妹の願いを叶える姉②
「メイ、おかえりなさい。初めて見た星はどうだった?」
「とてもキラキラして綺麗だったわ。」
「メイはとても気に入ったようだよ。」
「帰ったら星に関する本を読むと言っていた。」
ふふっ、メイらしいわね。
「メイリンは本当に勉強が好きだな。」
「大好きです!」
「くっ…」
「メイは本当に可愛い!」
「姉上はいつもそれだ。」
アークが呆れたように言った。
「あら、アークはそう思わないの?」
「思ってるよ、常に。それにメイ以上の女性はいないでしょう?」
よくわかっているじゃない。
「そんな事はないと思いますけど…」
「メイリンは自己評価が低すぎるのではないか?」
まぁ、わからないでもないけど。
でもメイは他のご令嬢をあまり見たことがないもの。
だから比較できないのよね…
「メイ、今日は疲れたでしょう?そろそろ寝ましょう。」
「お姉様は?」
「ふふっ、もちろん隣で寝るわよ。」
「嬉しいです!」
テントでメイの横で寝ました。
しばらくするとメイが声をかけてきた。
「お姉様、まだ起きていますか?」
「あの…一緒のお布団に入ってもいいですか?」
「えぇ、いいわよ。」
可愛いわー…
甘えられるのは嬉しいわね。
「メイは怖いの?」
「外は少し怖いです…」
「そうね。私も野営は怖いわ。」
「でもお姉様が一緒なら怖くないわ。」
「ふふっ、私もよ。おやすみなさい。」
「おやすみなさい、お姉様…」
メイはひょっとしたら…
先日の事件で怖がりになってしまったのかしら?
「おはよう、メイ。起きるの早いわね。」
「おはようございます。すっきり目が覚めました。」
「それは良かった。」
「メイが嬉しそうで何よりだ。」
「お姉様とお母様と一緒でしたから。」
「ふふっ、私達もメイと一緒で嬉しいわ。」
朝食を食べて出発した。
「メイリンは楽しそうだな?」
「はい、とても楽しいです。」
「メイは海で何が楽しみなの?」
「アダム様とジャンお兄様が泳ぎを教えてくださるのです。」
そうだったわ。
外出に行けないから泳げないものね。
ラルフ殿下は残念。
「兄上が?」
「泳げないと聞いたからな。」
「はい。」
「私が教えるぞ?」
「ラルフはあまり得意ではなかっただろう?」
「うっ」
「そうなのですね。ラルフ様も一緒に教わりますか?」
「それはいい。どうだ?」
「あー…そうですね…」
「あら、では私も教わろうかしら。」
「はい、ぜひ。」
こんなにキラキラした目で言われたら断れないでしょうね。
「それにいつもどのようにして習得しているのか見てみたいもの。」
「それは私も見たいな…」
メイは本当に楽しみにしていたのね。
こんなにはしゃぐメイは初めて見るもの。
「ふふっ」
「メイリンは王城で会う時の印象とだいぶ変わったな。」
「私もメイリンと初めて会ったときの印象とだいぶ違うかもしれません。」
「私達にはこんなに可愛いのです。本当は我が家以外で見せたくなかったのに…」
「そのような理由だったのですか?」
「それだけの理由ではないわよ?」
「そうですか…」
純粋で穏やかで、とても優しいメイは容姿以外でも美しいから大事にしたかった。
だから屋敷の外に出してあげられなかったのよね…
その後はメイが色々なことを聞いてきたから、たくさん答えてあげて…
あっという間に海に到着。
「さぁ、メイリン。」
「はい、ラルフ様。」
「それでは、ミリム嬢もどうぞ?」
「ありがとうございます、アダム殿下。」
アダム殿下ってこんなに穏やかに笑う方だったかしら?
なんとなく照れくさく感じるわね…
「メイ、早速着替えて来ましょう?」
「はい、お姉様。」
「では私達も着替えて来る。」
「後でな。」
「はい。」
照れくさいこともあって、すぐ水着に着替えることにした。
「メイリン様、ミリム様。お着替えの準備は出来ております。」
「あら、お母様は?」
「はい、公爵夫人は着替えてコールマン公爵とあちらに。」
「ふふっ、お父様もお母様も仲睦まじいわね?」
「そうですね。楽しそうです。」
お父様とお母様も実は楽しみにしてたのね。
もうすっかり二人の世界だもの。
着替えてメイを見たら驚いたわ…
スタイルが良いんですもの!
