愚痴をこぼす第一王子
【第一王子 アダム】
ようやくメイリンの事件が解決した。
婚約は叶わなかったが、可愛い義妹が出来て嬉しいことは嬉しい。
尋問には私も立ち会ったが、かなり頭のおかしい令嬢が首謀者だった。
情報漏洩はラルフの側近だったが、幼馴染の身柄を拘束されていた…
拘束ではないか。
ラルフの幼馴染が脅されていたようだ。
それを助けるために情報を流していた。
私も大事な人が脅されていたら助けようとするだろうから気持ちはわかる気がする。
この事件の関係者は思った以上に多くて、
首謀者の令嬢は処刑となることが決まった。
それ以外は連座となるのだが…
身分剥奪と国外追放にするようだ。
王家や政治に関する情報漏洩はかなり深刻だ。
そのために城内や離宮内、城に出入りする者達の身辺調査が行われた。
思った以上に多くが出入りを禁じられて職を失ったそうだ。
自分の側近と護衛にも…
貴族として王城に勤務するものは多くいる。
どうしても外せない人物がいるが、そういった人物は見張りをつけることになった。
もしもひとりで行動しようものなら出入りを禁じられて、担当を変更させるらしい。
「殿下!」
「は?どうした?」
「どうしたじゃないですよ。さっきから呼んでたんですが?」
「そうか、すまない。」
「何を考えていたんですか?」
「あぁ、今回の事件についてのことだ。」
「なるほど。この度はたくさんご尽力いただき、ありがとうございました。」
「構わないよ。私の義妹になるんだから。」
「まだですからね?」
「わかっているが、義妹となると思わず可愛がりたくて仕方がないのだ。許せ。」
「妹はいいものでしょう?」
「本当だな。」
昔からジャンを含めてコールマン家は過保護すぎると言っていたが、
今となっては理解できる。
メイリンは本当に美しい容貌に、可愛らしい性格と文武両道の逸材だ。
誰もが魅了されるのもわかるのだ。
実際に私自身も魅了されていたからな。
「とうとう離宮にラルフ殿下の部屋が準備されたみたいです。」
あぁ。
そうだった。
王家の婚約者は身柄の安全のために離宮に住まわせる。
離宮には婚約者の王子や王の部屋が準備されて、
愛を深めたりするのだ。
本来なら成人する3ヶ月前からなのだが、
メイリンだけは特例となった。
あの美貌で周囲が放っておかないからだ。
メイリンは王家に嫁ぐことが1歳で決められていたそうだ。
2歳の時に婚約者にという話は父上から聞いていたが、
婚約が決まった時までは知らなかった。
父上がメイリンに初めて会った時にあまりにも可愛くて、
養女にするか后として迎え入れるか悩んだそうだ。
もちろんコールマン公爵は大反対したが、貴族は自分で結婚相手を選べることは少ない。
「殿下もそろそろ婚約者を本気で選ばなければならないようです。だいぶ情報を流されてしまいましたからね。」
「そうだな。」
隣国の第二王女を勧められているのだが…
「メイリンの後に選ぶとなるとどうしても比較してしまうな…」
「比較したら全てが劣るから結婚できないと思うよ?兄である私もアークもメイが結婚するまでは結婚しないと決めてますから。」
まぁ…
理解できるな。
今まではメイリンが候補だったから許されていたので勧められることはほとんどなかった。
だが、メイリンの婚約者がラルフに決まったから后探しをしなければならない。
「気が重いな。」
「私もですよ。」
メイリンなら賢いから公務も執務もきっと…
私が王になったらジャンは宰相となる。
お互いにパートナー探しは慎重にならなければならない。
「ジャン、申し訳ないのだが3日後にミリム嬢と会う時間を作ってくれないか?」
「ミリムですか?理由は?」
「ミリム嬢の友人で誰かいないか相談をしたい。」
「確かにミリムの友人ならいく分かましな令嬢がいるかもしれませんね。」
「ミリム嬢なら私やジャン達の気持ちはわかってくれるからな。」
「わかりました、そういうことなら。」
ただ勧められるだけだと何を考えているかわからない令嬢に決められてしまうかもしれない。
政治にもかかわってくるし。
当然野心のない令嬢を選ぶつもりだ。
「私も殿下と同じで探さなくてはいけないですが…」
「どうするか決めているのか?」
「他国の姫か令嬢にしますよ。この国の令嬢は野心家が多くて。」
「確かにそうだな。」
本当に国内では難しいかもしれない。
野心がなくてメイリンほどの美貌ではなくても器量良しを選びたい。
優しくて正義感が強い令嬢がいればいいが…
コールマン侯爵はメイリンを初めて婚約者候補にする時に陛下から命令されたという。
婚約者にするか養女にするかを選べと言われたらしい。
父上は執務などの仕事では強く命令をする事はなかった。
どうしても納得しないから王命にしたそうだ。
2歳の時に初めて勧められた時は幼児と婚約なんておかしいと断った。
コールマン公爵はまだ2歳なんだから早すぎると言っていた。
確かに養女とすれば娘に出来るが、後に政略結婚することになる。
それでは他国に嫁がせなくてはならない。
それは許せない。
だから婚約者候補になったらしい。
今となればよく考えたなと思う。
