望みを叶えてもらう悪役令嬢⑥
「おかえり、メイ。とても楽しかったわね。」
「はい、お母様。私、海も星空もとても好きになりました!」
「そうか。それは何よりだ。」
「ふふっ、お父様とお母様は楽しかったですか?」
「もちろん。メイがこんなに楽しそうに遊んでいるのを見るのは初めてだもの。」
「旅なんて初めてだからね。私もメイが楽しそうにしていて良かったよ。」
「さぁ、そろそろ馬車に乗りましょう?」
「はい。」
「メイリン!」
「ラルフ様?」
「馬車を出すぞ?さぁ、手を。」
「はい、ありがとうございます。」
「ここにいたのね?」
「はい、お父様とお母様とお話していました。」
「そうなのね。」
「では殿下、ミリム。メイをよろしく。」
「任せろ。」
馬車に乗り、帰りも途中で野営をする事になっています。
「メイリン、疲れたのか?」
「えっ?疲れていないです。もう帰るから少し寂しいと思っていました。」
「そうね。確かに旅なんて出来ないものね?」
「まぁ…婚約式が終わると公務が始まるが旅とは違うからな。」
「そうだな。思った以上に責任もついて来るし、その地に関して学ぶ事も多い。」
「そうなのですね。地理と歴史と特産物などは学びましたが、情勢も学ぶべきでしょうか?」
「いや…充分だ。」
「さすがメイね。」
「お姉様、私には時間があるだけですよ。」
結構、時間が経過したわね…
こんなに暗くなってしまったわ。
震えそうになったので、手をギュッと握りしめました。
「(メイリン、そんなに手を握りしめると怪我をしてしまう。寝たふりをして私にもたれているといい。)」
「(ありがとうございます。)」
「メイリン、眠そうだな。少し寝たらどうだ?」
ラルフ様が不自然にならないようにしてくれた…
「ありがとうございます。」
「もたれていいぞ?」
「はい。」
お言葉に甘えてもたれかかると、思いの外すぐに眠ってしまいました。
『殿下!襲撃です!』
「襲撃だと!?何者だ!?」
『野盗のようです!』
「コールマン公爵達は!?」
たくさんの声がして目が覚めました。
「すいません、たくさん寝てしまって…」
「メイ。今野盗の襲撃にあっているから、静かに隠れるのよ?」
「襲撃ですか?」
「メイリン。静かにしていろ。近衛兵達が追い払うからな。」
「はい」
「心配するな。メイリンが狙いではない。」
気を使ってくれているのね?
「はい、大人しくしています。でも、お父様達は?」
「あちらにも近衛兵達がちゃんといるから大丈夫だ。」
「そうよ、メイ。大丈夫よ?」
お姉様が震えているわ…
「お姉様、大丈夫です。私がいますから。」
「メイ…」
お姉様の手を握って床に座りました。
「大丈夫だ。必ず守ってみせる。」
『殿下!人数が多すぎます!』
『公爵達も戦闘になってます!』
「お父様、ジャンお兄様、アークお兄様…」
「わかった、私達も行く。メイリン、ミリム嬢。ちゃんと隠れているんだよ?」
「はい…」
殿下達も戦闘に行ってしまった…
「メイ…大丈夫かしら…?」
「大丈夫です、お姉様。」
暗いのに戦闘なんて…
なぜ野盗が…
「メイ…大丈夫よね?」
「はい、大丈夫に決まっています」
2人で震えていると…
「ミリム嬢、メイ!」
馬が怯えて馬車が揺れてしまいました。
『メイリン様!ミリム様!逃げ』
「あっ…」
「メイ…もうダメだわ…っ」
「お姉様…大丈夫です」
野盗が馬車に近づいてきたけれど、
殿下達もお父様もお兄様達も戦っています。
護衛が馬車の前に立ちはだかって剣を交えていました。
どうか…
お母様も大丈夫かしら…
『どけっ!』
馬車の扉に手が伸びて開けられそうに…
護衛が足を掴んで押さえてくれているみたいだけど、
このままだと…
深呼吸をして勢いよく扉を開けました。
『うわっ!?』
「お姉様、待ってて」
「メイ!?」
「借りますね」
護衛から剣を借りました。
『お姫様に何が出来るってんだ』
とにかく、教わった通りに相手をよく見て…
『ぅ…』
少し怯んだように見えたので、
剣を弾き飛ばして足をかけました。
驚いたのか思いっきり転んだので、
「捕らえて!」
『はい!』
「遅いわ!」
立ち上がりそうだったので、まわりこんで腕を捻り上げました。
