第二王子と一緒に癒やされた兄
【兄 アーク】
メイからパーティで友人から聞いたという噂の調査を始めたが、
まだ全然進んでいない。
もう10日近く経過している。
女性の噂は姉上と母上にお茶会やパーティで聞き込みをしてもらっているが…
メイの悪い噂はまだそんなに広くは伝わっていないものの、
殿下達と婚約をしたかったという令嬢内で噂があるという。
王子妃、王妃の座を狙う令嬢はとにかく性格が悪い!
他人を貶めることしか考えているんじゃないか?
しかも、保険の為に兄上や私にも近づこうとするのだ。
とにかく急がないと婚約式を延期しなければならない。
「殿下、そろそろ机上仕事終わりましたか?」
「殿下?」
疲れているからか集中力がだいぶ切れているな。
「殿下!」
駄目だな。
このまま仕事させても効率が悪い。
メイに宛てて殿下と午後にお茶をして欲しいと手紙を書いた。
「殿下。午後にメイとお茶をする時間を作るので少し休んでください。」
殿下の顔が少し綻んだ。
相変わらず、単純でわかりやすいな。
午後までに必要な仕事を中心に進めた。
午後に殿下を離宮に送り、殿下の残りの仕事が進めやすいように準備をした。
少し時間が経った頃にメイから手紙が届いた。
どうやら、離宮の客室で殿下を休ませているらしい。
それは良くない!
婚約していないのに離宮に連れ込んだと言われてしまう。
慌てて離宮に向かった。
「メイ!お茶をして欲しいと言ったけど、これはどういう状況かな?」
お茶をしに来て様子がおかしかったこと。
なんだか疲れた顔をしていたこと。
弱音を吐いていたこと。
「調査が難航していたし、メイの悪意のある噂を聞いて精神的にやられていたんだ。」
「はい。ですから、休んで頂いているのです。」
優しすぎる…
「お兄様もだいぶお疲れですね。お兄様もこちらで休んでください。」
「しかし…」
「ラルフ様が戻らないと仕事は進まないのでしょう?」
その通りだ。
「じゃあ、私も休ませてもらおうかな。」
「はい!」
メイが準備をしてくれたから横になった。
すると、メイがバイオリンの演奏に合わせて歌い始めた。
なんて優しい歌声なんだ。
とても心地が良くて、聞いているだけで心が休まる…
歌声を聴いたのは初めてだ。
気がついたら日暮れ近くだった。
「お兄様、おはようございます。」
「んーっ、おはよう。すまない、随分と眠ってしまったね。」
ラルフ殿下も今起こされたようだ。
疲れがとれてすっきりした気がする。
「ありがとう、だいぶ疲れがとれたよ。」
「いえ、私に出来るのはこのくらいですから。」
「とてもありがたいよ。」
そういえば…
「メイの友達の事を教えてくれるかい?」
噂の事は聞いたが、友達の事は聞いていなかったな?
メイから友達からある令嬢に注意するように言われたそうだ。
聞いた気がするな…?
「その令嬢なら私も知っているな。」
殿下と顔を見合わせて、その令嬢の事を思い出した。
しつこくて野心の塊のような令嬢だった。
在学中に私達兄弟と殿下達にしつこく声をかけてきていた。
もちろん、あまりいい気がしなくてひたすら煙に巻いていたのだ。
あの令嬢…何か知っているな…
というか首謀者ではないだろうか?
「ありがとう、メイ。とても参考になったよ。」
礼を言って殿下と共に離宮を後にした。
「殿下、まだ少し仕事が残っているのでさっさと終わらせて調査を始めましょう?」
殿下もだいぶすっきりしたようで、顔色も良くなっていた。
「そうだな。あー…今日は仕事を終えたら調査せずに休もう。」
「え?」
珍しい…
「せっかく休ませてもらったのだ。ヒントになる事を聞いたし、明日からしっかりと調査をしよう。」
休ませてもらった余韻を残したいんだな。
「良いですね。明日から調査が進みそうですし。」
そうは言っても父上と兄上に途中経過を報告しなければ。
殿下と共に執務室に急いだ。
今日のやるべき仕事を終え、明日の仕事の準備をして父上と兄上に報告に向かった。
タイミング良く、アダム殿下の執務室に父上も来ていた。
メイに聞いた話を報告。
「それは有益な話だな。全然覚えていなかったが、そんな令嬢がいたな?」
「はい。父上がきっぱりと断ってくれてましたが、在学中もしつこくて。」
「私もだ。学年が違うのに、わざわざ私の教室にランチの誘いに来て迷惑していた。」
「その令嬢周辺から調べたほうが良さそうですね。では明日から調査します。」
「そうか…わかった。ジャンも今日は早めに休んで明日から一気に進めていこう。」
兄上もアダム殿下も今日は休もうということになった。
「そういえば、内…あ。」
「そちらは明日メイとのお茶の席で話をしよう。」
「わかりました、すいません。」
「じゃあ、私は先に帰ります。」
「あぁ。」
屋敷に先に帰って自室に入った。
あー…
なんだか久しぶりにすっきりしている。
メイのおかげだな。
しかし…あの令嬢は諦めていなかったのか?
