悪役令嬢の望みを叶える第一王子①
メイリンにフラレてしまった。
だが、コールマン公爵家とはそんなことで切れるものでもない。
それにメイリンは私に新しい兄として関係を続けると言っている。
そのメイリンを今日は海に連れて行くことになっている。
今日参加するかを悩んだが、
ラルフと私のどちらかがフラレるのは確定していたのだ。
それで不参加にすれば、メイリンはきっと苦しんでしまう。
だから参加することにした。
「兄上。準備出来ました。」
「そうか。」
2人で離宮に向かう。
アークとジャンは先に離宮に行っている。
そういえば、あれから眠れるようになったのだろうか?
「兄上?どうかしましたか?」
「なぜだ?」
ラルフが顔を覗き込んだ。
「いや、メイリンはちゃんと眠れるようになったか気になったのだ。」
「あー…そうですね。そう簡単にはいかないでしょう…」
「そうだな。」
離宮に着くとコールマン公爵家が揃っている。
「アダム殿下、ラルフ殿下。おはようございます。」
「本日はメイの希望で海に連れて行って頂けること、感謝いたします。」
「夫人、堅苦しいのはいい。私達がメイリンと出かけたかっただけだ。気にするな。」
「ありがとうございます。」
「アダム殿下、ラルフ殿下。ごきげんよう。」
「あぁ。ミリム嬢、おはよう。」
挨拶をしていると離宮からメイリンが出てきた。
「「メイ!」」
「お母様、お姉様!」
「メイ、体調があまり良くないと聞いていたけどもういいの?」
「はい、お母様。大丈夫です。」
「メイ、そのドレスとても可愛いわ!」
「ありがとうございます!」
口を挟む隙がなかった…
「アダム様、ラルフ様。ごきげんよう。お待たせして申し訳ございません。」
「大丈夫だ。今日も美しいよ、メイリン。」
「とても良く似合っている。」
「ありがとうございます。」
「メイ。今日もとても綺麗だよ。」
「そのドレスも似合うね。」
「殿下からもらったのかい?」
「いえ、海に連れて行ってくださると聞いて仕立てました。」
「そうか。とてもメイに似合っているね。」
「ありがとうございます!」
本当に喋る隙がないな。
それにしても…やはり美しい。
「まぁ、メイを褒めるのはその位にして出かけよう。近衛兵も準備が整ったようだ。」
「はい。」
私はメイリンとミリム嬢とラルフで馬車に乗る。
「さぁ、どうぞ。」
ミリム嬢をエスコートして馬車に乗り込んだ。
「メイとお出かけなんて初めてだわ!」
「はい。とても楽しみにしていました!」
「本当に出かけたことがなかったのか…」
聞いてはいたが、少しくらいは家族で出かけたりはしていると思っていた。
メイリンは13歳だ。
それまで一度も家族と出かけたことがないというのは可哀想だと思う。
「アダム殿下やラルフ殿下はメイとたくさん出かけているのでしょう?」
「私達は…」
デートをしていたからな…
「ふふっ、お花畑や湖に連れて行っていただきました。とても楽しかったわ!」
「まあ!羨ましいわ!」
メイリンが嬉しそうにミリム嬢に話す。
「メイリンとミリム嬢は仲がいいな?」
「当然です!こんなに美しい妹を持てて幸せだわ。」
「お姉様も私の自慢のお姉様です。」
こんなに楽しそうに話す姿にドキッとする。
幼い頃のメイリンの話を聞きながら
「メイリンはミリム嬢と兄上が仲が良い事を知らなかったのか?」
「はい。お兄様達が側近なのは知っていましたけど、仲が良いと知ったのは最近でしたから。」
「そうね、メイが生まれた時にはもうお茶会に出ていたから遊んだりはしていなかったもの。」
「そうだな。メイリンが2歳の時に私は学院に入っていたし。」
「私はアークと遊んだりはしていたが、絶対に会わせないと言われたぞ?」
「メイは殿下達に嫁にはやらないってお父様も言っていたもの。」
「あー…自慢だけして会わせないって言われた。」
「ふふっ、お父様ったら。」
公爵家はガードが堅いからな。
楽しそうに話すメイリンとミリム嬢に口元が緩む。
本当に女性というのは話が好きだな?
でもメイリンはそうではなかったか。
「それより、メイのドレス素敵よね?急にどうしたの?」
急に話が変わったな。
そういえば、見たことのないドレスだ。
「婚約して初めての外出なので…」
「決めたの!?」
「はい、ラルフ様と婚約しました。」
「メイリンは話していないのか?」
「はい。私からは話しておりません。」
「そうだったのか。」
てっきりもう知っているかと思っていた。
「え?いつ?」
「はい、数日前です。」
「兄上は知っていたのですか?」
ラルフは知らないと思っていたのか?
