妹の望みを叶える姉③
メイが眠ってしばらくすると、馬車が急停止した。
『殿下!襲撃です!』
「襲撃だと!?何者だ!?」
えっ…襲撃?
『野盗のようです!』
「お父様達は!?」
「コールマン公爵達は!?」
「すいません、たくさん寝てしまって…」
起きてしまったのね…
また怖い想いをさせたくないけど…
「メイ。今野盗の襲撃にあっているから、静かに隠れるのよ?」
「襲撃ですか?」
「メイリン。静かにしていろ。近衛兵達が追い払うからな。」
「はい」
「心配するな。メイリンが狙いではない。」
「はい、大人しくしています。でも、お父様達は?」
「あちらにも近衛兵達がちゃんといるから大丈夫だ。」
「そうよ、メイ。大丈夫よ?」
お父様もお兄様もアークもいるもの。
お母様もきっと大丈夫。
私も怖いけど…
「お姉様、大丈夫です。私がいますから。」
「メイ…」
メイが私の手を握って、座りこんだ。
「大丈夫だ。必ず守ってみせる。」
『殿下!人数が多すぎます!』
『公爵達も戦闘になってます!』
「お父様、ジャンお兄様、アークお兄様…」
「大丈夫かしら…馬車でお母様は1人なのに…」
「わかった、私達も行く。メイリン、ミリム嬢。ちゃんと隠れていろ」
「はい…」
「わかりました」
殿下達は護衛を数人残して馬車から離れた。
「メイ…大丈夫かしら…?」
「大丈夫です、お姉様。」
お父様達は怪我したりしていないかしら?
殿下達も怪我をしたり…
「メイ…大丈夫よね?」
「はい、大丈夫に決まっています」
「ミリム嬢、メイ!」
馬が怯えて馬車が大きく揺れると…
『メイリン様!ミリム様!逃げ』
「あっ…」
「メイ…もうダメだわ…っ」
「お姉様…大丈夫です」
護衛が馬車の前に立ちはだかって剣を交えていました。
『どけっ!』
野盗が…!?
護衛が足を掴んで押さえてくれているからか野盗が…
メイが急に深呼吸をして勢いよく馬車の扉を開けた。
「メイ!?」
『うわっ!?』
「お姉様、待ってて」
「メイ!?危ないわっ!?」
「お姉様は私が守るのです。借りますね!?」
メイが戦うつもり!?
「メイ!危ないわ!」
『お姫様に何が出来るってんだ』
メイは剣を相手に向けて睨みつけて…
それだけで相手の動きが止まった?
えっ?
その隙に剣を弾き飛ばして足をかけていて、
野盗は転倒した所で護衛が走ってきた。
「捕らえて!」
『はい!』
「遅いわ!」
立ち上がろうとする野盗の後ろから腕を捻り上げている…
『申し訳ありませんっ』
「急いでください」
気づいたらまた野盗が集まってきて
『メイリン様!』
「メイリン!?」
野盗が持っていた剣を拾い上げて、相手の剣の柄を蹴り落とした…
えっ?
夢じゃないわよね?
メイが戦っているのも驚いたけれど、
何より強くない?
お兄様やアーク、殿下達もこちらに向かって来て残りの野盗を取り押さえてくれた。
あまりの戦いぶりに言葉が出てこない…
驚きすぎて怖さも忘れてしまいそうだわ。
殿下達やお兄様やアークが駆け寄ってきた時はメイはペタリと座りこんでしまった…
「「「メイっ!!」」」
「「メイリン!!」」
「あ…申し訳ありません…」
「いや、すまなかったな。怖かっただろう?」
「はい…」
「あっ…お母様は!?」
「大丈夫だよ。護衛を2人つけておいたからね。」
「良かった…」
「しかし、なぜメイが闘っていたのだ?後ろにまわりこまれて殿下達が出たのはわかったが…」
『申し訳ありません!』
「護衛の方が倒れてしまったのです…」
『すいませんっ!』
「私は大丈夫です。それよりお父様、怪我人は…?」
「ラルフ殿下とジャンと数人だが…」
「お兄様とラルフ殿下が…」
どうしましょう!?
応急処置はしたのかしら…
ここから王城まで
「そうなのですね…お父様。魔法を使ってもよろしいですか?」
魔法?
メイが魔法を?
お花が綺麗に咲く魔法じゃない魔法が?