「メイ!いつの間にそんなにスタイルが良くなったの!?」
「そうですか?お姉様も綺麗ですよ?」
「ありがとう!メイは本当に女神のように美しいわ。」
「ふふっ、お姉様は大袈裟ね。」
「お兄様やアークもきっと驚くわね?」
「そうでしょうか?」
兄弟とはいえ…
本当に私が男で別の家に生まれていたら、すぐに結婚するわね。
テントを出て、お父様やお母様の所に。
「「メイリン、ミリム嬢!」」
「ラルフ様、アダム様。お待たせして申し訳ありません。」
「メイリンもミリム嬢も美しい…」
「……」
「メイ!姉上!2人共とても似合うよ。」
「本当に私の妹達は美しいな…」
「ふふっ、ありがとうございます。」
「ありがとうございます…」
ラルフ殿下はメイを見て固まってしまったけど…
結婚したら慣れるのかしらね?
「メイは女神のように美しいでしょう?」
「本当に。ミリム嬢もとても綺麗だ…」
アダム殿下もラルフ殿下も真っ赤になってしまったわね。
ラルフ殿下はまだ見惚れて固まってしまっているけど、
アダム殿下は…すごく見られているのだけど?
「ラルフ様?」
「メイ、ミリム。美しいが…水着はやめないか?」
「ダニエル、それでは楽しめないでしょう?」
お父様は水着姿を見せたくないのね?
でも水着じゃないと海で遊べないわ。
「ふふっ、アダム様に泳ぎを教えていただくの。」
「そうよ。メイが習得する瞬間を見れるの。楽しみだわ。」
「お姉様も教わるって言ったではないですか?」
「そうでしたわ。」
ふふっ、拗ねた顔なんて殆ど見たことがないわ。
「アダム殿下。あまり無理させないでくださいよ?」
「わかっている。」
「ラルフ殿下。いい加減戻ってくださいよ。」
あら、まだ固まっていたのね…
「…はっ!?」
「ラルフ殿下…見すぎです。」
「すまない、あまりにも美しすぎて…」
「まぁ、わからないでもないですけど。」
「アークお兄様?」
「はぁ…なぜメイは私の妹なのだろうか?」
「アーク、ジャンもそうだがメイと他の令嬢を比べると結婚出来ないぞ?」
「それはそうだけど、本当に残念だ。」
「全くだ…」
「お兄様もアークもメイばかり褒めるのだから。」
「ミリムも他の令嬢と比べるととても美しいからね?」
「そうだよ。メイが生まれる前は姉上以上に美しい令嬢がいなかったのだから。」
「アークもジャンもミリムより素晴らしい女性じゃないと婚約しないと言い張っていたからな。」
「ふふっ、お姉様お美しいですもの。私もお姉様のようになりたかったのよ。」
「メイはミリムから離れたがらなかったものね?」
「メイリンもミリム嬢も他の令嬢と比べると本当に美しいと思っていたぞ?」
「そうだな、メイリンが生まれる前はミリム嬢なら婚約したいと思っていたからな。」
あの時、本当に申込みしてたのね…
知らなかったわ。
急にそんなことを言わないで欲しい…
「じゃあ、メイ。海に入りましょう?」
「はい、お姉様!」
話を変えたくて海に入った…
「私達も行こう。」
「わあ!とてもふわふわしているのですね?」
「ふわふわ?」
「なんだか、浮かぶような感じです!」
「それは面白い感想だな。」
「これは私も浮かぶのではないでしょうか?」
「メイ?」
「浮かびました!」
メイは自分のことをまだ子供だと思っているのかしら?
とても楽しそうだけど
「メイリン、あまり浮かぶとラルフが固まる。」
「ラルフ様が?」
「(メイ、浮かぶとお胸が目立つのよ?)」
「あっ…」
気づいたようで、海に潜ってしまったわ。
「メイ、ラルフ殿下は気にするな?」
「そうだぞ?どうせろくなことを考えていないからね」
「あー…まぁ、わからないでもないが。とりあえず、泳ぐ練習でもしようか?」
「はい!」
「ふふっ、メイったら元気ね。」
「はい、楽しみにしていましたから!」
私は泳げるけど一緒に練習しようかしら?