『申し訳ありませんっ』
「急いでください」
1人捕まったことで数人がこちらに向かってきました。
『メイリン様!』
「メイリン!?」
野盗の持っていた剣を拾ってこちらに向かってくる野盗達を睨みつけました。
相手が少し隙を見せたので、柄を思いっきり蹴り落としました。
お兄様達や殿下達も捕らえたようでこちらに向かって来てくれて、
残り数人を取り押さえてくれました。
ほっとして腰が抜けて…
「「「メイっ!!」」」
「「メイリン!!」」
「あ…申し訳ありません…」
「いや、すまなかったな。怖かっただろう?」
「お母様は!?」
「大丈夫だよ。護衛を2人つけておいたからね。」
「良かった…」
「しかし、なぜメイが戦っていたのだ?後ろにまわりこまれて殿下達が出たのはわかったが…」
『申し訳ありません!』
「護衛の方が倒れてしまって…」
『すいませんっ!』
「大丈夫です。お父様、怪我人は…?」
「ラルフ殿下とジャンと数人だが…」
「そうなのですね…魔法を使ってもよろしいですか?」
お父様は苦々しい顔をして、
「メイリン、命に関わる怪我ではないから大丈夫だ。」
「そう仰ってもラルフ様もジャンお兄様も怪我をされてます。馬車の修理もありますし、しばらく待つのでしょう?」
「そうだが…」
「怪我したままでは良くないです。」
「わかった。ミリム、シエルの所で待っていてくれ。」
「お姉様、大丈夫ですか?」
「私が連れて行こう。」
「アダム様、お姉様をお願いします…」
「あぁ、大丈夫だ。」
「メイ、少し待っていてくれ。箝口令を。」
「はい、お父様。アークお兄様?」
「なんだい?」
「馬のところに…」
「そうか、わかった。」
アークお兄様に抱えられて馬の所に。
「痛かったのね?もう平気よ?」
片足が折れてしまったようです。
「怖かったわね…」
「メイ、もういいぞ…」
「はい。お馬さん、大丈夫ですからね?」
治癒魔法を馬達からかけました。
応援を連れてきてもらわなければ、野盗を連れ帰れないし。
壊れた馬車では全員が帰れないのです。
「メイリン、すまない…」
「ラルフ様…痛いですか?」
「こんなのかすり傷だ。ちゃんと2人を守ってやれなくてすまなかったな。」
「大丈夫ですよ…」
ラルフ様の傷を治してジャンお兄様も治癒をかけました。
「すまないね…でもメイに傷がなくて安心したよ」
「護衛の方も助けてくださいましたから。」
その後も、7人ほど治癒をかけました。
「「メイリンっ!?」」
「「「メイっ!」」」
「ふふっ、大丈夫です。少し魔力を使いすぎたようです…」
「そうか…ありがとう、メイ。」
「すぐに野営の準備をさせる!」
「ラルフ殿下、頼みますよ?」
「わかっている。」
「メイ、場所を移そう。」
「はい、アークお兄様。」
「メイリンは大丈夫なのか?」
「大丈夫だけど、魔力を使いすぎたらしい。」
「そうか…私達がちゃんと馬車を守っていれば怖い思いをさせなくて済んだのに…すまなかった。」
「皆さん謝りすぎですわ。」
「ちゃんと護衛の方も最後まで頑張ってくださいましたし、大丈夫です。」
「それに治癒まで…」
「アダム様。いいのです。このような時のために治癒魔法はあるのですから…」
「野営の準備が出来た。メイリンを連れて行こうか。」
「大丈夫です、メイは私が抱えていきますから。」
「ありがとうございます、ジャンお兄様。」
「メイに魔法を使わせてしまったんだから、このくらいはね。」
「ふふっ」
テントに着くと、アークお兄様がお姉様を連れてきてくれました。
「メイ!大丈夫なの!?」
「お姉様、大丈夫ですよ。」
「メイが戦うなんて驚いたのよ?」
「そうですね、でもあの時はそれしかなかったのです。」
「メイが怪我しなくて良かった…」
お姉様は思いの外、精神的ダメージがあったようです。
「心配をかけてごめんなさい。」
「それに魔法も使ったのでしょう?ここにいるから少し休みなさい?」
「ありがとうございます、お姉様。じゃあ、ここにいてくださいね?絶対ですよ?」
「ふふっ、大丈夫。ここにいるわ。」
お姉様が手を握ってくれたので力が抜けてすっと眠ってしまいました。
どのくらい眠っていたのかしら?
