とても恥ずかしくなった悪役令嬢
翌日、お姉様とアダム様とラルフ様がいらっしゃいました。
「メイっ!お手紙ありがとう!」
「いえ、お忙しいのに申し訳ありませんでした…」
お姉様はお兄様達と同じようにぎゅうぎゅうと抱きしめてくださいました。
「本当に仲の良い姉妹だな。それにとても美しい…」
「あら、アダム様。メイが美しいのは当たり前よ?」
「ミリムにも言っているのだが?」
「ふふっ。」
お姉様とアダム様がとても嬉しそうに笑いあっています。
良かった…
アダム様はお姉様を大事にしてくれそうです。
「ミリムがメイリンと誕生日前に会いたいと言っていてな。」
「あら、私は毎日でも会いたいわ。」
「それは私もだ。」
「む。兄上まで…」
「ふふっ、私もたくさん会いたいです。」
「結婚したら毎日会えるわね。」
「そうだな…それにミリムは后教育が始まるからな。」
「そうだったわ…」
お姉様はお勉強があまりお好きではないみたいです。
「メイリン。昨日父上に進言して、合わせて婚約式が出来るようにしてもらったぞ。」
「一緒にですか?」
「そうだ。私達が先に婚約式をする予定だったからな。」
「あぁ。それに合同でやったほうが安心だ。」
「安心…ですか?」
「メイリンがあれだけ事件に巻き込まれたのだ。ミリムも事件に巻き込まれないとは言いきれない。」
「だから週明けにミリム嬢も離宮に入ることが決まった。」
「週明けって…」
「メイリンの誕生日だ。」
「本当ですかっ!?」
「えぇ、本当よ?私の后教育もあるから離宮に入ることが決まったの。」
「お姉様が離宮に…」
「まぁ、この離宮はラルフが部屋を作ってしまったからもうひとつの離宮になる。今急いで仕度をさせている所だ。」
「そうなのですね!とても嬉しいです!」
ラルフ様もアダム様も抱き合う私達を見て苦笑いをしていました。
「ふたりとも、私達に抱きついてもいいのだが?」
なんだか拗ねているように見えますが…
恥ずかしいので抱きつくなんて…
お姉様はアダム様に抱きついていて驚きました。
「ふふっ、ラルフ殿下はもう少し我慢が必要ね?」
「ぐっ…私だってメイリンと口づけをっ…」
「メイリンと?」
「…ラルフ様?」
「ラルフ殿下!まだ婚約式も済んでいないのにメイになんて事をっ!?」
「ラルフ、お前…」
「あ…」
ラルフ様はうっかりと暴露をしてしまいました。
秘密にしなければいけないと言っていたのに…
あまりの衝撃に私の体温が一気に上がったのを感じました。
「あー…、メイリン…すまないっ!」
「ラルフ殿下。ちゃんと責任をとってもらいますからね!」
「…わかっている!」
「はぁ…ラルフ殿下。お父様やお兄様達にはバレないようにしてくださいね?」
「あぁ、バレたらと考えると恐ろしいからな…」
「いつの話だ?」
「いえ、答えられません。」
恥ずかしくなってきて涙がでそうです…
「メイ、大丈夫?」
「…はい…」
「ラルフ殿下…酷いわっ!」
「メイリンにはまだ早いだろうに…」
「ラルフ殿下、ふたりで会うのはしばらくやめてちょうだいね。」
「そうだな、我慢が足りないようだ。」
「ミリム嬢、兄上…」
「ラルフ様とまたお会い出来なくなるのですか…?」
お姉様とアダム様が目を丸くして驚きました。
「メイリンはそんなにラルフに会いたいのか?」
「メイは恋愛の話なんてしたことがないのに…」
「兄上もミリム嬢も酷いな…」
「ひとりの時間はとても寂しいのです。お隣にお部屋が出来たと聞いていたのに、一度もお会いしたことがありません。」
「そうなのか?でも、メイリンを守る為には仕方がないだろう。」
「一体私をなんだと思っているんですか?」
「メイはラルフ殿下に会いたい?」
「はい、お会いできたら…」
「そうなのね…でもふたりきりはダメよ?」
「はい、お姉様。」
「本当にメイリンは良い子だな…」
「そうよ?メイは純粋ですもの。言われた事はちゃんと守るわ。」
「…すまない。メイリン、私が口をすべらせたばかりに…」
「まぁ…メイがこんなに美しいのだから、欲情しないわけがないわよね?」
「そうだな…どんな令嬢も敵わないだろうからな。」