親も怪しいな?
最近金回りがいいと聞いたことがあった気がする。
交友関係は…
気がつくと朝になっていた。
こんなにすっきりした朝は久しぶりだ。
仕度をして、リビングに向かうと姉上がもう食事を始める所だった。
「アーク、おはよう。だいぶ疲れていたのね?」
「おはよう、姉上。噂の調査がなかなか難航していてね。」
「そうなのね…」
「大丈夫。なんとなく怪しい人物がいるから今日から調査するよ。」
「怪しい人物…えーっと…パーティのあの派手な令嬢がいたじゃない?」
「メイを睨んでた令嬢?」
「そうそう。彼女は別のパーティで随分と殿下達のことを話していたのよ。」
「え?」
「彼女は殿下達と仲が良いと言っていたの。」
「寧ろ、嫌われていると思うよ。」
「でしょうね…ただ気になるのは彼女のドレスなのよ。」
「ドレス?」
「彼女随分と派手になったと思わない?昔はもっと安っぽいドレスだったのに。」
「やっぱり金回りがいいって話は本当かもしれないね。」
まぁ…学院の頃から勝手に私達や殿下達と仲が良いと言っていたが、相手にしなかった。
周囲は彼女の取り巻きを信じたりはしなかったが、一部は彼女を持ち上げていた気がする。
父親をまず調べよう。
「午後にはお茶出来るの?」
「もちろん行くよ。」
「その話は後でしましょう。仕事に遅れるわ。」
「そうだね。」
後で話すことにして食事を済ませて仕事に向かった。
執務室に入ると殿下が書類の束を見ていた。
「殿下、おはようございます。何かあったのですか?」
「あぁ…例の侯爵から令嬢の婚約をして欲しいと手紙が来ていた気がしたんだ。」
「え、いつ?」
「たぶん半年近く前だ。」
「半年近く前…それなら保管してあるはずだな。どこから出した?」
「そこの書棚だ。」
「わかりました。じゃあ、片づけておくから今日の仕事進めててください。」
書棚に戻しながら確認をした。
これか…
献上品の目録だな。
中にまだ入っているな?
中に手紙が入っていた。
…へぇ?
税収が厳しいと言っているのに献上品だと?
手紙には殿下と婚約をしたら宝飾品を献上するから、
妃の経費が安く出来ると書いてある。
真っ黒じゃないか。
他にもあるかもしれないから、書棚の整理をしながら侯爵の手紙を探した。
定期的に送ってきているのか?
毎月何通か送られて来ている。
「あったか?」
「あー…殿下。中身は必ず確認してくださいよ。」
「うっ…その侯爵は一度話をすると離れなくて困るんだ。」
「なるほど。これは私が預かりますよ。」
「…そうか…任せた。」
ここで詳細は話せない。
まだ内通者がわからないからな。
疑いたくはないが、側近のうちの誰かだと思えてきたが、証拠も何もないし本当に勘だ。
ラルフ殿下かアダム殿下、どちらかの側近だろう…
そうじゃなければ婚約が決まった事が知られるはずがない。
他の側近達は私達よりも遅く出勤するからそろそろ話を控えなければならない。
「そういえば、午後は家族でお茶をするんだったな?」
「羨ましそうな顔しないでもらえますか?」
「羨ましいに決まっているだろう。」
「まぁ…そうでしょうね?」
他の側近達が集まり始めた。
「じゃあ、今日はこの分をお願いします。」
「それだけか?」
「増やしますか?最近疲れてましたからね。ある程度の調整をしてあります。」
「はぁ…助かる。」
昨日メイに休ませてもらったから、少しは休めただろうけど…
さっさと仕事に取りかかろう。
「殿下、じゃあ私は行ってくるのでちゃんと仕事しておいてくださいよ。」
「わかっている。さっさと行け。」
「はい、では。」
他の側近達には家族でメイとお茶をすると言ってある。
例の手紙や書類は殿下の許可をもらって側近達が来る前に鞄に入れておいた。
たぶん、父上に見せれば侯爵に関しての情報が聞けるはずだ。
父上は内通者や噂の情報を集められただろうか?