父上からも聞いたしな。
「メイリンから手紙をもらっていたからね。」
「そうですか…申し訳ありません。すぐに話すべきでした。」
「そう…ラルフ様と。おめでとう、メイ。」
「ありがとうございます!」
ミリム嬢が笑顔で祝いの言葉をかけた。
「じゃあ、アダム殿下はこれから大変ですわね?」
「なぜですか?」
「あー…兄上が婚約者選びを始めなければならないからね。」
「そうですよね…」
「メイリンはそんな顔をしなくていい。最初からどちらかを選べと言っていたのだから。」
「そうよ。メイが気にすることはないわ。」
「兄上…」
「それより、メイのドレスは随分と珍しいデザインね?」
話を変えてくれたのか?
こういう気遣いが出来るようになっていたのだな…
昔は自分の話したい事だけを喋るタイプだった。
「はい。他国の物語にあった挿絵のドレスが可愛かったから作っていただきました。」
「そうなのね。私は本が苦手だから挿絵なんて気にしたことがないわ。」
「メイリンは本が好きだな?飽きないのか?」
あんなに本を読んでいて、更に本を読みたいと言うのは不思議だった。
「外に出られないから本で外を知りたいのです。たくさん種類もありますし、飽きません。」
「そうか。」
それもそうか。
学院に入るまで外に出ないでいたのなら、本を読むしかやる事はない…か?
「ラルフ殿下。メイは美しいから事件に巻き込まれやすいのです。必ず守ってくださいね。」
「あぁ。当たり前だ。」
「私も義兄として守るつもりだ。」
言われなくても守りたい存在だ。
例え、婚約者ではなくても。
「アダム様…ありがとうございます。」
「メイが天才だと気づいた者達が大勢います。婚約したとしても安心出来ません。」
「お姉様…」
「公務もあるからな…」
「メイリンと一時も離れないから大丈夫だ。」
「はい。」
「メイ、何かあったら相談するのよ?」
「はい、お姉様。」
きっとメイリンは相談ができないのではないだろうか?
王城や離宮での出来事を話しているところを見たことがない。
真面目だから公表されるまでは言わない気がする。
「海は遠いのですか?」
「少し遠い。今日は野営をするからな。」
「野営…」
「メイリンは夫人とミリム嬢と同じテントだ。護衛に周囲を固めるし、私達も近くにテントを張るから安心していい。」
「そうですか。お姉様とお母様と一緒なら大丈夫です。」
婚約者だからとラルフと同じテントには出来ないし、
ミリム嬢や夫人と同じテントならゆっくりと眠れるのではないだろうか。
「メイ、眠い?」
「少し…」
「途中に休憩がある。それまで眠ってもいいぞ?」
「あら、少し隈が出来ているわ。眠れなかったの?」
「はい、目が冴えてしまって…」
「ふふっ、じゃあそのまま眠っていいわよ?」
「はい、ありがとうございます。」
やはり眠れていないのだな?
ミリム嬢にもたれて眠ってしまった。
それにしても美しい寝顔だ。
「ラルフ殿下、アダム殿下。いつもメイを助けてくれてありがとうございます。」
「あまり役にはたてなかったがな。」
「そうだな…」
「あの時に思ったのです。私には何もしてあげられないと…」
「ミリム嬢。メイリンは家族を大事にしたいと言っていた。心の支えにはなっていると思う」
メイリンは家族以外との交流が少ないからだろう。
友人は学院で出来たのだとジャンから以前聞いているが、
すぐに卒業してしまったから友人というより知り合いだと思う。
ミリム嬢がこんなに優しくなっていることに驚いた。
昔はもっと自由な令嬢という印象だったのだが…
メイリンを通して成長したのだな。
少しして休憩ポイントについた。
ミリム嬢が優しくメイリンを起こしている。
「ふふっ、おはよう。」
「…おはようございます。」
「「くっ…」」
寝起きも可愛らしい…
ぐっとくるポイントはラルフと同じらしい。
「これでは過保護になるのもわかるな」
「恥ずかしいのでそれ以上は…」
「あはは。では、ミリム嬢。あなたから手を…」
「はい、アダム殿下。」
ラルフがメイリンをエスコートするから、私はミリム嬢をエスコートすることになる。
「次はメイリン。手をどうぞ。」
「はい、ラルフ様。」
ラルフは私と違って見惚れてと固まるか悶絶してしまう。
私も悶絶する時はあるが、ラルフほどではない。
休憩の準備が整っていたから、そちらに座らせる。
「ありがとうございます、アダム殿下。」
「「「メイリン!」」」
「うわっ!?」
「はい?」
「「「アダム殿下とラルフ殿下に何かされてないか?」」」
そんなに信用がないのだろうか?
