望みを叶えてもらう悪役令嬢②
「メイ、休憩よ。起きなさい?」
「……お姉様?」
「ふふっ、おはよう。」
「…おはようございます。」
「「くっ…」」
「さぁ、降りましょう?」
「メイリン、おはよう。」
「アダム様?」
「最初の休憩だ。行こうか。」
「あ…申し訳ありません!」
「あはは。メイリンの寝起きは可愛いな。」
「そうでしょう?メイの寝顔は本当に天使のようなのです。」
「これはコールマン公爵家が過保護になるのもわかるな」
「お姉様も殿下達も恥ずかしいのでそれ以上は…」
恥ずかしい…
「では、ミリム嬢。あなたから手を…」
「はい、アダム殿下。」
お姉様がアダム殿下にエスコートされて馬車を降りていきました。
「さぁ、次はメイリンだ。手を。」
「はい、ラルフ様。」
「くっ…」
ラルフ様の手をとって馬車を降りました。
「「「メイリン!」」」
「はい。」
「「「アダム殿下とラルフ殿下に何かされてないか?」」」
「はい。何も…?」
「ふふっ、お父様達?私が一緒ですもの。何かあるわけないわよ。」
「それもそうだな。」
「ね?あなたもジャンもアークも心配ないと言っても聞かないのよ。」
「ふふっ、大丈夫です。」
心配性なのだから。
休憩の準備がされて、みんなでお茶を飲みました。
「メイはとっても楽しそうね?」
「はい。家族が揃ってお出かけなんて初めてですもの。」
「メイリン、私達もいるのだが?」
「はい?殿下達も家族になるのでしょう?」
「「くっ…」」
「可愛いと思ったら、可愛いと言えばいいのに。」
「ジャン!余計な事は言わなくていい。」
「なんだか複雑だ…」
ふふっ。
こうして家族は増えていくのね。
お姉様やお兄様達が結婚したら、
またお義兄様やお義姉様が増えて…
賑やかになっていくのはとても楽しみです。
アダム様は私を義妹としておつきあいしてくれるかしら…
そもそも、海に一緒に行きたいと言ったのは失礼だったかしら…
「メイリン?」
「はい?」
「ぼーっとしているが大丈夫なのか?」
「はい、大丈夫です。」
「そうか。何かあれば言うんだぞ?」
「ありがとうございます。アダム様。」
良かった…アダム様はちゃんと目を見て話してくれました。
「メイリン。」
「はい。」
「婚約の事は気にしなくていい。私はメイリンが好きだが、義妹に辛い顔をさせたくない。」
「アダム様…」
アダム様は頭を撫でた。
「さて、そろそろ出発のようだ。」
「はい。」
「メイリン、手を。」
「ありがとうございます、お義兄様。」
「くっ…」
アダム様が義妹と言ったので、お義兄様と言ってみたら…
顔が赤くなりました。
ひょっとしたらまた仲良く出来るかもしれません。
「兄上、メイリン!」
「アダム殿下…馬車が出ますよ?」
「メイ?なんだか嬉しそうだね?」
「何かあったのかい?」
「……秘密です!」
お姉様とお兄様達や殿下達がなぜか赤くなっていました。
「メイ!なんて可愛らしい!」
「お姉様…?少し苦しいです」
「あー…可愛い」
「馬車を出すぞ!」
また馬車に乗りました。
「メイ、なぜ海に行きたかったの?」
「見たことが、なかったからです。本では海には波があって、匂いがすると書いてあったの。どんな匂いがするのかしら…?」
「そうね。私はお友達と出かけたことがあるわ。」
「潮の香りがするのだ。」
「潮の香り…」
「わからないか?」
「はい。お塩の匂いがわかりません。」
「ふふっ、お塩ではなくて潮よ?」
「潮の香り…楽しみです!」
潮の香り…
どんな匂いかしら?
「アダム様やラルフ様は海に行ったことがありますか?」
「あるぞ。」
「そうなのですね!海は湖よりどのくらい大きいのですか?」
「比べようがない位大きいぞ。果てが見えないのだ。」
「すごいですわ!お姉様も見たことがあるのでしょう?」
「えぇ、あるわよ。殿下達とお兄様とアークと一緒にね。」
「まだ子供の頃に一緒に行った。」
「じゃあ、お姉様は2度目?」
「3度目よ。お友達と来たことがあるって言ったじゃない。」
「そうでした!」
「メイリンがこんなにはしゃぐならもっと早くに連れてきたかったな。」
「いいのです。危険だから外出出来なかっただけですから。」
「そうね、メイは美しくて愛らしいから危険がついてくるのよね?」
「美しいというのは大変だな?」
「言っておきますが、他国の王家と比較すると殿下達は最も美しい王子ですからね?」
「そうなのですか?」
「いや、周囲が大袈裟に言っているだけだ。」
「私達はそんな事は思っていない。」
「アダム様もラルフ様もきっと他国の王子様より素敵だということなのですね。」
「そうなのよ、メイ。」
「そんな事はないと思うが、メイリンに褒められるのは嬉しいな。」
「そうだな。」
ラルフ様もアダム様も照れているのかしら?