「そうよ、スタイルだってとても美しいんだから!」
「スタイル…ですか?」
「えぇ。海で着替えをした時に…」
「お姉様っ!?」
「そうだな…海で見た姿はとても…この世の者とは思えないほどに素晴らしい姿だった…」
「あぁ…確かに女神かと思った…」
「アダム様、ラルフ殿下!何鼻の下を伸ばしているのですか!」
「あ…」
「ラルフ、鼻血が…」
「まあ!なんかよろしくない事を想像したのですね!ラルフ殿下はやはり近づかせては…」
「よろしくない事を…ですか?」
「メイリンは知らなくていいぞ?」
「………」
「そうなのですか?」
「メイリンがもう少し大人になったらな?」
「アダム様もメイに余計なことを言わないでよっ!」
「余計なこと?」
「ダメダメ!教えてはダメよ!?」
「そうですか…」
お姉様が言うなら聞かないことにしましょう…
「わかりました、お姉様。」
そんなに余計なことなのかしら?
「そうだわ!アダム様!ラルフ殿下!婚約式の話をしなければ。」
婚約式の話?
「そうだった。メイリン、婚約式だが1か月後に決まった。それに合わせて準備をし直してもらいたい。」
準備をし直す…?
「「「くっ…」」」
「ダメよ、メイ!首を傾げると可愛すぎるからって言われたでしょう?」
「申し訳ありません…無意識でした…」
無意識だからどうにもできないのですけれど…
「それで準備をし直すとはどういうことなのでしょうか?」
せっかく準備をしたのですけれど、なぜなのかしら?
「それは私とメイが同時に婚約式をするのだもの。ドレスやアクセサリーを合わせて準備するためよ。」
「お揃いにするのですね。」
「そうよ。姉妹だもの、素敵なアイデアでしょう?一緒に準備するの楽しみだわ!」
お姉様と一緒に…
「お姉様と一緒にいられるのですね!嬉しいですっ!」
「ふふっ、まさか結婚してメイとずっと一緒にいられるなんて本当に嬉しいわ。」
「ミリム、そのために結婚するなんて事はないだろうな…?」
「まさか。そのために結婚なんてしないわよ。私の話したでしょう?」
お姉様がアダム様と言い合いになってしまいました。
何かの本で喧嘩するほど仲が良いと書いてあったので、よほど仲が良いのでしょう。
私とお話をしていた時よりアダム様はリラックスしているように見えます。
「メイリン…ミリム嬢は少し前から兄上に恋煩いをしていたらしいのだ。」
「そうなのですか?アダム様は素敵ですものね。」
「兄上は素敵か…」
「素敵ですよ?ラルフ様もお兄様達もお姉様も。」
「それは…私だけに言ってほしいのだが。」
「そうなのですね。わかりました。」
気がつくと、お姉様とアダム様の話はいつの間に終わっていたようです。
「ラルフ殿下は本当にメイが大好きなのね?」
「当たり前だ。そうでなければ婚約なんて申し込まないぞ。」
急にこんな話になるなんて…
今度はラルフ様とアダム様とお姉様が私のことで言い合いをし始めてしまいました。
さすがに、私には入り込めそうにありません。
だんだん恥ずかしくなってきました。
そもそも、婚約式の話をしていたはずなのに…
なんだか仲間外れにされている気がします。
「メイリン、すまないっ!ついメイリンの話で盛り上がってしまった…」
「メイ、ごめんなさい。」
「すまない。義妹が出来たと思っていて、つい…」
「いえ…私は大丈夫です。私もお義兄様が増えて嬉しいですよ。」
ふふっ、本当にお義兄様が増えるのよね。
それにお姉様がアダム様のお嫁さんで、ずっと妹として近くにいられるなんて夢みたいです。
「兄上!」
アダム様にぎゅうぎゅう抱きしめられています。
まるでお兄様の真似をしているようだわ。
「兄上はミリム嬢を抱きしめればいいでしょう!?」
「ラルフ殿下?なんてことを…」
「そうだな…今後はミリムを抱きしめるとしよう。」
「アダム様っ!?」
アダム様がお姉様を抱きしめようとしています。
「じゃあ、私はメイリンを…」
「ダメよ?メイには触れさせないわ。」
「そうだな。メイリンを急いで大人にするのはやめておけ。」
「う…」
お姉様がラルフ様を睨みつけています。
なぜ睨んでいるのでしょう?
