第一王子と悪役令嬢の姉
【第一王子 アダム】
ラルフとメイリンの婚約式まであと2ヶ月
次は私の婚約者をということで周囲が盛り上がっている
正直なところ婚約者の公表はまだ控えているはずなのだが…
もしくはどちらかの王子と婚約をということなのかもしれない。
そんなにすぐ次をなんて考えるのもどうなのだ?
本当はメイリンだって考える時間はあと2年以上あったというのに…
まぁ、ラルフがうっかり発言をしたことで悪意のある噂が流れてしまったせいなのだが。
別に責めるつもりはないがメイリンと私はとばっちりだ。
国外の王家の姫や、国内の令嬢たちがこぞって婚約を希望しているらしい。
アークやジャンにも婚約の申込みは来ているそうだが、
同じ令嬢たちや国外の姫から婚約の申込みがあるらしい。
ジャンやアークにも申込みをして被っている令嬢はすべて断ることになった。
それはそうだろう。
王家やコールマン公爵家なら誰でも構わないということだ。
もちろんミリムにも同じように婚約の話があるそうで、
中にはメイリンかミリムをというふざけた家もあるという。
そんな事になっているから父上に当分の間は考えたくないということを伝えたところだ。
父上や私達の側近が箝口令を無視して周囲に漏らしたという可能性があり、こっそりと調査をすることになった。。
その婚約の話の噂の中にミリムと婚約したのではないかというものがあったからコールマン公爵は自分で調べるという。
今まで姉妹で王家に嫁ぐ事例がない。
噂や婚約の情報漏洩に関して私とラルフ、ジャンとアーク、コールマン公爵と6人で人払いをして決めた。
もちろん箝口令を無視して情報漏洩した者は爵位の剥奪となる。
確実にコールマン公爵がな…
今回の調査にコールマン公爵とジャンとアークに動いてもらう。
普段の仕事も行いながらじゃないと調査がバレてしまう手前、3人には酷な話なのだが…
非常に申し訳ない。
女性にお願いするのも申し訳ないが、ミリムと夫人にもお茶会とパーティでの情報収集をしてもらうことになった。
今日はジャンとアークはこの後休みになった。
暫くの間は休みが無くなるからな。
私はこの後執務室で通常業務をこなさなければならない。
非常に憂鬱だ。
執務室で業務中に手紙が届いた。
『殿下。コールマン公爵令嬢からの手紙が届いております。』
ん?
メイリンではないのか?
ーアダム殿下へ
お父様より今回の噂話を聞きました。
そのために調査を行うそうですね。
私やお母様にもお茶会での話に気をつけて、
何かあれば教えてほしいということであっていますか?
その辺に関することを聞きたいので、
明日の午後にメイリンと一緒にお茶をしませんか?
お時間が取れるようであればで構いません。
メイリンとはお茶をする事になっているので、
都合がつくと良いのですが…
お返事をお待ちしております。
ミリム・コールマン
なるほど。
確かに頼むからには詳細を話しておくことも必要だな。
すぐに承諾の返事を出した。
そのお茶会にはラルフとジャンとアークにも参加させよう。
3人にもお茶会の招待も連絡した。
そうと決まれば明日と明後日の執務を進めておこう。
もちろん当日の急ぎの案件はその場で行わなければならないが。
私が気になるところは、メイリンのことだ。
婚約者探しが始まるということに申し訳なさそうにしていたから、
責任を感じてしまわないだろうか?
どうしてもミリムとふたりでお茶をすると婚約したと思われてしまう。
そのために兄弟姉妹を巻き込むことになってしまった。
はぁ…
気が重いが、なんとか早く解決しなければ。
『殿下、お疲れですか?』
「あぁ…少しな。」
『では、お茶の準備をしてきます。』
「すまないが、少し甘めのものを頼む。」
『承知しました。』
少ししてお茶の準備をしていたところ、
メイリンの侍女長がプリンとクッキーを差し入れしてくれた。
通常なら毒見が必要だが、
メイリンが自ら作ってくれたらしい。
もちろん、疑われないように側近たちの分まで用意してくれていた。
メイリンの手作りを他の者達に食べさせるのは不満なのだが、仕方がない。
海から戻ってから、ミリムとメイリンからよく手紙が届く。
仕事漬けデートすることがなくなった私にとっては唯一の癒やしだ。
コールマン公爵は不満なようだが。
執務を終えて自室に戻った。
私は迂闊な発言はしないが、ラルフは大丈夫だろうか?
疲れて眠ってしまっていたようで食事の時間になっていた。
『殿下。お食事はどうされますか?食堂でラルフ殿下とご一緒にされますか?』
「あぁ…じゃあ食堂に行く。」
『承知しました。』
私の執事は物心ついた頃から使えている。
もちろん口が固く、王家に忠誠をしている優秀な執事だ。
メイリンの事とメイリンとの婚約の話も、色々な話も知っている人物だ。
さて、食堂でラルフと情報交換をしながら食事をしよう。
【姉 ミリム】
「お父様、アダム殿下の婚約がなくなったという噂があるとはどういうことですか?」
「そのままだ。誰かがその話を漏らしてしまったようだな。」
また、メイに危険はないのかしら?
