フライングした第二王子
【第二王子 ラルフ】
庭にいると通された。
私が贈ったドレスを着た美しいメイリンがいた。
「今日も美しい…」
近づくとテーブルに小鳥達が並んでいて、
うさぎ達がメイリンの足元を囲んで動けないようにしている?
更に近づくと私の足元にもうさぎ達が寄ってきた。
随分と懐かれたのだな?
背中にうさぎが体当たりして…
押してきた?
どんどんメイリンの所に押されている。
何かあるのか?
なかなか離れないから仕方がない。
「座るか。」
「でも…」
あ、ドレスだからな。
ポケットからハンカチを出して、
その上に座らせた。
近いな。
うさぎ達め…
いい仕事をしたな。
膝に乗ってきたうさぎを撫でた。
あまり目が合わないが…何かあるのか?
「メイリン、あまり目を合わせないようにしていないか?」
「申し訳ありません…」
やっぱりそうか。
「いや、何か理由があるのか?」
何か言いづらいことなのか?
少し待っていると俯いたまま答えた。
「あの…暗い所と狭い所が怖くて、夢を見て眠れないことが多くて…婚約は出来ないのではないかと…」
「申し訳ありません…」
「いや、違う。あー…婚約出来ないと心配しているのか?」
「はい」
驚いた。
本当にそんなことで悩んでいたのか?
「そうか…それは心配しなくていい。」
「…いいのですか?」
「構わない。あってもなくても。」
そもそも、そんなことでなかった事にしてたまるか!
「他にもあるのではないのか?」
「じ…実はすごく…すごく心拍数が上がってしまうのです。それにさっきの事を考えていたら、ここがぎゅーっとなるのです。」
「そうか…」
私を意識して、私と同じように好意を持ってくれたのだな?
胸をギュッと押さえていた。
それは胸が潰れるだろうに…
ニヤける口元を押さえた。
「はい…」
「メイリン、私にだけそうなるのか?」
「おかしいですよね…」
「いや、全然おかしくない。」
「でも、ちゃんと目を合わせられないんです。」
「私もそうだったぞ?」
「そうなのですかっ?」
「あはは、そんなに泣きそうな顔をしなくていい。」
「婚約の話がなくなると思っていたので少しほっとしました」
「なぜだ?」
「殿下達や家族に恥をかかせてしまうと思ったのです。」
恥などかくものか。
我々の力不足で危険な目にあってトラウマになったというのに…
我々が非難を受ける事はあってもメイリンに責任はない。
それに、普通なら責任とって結婚しろと言われるだろう。
「トラウマなんてあってもなくても関係ないから安心しろ。」
「はい」
あー…可愛い。
それに…
前よりもずっと美しいのだが…
まだまだ美しくなるのだろうか?
「婚約者を決めたのだな?」
「婚約…」
まだちゃんと決めていないのか?
「ラルフ様、頭を撫でてください。」
随分と可愛いお願いだな?
「いいぞ。」
望み通りに頭を撫でた。
メイリンは目を閉じて嬉しそうに微笑んだ。
「ラルフ様が…いいです」
「よし。」
「よし?」
「はー…長かった」
「そうなのですか?」
「いつ決まるか、ずっと緊張していた」
「私には短かったです…」
「そうか?」
「殿下達はお兄様達のお友達だと思っていましたから。」
「幼馴染みだからな。」
「だからどちらかと結婚するのだと思っていましたが、自分で選ぶのは難しくて…」
貴族はだいたい家同士の政略結婚だからな。
親から言われた相手と結婚するのだ。
嫌な時は嫌だと言うが…
メイリンは家族に言われたことに異を唱えたことがないと聞く。
嬉しすぎて抱きしめたくなった。
「侍女、護衛、近衛兵。全員後ろを向け」
後ろを向いたのを確認して、
メイリンにこちらを向くように言った途端にうさぎ達に体当たりされた。
バランスを崩したらメイリンを押し倒していたことに気づいた。
これは…
押し倒されているメイリンが美しすぎる…
この状況もあって顔が熱くなった。
本当は抱きしめるつもりだったのだが…
我慢が効かなくなって、思わず口づけてしまった。
初めてなのだが、やばいな。
このような行為は婚約をしてからなのだが、…
メイリンが理解出来ていないから小声で説明した。
だが、メイリンは小声で話していることに疑問を持ったようだ。
「まだ正式に婚約していないからだ。」
「では知られてはいけない行為なのですね?」
「そうだ。他人に知られてはいけない。特にアークやジャンには絶対に知られては駄目だ。」
絶対にバレてはならない。
恐ろしすぎる…
「わかりました。ではそろそろ退いていただけると…」
忘れていた。
「すまないっ!」
その後はお茶を飲みながら話をした。
私に決めたことを明日の朝イチで父上とコールマン公爵に報告する事にした。
仕事がまだ残っているから明日迎えに来ることを侍女にも伝えて執務室に戻った。
「殿下、早くしてくださいよ。休みとれなくても知りませんよ?」
「すまない。すぐやる。」
「殿下、ニヤけた顔をどうにかしてください。」
「あー…わかっている。」
「…決まったのか」
「あぁ。」
「ものすごく不快だ。」
あの事は絶対に知られては駄目だな。
殺されるかもしれない。
アークはその後黙々と仕事をしていた。
よく考えたらアークもジャンも兄上になるのか…
そうか、ミリム嬢も姉上になるのだな?
それにしても…
なぜうさぎはあのような事をしたのだろうか?
なかなかいいアシストではあるが…
今日会ったメイリンは今までで一番美しかった…
でも押し倒されているメイリンも美しかったな…
あの天使のような幼児が、
女神のようになるなんて…
いや、10歳の時にはもう美しかったな。
天使か女神か妖精か…
でも、まぁ…美しい事には変わりないな。
しかし、婚約をして満足して油断をするわけにはいかない。
婚約していても横から奪われる事もあるからな。
婚約者になったら今度は私かメイリンに嫌がらせが来るかもしれないし、
舞踏会や茶会などの心配も出てくる。
コールマン公爵家はとにかく過保護に育てていたからな?
色々と聞かなくてはな。
明日の婚約報告に向けて、
どのように話すかを考えなければ…
「殿下。口元をなんとかしてください。それとちゃんとやらないと明日の時間の調整しませんよ?」
「待て待て!ちゃんとやるから朝からの時間の調整を頼む!」
「わかったからさっさと仕事してくださいよ。」
不敬だが…メイリンの兄だ。
今後は兄上になるのだ。
言われた事はきちんとやろう。
気持ちを引き締めて、仕事を始めた。