城内で調査をする第一王子
【第一王子 アダム】
メイリンが攫われた。
エスコート役は最初私だった。
だが、ミリム嬢のエスコートに変更になった。
ミリム嬢のエスコートとメイリンのエスコートが年齢の事も考えて変更になったのだ。
もし、私がエスコートをしていたら攫われたりさせないのに…
いや、どちらにしても攫われていただろう。
あの時、先に目覚めたラルフが起こしてくれて現状を理解した。
理解をした頃には、ラルフは救出の為に指示を出し始めていた。
完全に起きた私はラルフに謝ったが、
父上と母上の無事を確認して来るように言われた。
ラルフはこんなに頼もしく成長していたのだな…
戻ると、捜索隊を編成してコールマン公爵に指揮をとって準備させるように指示をしている所だった。
「ラルフ、私も捜索に…」
「兄上は城に残って、犯罪者の調査をお願いします。」
「わかった。」
そうだろうな…
私は第一王子で次代の王だ。
第二王子であるラルフが外に出るほうが正しい。
正しいが、もうメイリンを妃には出来ない気がする。
今、こんな事を考えている時点で負けてしまっているのだ。
そう考えたが思ったよりもショックが少ない事に気付いた。
まだ今ならメイリンを妹として見れるのかもしれないな。
メイリンが妹だったらと考えていた頃がある。
私にはもう少し、年齢の近い妃が…
今はこんな事を考えている暇はなかったな。
「捜索隊以外の者10人は、参加者の顔と名前の違う者がいないかを確認!」
「はっ」
「10人は城内の侵入者の捜査!」
「はっ」
「5人は離宮の捜査、20人は城下の調査。残った者は城の外の警備を頼む!」
「はっ。」
「アダム殿下。ありがとうございます。でも、これでは婚約が…」
「コールマン公爵。仕方がない…それに駄目だったとしても思ったよりもショックが少ないようだ。」
「そうですか…どちらを選んでも申し訳ないと思っていましたが、思った以上に苦しいですな…」
「…そうか。さぁ、調査をしよう。」
「はい…殿下には…いえ、調査に向かいます。」
「私は参加者の確認に向かおう。」
「では、私はあの時の煙に関しての調査を。」
「わかった。それが終わったら合流して、使節団とコルン国王への報告と苦情に関しての相談だな?」
「そうですな。それは陛下も参加して頂きましょう。」
しばらく確認して、参加者の中で顔と名前が一致しない者がいた。
「お前は…どこの者だ?」
「…名前の通りですが?」
「捕らえろ。」
「なぜですか、殿下!?」
「顔と名前は覚えている。」
「くそっ」
1人見つかると、その後はすぐに見つかった。
恐らく、確認が遅いほうが認識が遅いと思っていたのだろう。
全部で4人。
「確認は終わった。その者達は廊に連れて行け。」
「はっ」
「まだ城の外に出られていない侵入者がいるはずだ。先に城内の調査に行った者達と合流して早急に調査を進めろ!」
「はっ」
指示を出した後、父上の執務室で合流した。
「アダム。ダニエルから聞いたが…」
「父上。その話はもう…」
「そうか…」
「ラルフ殿下は3方向に分かれて捜索に出たようです。」
「ラルフも立派に頼もしくなったのだな…」
「はい、指示を出している時は焦ってはいましたが冷静に対応していました。」
「そうですな…おかげで私も冷静になれました。」
「そうか…」
「それで使節団の事と、今回の舞踏会に関しての苦情をどうするかですが…」
「それは伝書鷹に書簡を託して急ぐ。早馬を出すとラルフに行かせたほうが早いはず。」
「そうですね。」
「早急に書簡を出してくれ。」
「かしこまりました。」
「使節団の対応ですが、3方向に分かれて向かったなら遭遇するはずです。」
「だとすれば、遭遇せずに来たなら状況を説明して軟禁にするか…」
見張りは複数人必要だな。
もし、それより早くコルン国王から書簡の返事が来れば…
「アダム、ダニエル。少し休憩しよう。今出来る事は全てやったのだ。」
「そうですね。あとはメイリンの救出が間に合えば…」
「ラルフなら大丈夫なはずだ。2人とも信じろ。」
「はい。」
今日は連絡もなければ、使節団の来訪もメイリンの救出の報告もなかった。
翌日、使節団が城下にいるのを近衛兵が確認した。
入国審査を受けてまっすぐ来たそうだが…
「父上!」
「興奮はわかるが、もう少し落ち着いて入って来なさい。」
あ…
「申し訳ありません。」
「仕方がないですよ。私も同じ事を言われましたから。」
…だろうな
「書簡も届いた。」
「え?」
読ませてもらうと、使節団の事は報告も相談も受けていないらしい。
公務や執務は高齢になった為、王子達に任せていたらしい。
先に側近達が王子達の調査を行い、
国王自ら王子達を連れてわが国に向かうという事だった。
「ほぼ王子達が実権を握っていたのですね。」
「王子達も連れて来るなら、解決までは早く済むな…」
「私はメイリン嬢さえ無事でいてくれたら…」
「ありがとうございます…」
コールマン公爵は憔悴している。
これがメイリンの家族なのだな…
家族の一員になれないのは残念だ。
「失礼いたします!」
ミリム嬢?
