なんとなく予想をしていた通りの話
【第一王子 アダム】
「殿下。ミリムから誰かいい情報はありましたか?」
「全くなかったな。ミリム嬢の友人も親がひと癖もふた癖もあるらしい。」
「あー…まぁ、そうでしょうね。私達も国内では諦めましたから。」
「アークならまだ探せるのでは?」
アークは私達の4つ下だからメイリンより4歳下までは対象になるだろう。
「無理でしょうね?10歳年下はメイだから許せる年齢差だと思います。」
それもそうか…
メイリンは10歳にしてはかなり大人びていたからな…
「どうするんですか?他国の姫に問題があるなら他国の侯爵まで広げますか?」
「あぁ、そうだな。本当はまだ探す気分ではないのだが。」
「…メイが殿下を選んでくれてたらと、少し思ってしまいますね。」
「何を今さら…それに義妹だと思うと余計に可愛く見える。」
「ははっ、理解してくれて嬉しいですよ。」
コールマン公爵家は本当にメイリンが可愛いのだな。
王家ではあまり家族が揃うことはない。
執務もあるし、住む部屋も離れている。
ラルフも私の部屋の下に部屋がある。
正直メイリンの事がなければあまり接点がなかった。
仲は悪くないが、一部の者達 がラルフを王にすると息巻いていると聞いた。
ラルフは王に興味がなく、今はメイリンしか興味がない。
公務は貧しい者達の生活を改善したいと言っているようだ。
どうやら、この国の治安を更に良くしたいようだ。
メイリンが攫われた時に他国の平民の状況を聞いたらしく、
お詫びに何か欲しい物を聞かれた時にもっと治安のいい国にして欲しいと言った。
それを聞いたラルフは自分の国で何か出来ることがないかと模索しているらしい。
私も賛成だ。
だが、私は手を出すつもりはない。
私は王位継承者だ。
一部だけを良くすればいいわけではない。
国の安定は王としての義務だと考えている。
ラルフが平民達の事を考えているなら私は貴族達の事を考えて平等にすべき事だと思うからだ。
貧富の差はどうしても出来る。
平民はもちろん、貴族にもある。
子爵、男爵、伯爵、侯爵、公爵。
階級によってそれぞれ抱える問題がある。
領地の中での税収も。
あー…
今はそれどころではない。
私が婚約を決めなければ、
ラルフとメイリンの婚約式が出来ないのだから。
なぜ夫はひとりなのか…
複数ならメイリンと婚約が可能だったのに。
「殿下。陛下がお呼びだそうですよ。」
「父上が?」
何か問題があったのか?
「わかった。」
片付けをして父上の執務室に向かった。
「ジャン。なんの話だと思う?」
「婚約の話でしょうね。」
「やっぱりそう思うか…?」
「執務に関することは問題なく行なっていますし、私生活に関する事ならそれ以外ないですから。」
「あー…」
「とりあえず、行きましょう。」
「そうだな。」
他の側近に執務を進める指示をして、
ジャンを連れて向かった。
「アダムです。」
「あぁ、入りなさい。」
「はい、失礼します。」
中に入るとコールマン公爵が苦い顔をして控えていた。
「お待たせしてすいません。」
「構わないよ。とりあえず座りなさい。」
「はい。」
お茶の準備をさせて人払いをさせていた。
やっぱり婚約の件か。
「婚約の件が噂になってしまってすまなかったな。」
「はい。当分の間はないと話をしましたので、このような噂が出ると思いませんでした。」
「まぁ…先日の情報漏洩が問題なのだが。しかし、早めに決めなければならないのは事実だ。」
だろうな。
「実はコルン王国から援助はいらない代わりに第三王女を差し出したいと申し出があった。」
「お断りしてください。」
あんな国との繋がりはお断りだ。
どれだけ大変だったか…
「そうだな。私も断りたいが、その前に確認をしたかったのだ。」
「ありがとうございます。あの国との繋がりを勝手に決められるのはごめんですから。」
「私も許す気はありません。」
コールマン公爵も賛同してくれた。
「私もメイを危険な目にあわせた国など許せません。」
よし。
ジャンも賛同してくれた。
「そうか、わかった。では断る事にしよう。」
「お話はそれだけですか?それだけなら執務に戻ります。」
「いや、婚約に関していくつか話が来ている。」
サルサ王国の18歳の第三王女、ラシード王国の22歳の第二王女。
ラシード王国の17才の公爵令嬢などから申し出があったらしい。
どの国も小国であまり裕福ではない国だ。
サルサは寒冷地で、ラシードは砂の多い砂漠地帯。
明らかに援助目当てだな。
「気づいたか…援助目的なのは間違いない。」
「そうですね。」
「そこで…ダニエルにミリム嬢をアダムと婚約して欲しいと相談した。」
「…は?」
何を言っているのだ?
王家に姉妹で輿入れなど前例がない。
それにミリムには以前断られた。
今更何を言っている?
コールマン公爵はどう答えたのだ?
「コールマン公爵はどう思っている?」
コールマン公爵は、あまり乗り気ではないのが見てとれた。
「はい。納得はし難い。そもそも前例がないし、なぜ私の娘達をふたりも輿入れさせなければならないのか…」
やはり…
「ミリム嬢はメイリン嬢には及ばないがとても賢い。それに、アダムの幼馴染だ。メイリン嬢と協力してアダムの支えとなってくれると思うのだ。」
「私の娘達以上の令嬢がいないのは理解しています。ですが…」
「ダニエル。お前の気持ちは理解しているつもりだ。だが、ミリム嬢にもアダム以上の相手が出てきていないだろう?」
そうなのか?