巻き込まれたらどうしましょう?
「ミリム。どちらかというと今度はミリムが巻き込まれる可能性が出てきた。」
私?
「それはどうしてですか?」
「メイがラルフ殿下と婚約したことで、ミリムが婚約者候補じゃないかと噂になっている。」
「私がですか?」
「そうだ。」
なぜそんな噂になったのかしら?
私はメイの姉なのよ?
「そんな事はありえないでしょうに…」
「本当に。今まで姉妹で王家に嫁ぐなど聞いたことがない。」
「それでお父様は私に何か言いたいことがあるのでは?」
「あぁ…私の子供達はなぜこんなに優秀なのだ。」
やっぱり何かあるのね?
お父様はお母様にも先程話をしていたようだし、
ひょっとしたら同じ話なのかしら。
「その通りだ。ミリムに頼みがある。」
頼み?
珍しいわね。
「我が家がその話の出処の調査をすることになった。ミリム達にも協力を頼みたい。」
調査を助けるということね?
「それは構いませんけど、お力になれるかしら?」
「もちろんだ。シエルにも頼んでいるのだが、極力お茶会やパーティに参加して欲しい。」
えー…
面倒くさいお願いね…
「そう嫌な顔をしないでくれ。」
「あら、バレましたか?」
「顔に面倒くさいと書いてあるよ。」
「ふふっ、その通りです。メイが離宮に入ってから婚約の申込みをその場でされるから面倒くさいのよ。」
「シエルも同じことを言っていた。」
「そうでしょうね?私よりお母様のほうが大変よね。」
お兄様やアークの婚約の申込みもされると聞いたもの。
3倍よ?
それにまだメイを諦めきれない家もあるみたいだし。
「あと、もうひとつ頼みたいことがある。」
「まだ面倒くさいことがあるの?」
「すまないな。」
「私も領地経営とお茶会くらいで特に忙しくないからいいですよ」
「ありがとう。数日に一度離宮に行ってメイと殿下達とジャンとアークとお茶会をして情報交換をして来て欲しい。」
「ぜひお引き受けいたします!」
ふふっ、たくさんメイと会えるのだから断る理由がないわ!
なんなら毎日だって行くわよ。
「あー…嬉しそうだな?」
「ふふっ、わかりますか?」
「メイと違ってミリムは顔に出やすいからな。」
「気をつけるわ。」
「2人には近衛兵を護衛につけるよ。何かあっては困るからね」
「わかりました。」
「殿下達主催のパーティも定期的に行う。その時はアダム殿下のパートナーだ。」
「え、噂が本当に見えてしまうじゃない?」
「陛下からの頼みなんだよ。まさかとは思うが、陛下やアダム殿下には警戒してくれよ?」
「わかりました。」
「ちなみにラルフ殿下とメイリンの参加も決まった。」
「いいのですか?」
まだ公表前だから参加はしないと思っていたけど…
「婚約式ももうすぐだ。メイリンにもお茶会の参加をさせておきたい。」
「そうなの…心配だわ。」
「だからミリムにはアダム殿下のパートナーなんだ。」
「まだ決まっていないかもしれないと認識させるのね?」
「はぁ…ミリムもやはり賢いな。本当にアダム殿下と婚約させられたらどうしようかな…」
「お父様、顔には出ていないけど心の声が聞こえてますよ?」
「そうか?聞かれて困ることもないがな。」
それにしても…
私とアダム殿下…?
まぁ…
鬱陶しい婚約の防波堤にはなるかしら?
急いでメイにお茶のお誘いをしてもらうように手紙を出した。
返事はすぐに戻ってきたから、アダム殿下にお茶のお誘いの手紙を出して返事を待った。
返事は割とすぐに戻ってきた。
ーミリム嬢
お茶の誘いをありがとう。
恐らく詳細は公爵から聞いていると思うのだが、
面倒くさいことを頼んですまないな。
解決したら必ず2人にも礼をするよ。
明日の午後、楽しみにしている
アダム
お礼、何がいいかしら?
メイとまたお出かけしたいとか?
まぁ、なんにしてもメイとたくさん会えるのは嬉しいわ。
今まで本当に一緒にいる時間はほとんどなかったもの。
もちろん家にはいたけど、
お母様と領地経営の仕事をしたりお茶会に行ったり…
面倒くさい頼みごとだけど、メイに会える口実が出来て嬉しいわ。
明日のドレスを選んで早めに寝ようかしら。
ここから第一王子と姉の話が入ってきます。
婚約式までの僅かな期間のお話です。