「メイリン、気にするな。」
「それで、誕生日に何か贈りたいのだが欲しい物はないか?」
「家族や殿下達と一緒にいられればいいです。」
「あー…本当に欲がないな。」
「いつもひとりですから、賑やかに過ごせる時間が欲しいのです。これは欲でしょう?」
「そうか?欲…なのか?」
「欲なわけがないわ。時間が欲しいのはみんな同じだもの。」
「そうなのですか?私はずっと欲深いのだとばかり…」
「メイが欲深かったら私なんて強欲よ?」
「ミリムはそんなに欲しい物がたくさんあるのか?」
「そうね…メイとお揃いのドレスやアクセサリーとか色々と欲しいわ。」
「なるほど。ミリム嬢はメイリンとお揃いの物が欲しいのか。」
「では、ミリムはメイリンと一緒に買い物をするといい。婚約式のドレスもそうだが、それ以外に毎月お揃いのドレスを作ったらどうだ?」
「まあ!素敵!」
「お姉様と毎月お買い物が出来るなんて、嬉しいです!」
「あはは、本当にメイリンは可愛らしい。」
「アダム様、メイが可愛らしいのは当たり前よ?」
「そうだな。メイリン以上に可愛らしい令嬢なんて存在しないからな。」
「皆様、褒めすぎです…」
本当になんて言っていいのかわからないわ…
「そういえば、ふたりがドレスをお揃いにすると私達もお揃いにしなければならなくなるのか?」
「それは…殿下達は私達のドレスの色に合わせて選べば良いのではないかしら?」
「そうだな。私はメイリンに合わせた物にしよう。」
「では私はミリムに合わせるとしよう。」
「それでは、メイリンの誕生日の翌日からふたりで準備するといい。」
「はい!」
毎日は無理でもたくさんお姉様と会える…
「それとコールマン公爵家の為に離宮を準備しているから、たくさん家族に会えるようになるぞ。」
「お母様とも会えるのですか?」
「当然だ。領地は代理を立てて、必要な時だけ領地に戻ることになる。」
「コールマン公爵夫人がひとりで領地に残るのは可哀想だからな。」
「そうなのですね。では私に欲しい物は何もなくなってしまいました。」
「そうか。では私はメイリンに指輪を準備しよう。」
「ラルフ殿下。ちゃんとプロポーズはしてくださいね。」
「プロポーズ?」
「当たり前よ。アダム様もね。」
「そうだな…政略結婚は特にプロポーズはしないが、恋愛結婚の場合は相手にどれだけ結婚して欲しいのか言葉で伝えるらしい。」
「兄上もこれからなのですか?私はプロポーズになるかわかりませんが、結婚して欲しいということは伝えましたよ。」
「ラルフ様にはすぐに結婚したいと言われましたが、プロポーズだったのですか?」
お姉様もアダム様も驚いているようです。
「ラルフ殿下、プロポーズしているじゃない。お花や指輪は贈りましたか?」
「いや、まだだが…」
「それではダメだわ。ちゃんと準備をしてからプロポーズをしないと。」
「そうか…急いでミリムにもプロポーズをしなければならないな。」
「兄上は恋愛結婚ではないのでは?」
「お姉様はアダム様と政略結婚なのですか?」
「違うわよ。違うけど色々とあるの。」
「ミリム、帰るのだろう?送るぞ?」
「そうですわね。メイ、お誕生日楽しみにしていてね。」
「はい、わかりました。」
本当に会える時間が一番嬉しいのだけれど…
お姉様はアダム様と離宮を後にしました。
すぐに寂しくなってしまってぼーっとしてしまいました。
「メイリン。お茶でも飲もうか?」
気を使わせてしまったかしら…
「ラルフ様…一緒にいられる時間を欲しいというのは欲でなければなんなのでしょう?」
「そうだな…望み、だろうか。」
「望み…ですか?」
「たぶんだが。私がメイリンと一緒にいたいと思う気持ちと同じだ。こうしたい、こうなったらいいなとか。」
「希望ですか…」
「私はそうだと思う。」
希望、お願いとかかしら?