「まぁ…それはそうですが。」
「ジャンはどう思う?」
ジャンを見るとやはり納得はしていないようだ。
「他国の王子や令息の釣書は父上とかなり見てきましたし、この国の者達の釣書を含めて吟味していると…」
「そうだな…」
「ミリム嬢の輿入れが決まるのであれば、王城にもうひとつ離宮を作ってコールマン家に与えようと思う。」
「陛下?」
「もちろん、領地のこともある。領地に関してはダニエルが任せられる者達を補佐に管理を任せてもよい。」
「陛下。コールマン家という事は私達もそこに居を移すのでしょうか?」
「当然だ。ジャンもアークも側近だろう?ジャンは将来宰相となる。ダニエルが引退するまではコールマン家は離宮に居を移してもらうつもりだ。」
ジャンもコールマン公爵も離宮を構える事に驚いている。
「それに、アダムに輿入れするメリットは2つある。」
メリット?
「陛下…一応聞きましょう。」
「ひとつはメイリン嬢が寂しい想いをしなくてすむ。コールマン家はメイリン嬢を守るために外に出さないようにしてきただろう?」
「そうですね。メイは王家の血筋を疑いようがない先祖返りではないかと思いましたから。」
「先祖返りですか?」
「はい。王家の姫がコールマン家に降嫁したのはご存じですか?」
「もちろん、知っている。」
「その姫はメイリン嬢と同じ髪色と瞳の色だったそうだ。」
王家の血筋の事は知っている。
似ているというのも聞いていた。
もしも先祖返りだとして、こんなに守る必要があったのか?
「姫は光属性で治癒の力が強かったのです。おかげでコールマン家は病気にかかった記録がありません。」
「…父上。初耳なんですが?」
「ジャンにもアークにもミリムにも話していないからな。」
それは…
「流行り病も?」
「はい。ですから、コールマン家は長命なのです。」
「最初はその先祖返りだと思われるメイリン嬢をお前達の后にと思っていた。」
「私は反対しましたが、国の為にはメイの輿入れは望ましい事はわかっていました。」
「だからこそ、メイリン嬢もミリム嬢も迎え入れようと思っていた。」
「陛下。2つ目のメリットはなんでしょうか?」
ジャンは目を瞑って話を聞いている。
「ミリム嬢を他国にやらなくてすむことだ。アダム達に届く令嬢達や姫達の釣書を見てわかるようにミリム嬢とメイリン嬢以上の令嬢がいない。」
「…メリットがある事はわかっていますが…」
コールマン公爵は悔しそうにしている。
「ですが父上。私がミリム嬢に断られた事があったでしょう?」
「もちろん知っている。あの時はミリム嬢がめんどくさがって全て断っていたそうだ。」
全て断っていたのか…
「陛下。メリットは理解したのですが、殿下の気持ちはどうなのですか?」
私の気持ち?
「殿下はメイを婚約者にと思っていたでしょう?今更ミリムを望みますか?」
私がミリムを望むかどうかを聞いているのか?
「…少し考えさせてください。」
急に聞かれても…
そう言われる可能性は考えていたが、
実際に言われてみるとすぐに答えが出ない。
それにミリムはどうなのだろうか?
確かに10歳のメイリンを見るまではミリムが一番美しいと思っていたが…
確かにミリムが10歳の時に一番婚約者として望ましいと思っていた…
だが、その後はどうだっただろうか?
「そうだな。考えてみてくれ。」
「陛下、ミリムが断ったらどうするんですか?」
「まぁ…でも落とすがな?」
自信があるのか?
「とりあえず、執務に戻りますよ?」
「そうですね。新しい側近達の様子も気になりますから。」
「あぁ、時間をとってすまなかった。」
部屋を出て息をついた。
「…殿下。メリットと私の意見は別として、殿下の気持ちを整理してください。」
「…わかった。」
それにしても、メイリンを輿入れをする理由が賢くて美しくて可愛らしい以外の理由が…
「ジャン、あとで図書館から王家の文献を全て持ってきてくれ。」
「わかりました…けど、血筋で考えられるのは許しがたいのですが?」
「あぁ、もちろんわかっている。メイリンの前に婚約者としてミリムを考えた事もあるしな。文献を見て王家の血筋に関して知りたいだけだ。」
「…ミリムを考えたのは10年近く前ですよね?」
「そうだな…」
「しばらく凹んでたよね?」
「うっ…よく覚えているな?」
「あれだけ愚痴られたらさすがに覚えてるよ。」
そうか…
そういえばそうだったな。
「まぁ…ちゃんと考えてくれたらいいよ。」
ジャンも恐らく可能性を考えていたのだろう。
溜息が聞こえていたからな。
執務室に戻って、ジャンは側近達の仕事を確認していた。
出来る側近だな…
将来、ジャンは宰相になる…
本当に有能な一族だな…
元々夫人は家庭教師だったらしい。
つまり、有能な一族に有能な嫁が加わったのだ。
「殿下。ちゃんと考えてとは言いましたが、仕事は仕事ですからね。」
「あ…そうだな。すまん。」
側近達はいるが、側近達は執務室の中に壁を入れて必要な時以外は私と話をしないようにした。
もちろん情報漏洩しないようにだ。
必要な時はジャンが内容を聞いてから入るようにしたのだ。
さて、早めに執務を終えて自室でしっかりと考えよう。