父と恋文に胸焼けする悪役令嬢
【父ダニエル】
「メイ!無事か!?」
「お父様?」
「陛下から聞いたぞ!」
「ダニエル、落ち着いてちょうだい?」
「おかえりなさい、お父様。一体何を聞いたのですか?」
「第二王子にエスコートされてダンスまで踊ったらしいではないか!」
「不可抗力です、お父様。」
メイによるとお茶会が始まる前に庭の奥で小鳥と遊んでいたそうだ。
そこに第二王子が来て、お茶会が始まると言ってエスコートされたらしい。
ダンスに関しては、シエルとお茶会を抜けて帰ろうとしていたらダンスのお誘いを受けたと。
「ダンスも失礼な子爵令息から助けて頂いていたのでお断り出来なかったのです。」
「そうよ、殿下方がメイに声をかけようとしていたご令息達を遠ざけてくれていたの。」
なんてことだ…
どおりで陛下が機嫌が良かったのか。
第二王子がぜひまた会いたいと言ってきたらしい。
「やはり、今後お茶会は参加しないほうが…」
「それは無理では?」
「そういえば、第二王子がダンスの最中にまた会いましょうって言っていたわ。」
「それで!?」
「機会があればとお返事しました。」
…ダンス学ばせなければ良かった。
「いや、やっぱり必要最低限のお茶会以外は参加しないようにしよう。」
「それでは、またメイは友達が作れないわね?」
「…仕方ないですわ。」
婚約の申込がまた増えてしまったのだ。
我が家に届いた申込の中に熱烈な恋文もたくさん…
参った。
茶会は今日だったのに、今日だけであんなに恋文が届いたのだ。
「シエル、書斎に来てくれるかい?」
「えぇ、わかったわ。」
「今日来た婚約の申込と恋文だ…」
「え!?こんなにですか?」
「恐らく、例の失礼な者のもある。こいつだろう?」
「…そうよ!この方よ!?」
やはりな。
「彼は以前先触れもなく訪れた失礼なヤツだ。悪評も高いから絶対に近づけてはならない。」
「わかったわ。恋文はメイに見せなくていいの?」
「返事…させなくては駄目だろうな。以前は恋文がなかったが貴族令嬢として返事しなくては。」
「そうね…」
「この量は今日来た分だから、明日以降増えるな。」
殿下がいたから助かった部分もあるようだ。
殿下からお茶に誘われたら断れないかもしれない。
「殿下とはどうだった?」
「メイはかなり警戒していたわね。楽しそうにお話していたけれど。」
婚約させなくても、話相手にして周囲を遠ざけるか?
それだと、あっという間に陛下の思う壺だ…
これはまた家族会議だな。
お父様が山のような手紙を持ってきた。
「お父様これは?」
「メイ宛の恋文だ…」
は?
「恋文ですか?」
「恋文だ。」
「なぜこんなに?」
「今日のお茶会で一目惚れしたということらしい。」
「お父様は読みましたの?」
お父様は深い深いため息をついた。
読んだのね。
「胸焼けで少し気持ち悪くなってしまったよ。」
「そんなにですか…」
嫌です。
読みたくないです。
ラブレターは前世も今世も初めてだけど…
胸焼けするなら読みたくないです。
「ちなみに、読んだとしてお返事は必要ですか?」
「必要だろうな…」
「今日のマナーの悪い方は?」
「無視でいい。」
わぁ、お父様がイラついているわ。
困ったわ。
「私、恋文のお返事なんてわかりません。」
「そうだな。家族会議で考えてみるか。」
「誰1人きちんとお話しなかったものね。」
「そうなの。お母様のお友達と失礼な方と殿下方だけよ?」
「かわいそうに。ご令嬢達も声をかけようと様子を見ていたようだけど、男性達が取り囲んでいたから近づけなかったのよ。」
「最悪だ。」
家族が揃うまで一生懸命に読んだ。
うーん…
「お父様…」
「どうした?」
「手紙を読んでも胸焼けってするのですね…」
「私も初めてだ。」
「あら、恋文ごときで?」
「お母様、読んでみてくださいませ。」
お母様に手紙を渡した。
だんだん、お母様の眉間にシワが…
「これは気持ち悪いわね…」
「ね?」
「見たら学院に通っていたり、年上じゃない。何を学んでいるのかしら?文章が酷いわ。」
その通り。
随分と年上なのに、小学生レベル。
好きだ、とか。
愛してます、とか。
一方的だし、
全然ときめかない。
これ…
「返事しなくてもいいかしら?」
あ、思わず心の声が…
「そうね、返事が欲しいというよりも婚約をしたいに繋がっているわ。」
家族会議がスタートした。
「何よ、これ!」
「気持ち悪いな。」
「よくこんな手紙を出せたものだ。」
「そうなんです。」
「私もメイも胸焼けをしたよ。」
「そうね、胸焼けはしなかったけれど恋文には遠いわ。」
「この方なんて、例の失礼な人よ?」
「そうだ。先触れなしで我が家に来た無礼者だ。」
「そんなヤツに返事など必要ないでしょう。」
「お茶会でも失礼な人だったわ。」
「全部ダメダメね。」
「えぇ、どうしましょうか?」
「ひとつだけ手紙を書いて、全て同じ文章にしたらどうだい?」
「ジャンお兄様、それがいいわ!」
「そうね、今日だけでこれだけ来たのだもの。明日以降も届きそうね。」
「お姉様も返事は書いているのですか?」
「メイほどではなかったけど、たくさん来るわよ?ばっさりお断りしてるけど。」
「私も来るよ。俺は誰1人書かないことにしている。最初の頃に何通か返事して断っていた。でも返事が来ただけでしつこいんだ。」
うわぁ~
「アークお兄様は筆不精ということにしたのですね?」
私は同じようには出来ない…
でもしつこそうな方が結構あったのよね…
「私も返事出さないほうがいい気がしてきました。」
1週間様子を見て、
ヤバそうな人の手紙は返事を出すのをやめようかしら?
「しつこそうな方には返事を出さないようにしたら駄目かしら。」
「そうよね。しつこい人に出すと何度も来るかもしれないし。」
「メイが返事するのは父上と母上に決めてもらったらどうだい?」
「私が決めるなら出さない。」
「ダニエル、元も子もないわ。」
「ではお母様に選んでいただいてもよいですか?」
「私とミリムじゃ駄目かしら?」
「私は構いませんわ。」
「お母様、お姉様ありがとうございます。」
「いいのよ。」
「可愛いメイに厄介な虫がついては困るもの。」
「ミリム、虫は言い過ぎではないか?」
「あら、お兄様。虫でなければなんだと言うのですか?」
「…虫でいいか」
「兄上、虫でいいと思いますよ。」
「そうだな。」
お父様も苦笑い。