答えを見つけられない姉
【姉 ミリム】
殿下の話を聞いて屋敷に帰ってきた。
うーん…
殿下に条件の合う令嬢…
やっぱり思いつかないわね?
「ミリム、おかえりなさい。なんの話だったの?」
「ただいま、お母様。婚約者の条件に合う令嬢に心当たりはないかと相談を受けたのよ。」
「そう。殿下も穏やかではないわよね?メイとの婚約がなくなってまだ間もないのに…」
「本当に。」
「そうだわ。ミリムが輿入れすれば良いじゃない!」
は?
「お母様?私、以前断ったじゃない。」
「それは随分と昔のことだもの。」
まぁ…それはそうだけど…
「それにミリムとメイが一緒なら安心だわ。」
えー…
「そうかもしれないけど…」
メイがラルフ殿下と婚約した後に、
お父様が陛下に私と殿下の婚約の話をされたと聞いていたけど…
本当に断ったかしら?
お母様は知っているのかしら?
まさか、お母様にそんな事を言われると思わなかったわ。
「姉妹で輿入れなんて聞いたことがないわよ…」
「前例はないけど、良いと思ったのよ。ダメかしら?」
「でも…」
「そんなに嫌なの?」
「うーん…」
確かに、海に行った時に何度かキュンとした。
少し好意がある事はわかっているわ。
アダム殿下よりも素敵な方なんてお兄様とアークしかいないけれど…
「私はいいと思ったけれど…」
そうね…
でも殿下はメイが…
そう思うと複雑よね。
お父様がちゃんと断っていればアダム殿下とは婚約なんてことにはならないはず。
もしも断れていなければ…
簡単にメイから私に乗り換えられるのかしら…?
この国で結婚するとすればアダム殿下しかあり得ないでしょうし、
他国の王子と婚約の話はあるけど…
もし他国の王家に輿入れしたら家族になかなか会えなくなるわ。
寂しがり屋ではないけれど、寂しいと思う。
そう考えると…
はぁ…
アダム殿下は幼馴染の私にどんな感情をもっているのかしら?
メイと違って少しガサツというか…
可愛気はあまりないのよね。
もしも殿下が私の婚約者になったら、
私はメイと比較されたりしないかしら?
夕食よりもだいぶ遅い時間にお父様達が帰ってきた。
「お父様、お兄様、アーク。おかえりなさい。珍しく遅かったですね?」
「ミリム…色々とあったのだ。夕食を済ませたら話がある。」
「…?はい、わかりました。」
お父様達はなんだか苦々しい顔をしている。
メイに何かあったのかしら?
「お母様、メイに何かあったのかしら?メイは大丈夫なのかしら?」
「そうね…私もなんだか心配になってきたわ。」
お母様とお茶をしながら夕食が終わるのを待ちました。
少しして夕食を終えるとお父様達がリビングに入ってきた。
「すまない、待たせたな。」
「大丈夫です。お父様、メイに何かあったのですか?」
「あー…、そうじゃないんだ。すまないが人払いをしてくれ。」
なんだか、大事な話なのかしら?
家族以外が部屋からいなくなるとお父様が話を始めた。
「ミリムに婚約の話がある。」
「まあ!良い方がいたのですね!」
「え…そうなのですか?どこの国ですか?」
「姉上…ちゃんと話を聞いてくれ。」
お兄様もアークも随分と苦しそうな顔をしているわね?
「ダニエル、どんな方なの?」
お母様は嬉しそうね。
「…アダム殿下だ。」
え?
「前例がないし、断ると言っていませんでしたか?」
「もちろん、断ったのだが…」
「では、なぜですか?」
今更よね?
私には悪くない話ではあるけれど…
「陛下はアダム殿下にはミリム以外に条件の良い相手がいないし、ミリムにもアダム殿下以外に条件の良い相手はいないだろう、と。」
「確かになかなか条件の良い相手は見つかっていませんけど…」
「良いじゃない、ミリム。私はとても良い相手だと思うわよ?」
お母様は昼間、殿下との婚約を薦めていたから興奮気味ね…
「でも、姉妹で輿入れなんて前例がないわよね?」
「ないな。」
「それにアダム殿下はまだメイを…」
「あー…それはない。」
「お兄様?」
「アダム殿下はメイを義妹として可愛がる気で満々だ。」
え?
そうなの?
「確かに殿下はメイに対して過保護になった気がするな。」
「陛下はミリムが婚約者になるメリットがあると言っている。」
「メリットですか?」
「ひとつはメイが寂しがらずにすむこと、もうひとつは他国に嫁に行かずにすむことだ。」
う…
メイの側にいられて、この国から出なくてすむ…
確かにメリットがあるわね…
「それと離宮を作って、コールマン家が住めるようにしてくれると言っている。」
本当に?
何それ…
素晴らしい提案だわ?
「殿下はなんて?」
「殿下は少し時間を欲しいと言っているよ。」
「時間を…」
考えているということかしら?
「とりあえず、ミリムも考えておいてくれ。」
断った事はどう思っているのかしら?
「…はい。」
お父様はやっぱり不機嫌ね…
本当はなんて言われたのかしら?
ダメだわ。
何を考えても疑問が出てくる。
今日は考えるのはやめましょ。
明日落ちついたら考えましょう。
昨日言われた婚約の話はもう少し時間をとって、
殿下の答えを待ってからにしようと思っているけど…
朝起きたらお父様達はもう仕事に向かった後でした。
いつまでに返事をするのかしら?
よく考えたら私は考える必要がないのでは?
陛下に言われたのだから、殿下の答え次第だと思うのだけれど…
「お母様、少しいいかしら?」
お母様に一応相談してみることにした。
「どうしたの?」
「婚約の話、どう思う?」
「昨日、冗談で話していたから驚いたわ。」
やっぱり冗談だった…
「私も前例がないからあり得ないと思っていたわ。」
「ミリムはアダム殿下…どうなの?」
「うーん…メイにフラレて間もないのに決断するのかわからないけど、断る理由が見つからないのよね。」
そう。
メイに本気じゃなかったとしたら…
少し嫌だし…
本気だったとしたら…
すぐに乗りかえられるのかしら?
私もメイの婚約者候補として接していたから、
急に気持ちを切りかえられるのか…
メイはこの話を聞いてどう思うのか…
「ミリム?」
「メイから殿下達の話を聞いていたし、とてもいい人なのはわかっているの。」
「そうね。」
「メイが選ばなかったから私ってなのかもしれないと思うと複雑なのよね?」
「どうかしら。そんなことはないんじゃないかと思うけど…」
「幼馴染だし、情で選んだ可能性もあるもの。」
「そうね…殿下も少し考えると言っているらしいからミリムも少し考えるといいわ。」
「えぇ、そうするわ。」
自室に戻ってゆっくり考える事に。
メイもこんな風に考えていたのかしらね。
貴族の婚約は両親が決める。
自分で決めることはほぼない。
だから自分に決定権のある婚約なんて考えもしなかったわ。
意外と考えるのって難しいものね。
嫌なわけじゃない。
でも殿下は幼馴染だから、
気心のしれた友人と結婚は踏み込みづらい…
それにメイとは違って、婚約をしたら1年待たずに結婚することになる。
色々と考えると答えがなかなか出せない。
はぁ…
友人が結婚相手になると友人が減るのよ?
それも迷う原因よね…
私達も殿下達も友人はなかなか作れないから。
もう少し考えましょう。
殿下の答えを聞くまで。