少しお寝坊した悪役令嬢
「メイリン様っ!」
はぁ、はぁ、はぁ…
「メイリン様、大丈夫ですか!?」
「…あ…はい…」
「まだ…いえ、すごい汗ですわ。」
あれからもう2週間くらい経つかしら?
まだ夢に見てしまって…
「ごめんなさい…」
本当に迷惑をかけてしまっているわ…
「大丈夫ですか?お風呂に入って着替えましょう。」
「ありがとう…」
食事はようやく以前と同じくらいに食べられるようになりました。
なので体型は元に戻ったのですが…
暗い所と狭い所がまだ。
それに夢を見てしまうのです。
どうしたら…
「メイリン様。お待たせしました。」
「はい。」
お風呂の準備をしてくれたのでお風呂に入りました。
「毎日ごめんなさい…」
「いいのですよ。今度からは順番にベッド横にいるようにしますね。」
「それはだめよ。」
「いいえ。メイリン様はちゃんと眠らないと、身体が持ちませんよ?」
「でも…」
「それなら、毎日起きる時間を遅くしましょう?」
「それは公爵令嬢として」
「いいのですよ?安心して眠れるようになるまでですから。」
いいのかしら?
このままでは婚約なんて…
「大丈夫です。夜は必ず私達が順番についていますし、うなされた時は遅く起きるようにしましょう。」
心遣いに胸がいっぱいになってしまいました。
「あらあら。目が腫れてしまいますよ…?」
「ふふっ、ありがとう…」
「さぁ、着替えて眠りましょう?」
「はい」
ベッドのシーツも替えてくれていました。
その後も眠れるまで横にいてくれました。
いつもより遅く起きました。
「おはようございます、メイリン様。」
「おはよう。」
「先程、アーク様とジャン様が見えましたよ。」
「そうなのですか!?どうしましょう…」
「ふふっ、大丈夫です。起きたら知らせるとお伝えしてあります。」
「ありがとう…」
「では、支度をしましょう。」
「はい!」
お兄様達に会える…
最近はとてもお忙しいようで、殿下達もお兄様達もお父様もお会い出来ていません。
とても嬉しい…
「あ、隈はできていないかしら?」
「少し出来ていますね。少しお化粧をしましょう。」
「お願いします。」
「ふふっ、本当に仲が良いですね。」
「とても大事な家族だもの!」
「さぁ、今日もお美しいです。そろそろアーク様とジャン様がお見えになりますよ。」
客室に行くとお兄様達と殿下達が待っていてくれました。
「お待たせして申し訳ありません。」
「おはよう、メイ。」
「今日も綺麗だよ。」
「ごめんなさい、お寝坊して…」
「アダム様、ラルフ様。ごきげんよう。」
「なかなか会いに来れなくてすまなかったな。」
「メイリンに会いたいのに時間を調整してくれなかったのだ。」
「ふふっ、お忙しいのですね。」
「そろそろお腹が空いてきたな。」
「軽食を用意してもらおうか?メイはまだ何も食べていないだろう?」
「はい。」
侍女が急いで準備に向かいました。
「さて、メイ。聞いたよ?」
「え?」
「今もまだうなされているのだろう?」
誰かが話したのかしら?
「メイリンはあまり眠れていないのか…」
「いえ…ちゃんと寝ていますよ。」
「ウソはつかなくてもいいよ?」
「はい…」
「私達の責任だな。」
「そんな事はありません!」
「今は責任とかはどうでもいい。」
「ミリムや母上に来てもらおうか?」
「お姉様やお母様にご迷惑が…」
「とても心配しているんだ。」
「そうだよ?」
「それと殿下達のお休みを数日まとめてとったから一緒に過ごすといい。」
ふっと殿下達のほうを向くと、笑顔でこちらを見ていました。
ラルフ様と目が合って心拍数が上がりました。
「メイ?」
「どうした?」
「なんでもないですっ」
慌てて心拍数が下がるように深呼吸しながら胸を押さえました。
「……」
「……」
「……」
「……」
「お腹が空きました。」
「そうだったな。じゃあ軽食を食べて、お茶をしながら今度のお休みに何をするか考えよう」
「そうだな。」
なんでしょう?
