タネ明かしをした第二王子
【第二王子 ラルフ】
兄上が少し強引にアプローチをしたと聞いた。
こうしてはいられない。
だが、私は強引には進めたくはない。
アークから聞くメイリンが、あまり納得出来ない事を望まないような気がしたのだ。
そこで、手紙を出す事にした。
《ーメイリンへー
なかなか会えなくてすまない。
最近、兄上がアプローチをたくさんしていると聞いた。
私もアプローチをしたいのだが、
駆け引きが苦手なのだ。
だからたくさん会いたいと思っている。
アークがジャンから時々大人っぽいドレスを着たりしていると聞いたのだが…
明日、お茶でもしないか?
もちろん、大人っぽいというドレスを着て欲しい。
駄目だろうか?
期待して返事を待っているよ。
ラルフ》
わかりやすく誘ってみたが、
了承してくれるだろうか?
少しそわそわするな。
「殿下、仕事してくださいよ。メイの手紙のせいでしょうけど。」
「うるさいな…わかっている。それになぜメイリンだと思うのだ?」
「メイの事だからイラつきますが、腹立たしいくらいわかりやすい顔してますよ。」
「アーク。…無礼だぞ。」
「未来の兄ですが?」
「ぐっ…!」
この男はいつもそうだ。普通に仕事は出来るが、
メイリンの事となると感情が全てに出る。
本当に厄介な男だ。
それ以外は、信頼の出来る友人なのだが…
少しすると手紙の返事が来た。
《ラルフ様
お手紙ありがとうございます。
明日のお誘い、慎んでお受けします。
大人っぽいドレスの事をお聞きになったのですね?
私にはまだ早いと思うのですが、ラルフ様が仰るのなら…
驚かないでくださいね。
明日、楽しみにしております。
メイリン・コールマン》
よしっ!
「殿下。」
アークに睨まれた。
「わかっている。どんどん持って来い。」
「さては…」
「うるさい。明日の時間を長くとるためにさっさと仕事をするぞ。」
「はぁ…メイの事が力になるのはいい事だとは思いますが。なんか腹が立ちますね。」
「もうその話はいいから。」
明日の為にかなりの量の仕事をこなした。
「殿下。これだけ終われば半日は時間がとれます。」
「そうか。あまり時間がないとゆっくりお茶ができないからな。」
「そうですね。アダム殿下のように強引に話を進めないでくださいよ?」
「わかっている。メイリンに無理強いなどさせない。」
「頼みますよ?あの後兄上がアダム殿下に説教してましたからね。」
「まぁ、普通よりもメイリンは初心だからな。」
「そうです。メイを困らせるのは例え殿下でも許しませんよ?」
「わかったわかった。」
クドいな。
まぁ、大事な家族だから仕方がないか。
その日は明日の分まで終わらせた。
今日はメイリンとお茶をする約束だ。
大人っぽいドレスか…
以前、ナイトドレスを一度見たが見惚れてしまって思考がストップした。
今日こそ、思考を止めずに褒めてあげるのだ。
いつも、褒めるのが後回しになるからな。
メイリンを迎えに来た。
「お待たせいたしました。ラルフ様、ごきげんよう。」
これは…想像以上に素敵だ!
いかんいかん。
すぐに褒めなければ。
「メイリン、…すごく綺麗だ…」
「ありがとうございます。」
恥じらう姿も美しい。
そして愛らしい。
「どうするか…」
「はい?」
これは兄上が固まったというのも頷ける。
欲望のままに行動してしまいそうだ…
しかし…これでは釣り合いがとれないのではなかろうか?
