必死に救出をする第二王子
【第二王子 ラルフ】
気がつくと…
メイリンがいないことに気づいた。
周囲は皆倒れていた。
そうか…
あの時に攫われたのか…
「兄上!アーク!ジャン!ミリム嬢!起きろ!」
少し離れた所にコールマン公爵も倒れていた。
「これは一体…」
「メイリンがいない!」
「ラルフ殿下!メイは!?」
「いない!早く探さなくては!」
「メイが…メイはどこにいるのですかっ!?」
「わからない。私も今目が覚めた所だ。」
周囲を見渡すと他も倒れている者と同じように目が覚めた者がいた。
「参加者がちゃんといるか確認を急げ!」
「兄上!目が覚めましたか?」
「メイリンは!?」
「いえ…申し訳ありません…」
私がもっとしっかりと捕まえておけば…
「ラルフ殿下。メイは連れて行かれたのですね…?」
「すまない…」
「いえ。私達も含めて皆が倒れていたのですから、仕方ありません…」
「護衛と近衛兵もやられていたのでは無理もありませんよ。」
「どうする!?」
「探すに決まっている!」
早く探さなくては!
「兄上!すぐに捜索隊を出しましょう」
「あ…そうだな…」
兄上はまだ頭がぼーっとしているようだ。
「ラルフ殿下。すぐにメイを探しましょう。」
「そうだな。わかっている!」
「お願いします、ラルフ殿下。メイを探してくださいませ…」
ミリム嬢も公爵夫人も泣いている。
「どうだ?参加者は全員無事か?」
「はい。参加者は全員確認出来ました。」
「では捜索隊を編成しろ。急がねばならない。」
「はっ」
「ラルフ殿下、申し訳ありません。指揮をさせてしまって…」
「コールマン公爵。謝罪はいらない。すぐに指揮をとれ。私は捜索隊をまとめられん。」
「はっ。すぐに。」
あの乾杯からどれくらいの時間が経ったのだ?
「ラルフ。すまん。」
「兄上。謝ったりしている場合ではありません!父上と母上の無事を確認してきてください。」
「わかった!」
「ラルフ殿下。」
「アーク!私も捜索隊と一緒に出るつもりだ。お前はどうするんだ!?」
「私も捜索隊に加わります。直ちに馬の準備をして参ります。」
「ジャン!医師を呼んで全員を診てもらってから参加者を帰らせろ。」
「はっ!ラルフ殿下、私も…」
「当然お前も捜索隊に加われ。」
早く助けに行かなければ…
メイリン…
使節団と関係ないとは思えない。
「ラルフ殿下。」
「どうした?」
「間もなく捜索隊が動けると思います。私も行きたいのですが…」
「コールマン公爵には残って欲しい。城内に怪しい者がいたはずだ。」
「そうですね。では直ちに調査を」
「あと、使節団と別の可能性もある。万が一、使節団が来た場合の準備も。」
コールマン公爵はまだ頭が回らないのか…?
「メイリンは必ず連れ戻すから心配するな。アークとジャンも捜索隊として連れて行く。」
「わかりました。」
「兄上!」
兄上は動揺しているようだ。
「ラルフ。私も捜索隊に加わって」
「兄上は残ってください。城内の調査と犯人の調査。使節団が関係していた可能性もある。」
「そうだな。使節団の意図がわからない以上は両方の対応が出来るようにしなければ。」
「その通りですね。万が一関係があったとすれば戦争になるかもしれません。」
「あまり治安の良くない国だ。複数の国から援助をもらっていると聞く。」
「メイリンから聞きましたね。援助を受け続けなければ成り立たない国なら警戒は必要だと…」
考えればやはりおかしい国だ。
メイリンが言っていたな。
この国以外の国に援助をもらっているのに、
この国だけ援助の申し出がないのは不自然だと…
メイリンを人質に?
それともメイリンが欲しかった?
メイリンの事をなぜ知っている?