ラルフ様をあまり見てはいけない気がします…
「メイリンは少し遠くに出かけるならどこに行きたい?」
「遠く?」
「そう。殿下達と私達と遠くに出かけようと思ってるんだ。」
「陛下があまりにもメイが可哀想だと言っていてね。護衛は多くなってしまうが遠出をする事になったんだ。」
「それでお休みなのですか?」
「そうだ。どこに行きたい?」
「え…どこかに…?」
「ないのか?」
遠出…
初めての遠出…
行ってみたい所…
「星が見たいです!あと、海が見たいです!」
「あはは。見たことないもんな?」
「星くらいはあるだろう?」
「基本的に暗くなったらカーテンを締めて室内に入るようにしていたのです。」
「危ないから。」
「はい。だから、夜は窓に近寄ってはいけないのです。」
殿下達は驚いているようです。
「なんだか過保護過ぎないか?」
「夜は変なヤツがどこに隠れているかわからないじゃないですか。」
「小さい頃にメイを攫いに来たヤツがいたんです。」
「そうなのですか!?」
「メイリンは知らなかったのか?」
「はい。初めて聞きました。」
「メイは賢いからそんな事を聞いたら、ずっと記憶に残るじゃないか。」
「確かに2歳くらいからの事はだいたい記憶にあります。」
「言えないな…」
「でしょ?」
本当に驚きました…
それで夜は窓に近づいてはいけなかったのね?
「それでなんだけど、コールマン家はみんなで行こうかって思うんだ。」
みんなで?
「メイ、どうする?」
「お姉様とお母様とお父様も?」
「そうだよ。」
「嬉しい!」
嬉しすぎてお兄様達に抱きついてしまいました。
「あ…申し訳ありませんっ」
「ジャン、アーク。なんだか腹が立つな…」
「メイリン、私達に抱きついても良かったのだが…」
「え?」
「ラルフ殿下。私達の妹になんて事を言っているのですか?」
「アダム殿下も私達の妹が可愛いからって睨まないでもらえます?」
殿下達に抱きつく?
「いくらなんでも殿下達に抱きつくなんて…」
出来るはずがありませんっ
口にするのも恥ずかしくて俯いてしまいました。
「「くっ」」
「メイ。ほら、こっちに座りなよ。そっちは危ないからね?」
「いかがわしい事を考える殿下達は相手にしなくていいぞー?」
「いかがわしい事を考える?」
「いや、そんな事はないぞ!?」
「…そうだな…」
「アダム殿下…」
「うわー…」
「え…?」
「兄上。良くないと思います。」
「ジャンお兄様?」
「メイは気にしないでいいよ。」
「そうそう。アダム殿下、見損ないました。」
「兄上、私も少し残念です…」
「いや、待て待て待て待て!」
どういう事かしら?
「じゃあ、メイリンを海に連れて行こうか。」
「いいのですか?危なくないですか?」
「これだけ大所帯で出かけるんだから、それなりの護衛がつくし、大丈夫だ。」
「油断はしない。」
「メイは楽しみに待っていてくれればいいからね。」
「はい!」
ふふっ、海なんて初めてです!
「(メイリンが可愛い…)」
「兄上、そんな当たり前な事を小声で言わなくても…」
「海には何を持っていけばいいのですか?」
「それはミリムと母上に相談して用意するといい。」
「はい、ジャンお兄様。」
「ラルフ殿下もアダム殿下もいかがわしい事を想像しないでくださいね。」
「いかがわしい事を想像?」
なんの事を言っているのかしら?
殿下達はとても焦っているようだけれど…?
「メイリン。違うからな?」
「はい…?」
何を言っているのかよくわからないけれど…
「わかりました?」
「わかっていなくて良かった…」
「どういうことでしょうか?」
「メイ。気にしないで。」
「はい…?」
「ほら、首を傾げたら駄目だろう?」
「そうでした!」
「そうだ。今日の夕食の後に父上が来てくれると聞いたよ。」
「そうなのですか?ふふっ」
「さて、殿下。そろそろ行きましょうか。休みの為に。」
「わかった。」
「ラルフ殿下も行きますよ。」
「わかっている。メイリン、またな。」
「はい、勝手に頭ぽんぽんしないでくださーい」
「ふふっ」
「「ぐっ」」
「殿下達もお兄様達もお仕事頑張ってくださいませ。」
「メイ、無理はするな。」
「はい、ジャンお兄様…」
「何かあったら、すぐに言うんだよ?」
「はい、アークお兄様…」
お兄様達は抱きしめて頭を撫でていかれました。
帰り際にアダム様が「無理はしないようにな?」と言って頭を撫でていかれました。
今ドキッとしたのにアダム様がお兄様達のように見えました。
なぜかしら?