ラルフ様にじっと見られています…
「ラルフ様、どうかされたのですか?」
「あ、いや…首を傾げると本当に可愛らしさが増すな。」
よく見ると、ラルフ様の顔が赤くなっている気がします。
「…私にはよくわからないのですが、ラルフ様にはそう見えているのですね?」
首を傾げるとそんなに可愛らしくなるのでしょうか?
「ぐっ…」
『んぐっ…』
『ぐはっ…』
また…
それなら言われた通りに首を傾げないようにしましょう。
「さて、私も執務に戻るとしよう。」
「あっ…」
思わずジャケットの裾を掴みそうになってしまいました。
「メイリン…?寂しいのか?」
「え…?」
自分の行動にびっくりしました。
「…メイリンっ!可愛すぎるっ!」
『殿下。駄目です。お約束したのではありませんか?』
「くっ…こんなに可愛らしいメイリンを抱きしめられないとは…」
ラルフ様が苦々しい顔をしました。
「抱きしめられないのですか?」
「うっ…約束したのだ。メイリンに手を出さない、と。」
「そうだったのですね?」
「不満だが…ここに部屋を作る時に約束をした。」
今、抱きしめられるのだと思っていたから拍子抜けの気分です。
私が拍子抜け?
私は不満だということかしら?
「メイリン?」
はしたないわ…
「顔が赤くなっているがどうした?」
「え…あの…ダメ、なのでしょうか…?」
「何がだ?」
思わず顔を隠してしまいました…
「メイリン?」
「あの…気にしないでください…」
「すごく気になるのだが?」
とても恥ずかしくなってしまって…
『殿下、少し失礼します。』
「ん?わかった。そろそろ行かなければならないから、早めにな。」
『承知しております。』
指の隙間から見ると、ラルフ様の護衛と侍女で話をしているようです。
何かあったのかしら?
『メイリン様、お待たせしました。』
「どうかしたの?」
『はい。メイリン様は殿下に抱きしめて欲しいのですね?』
バレていました…
『それなら、このままお待ちください。』
「はい?」
『殿下。お耳を。』
「わかった。」
ラルフ様と侍女と護衛が内緒話をしています。
「…いいのか?」
『それ以上のことは目溢し出来ません。』
「…わかった。」
目溢し?
「メイリン。」
ラルフ様がふわりと抱きしめてくださいました…
「はぁ…メイリンを抱きしめて欲しいと言われたのだが、抱きしめてしまうと…」
なんだか、安心しました。
「執務を終えてから夕食を一緒に食べよう。」
「…約束、ですか?」
「あぁ。」
「わかりました…」
「では、行ってくる。」
「はい、いってらっしゃいませ。執務、頑張ってください。」
「くっ…頑張ってくる。」
ラルフ様の護衛や執事がラルフ様と同じようにくっ…と言って部屋から出ていきました。
『メイリン様、良かったですね。』
あ…
「はい…ありがとう、ございます…」
『ふふっ、いつもよりも可愛らしかったですよ。』
「そう…ですか…」
『メイリン様、ラルフ様に恋をしたのではないでしょうか?』
「恋…ですか?」
『ふふっ、そうかもしれませんね?』
「………恋…」
生温かい目で見られている気がします。
『望みが叶って良かったですね。』
とても返事を出来なくて俯きながら小さく頷きました。
侍女やメイド達がきゃあきゃあと盛り上がっていて恥ずかしくなって、部屋に戻りました。