それは少し、ショックなのだが?
ラルフとコールマン公爵とアークとジャンが話している。
どうやら、ラルフを警戒しているようだが…
とりあえずみんなでお茶を飲んで休憩をする。
「メイはとっても楽しそうね?」
「はい。家族が揃ってお出かけなんて初めてですもの。」
「メイリン、私達もいるのだが?」
除け者にされている気がして少し冗談混じりに言ってみた。
「そうですね。でも殿下達も家族になるのでしょう?」
「「くっ…」」
そうか。
メイリンは義妹になるから家族に入っているのか…
それも悪くないな…
睡眠不足で眠れていないのだから疲れていないだろうか?
「メイリン、気分は大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。」
「そうか。何かあれば言うんだぞ?」
「ありがとうございます。アダム様。」
「あー…婚約の事は気にするな。私はメイリンが好きだが…義妹に辛い顔をさせたくはない。」
「アダム様…」
「さて、そろそろ出発のようだ。」
「はい。」
「メイリン、手を。」
せっかくだからエスコートをしよう。
ラルフには悪いが、話の流れだからこのくらいは許されるだろう。
「ありがとうございます、お義兄様。」
「くっ…」
義妹だと考えてみたら…
思った以上に可愛く見えてきた。
気がついたらメイリンが笑っていたのだが?
「何かおかしかったのか?」
笑っている理由を聞いてみた。
「……秘密です!」
メイリンが可愛く言うものだからなんて言えばいいかわからなくなった。
「メイ!なんて可愛らしい!」
「お姉様、苦しいです」
ミリム嬢はメイリンに抱きついた。
はぁ…
なぜかセットで可愛らしく見えた。
「馬車を出すぞ。」
また馬車に乗った。
「メイ、なぜ海に行きたかったの?」
「見たことが、なかったからです。海には波があって、匂いがするのでしょう?」
「潮の香りがするな。」
「潮の香りですか…」
「わからないか?」
「はい。想像がつかないです。」
「ふふっ。」
「潮の香り…楽しみです!」
本当は外に出たかったのだろうか?
「こんなに楽しみにしているなら、もっと早くに連れてきたかったな。」
「いいのです。危険だから外出出来なかっただけですから。」
「メイは美しくて愛らしいから危険がついてくるのよね?」
「美しいというのは大変だな?」
「言っておきますけど、殿下達は他国から最も美しい王子と言われているのですからね?」
「そうなのですか?」
「周囲が大袈裟に言っているだけだ。」
「私達はそんな事は思っていないぞ?」
「アダム様もラルフ様も他国の王子様より素敵だということですね。」
「そうなのよ、メイ。」
「そんな事はないと思うが、メイリンに褒められるのは嬉しいな。」
「そうですね。」
「メイリンは見た目は気にするのか?」
素敵と言うが、容姿のことか内面のことか気になったから聞いてみた。
「見た目を気にしたことはありません。それに殆どお兄様達と殿下達としかお会いしていませんから。」
確かにそうだな。
「野営地についたようだな。」
「メイリン。」
「はい。」
「メイはもうラルフ殿下にエスコートされるの慣れたのね?」
デートの回数はそんなに多くはないが、お茶はたくさんしていたからな。
最初と比べればだいぶ自然に手を取ってくれるようになった。
「はい。殿下達はいつもエスコートしてくださいましたから。」
「そうなのね。私もよくエスコートして頂いていたのよ。」
「そうなのですね。」
「身分とミリム嬢の容姿もあってエスコートする機会が多かったのだ。」
お互いに社交が煩わしかったからな。
「幼馴染みだからな。」
コールマン公爵家には一応、王家の血が混じっている。
だからコールマン公爵家は婚約の話が絶えない。
「メイリンは初めての野営は怖くないのか?」
「怖いですけど…殿下達やお兄様達がいますから」
「そうか。」
アークとジャンとミリム嬢とラルフで言い合いを始めた。
「メイリンのことを話しているのはわかるな。」
「ふふっ、はい。」
「気になるか?」
「少しだけです。なんとなく想像はつきますから。」
「私もだ。」