「お父様!陛下!アダム殿下!メイはっ!?」
「ミリム…落ち着きなさい。まだラルフ殿下からの連絡はない…」
「メイに何かあったら…」
「ミリム嬢。ラルフが必ず連れ帰る。信じて待っていてくれ。」
「アダム殿下…」
「ミリム…少し休みなさい。」
「そうだな、ミリム嬢。目の下に隈ができている。寝ていないのだろう?」
「メイを思うと眠れませんでした。」
父上や母上、ラルフと私にも家族がいるのだが、家族の形はそれぞれだな…
本当に羨ましい家族だ…
「どうやら使節団が到着したようです。」
「アダム殿下!…お願いします…」
「必ず解決してみせる。」
「ミリム、ここで護衛達と待っていなさい。」
「ダニエル。行くぞ。ミリム嬢、ここで休んでいるといい。」
「はい…」
コールマン公爵はミリム嬢の頭を撫でて、父上と私とで客室に向かった。
客室に入ると不機嫌そうな使節団が待っていた。
「待たせてすまなかったな。」
「どういう事ですか?我々が一体何をしたというのですか?」
「昨日事件が起きたものでな。警備が厳しくなっている。」
「それはそちらの都合でしょう?」
「それに舞踏会はなぜ終わっているのですか?」
「貴方方使節団は昨日到着するはずでしたが?」
「少し道中で問題が起きたのです。」
「それなら連絡を入れるべきでは?」
「私達はそんな事をしている余裕がなかったのです。」
「そうですか。では今回どの道を通って来られたのですか?」
「私達は通常の道の横の木々に隠れてやって来たのだが?」
隠れていれば遭遇しないとでも思っているのか?
「そちらには昨日、うちの第二王子のラルフが向かっていたはずだが、お会いしませんでしたか?」
「そうですね、お迎えに行って頂いています。」
「お会いしませんでした。」
まだしらを切るのか。
「それと、こちらはコルン国王からの書簡です。」
「そんなはずは!?」
「国王は王子達を連れて、この国へ来訪されることになりましたので。」
「そんな事を勝手に」
「そもそも正規に入国されていればすぐに連絡が入る事になっています。」
「とりあえず、国王からの書簡の通りにこちらの監視下のもとお待ちいただきます。」
あとは、メイリンの帰還と国王の来訪待ちだな。
「では私達は失礼する。」
客室を出て執務室に戻った。
「お父様!」
ミリム嬢が待っていたのだな。
「ミリム。メイリンの事はもう少し待とう。ラルフ殿下とアークとジャンが必ず連れて帰ってくれる。」
「信じて待っていてくれ。」
「お父様、アダム殿下…」
「さぁ、シエルも屋敷で待っているのだろう?何かわかり次第連絡するから帰っておきなさい。」
「はい…」
「コールマン公爵、屋敷まで送ってあげたらいいのではないか?」
「そうだな。ダニエル、ここはいいから送って来なさい。」
「…では、そうさせていただきます。」
コールマン公爵はミリム嬢と執務室を出ていった。
「アダム。お前も少し休みなさい。」
「はい。」
「アダム。婚約者の件は…」
「父上。その話はもう少し…」
「そうだな…すまない。」
気を使わせてしまった。
正直…しばらくその話はないだろう。
メイリン…早く帰って来い。
どうか無事でいてくれ。
ようやくメイリンが帰還する事になった。
馬車で連れ去る途中で見つけたそうだ。
どうやら雇われた平民らしい。
間違いなく、コルン王国の王子達の仕業だ。
ミリム嬢とコールマン公爵夫人も駆けつけて、
メイリンを待った。
そろそろ…
来た…
無事で良かった…
「「「メイ!」」」
「メイリン!」
良かった…
「お父様、お母様、お姉様。ご心配おかけして申し訳ありません。」
「メイが謝ることではありませんわ。」
「そうだよ。」
「それにアダム様もありがとうございました。」
「私は何も…」
メイリンの為に何も出来なかったからな。
「犯罪者を探したり、ご尽力頂いたと聞いているのですから何もしてないわけではないでしょう?」
「それは…」
「ありがとうございます、アダム様。」
あぁ…この美しいメイリンはもう手に入れる事は出来ないのだな。
メイリンは美しい。
それに最近は欲情が湧いてしまうほどに色気も出てきていて、
触れたくなってしまう。
だが、それはもう叶わないだろう。
ラルフも同じ事を考えるのだろうか?
考えるだろうな。
もう成人した立派な男だ。
もしかしたら私より紳士的な男なのではないだろうか?
弟に好きな女性を横取りされるなんて…
横取りではないか。
そもそも、まだ婚約者ではなくて私達の婚約者候補だったな。
またメイリンの事を考えてしまった。
まだ諦めきれていないのか?
それともまだ諦めなくてよいのだろうか…
いや…恐らくメイリンはラルフを選ぶだろう?
まだはっきりと聞いていないが…
とりあえず。
今日はもう休もう。
メイリンも無事に帰れたのだから。