情報収集の内容で呼び出された悪役令嬢
明日はアダム様と馬に乗ります。
馬の目って可愛いですよね。
それにあの疾走感はすごく気持ちが良くて、
癖になりそうです。
今日は久しぶりにお勉強をしています。
1週間後の舞踏会に向けて、視察に来る国の歴史や言語や情勢などをおさらいしているのです。
数ヶ月前から最新の新聞も確認しています。
やる事がないので…
使節団の件があって情勢はしっかりと確認をしています。
随分と治安が悪いようで、貧富の差も大きくて大変みたいです。
中で最も気になったのは30代の王子の妃探し。
婚約者も決まらないようで、他国のお姫様を迎え入れるのではないかと掲載されていました。
なぜ決らないかまでは書かれていませんでしたが、
何か問題があるのではないでしょうか?
王子は第三王子までいて、第二王子は17才で第三王子は12歳らしいです。
私は13歳で、数ヶ月後には14歳になります。
そう考えると私の年齢と集められる美女…
イヤな予感がします。
その予想が当たったとして、
私をなぜ知っているのでしょうか?
私の名前が他国に伝わるはずがないと思うのですが…
新聞では、第一王子は王位継承権がないと書かれています。
だとすると、第二王子や第三王子の妃探しの可能性もあるかもしれません。
陛下やお父様、殿下達はどこまで情報が入っているのでしょう?
支援に関しても、他の国に経済的援助と食料援助の要請がされています。
この国は経済と食料も割と裕福だと思いますし、どちらかの援助をする事は出来るでしょう。
ただ、使節団を送り込む理由にはなりません。
普通に考えれば外交官が来れば良いだけなのです。
「メイリン様。そろそろ休憩されませんか?」
結構時間が経っていたようです。
「ありがとう、そうしますね。」
「お茶でもいかがですか?城下で流行しているお菓子をご用意していますよ?」
「ふふっ、いただこうかしら。」
「かしこまりました。今ご用意いたしますね。」
お茶を用意してもらって、お菓子も頂きました。
「とても美味しいわ!」
「なんでも最近出来たばかりのお店らしいです。」
「そうなのね。ふふっ、今度また買って来てくださるかしら?お父様達に差し入れしたいの。」
「いいですね。最近とてもお忙しいそうですから。」
「えぇ、お疲れだと聞いているから。お願いね!」
「ふふふ、かしこまりました。」
「そういえば、先ほど城下に行った者が外国人を見かけたと言っていましたよ?」
「そうなのですか?珍しいわね。」
「はい、何か色々とお店を回っている商人らしいです。」
「商人ですか…」
「何か気がかりでもあるのですか?」
「いいえ。他国の商人なんてあまり聞かないと思っただけ。」
「そういえば…そうですね。そろそろ舞踏会も近づいていますし、警戒なさってくださいね?」
「わかっているわ。念の為にお父様に報告をしておいてちょうだい。」
「かしこまりました。」
この時期に他国の商人を入国させるのは珍しい事です。
何か悪い事が起こらなければ良いのだけれど…
しばらくして、お父様から執務室に呼ばれました。
近衛兵がたくさん迎えに来てくれて、
殿下達もお迎えに…?
何かあったのかしら?
「大勢でお迎えありがとうございます。」
「状況が状況だからな。万が一を予測しての事だ。」
「メイリンを守るのは我々の使命なんだ。気にするな?」
「ふふっ、ありがとうございます。」
呼び出された時に支度をしていたから、お待たせせずに執務室へ向かう事ができました。
殿下達は殆ど無言だったので、きっと何か良くない事でもあったのでしょう。
執務室につくと、陛下やお父様、お兄様達まで揃っていました。
「皆様ごきげんよう。今日はどのようなご要件でしょうか?」
「やぁ、メイリン嬢。呼びつけて悪かったね?」
「いいえ、問題ございませんわ。」
「メイ。先ほど侍女が報告に来たのだが、他国の商人の件だ。」
「はい。どうかされたのですか?」
「実は入国の記録がなかったんだ。」
陛下もお父様もすごく険しいお顔をしていました。
「不法入国ということですか?」
殿下達やお兄様達の顔つきも険しくなりました。
「あぁ、そうだ。メイはその情報をどのようにして知り得たのかい?」
「それは、私が城下の流行を知りたくて侍女やメイド達に情報収集をしてもらっているのです。」
「情報収集?」
「はい。私はコールマン家のお屋敷と王宮しか行った事がなくてドレスや流行に疎いので、それを知る為に情報収集をしてもらっています。」
「なるほど。」
「それで城下に行って流行していると言うお菓子を買っていたら外国人の方を見かけたと聞いたのです。」
「そうだったのか…」
「今、城下に調査に行かせた所だ。」
「そうでしたか…」
どんどんと険しいお顔になっています。
やはり、使節団が来るために入国に関して規制をしているそうです。
色々と状況説明を受けて、離宮の警備の見直しや護衛の調整などの説明もされました。
「護衛の事だが、アダムとラルフをつけるつもりだ。」
「殿下達が?」
「そうだ。婚約者候補なのだから一緒にいても問題がない。」
「普通に護衛を増やしていただけるではありませんか?」
「だが、その商人が舞踏会の話をしていたそうなのだ。それであれば常に側にいられる殿下達が護衛にという事になった。」
「そうなのですか?」
「もちろん、メイに手を出さないように釘はうつからな。」
「釘?」
なぜ?