目が覚めると、日が昇り始めるくらいまで寝ていたようです。
「おはよう、メイ。」
「…お姉様?」
「まだ寝ていていいのよ?」
「もう大丈夫です。」
「そう?じゃあ、お茶を準備してもらうわね。」
「ありがとうございます。」
お姉様がテントを出たらお父様とお母様が来てくださいました。
「メイ…起きたのね?良かった…」
「メイ、身体はどうだ?」
「はい、大丈夫です。」
「ミリムに聞いて本当に心配したのよ?」
「ごめんなさい、お母様。」
「本当にメイが無事で良かった…」
「はい。」
お父様は苦々しい顔をしていますね?
きっと私が戦いに参加していたからよね…
それに魔法を使ったから…
「メイ、お茶にしようか。」
「はい、お父様。」
お父様は私を抱き上げてテントの外に。
「お父様、歩けますよ?」
「いいのよ、メイ。ダニエルにまかせてあげて?」
「はい。ありがとうございます。」
テーブルに着くと、お兄様達と殿下達が座っていました。
「おはよう、メイ。もう大丈夫?」
「はい、アークお兄様も疲れていませんか?」
「私は怪我をしていないから大丈夫。」
「メイリンは起きて平気なのか?」
「大丈夫です。アダム様もお怪我はしていなかったのですね。良かった。」
「本当にすまなかった、メイリン。私と兄上のどちらかが馬車で守るべきだった…」
「ラルフ様。あの時は仕方なかったのです。」
「もっと言ってもいいんだよ?私達も含めて叱られるべきなんだ。」
「なぜですか?叱られるようなことはしていなかったはずですが…」
「それはメイが殿下の婚約者だからだよ?」
「婚約者だからですか?」
「そう。婚約式前に婚約者を怪我をさせたりしてはいけないんだ。だからちゃんと守らなければならなかったんだよ?」
「そうなのですね…」
「メイリンの言いたいことはわかっている。結果としては良かったかもしれないけど、本来メイリンから離れてはいけないんだ。」
「……」
私も闘うなんて思わなかったけど、
殿下達やお父様、お兄様達にご迷惑をおかけしていたなんて…
「申し訳ございません…」
「メイリンは謝らなくていいぞ?それより、護衛達と近衛兵達は訓練をさせなければいけないな。」
「そうですね。近衛兵や護衛がメイや殿下達に助けられているようでは意味がない。」
決して弱いわけではなかったけど、
護衛が全員馬車を離れては行けなかったのは確かです。
「しかし、私達はメイに助けてもらってばかりだな…」
「そんな事はないと思いますけど」
「いや。助けられてばかりだよ。魔法まで使わせてしまった。」
「私は殿下達やお父様、お兄様達にいつも助けて頂いているのです。だから恩返ししたと思っていただけませんか?」
「私達はメイを守るためにいるのだから」
「私はちゃんと守っていただいています。」
「メイ…」
なぜそんなに責任を感じなければならないのかしら?
戦うつもりはありませんでした。
もちろん、馬車で待つつもりでいました。
だけど、あの時は護身のために必要だと判断したのです。
もし、私だけではなくてお姉様まで何かあったら…
私と違ってお姉様は剣術も魔法も体術も習っていません。
魔法は学院で学んだから問題はないでしょう。
だけど戦う為の魔法の学習項目はありませんでした。
お姉様はちゃんと守られるべき存在なのです。
私は自分を守る術を持っています。
心は自分では守れないけど…
心はいつも、殿下達やお父様、お兄様達に守っていただいているのです。
もちろん、お姉様やお母様も私を守ってくださっています。
お姉様とお母様は私を想ってくださるだけでいいのです。
いつも助けてもらってばかりの私が今回お姉様を守ったり、
自衛のために戦ったり、
けが人のために治癒魔法を使ったりしても問題はないでしょう?
「お父様、ジャンお兄様、アークお兄様。私は皆さんが思っている以上に助けてもらっているのです。」
「……そうか。」
「はい。だからそんなに辛そうにしないでください。」
「「ありがとう、メイ」」
「アダム様、ラルフ様。お2人もそうです。いつも守ってくださっています。だから責任を感じなくていいのです。」
「メイリン…」
「…ありがとう、メイリン。」
ちゃんと言いたいことは言えました。
「あら?皆さんでどうされたのですか?」
「お母様!」
「ふふっ、メイは本当に可愛いわ。皆さん、朝食が出来ていますよ?」
「はい、今行きます。ね?」
朝食を終えて少したつと応援が来て、
新しい馬車と馬車の修理をしてくださる方がいて直してくださいました。
その後はちゃんと帰路につけました。
大変な事もありましたが、
旅に出られて良かったです。