悪役令嬢の望みを叶える第二王子①
【第二王子 ラルフ】
今日はメイリンを連れて海に行く。
離宮の前でメイリンの到着を待っていた。
婚約が決まって初めて外出するのだ。
メイリンの行きたかった海。途中で野営もするから星空も見れる。
きっと喜んでくれるはずだ。
「アダム様、ラルフ様。ごきげんよう。お待たせして申し訳ございません。」
「大丈夫だ。今日も美しいよ、メイリン。」
「とても良く似合っている。」
「ありがとうございます。」
メイリンは初めて見るドレスを着ていて、思わず目で追いかけてしまうほど綺麗だ。
「殿下からもらったのかい?」
「いえ、海に連れて行ってくださると聞いて仕立てました。」
「そうか。とてもメイに似合っているね。」
「ありがとうございます!」
そうか…海に行くために自分で仕立てたのか。
確か、メイリンはドレスをたくさん作るのは好きではなかったはずだ。
楽しみにしてくれていたのだな…
「まぁ、メイを褒めるのはその位にして出かけよう。近衛兵も準備が整ったようだ。」
「はい。」
慌ててメイリンをエスコートした。
「さぁ、どうぞ。」
今回、私とメイリンと兄上とミリム嬢で馬車に乗る。
ミリム嬢もメイリンと出かけるのは初めてだそうだ。
しかしメイリンはとても綺麗だな。
つい見惚れてしまう…
あ。
慌てて意識を戻した。
「本当に出かけたことがなかったのか…」
「アダム殿下やラルフ殿下はメイとたくさん出かけているのでしょう?」
「私達は…」
「ふふっ、お花畑や湖に連れて行っていただきました。とても楽しかったわ!」
「まあ!羨ましいわ!」
「メイリンとミリム嬢は仲がいいな?」
「当然です!こんなに美しい妹を持てて幸せだわ。」
「お姉様も私の自慢のお姉様です。」
本当に仲の良い姉妹だ。
話をしているとメイリンが少しきょとんとした顔をしていた。
「いえ、なんでもないです。お姉様も殿下達と仲が良いのですね?教えておいてくださっても良かったのに。」
「メイリンはミリム嬢と兄上が仲が良い事を知らなかったのか?」
では、ミリム嬢が兄上の婚約者候補だったのは聞いていないのだろうか?
「はい。お兄様達が側近なのは知っていましたけど、仲が良いと知ったのは最近でしたから。」
「そうね、メイが生まれた時にはもうお茶会に出ていたから遊んだりはしていなかったもの。」
「そうだな。メイリンが2歳の時に私は学院に入っていたし。」
「私はアークと遊んだりはしていたが、絶対に会わせないと言われたぞ?」
「ふふっ、幼馴染みとは仲が良いのものなのですね。」
「メイは殿下達に嫁にはやらないってお父様も言っていたもの。」
「あー…自慢だけして会わせないって言われた。」
「ふふっ、お父様ったら。」
なるほど。
会うことが殆どなかったのはコールマン公爵が私達に会わせないようにしていたのか…
「それより、メイのドレス素敵ね?急にどうしたの?」
「婚約して初めての外出だから…」
「くっ…」
可愛すぎる!
「決めたの!?」
「はい、ラルフ様と婚約しました。」
「メイリンは話していないのか?」
「はい。私からは話しておりません。」
「そうだったのか。」
婚約した事は公爵夫人とミリム嬢には話していなかったのか…
そういえば私も兄上に報告していなかったな。
「え?いつ?」
「はい、数日前です。」
「兄上は知っていたのですか?」
「メイリンから手紙をもらっていたからね。」
「そうですか…申し訳ありません。すぐに話すべきでした。」
メイリンより先に報告すべきだったのか…
兄上はどんな気持ちで参加したのだろうか?
「そう…ラルフ様と。おめでとう、メイ。」
「ありがとうございます!」
「じゃあ、アダム殿下はこれから大変ですわね?」
「なぜですか?」
「あー…兄上が婚約者選びを始めなければならないからね。」
「そうですよね…」
兄上から婚約者を横取りをしたような気分だ…
「メイリンはそんな顔をしなくていい。最初からどちらかを選べと言っていたのだから。」
「そうよ。メイが気にすることはないわ。」
「兄上…」
まだ心の整理はついていないのか?
