可があればだが…
15歳になったメイリンはきっと驚くほど美しくなっているのだろうな…
許可があれば、一緒に眠ることだって出来るようになる。
いつ許可をもらえるようになるかはわからないが。
さて、私も寝るとしよう。