お父様は苦々しい顔をして、
「メイリン、命に関わる怪我ではないから大丈夫だ。」
お兄様とラルフ殿下は大きな怪我をしたのかしら…
メイは治せるというの?
「そう仰ってもラルフ様もジャンお兄様も怪我をされてます。馬車の修理もありますし、しばらく待つのでしょう?」
「そうだが…」
「怪我したままでは良くないです。」
「わかった。ミリム、シエルの所で待っていてくれ。」
「…はい。」
私が口を挟んではいけない気がするわ…
「お姉様、大丈夫ですか?」
「私が連れて行こう。」
「アダム様、お姉様をお願いします…」
アダム殿下に連れられて、お母様がいる馬車へ。
「アダム殿下…ありがとうございます。」
「いや、2人ともちゃんと守ってやれなくて申し訳なかった。」
「私は…メイが守ってくれたので…」
「驚いただろう?」
「はい、まさか野盗に襲われるなんて…」
「そうだな…メイリンの初めての海だから楽しく終わらせてあげたかったのだが…」
「本当に…それにメイが戦うなんて衝撃でしたわ。」
「私も初めてメイリンが戦うのを見た時は驚いた。」
初めてメイリンが戦うのを見た時は?
アダム殿下が目を伏せて…
「とりあえず、ミリムは夫人と一緒に待っていてくれ。すぐ野営の準備をする。」
「はい、お願いします…」
私が馬車に乗るとアダム殿下はメイやお父様のほうへ…
「ミリム!」
「お母様!」
「怪我はしてない?大丈夫?」
「私は大丈夫よ?お母様こそ。」
「えぇ、大丈夫。メイは大丈夫なの?」
「大丈夫よ。」
お母様はほっとした顔をして肩を撫で下ろした。
「お母様…メイが私を守ってくれたのよ?」
「…メイが?」
「護衛達も倒されてしまって野盗が馬車に乗り込もうとしてきたの。」
「まあ!?」
「そしたらメイが扉を一気に開けて野盗を弾き飛ばして、護衛の剣で戦ってくれたの…」
「メイが…」
「メイは怪我していないの!?」
「えぇ…」
「そう…良かった…」
「お母様っ!」
安堵して力が抜けてしまったようね。
私もあの時驚いたもの…
「お母様…メイは強かったのよ?護衛よりも強くて。」
「でも、なぜメイが戦うの!?万が一怪我でもしたらどうするつもりだったの!?」
「そうね…私もそう思っていたわ。でも、メイが私を守ると言って…」
私は怯えるばかりで…
あんなに強かったのね。
護身の為に習っていると聞いていたけど、そんなレベルではなかった…
本当になんでも頑張ってしまうのね…
「ミリムを助けたかったのね…」
「えぇ…」
しばらくして野営の準備がされた。
「お母様、あちらで休みましょう?」
「そうね…ミリムも休まないと。それでメイは?」
「お父様達と一緒よ。」
「そう…」
しばらくお母様とお茶をしてなんとか落ち着きました。
「姉上。」
アーク?
「メイは?」
「魔法を使って疲れているようだからテントに連れて行ったよ。」
「大丈夫なの!?」
「はい。怪我は全くなかったけど、ドレスが汚れてしまった。」
「そう…ドレスが汚れただけなのね?」
お母様もやっと胸を撫で下ろした。
「姉上、少しメイについていてもらえますか?」
「わかったわ!」
「ミリム、メイをゆっくりさせて上げてね?」
「もちろん。私の命の恩人の天使なのだから。」
アークに連れられてメイのいるテントへ。
テントに着くと、メイは横になっていた。
「メイ!大丈夫なの!?」
「お姉様、大丈夫ですよ。」
「メイが戦うなんて驚いたのよ?」
「そうですね、でもあの時はそれしかなかったのです。」
「メイが怪我しなくて良かった…」
メイの無事な姿を見て泣きそうになってしまったわ。
「心配をかけてごめんなさい。」
「それに魔法も使ったのでしょう?ここにいるから少し休みなさい?」
「ありがとうございます、お姉様。じゃあ、ここにいてくださいね?絶対ですよ?」
「ふふっ、大丈夫。ここにいるわ。」
少し汗をかいていたから、きっと無理をしたのだと思って手を握りしめた…
すると安心したようにすっと眠ってしまったの。
もういつものメイの顔だわ?
戦う時の顔はとても凛々しかったのよ?
「姉上。メイは寝た?」
「えぇ、すぐ眠ってしまったわ。」
「そうか…」
1話分抜けていた事にようやく気づきました。