「(まるで人魚のように美しい姉妹だな?)」
「(当たり前でしょう。)」
「(美しいのは知っているが…)」
「(殿下達は一体どこを見ているんだか…)」
「(うるさいぞ、お前達。)」
「(いや、見てしまうのは仕方がないだろう?)」
「(それは…そうかもしれないけど)」
男性はどうしてこんなに容姿を気にしてしまうのかしら?
私は…
少しだけ気にするわね。
清潔で誠実なら…
「目が開けられるようになりました!」
「「くっ…」」
「「うぅ…」」
「まあ!メイったら、呑み込みが早いわね!」
「ふふっ、アダム様とジャンお兄様の教え方が上手いのです。」
「そうね。」
何度も何度も繰り返し練習しているのね。
天才と誰もが言っているけど、努力の天才だったなんて。
素晴らしい妹だわ!
「では、からだを浮かせて顔をつけてみようか」
「はい!」
顔をつけて…あげないの?
「顔をつけたまま泳ぐのは苦しいですっ!!」
ふふっ。
息継ぎを知らなかったのね。
「あはは、メイリン。これから息継ぎの練習するから安心しろ。」
「メイはこんなに楽しそうに学んでいるのか…」
「本当に楽しそうね。天才だと思っていたけど…」
「たくさん勉強していたんだね。」
「これは努力以外の何ものでもないな。」
「メイリン、苦しくなる前に顔を上げるといい。」
「はい、アダム様!」
「メイリンは学ぶ時にこんな顔をしているのだな?」
「私達も初めて見ましたよ。」
「いつも教師から天才だとしか聞いていなかったしね。」
「そうね、一緒に勉強する機会もなかったから新鮮だわ。」
「そうなのか?仲が良いからなんでもわかるのだと思っていた。」
メイが頑張って練習している間はみんなで見守っているのだけど…
「ちょっと頑張りすぎじゃないかしら?」
「そうだな。」
「メイリン、少し休もうか。あまり一気に練習すると足をつってしまう。」
「はい、アダム様。」
「メイはすぐに泳げるようになるね?」
「そうですか?」
「あぁ、一生懸命練習しているからな。」
「ふふっ、ありがとうございます。」
お兄様もアダム殿下もお父様みたいな顔でメイを褒めるのね?
「次は足を動かして問題なければ、手を離してみようか。」
「はい!」
「メイは集中力が高いのだね。昔頑張って勉強すべきだったと思うよ。」
「本当ね。私もお茶会のない時は勉強しようかしら?」
お茶会なんて少しいれば充分だもの。
変わり映えしない人達と社交していても特に意味はないしね。
「姉上も?何を勉強するんですか?」
「そうね…とりあえず、地理やお花かしら?」
地理を覚えれば、色々と社交に活かせると思うのよね。
お花はメイとお庭の花の話も出来るし。
「ミリム嬢も勉強するとなるとメイリンのように護衛が必要になるな?」
「そうですね。メイリンとは別の意味で護衛は必要になると思います。」
「メイとミリムはこの国でNo.1とNo.2の美しいご令嬢だからな。」
「私が勉強するのに護衛は必要ないでしょう?」
「…確かに。」
「メイ、もう少し髪を拭いておいで?」
「そうね、ラルフ殿下がさっきから固まっているわよ。」
確かにメイの美しさと愛らしさは日に日に増すけれど…
その度に固まるの?
大丈夫かしら…?
「はい、行ってきます。」
メイと一緒に髪を拭いて来ることに。
「メイは本当に勉強熱心ね。」
「そうですか?」
「あんなに一生懸命に勉強しているなんて知らなかったわ?」
「学べる時間が多かったので頑張ってしまっただけです。」
「泳げるようにたくさん練習しているから、私達も何か勉強しようかとお話していたのよ。」
「そうなのですね。私は勉強するくらいしかやる事がないだけなのに。」
「ふふっ。それにしても、メイはまるで人魚のようだったわ。」
「ありがとうございます。でもお姉様もですよ?」
「あら、そうかしら?」
「はい。お姉様が泳いでいるのを見たらとても綺麗でした!」
「ふふっ、ありがとう。きっとメイが泳げるようになったら人魚のお姫様になるわね。」
「でしたら人魚になってもお姉様と姉妹でいられるのかしら?」
当然ずっとメイの姉だもの。
「メイ、そろそろ戻りましょう。」
「はい、お姉様。」
戻ったらお兄様達がお茶の準備をしていた。
殿下達の側近だもの。
気を使えて当然よね?