「メイリンは見た目は気にするのか?」
「見た目ですか?」
「そうよ。容姿のこと。」
「容姿…」
見た目?
どうかしら?
気にした事はないかもしれない…
「見た目を気にしたことはありません。私は殆どお兄様達と殿下達と一緒でしたし。」
「そう言えばそうかもしれないわ。危険だと思う方や相応しくない方はメイに近づけないようにしていたから。」
「学院に入るまではお茶会やパーティで少し顔を出すくらいで、すぐお部屋に入ってました。」
「そうか…でも私達もなかなか会えなかったではないか?」
「はい、お父様から近づかないようにと言われていました。」
「だって、殿下達に会わせたらメイを妃にと言ってくるに決まっているじゃないですか。」
「まぁ…そうだったかもしれない。」
「だから外出させなかったのよ?」
「そうだったのですね。」
「メイリンは気にしたことはなかったのか?」
「はい。」
「理由も簡単にしか言ってなかったわ。」
「よく納得できたな。」
「私の家族が言っているから気にする必要がないと思っていたのです。」
考えてみたら、理由はあまり考えたことがなかったわね?
「素直だから納得出来たのよね?私だったら文句を言ってるわ。」
「ミリム嬢ははっきりした性格だからな。」
「そうですわね。優柔不断はあまり好きではありませんから。」
「お、野営地についたようだな。」
もうすぐ暗くなるものね…
「メイリン。」
「はい。」
ラルフ様が手をとってくださって馬車から降りました。
「メイはもうラルフ殿下にエスコートされるの慣れたのね?」
「はい。殿下達はいつもエスコートしてくださるから慣れました。」
「最初は戸惑っていたけどな。」
「そうだな。とても新鮮な反応だった。」
「アダム殿下には私もよくエスコートして頂いていたのよ。」
「そうなのですね。」
「身分とミリム嬢の容姿もあってエスコートする機会が多かったな。」
「まぁ、幼馴染みだから。」
そうなのね。
身分…コールマン公爵家には一応、王家の血が混じっているから。
「野営は2人とも初めてか?」
「はい。」
「私も野営は初めてですわね。」
「今回はメイリンを街に連れて行くわけにはいかないから、特別だ。」
「申し訳ございません。私のせいで…」
「気にするな。」
「いいのよ、メイ。私達も野営は楽しみにしてたの。」
「そうなのですか?」
「野営って経験したことがないし、今後もないと思うから楽しみだったのよ?」
「私達は公務の時に何度かあるが、女性には少し厳しいかもしれないな。」
「そんなに怖いのですか?」
「野党や動物が襲ってくるかも知れないからな?」
「怖いわね…メイは大丈夫?」
「はい、大丈夫です。」
「メイリンは怖くないのか?」
「怖いですけど…殿下達やお兄様達がいますから」
「そうか。」
ラルフ様もアダム様も嬉しそう…?
「メイ。具合はどう?」
「お母様。大丈夫ですよ」
「そう?無理しちゃ駄目よ?」
「はい」
笑顔で返事を返すと、アークお兄様が
「(夜は大丈夫かい?)」
「(ひとりじゃないから、わからないです。)」
「(そうか。怖くなったら手を繋ぎにおいで?)」
「(はい。アークお兄様、ありがとうございます。)」
まだ空は茜色になり始めた所です。
暗くても、ひとりじゃないから大丈夫だと思うのですが…
「(メイ、アークはなんて?)」
「(はい、暗くなるけど大丈夫かと心配していただきました。)」
「(そうか…テントは大丈夫か?)」
「(テント…大きいテントですか?)」
「(3人入るからそれなりだと思うけど…)」
「お兄様?なぜ、メイと内緒話をしているの?」
「お姉様!」
「今、殿下に誘われたりしていないかを確認していたんだ。」
「メイが婚約者になったから?」
「そういうこと。」
婚約者になると誘っていただくのは良くないのでしょうか?
「良くないことなのですか?」
「メイ、2人きりだと良くないんだよ。」
「今までは大丈夫でしたが…?」
「あー…まぁ、今まではそうだね。」
「今までは?」
「今後は婚約者だからね。離宮で2人きりでとかは…」
なんだか言い難そう…?
「理由はわからないですけど、2人きりにならなければいいのですね?」
「そうね。メイはまだ未成年だから、16までは離宮で2人きりにならないようにね。」
「わかりました。」
成人までは離宮で2人きりで会ってはいけない…
理由は全くわからないけれど、ジャンお兄様とお姉様が言うのだからその通りにしましょう。