しかし、女性がいると会話がどんどん変わっていくな…
「それより、メイのドレスは随分と珍しいデザインね?」
「はい。他国の物語にあった挿絵のドレスが可愛かったから作っていただきました。」
「そうなのね。私は本が苦手だから挿絵なんて気にしたことがないわ。」
「本当にメイリンは本が好きだな?飽きないのか?」
私ならすぐに寝てしまうな…
「外に出られないから本で外を知りたいのです。たくさん種類もありますし、飽きません。」
「そうか。」
「ラルフ殿下。メイは美しいから事件に巻き込まれやすいのです。必ず守ってくださいね。」
「あぁ。当たり前だ。」
「私も義兄として守るつもりだ。」
「アダム様…ありがとうございます。」
兄上…義兄として守る。
もう諦める事に決めたのか…
私ならすぐにリベンジするだろう。
やはり兄上を尊敬する。
ミリム嬢はメイリンの身を常に案じているのだな。
「メイリンと一時も離れないつもりだから大丈夫だ。」
「はい。」
「メイ、何かあったら相談するのよ?」
「はい、お姉様。」
ミリム嬢はメイリンの頭を優しく撫でていた。
「海は遠いのですか?」
「少し遠い。今日は野営をするからな。」
「野営…」
「メイリンは夫人とミリム嬢と同じテントだ。護衛が周囲を固めるし、私達も近くにテントを張るから安心していい。」
「そうですか。お姉様とお母様と一緒なら大丈夫です。」
「メイ、眠い?」
「少し…」
「途中に休憩がある。それまで眠ってもいいぞ?」
「あら、少し隈が出来ているわ。眠れなかったの?」
「はい、目が冴えてしまって…」
「ふふっ、じゃあそのまま眠っていいわよ?」
「はい、ありがとうございます。」
まだあまり眠れていないのか…?
ミリム嬢に頭を預けて目を閉じるとすぐに眠ってしまった。
なんて美しい寝顔だ…
「ラルフ殿下、アダム殿下。いつもメイリンを助けて頂いてありがとうございます。」
「あまり役に立てなかったがな…」
「あの事件の時に思ったのです。心の傷を治してくれるのは近くにいる殿下達やお父様、お兄様やアークで私は何もできないと…」
ミリム嬢はメイリンの事を本当に大事にしているのだな。
義姉上か…
本当に美しい姉妹だな。
メイリンとは違う優しさが滲み出ているようだ。
気づくと休憩ポイントについた。
ミリム嬢が優しくメイリンを起こしている。
「ふふっ、おはよう。」
「…おはようございます。」
「「くっ…」」
寝起きが可愛すぎる…
そこは兄上、さすが兄弟だ。
可愛いと思うポイントは似ているのだな。
「これはコールマン公爵家が過保護になるのもわかるな」
「お姉様も殿下達も恥ずかしいのでそれ以上は…」
「では、ミリム嬢。あなたから手を…」
「はい、アダム殿下。」
兄上がミリム嬢をエスコートした。
「さぁ、次はメイリンだ。手を。」
「はい、ラルフ様。」
「くっ…」
すぐに可愛いと思って悶絶しそうになってしまう。
「「「メイリン!」」」
「はい。」
「「「アダム殿下とラルフ殿下に何かされてないか?」」」
アーク達は似すぎていないか?
息がピッタリだ。
「はい。何も…?」
「ふふっ、お父様達?私が一緒ですもの。何かあるわけないわよ。」
「それもそうだな。」
「ね?あなたもジャンもアークも心配ないと言っても聞かないのよ。」
「ふふっ、大丈夫です。」
コールマン公爵もアークやジャンも私達をどんな目で見ているのだ!?
みんなでお茶を飲んで休憩だ。
「メイはとっても楽しそうね?」
「はい。家族が揃ってお出かけなんて初めてですもの。」
「メイリン、私達もいるのだが?」
「はい?殿下達も家族になるのでしょう?」
「「くっ…」」
私達がメイリンの家族に…
「メイリン、気分は大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。」
「そうか。何かあれば言うんだぞ?」
「ありがとうございます。アダム様。」
「メイリン。」
「はい。」
「婚約の事は気にしなくていい。私はメイリンが好きだが、義妹に辛い顔をさせたくない。」
「アダム様…」
兄上は覚悟していたのか?
私は兄上には男として勝てないな。
「さて、そろそろ出発のようだ。」
「はい。」
「メイリン、手を。」
「ありがとうございます、お義兄様。」
「くっ…」
義兄になったとしてもメイリンの可愛さには敵わないのか…
気がついたらメイリンが笑っていたのだが?
「……秘密です!」
可愛いな…
この言葉は魔法でも使われているのか?