内通者か諜報部隊がいるのか…
「ラルフ殿下。捜索隊が準備出来ました。」
「わかった。すぐに行こう。」
「見事な采配でした…」
「第二王子でも役に立つだろ?」
「はい。役に立たないと言った事はないですけど、どうかメイをお願いします。」
「言われなくてもわかっている。メイリンを連れて帰る。行くぞ、ジャン、アーク!」
「「はっ」」
必ず助ける。
「もし使節団が来るならこのルートだな。」
「援助をしてる国がこっちとあっちか…」
「私は可能性の高い使節団の方向に向かう。アークとジャンも一緒に来い。」
「そうですね、可能性が高い方向に我々も向かいましょう。」
「近衛兵は私達に10人ついて来い。残りは二手に分かれて迎え。」
「途中で使節団に遭遇したら王城まで案内しておけ。遭遇しなければ、入国して城に行って協力を申請して戻ってくれ。」
「協力を申請したら2人が王城に戻って報告してくれ。」
急いで別れて馬で駆ける。
確か馬車で4日はかかると聞いている。
食料と水を最低限積んでおいた。
この方向に向かったとして、分岐点はあるはずだ。
その際はまた別れて向かう事になる。
分岐点は2つ。
「殿下!」
「なんだ、アーク!」
「メイの為にありがとうございます!」
「見事な采配でした!」
「私が守るべきだったのだ!礼など言うな!」
「そうは言っても、私達も護衛としてついていましたから!」
「そうだったな!でも私の婚約者候補だ!」
「そうでした!責任とってください!」
「お前達、兄弟揃って性格悪いな!」
「今更です!」
馬に乗っているから、ほぼ叫んでいるような会話だ。
ついて来た近衛兵も少し笑っている。
そんな状況ではないというのに。
分岐点までもう少し。
必ず、人目につかないほうを通るはずだ。
近衛兵には分岐点で3人と7人で分かれる事になっている。
「分岐点だ!お前達、そっちは頼んだぞ!」
「はっ」
よく考えると、こうして近衛兵を指揮するのは初めてだな。
「殿下がこんなに采配が出来るとは思っていませんでした!」
「そうですよ!アダム殿下より頼もしいです!」
「私が一番驚いている!メイリンの命と貞操がかかってるからな!」
「殿下!私達の感動を返してください!」
「なぜだ!?」
「メイの貞操の事を考えるとか失礼でしょうが!」
「そうか!?あちらの国には3人の王子がいるんだ!心配するだろう!」
「確かに!」
「じゃあ、返さなくて結構です!」
なんなんだ、この兄弟は…
「お前達、溺愛がすぎるぞ!」
「仕方がありません!」
「私達はメイがいるから結婚出来ないぐらい大事にして来ましたから!」
「メイ以上の令嬢なんていないでしょうが!」
「確かにな!」
「殿下!」
「止まってください!」
なんだ?
あれは…
馬を止めて、近衛兵に確認させた。
近衛兵が報告に来た。
「死体です。」
「はあっ!?」
見てみると貧しい平民のようだ。
その場を見渡すと馬車の車輪の後が前方と後方で2種類。
「乗り換えたか…」
「そのようですね。」
「分かれた近衛兵を戻しましょう。」
火を焚いて狼煙をあげた。
「少し休憩して応援を待ちましょう。」
「そうだな。仲間を殺すような相手だ。」
「馬車で移動しているならまだ時間はあります。」
「メイリンを連れて行く理由は侍らせたいか、妃に望むかどちらかだな。」
「戦争になるのでしょうか?」
「わからん。王子の謀なら王がどう采配するかだな。」
「納税もかなり高くて治安も悪く、貧富の差が大きいらしい。」
「ようやく合流出来た。行くぞ。」
「はっ」
そこからは緊張で話も出来なかった。
剣を使って闘うのは初めてだ。
それはアークも同じ。
ジャンは2度経験しているらしいが、自信はあまりないそうだ。
どうやら、メイリンのほうが強いようだ。
剣を渡すのは自衛の為と聞いていたが…
その場にいたら私も自信をなくすかもしれないな。
間もなく2日目の夜を迎える。急がなければ。
更にスピードをあげた。
見つけた。
あの馬車。
きっとそうだな。
「お前達、回り込んで馬車を止めろ!」
「殿下。行きましょう。」
「あぁ。」
「メイがいるのか…?」
『なんなんだよ!?』