「メイリンの起きた所から、眠るまでの護衛だ。何かあっては困ると…」
あっ
そういうことですか…
「万が一、メイに指一本触れたら…わかってますよね?」
「ダニエル。いいかげんアダムとラルフを信じろ。」
「は?まだ婚約していないのだぞ?どこまで信じられるかわからん。」
「お父様…」
すごく心配してくれている…
「陛下!」
調査に行っていたらしい近衛兵の方が報告をしに来たようですね。
お父様と陛下が険しい顔をして報告を聞いています…
「メイリン嬢。アダムやラルフだけでは足りないようだ。」
「ジャン、アークも護衛に加わってくれ。」
「どういう事でしょうか?」
「城下で商人が舞踏会の事はもちろん、メイの事も聞いて回っているようだ。」
イヤな予感しかありません…
「メイは必ず守ってみせます!」
「殿下達からも守るからね?」
「アーク。あとで話そうか。」
ラルフ様が不機嫌に。
「聞いて回っているのは私の事だけですか?」
「メイの事は貴族以外は都市伝説くらい情報が入らないはずだからね。」
「噂はあるみたいだ。」
「噂ですか?」
「美しくて、聡明で半年足らずで学院を卒業したらしいと…」
「それは…学院生しか知らないはずでは?」
箝口令をしかれたと聞いていました。
「殿下達がご執心だと城下で噂されているようです。」
「そんな事が…」
「事実だが。」
「どこからそんな話がでたのでしょうか?」
普通に貴族が話をしなければ、城下で噂になる事はあり得ません。
「警戒を強めなければならないな。」
「調査をする部隊編成も必要かもしれません。」
「今回はたまたまメイリンの侍女が知り得た情報が始まりですからね。」
「目的がわからないな…」
「その国の王子達は王位継承問題があるそうです。3人の王子は婚約もしていないと…」
「は?」
「メイ。どこからそんな話が?」
「先週の新聞記事に…」
「メイリンはそんな物も読んでいたのか?」
「時間があるので、新聞も読んでいます。情勢を学ぶには新聞が一番早いですから。」
「メイを見習って私も新聞を読もうかな。」
「その国の情勢も新聞で読んでいます。」
「すぐに確認しよう。」
陛下やお父様も慌て始めました。
誰も新聞に興味を持たなかったのね?
「諜報部隊を作る。人選はダニエルに任せるが構わないか?」
「女性の諜報員も加えます。」
「そうだな。司書達にも協力させよう。今は時間がない。」
「アダムとラルフとジャンとアーク達も準備を急げ。」
「仕事は離宮で?」
「当然だ。仕事を疎かにするわけにはいかん。メイはいいか?」
「構いません。」
「仕事が捗るな。」
「仕事は私が届けよう。」
お父様が殿下達の仕事を届けるみたいです。
こんなにしていただいていいのかしら?
私に何か出来る事は…?
「メイリン?どうかしたのか?」
「私はお仕事されている間に何をしていればいいのでしょうか?」
「メイは私達と同じ部屋でいつも通りで構わないよ。」
「わかりました。」
本当に大事になってしまって申し訳ないわ。
舞踏会が終わったらお礼をしなければ…
「では、すぐに準備をしてくるから。」
「はい。」
「メイ。アークやジャンがいるから大丈夫だと思うが、気をつけるのだよ?」
「ふふっ。お父様大丈夫ですよ。」
「殿下達だって男だからな。万が一があったら困る。」
「ダニエル、私の息子達だぞ?信用しろ。」
「だからだ。2歳からどうやって娘にするか考えていたでしょうが。」
「そんなに昔からですか?」
「メイリン嬢は天使のように可愛くて優しくて賢かったのだ。羨ましいではないか。」
「当たり前だ。私達もメイが可愛すぎて外に出せなかったのだから。」
「この通り、メイリン嬢の事には融通が聞かないのだ。婚約の話もその頃からしていたのにずっと断られていたのだ。」
「そうなのですね。いずれは王家に嫁ぐだろうと言われていましたけど…」
「その頃から貴族の中に身分や人柄などを見ても殿下達以外に任せられる者がいなかった。」
「ダニエル!息子達をそんな風に見てくれていたのだな…私は嬉しいぞ。」
「……」
お父様…
他に任せられる人がいないとわかっていても嫌がっていたのね…
「メイリン嬢、そんなわけだからアダムとラルフをしっかりと見極めてくれ。」
「かしこまりました…」
お父様は悲しそう…
「お父様、私はお父様とお兄様達が一番大好きです!」
「やっぱり羨ましいな…」
陛下は本当に娘が欲しかったのね。
「メイ、お待たせ。」
「アークお兄様!」
「父上、何かあったのですか?」
「いや…なんでもない。準備が出来たらメイをしっかりと守ってくれよ?」
「もちろんです。どんな事からも守ってみせます。」
ジャンお兄様と殿下達も準備が整ったようで、
がっちりと周囲を固められて離宮へと戻りました。