「メイ!なんて可愛らしい!」
「お姉様…?少し苦しいです」
「あー…可愛い」
「馬車を出すぞ!」
また馬車に乗った。
「メイ、なぜ海に行きたかったの?」
「見たことが、なかったからです。海には波があって、匂いがするのでしょう?」
「私はお友達と出かけたことがあるわ。」
「潮の香りがするのだ。」
「潮の香り…」
「わからないか?」
「はい。お塩の匂いがわかりません。」
「ふふっ、お塩ではなくて潮よ?」
「潮の香り…楽しみです!」
相変わらず、好奇心が強いな。
「アダム様やラルフ様は海に行ったことがありますか?」
「あるぞ。」
「海は湖よりどのくらい大きいのでしょうか?」
「比べようがない位大きいぞ。果てが見えない。」
「お姉様も見たことがあるのでしょう?」
「えぇ、あるわよ。殿下達とお兄様とアークと一緒にね。」
「まだ子供の頃に一緒に行った。」
「こんなにはしゃぐのならもっと早くに連れてきたかったな。」
「いいのです。危険だから外出出来なかっただけですから。」
「そうね、メイは美しくて愛らしいから危険がついてくるのよね?」
「美しいというのは大変だな?」
「言っておきますが、他国の王家と比較すると殿下達は最も美しい王子ですからね?」
「そうなのですか?」
「いや、周囲が大袈裟に言っているだけだ。」
「私達はそんな事は思っていない。」
「アダム様もラルフ様も他国の王子様より素敵だということですね。」
「そうなのよ、メイ。」
「そんな事はないと思うが、メイリンに褒められるのは嬉しいな。」
「そうですね。」
褒められるのは慣れているが、メイリンには言われ慣れていない。
「メイリンは見た目は気にするか?」
少し興味があるな。
見た目で判断していないのはわかっているが…
「見た目を気にしたことはないです。それに殆どお兄様達と殿下達としかお会いしていませんから。」
本当に素直だ。
「お、野営地についたようだな。」
「メイリン。」
「はい。」
メイリンは疑うこともなく、戸惑うこともなく手をとった。
「メイはもうラルフ殿下にエスコートされるの慣れたのね?」
「はい。殿下達はいつもエスコートしてくださいましたから。」
「そうなのね。私もよくエスコートして頂いていたのよ。」
「そうなのですね。」
「身分とミリム嬢の容姿もあってエスコートする機会が多かったのだ。」
「まぁ、幼馴染みだしな。」
それにコールマン公爵家には一応、王家の血が混じっている。
王女が公爵家に嫁いだのだ。
その王女はこの世で最も美しいと言われていたそうだ。
それに、ピンク色の髪色に空色の瞳をしていたという。
きっと遺伝なのだろう。
私や兄上と結婚した場合、王家の血筋が濃くなる。
それも父上がメイリンを妃として迎え入れる理由のひとつだったのかもしれない。
メイリンに婚約を申し出た時に少し調べたのだ。
「野営は2人とも初めてか?」
「はい。」
「私も野営は初めてですわね。」
「メイリンを街に連れて行くわけにはいかないから、今回は特別だ。」
「申し訳ございません。私のせいで…」
「気にしなくていい。」
「そうよ。私達も野営は楽しみにしてたの。」
「そうなのですか?」
「野営って経験したことがないし、今後もないと思うから楽しみだったの。」
「私達は公務の時に何度かあるが、女性には少し厳しいかもしれないな。」
「そんなに怖いのですか?」
「野盗や動物が襲ってくるかも知れないからな?」
「怖いわね…メイは大丈夫?」
「はい、大丈夫です。」
「メイリンは怖くないのか?」
「怖いですけど…殿下達やお兄様達がいますから」
「そうか。」
信用されていたのだな…
素直に嬉しい。
笑顔で返事を返していたが、アークが何やらこそこそ内緒話をしている。
「アーク、何を話していたのだ?」
「え、内緒話です。」
「可愛くないな。」
「可愛かったら気持ち悪いでしょうが。」
「確かに。」
仕方ない、メイリンに聞くか。
「(メイ、アークはなんて?)」
「(はい、暗くなるけど大丈夫かと心配していただきました。)」
「(そうか…テントは大丈夫か?)」
「(テント…大きいテントですか?)」
「(3人入るからそれなりだと思うが…)」
「お兄様、メイになんの話をしていたの?」
「今、殿下に誘われたりしていないかを確認していたんだ。」
「なっ!?」
「メイが婚約者になったから?」
「そういうこと。」
余計なことを…
確かに本来なら成人していない婚約者を離宮に入れることはない。
しかも離宮で2人で会うなどあり得ない話だからな。
もちろん、理性はある。
…気をつけるとしよう。