『ふざけるな!』
『俺達は荷物を運んでいるだけだろ!』
「悪いが中を改めさせてもらうぞ。」
『なんなんだよ!』
「うるさい。」
「中に見られて困る物でも入っているのか?」
「殿下。」
「見張っておけ。」
馬車に乗り込むと大きな箱が開かないように施錠されていた。
間違いない。
鍵を壊して中を覗き込んだ。
いた…
やっと見つけた。
「メイリン!」
メイリンは夢から覚めたような顔をしている。
「メイリン、待たせたな?」
「ラルフ様?」
「そうだ。メイリン、無事で良かった…」
「ラルフ様っ!」
よほど怖かったのか、泣きながら抱きついてきた。
「守れなくて悪かったな?」
メイリンはぶんぶん首を振って答えた。
傷などは見た感じなさそうだ。
ホッとして少し力が抜けた。
メイリンの身体は震えが止まらない。
「ジャン!アーク!いたぞ!」
「「メイ!」」
メイリンは立てないようだ。
ジャンとアークが駆け寄ってきてメイリンを抱きしめた。
兄弟にさえ嫉妬してしまうのか…
我ながら心が狭いな。
「そいつらを捕らえろ!」
「はっ」
馬車を引いていた犯人を捕らえて、近衛兵に馬車を引かせることにした。
メイリンを馬車に乗せておこうかと思ったが、犯人と乗せるわけにはいかない。
「私が乗せて行くが?」
「はぁ…お願いします。」
メイリンを前に乗せて、走る。
「寒いか?」
「ラルフ様が…温かいです。」
くっ…
「もっともたれていいぞ?」
「はい…」
猫みたいだな。
なんだ、この可愛さは。
気がつくと…
寝てる?
仕方なく…本当に仕方なく、
落ちないようにギュッとしてあげた。
アークとジャンが睨んできたのだが…
「寝てしまったのだ。」
「…ナニモイッテマセンケド」
「ソウデスネ、トクニナニモイッテマセン」
こいつら…
メイリンを大事に連れ帰る為にゆっくりと進んでいるから、時間がかかる。
野営をする事になった。
「メイ、寒くないか?こちらにおいで?」
「はい、ジャンお兄様。」
「しかし、なぜ携帯食料はこんなにまずいのだ?」
「文句を言わないでくださいよ。」
「そうですよ。軽量するからコレになったんですから。」
「申し訳ありません、私のせいで…」
「殿下、メイに謝らせるなんてひどい。」
「本当に。」
「不敬ですよ?ラルフ様、大丈夫ですから。」
くっ…
「さぁ、疲れただろう?少し眠るといい。」
「ありがとうございます。」
「私にもたれていいよ。」
「アークお兄様、ありがとうございます。」
アークもジャンも遠慮がないな…
違うか。
大事な妹を甘やかしたいのかもしれないな。
そう思うとほのぼのとした気分になれた。
メイリンは助けられた時は3日は経っていると思っていたらしい。
箱の中にいたのだ。
きっと長く感じたのだろう。
メイリンは眠ってしまったらしい。
「メイはだいぶ落ち着いてきたようだね?」
「そうだな。助けられて良かった…殿下の予想は外れてなかった。」
「私の予想か?」
「命と貞操だろう。」
「あぁ。」
向こうの国の第一王子が第二王子に献上して王位継承権と交換するつもりだったらしい。
「それにしても、何故メイリンの事を知っていたのだ?」
「さぁ…それは聞いてみないとわからないでしょうね?」
「そうだな。メイは極力外に出さないようにしていたからね。」
「そもそもなぜメイリンを隠さなければならなかったのだ?」
「前にも話しましたが初めて外に連れて出たのは2歳でした。」
「その時にメイを見かけた貴族から屋敷に直接婚約の申し出が殺到しまして。」
「それでか…」
「尋常ではなかったんですよ?」
「毎日50を超える釣書が届くのですから。」
「それは…すごいな」
「そうでしょう?中には15以上も年の離れた者がいて父上と母上がキレて大変でしたよ」
「それで…」
「まぁ…そんなわけです。」
「とりあえず殿下も少し寝てください。」
「そうですよ。あんなに頑張る殿下を初めて見ました。」
「寝るけど…いつも頑張っているつもりだが。」
「知ってますよ。ただこんなに頼もしいと思えたことがなかったからね。」
「……」
こいつらに褒められるのは照れるな。
その後はスッと眠れた。