「おかえり。ちょうどお茶が入った所だよ。」
「ありがとう、お兄様。少し寒くなってきたと思っていた所よ。」
「海に長く入っていたからね。」
「そうですね。」
「ん?それなら練習やめておくか?大丈夫か?」
「大丈夫です。もう少しだけお願いします!」
「あはは、わかったよ。」
メイはその後もしばらく練習してだいぶ泳げるように…
「メイは本当に泳げるようになったのね。すごいわ!」
「お母様、ジャンお兄様とアダム様の教え方がとても上手だったのよ?」
「あはは、ありがとう。でもメイが頑張っていたのは確かだよ。」
「ふふっ」
「はー…すごいな。」
「メイリン、少し唇が紫色になっている。温まったほうがいいぞ?」
「本当ですか?」
「本当だな?メイ、こちらでお茶を飲みなさい。ミリムも温まったほうがいい。」
「はい、お父様。」
「そうするわ。」
「メイはこの後何をするんだい?」
「貝殻を探してみようかと思います。」
「そうか。綺麗な貝もあるからな。」
「はい。」
メイは時々子供のようなことを言うのよね。
小さい頃からこんな風に出かけられなかったし、
私達もメイを残して出かけることが多かったから当然なのかも…
「では、とりあえず着替えたほうがいいね。」
「そうだな。濡れたままで風邪をひくと良くない。」
「そうね、そうしましょう?」
「はい。」
お茶を飲んで少しは温まったけど、風が出てきたものね。
メイと2人で着替えて戻ったら…
何回固まるの?
「ラルフ殿下は固まりすぎじゃないかしら。」
「ふふっ、ラルフ様はなぜ固まっているのでしょうね?」
「さあな?」
「メイ、砂浜を歩こうか?」
「はい、アークお兄様。」
「あ、待て待て。私も行く。」
メイはお兄様達と砂浜に行ってしまった。
「ミリムもメイリンも本当に美しいな。」
「殿下。その話、何回するつもりですか?」
「ん?そうだな。視界に入る度に思ってしまうから何度でも言ってしまう。」
「はぁ…アダム殿下は昔から天然でキザなのよね。」
「キザだったか?」
「少しですよ?嫌な感じするわけではないけど…」
「そうか…」
知っていたけど、なぜかキュンとしちゃうの。
困るわよね…
あら?
少し暗くなり始めたけど、もう戻って来るかしら?
「さぁ、そろそろ馬車に乗りましょう?」
「はい。」
「メイリン!」
「ラルフ様?」
「馬車を出すぞ?さぁ、手を。」
「はい、ありがとうございます。」
「ここにいたのね?」
「はい、お父様とお母様とお話していました。」
「そうだったの。」
「では殿下、ミリム。メイをよろしく頼む。」
「任せろ。」
馬車に乗り込み出発した。
昨日からアダム殿下の様子が気になるのはなぜかしら?
なかなか答えが見つからないのよね…
「メイリン、疲れたのか?」
「えっ?疲れていないです。もう帰るから少し寂しいと思っていました。」
「そうね。確かに旅なんて出来ないものね?」
きっとこんな風にメイと出かけるのは最初で最後よね…
「まぁ…婚約式が終わると公務が始まるが旅とは違うからな。」
「そうだな。思った以上に責任もついて来るし、その地に関して学ぶ事も多い。」
「そうなのですね。地理と歴史と特産物などは学びましたが、情勢も学ぶべきでしょうか?」
「いや…充分だ。」
「さすがメイね。」
「お姉様、私には時間があるだけよ?」
時間があるだけでは教養は身につかないのに。
だいぶ暗くなってきたわね。
ラルフ殿下がメイに耳打ちをしている?
随分と仲が良くなったのね…
「メイリン、眠そうだな。少し寝たらどうだ?」
「ありがとうございます。」
「もたれていいぞ?」
「はい。」
メイがラルフ殿下の肩にもたれている…
本当に婚約者はラルフ殿下なのね…
隣を見るとアダム殿下と目があった。
気まずい…
「ミリムも肩にもたれるか?」
は?
「私は大丈夫ですよ。」
静かな寝息が聞こえてきた。
「だいぶ疲れたのね。」