「さて、仕事量は少なくなったのですから、早く終わらせましょう。」
「そうだな。」
仕事量が減ったのはラルフに仕事が回せるようになったからだ。
離宮に部屋をつくったから仕事量を増やして離宮で一緒の時間を減らす計画らしい。
「コールマン公爵らしいな。」
「まぁ…私も賛成しましたけどね。」
「まったく…まぁ、今となっては理解できるが。」
「あはは。理解者が増えて良かったですよ。」
はぁ…
仕事が減ったとは思うが、そもそもの仕事が多かったから忙しい事には変わらないのだが。
「もう少し仕事が減らせないか?」
「あー…父上に相談してみます。」
「頼む。」
「まぁ…ラルフ殿下も卒業したので今回増やしましたけど、分担して同じだけの仕事量にさせてもらいましょう。」
そうか。
そもそも執務は同じ量をこなす事になっている。
成人してから執務を始めるし、卒業してから本来やるべき仕事の分量に変更する。
変更していないから仕事量が多いのだ。
なんとか仕事を終えると夕食の時間になっていた。
ジャンはメイリンと夕食を一緒にとるらしく、さっき急いで出ていった。
私も一緒に食べたかったな。
今度ジャン達と夕食をとろう。
今日はミリム嬢に相談をする。
最低限の仕事を済ませて時間の調整をしてもらったのだ。
「殿下、そろそろミリムが到着すると思います。」
「そうか。」
仕度をしてミリム嬢を迎えに行った。
「殿下、ごきげんよう。」
「ミリム嬢。今日は来てくれてありがとう。今日も綺麗だね。」
「ふふっ、ありがとう。お兄様から話は聞きましたよ。」
「そうか、すまないな。では、行こうか。」
「はい。」
本当にミリム嬢も綺麗だな。
なぜこんなにもコールマン公爵家は美しい一家なのだ?
コールマン公爵も夫人もとても美しくて人気がある。
既婚者なのにな?
「さて、殿下。婚約者を探すということですけど、正直な所で私の周囲も野心家だらけなので妥協点がないと…」
「妥協点か…ミリム嬢はどうなんだ?」
「あー…私も同じで野心家は嫌ですね。だから決められないんです。」
「そうだよな…」
「まぁ、殿下ほどは大変ではないと思うけど。」
「そうだな…将来王妃になるわけだから慎重にならざるを得ない。」
「そうですわね。国外の王家ではいなかったのですか?」
「あー…隣国の姫は結婚しているし、先日メイリンを攫った王家は論外だろ?姫は少ないし、かと言って侯爵令嬢も野心家がほとんどだったんだ。」
「殿下。言葉遣いが…」
「あー…、ミリムもたまにはいいぞ?」
ミリム嬢はふっと力を抜き始めた。
「それなら、いいでしょう。で、実際はどんな状況?」
「あはは。メイリンとラルフの婚約式を延期して、私の婚約者探しを早急にしたいそうだ。」
「延期?早めたり延期したり随分と振り回すわね?」
「コールマン公爵がだいぶ抑えてくれてるが、私の年齢では急がなければと周囲がね。」
「はぁ?いい人がいれば決まるけどいないじゃない。無理に選んでも問題よ?」
「そうなんだ。それなりにいい令嬢はいるか?」
「そうねぇ…でも親に逆らえない娘なのよね。」
「親がね…」
「誰だ?」
「ローレンス伯爵よ。」
「あー…それは遠慮したい。」
「でしょ?気が弱いからコールマン公爵家と王家の情報を聞き出すように言われていたの。」
「よく知ってるな?」
「パーティでやたらと聞いてくるから調べてもらって、ジェシカ嬢にお茶会で確認したもの。」
「よく喋ったな?」
「ジェシカ嬢は本当に気が弱くて、親に暴力を受けていたのよ。お腹や腰や太ももとか見えない所にね。」
「それじゃあ逆らえなくても仕方がないな。」
「助けてあげたくても現場を押さえないと無理だし。」
「確かにな。それにローレンスは以外と切れ者だからね。」
「そうそう。だから言っても問題ない情報をあげているの。」
「どんな?」
「最近婚約希望の貴族達が我が家に勝手に来ているとか、最近新しい宝石を手に入れたとか。」
「それは確かにどうでもいいが…」
「どうせお父様や陛下にお困り事はないですか?とか言って取り入ろうとしているのよ。」
「わかる気がするな…」
「そうそう。お兄様やアークの婚約者のことまで探り始めたみたい。」
「はぁ…なかなかいないものだな?ミリムも婚約の話は多いのだろう?」
「多くて困るわ。うちの財力と権力をあてにしようとしてるから腹が立つのよ。」
「そっちもそうか。」
「お兄様達のことも聞いているでしょ?」
「たまにな?」
「メイみたいに権力とかを気にせずに選べる相手がいないから他国の情報をお父様が調べさせているわ。」
「そうか…」
「役に立たなくてごめんなさい。」
「いや、相談出来ただけでも良かったよ。」
「私もなかなかこういう話ができないから、楽しいわ。」
ミリムは本当に裏表がないから私も本音が話せる。
その後はメイリンの話やパーティの話をして時間を過ごした。
「じゃあ、殿下。私はそろそろ帰りますわね。」
「ああ。今日はありがとう。いい気晴らしになったよ。」
「ふふっ、私もですわ。」
ミリムは近衛兵に送らせた。
見送りをしようと思ったが、城内に変な噂を流されるのは困るからな。
はぁ…
どうしたものか。
とりあえず、自室に戻って釣書を見ることにした。