「いや、私も着替えないと釣り合いがとれないな。」
「なんですか、釣り合いって…?」
「メイリンがせっかくいつもと違う印象だから私も変えてきたほうが?」
「ふふっ、大丈夫ですよ。」
「そうか…」
メイリンが微笑んだ。
それにしても、美しい…
「ふふっ。」
「なんだ?」
「アダム様と違う反応だと思ったので、少し楽しいと思ったのです。」
「なるほど。まぁ、違う人間なら当然だ。」
「そうですね。」
「じゃあ、ガゼボまでエスコートしよう。」
「ふふっ、お願いします。」
アークとの約束通り落ち着いてエスコートをした。
「どうかしたのか?」
「いえ、いつものラルフ様だったら固まってしまうから意外でした。」
「そうか?あ…でも驚いたぞ?」
「そうでしたか?そんな風には見えませんでした。」
「出来るだけそうならないように、心構えはしてきた。」
「ふふっ、心構えなんて必要ありませんのに。」
「私としては毎回メイリンを見て固まってしまうとタイムロスが出来るから必要なんだ。」
心構えはやはり大事だな。
「メイリンは私が固まっていると、戻るまでずっと困った顔をして待っているだろう?」
「ふふふ、そうですね。」
「困った顔も美しいが、笑顔が一番好きだからな。」
「ありがとうございます。」
少しはにかんだ。
この表情は初めて見た。
「メイリンは先日、兄上と婚約について話をしたのだろう?」
あまり急かしたくはないが、
メイリンにも心の準備は必要だろう。
なぜこのような事になったか理由を話しておいたほうが良い。
「はい…」
「実は父上と母上からそろそろ決めろと言われて私達も焦っている。」
「理解は出来ました。」
「そうか。では、私達が本気で口説くと言っても問題はないな。」
「本気で口説くって…殿下達は口説くのが慣れているのですね?」
「まさか。初めてだ。本や他の者達から知恵を借りてしか口説けない。」
「そうなのですか?本気で口説くと仰ったから、てっきり…」
「タネ明かしするのもどうかと思うが、メイリンにははっきり言っておいたほうがいいかと思ってな。」
「ありがとうございます。」
口説き慣れているなどあり得ない。
私も兄上も結婚していたり、恋人や婚約者のいる者たちからアドバイスをもらっているのだから。
話のタネ明かしをした時にメイリンの様子が変わった。
「メイリン?」
「なんでもありません…」
「なぜ、顔が赤いのだ?」
「わかりません…急に心拍数が上がったのです。」
「…そうか。」
心拍数が上がった?
つまり、私の話を聞いて意識をしたという事か。
ニヤける顔をなんとかいつも通りに戻す。
「メイリン、少し散歩でもしないか?」
「はい。」
最近城下の恋人達が『恋人繋ぎ』という手の繋ぎ方をしていると聞いた。
とりあえず手を繋いでみようか…
手を差し出すと、メイリンは手をとってくれた。
それを嬉しく思いながら、庭を散歩した。
「うさぎさんと小鳥さん達が来ました。」
「珍しいな。いつもバイオリン弾くと来るのに?」
「はい、なぜでしょうか?」
いつも通りだが、なぜ今日は…?
「私が撫でるのをあんなに嫌がっていたのに、不思議だな。」
「はい。いつも殿下達や家族とも触れ合う事が出来なかったというのに…」
「お前達、私を受け入れてくれたのだな?とても嬉しいぞ。」
「うさぎさんがラルフ様の膝の上に…」
「はははっ!そんなに急がなくても逃げないぞ?」
「ふふふ、可愛いですね。」
「あぁ、本当だ。」
「なぜでしょう?ラルフ様が可愛く見えます。」
「は?それは不本意だな。」
「そうなのですか?」
「男はかっこいいが良いかと思うぞ?」
「では、素敵に見えるというのはいかがでしょうか?」
「くっ…」
あまりにも嬉しくて天を仰いだ。
可愛いと言われたのは初めてだが…
カッコいいと言われたかったが、
まさかの素敵…
胸にこみ上げるものがあった。
「いけませんでしたか?」
「いや…とても嬉しいぞ。」
嬉しすぎてどうにかなりそうだ。
「ラルフ様?」
はぁ…
美しいな…
本当に女神のようだ。
「うさぎさん、今日はどうしたの?ラルフ様が好きになったの?ふふふ。そう。」
小鳥やうさぎを撫でていると、
小鳥やうさぎと会話をしているようだ。
「あら、小鳥さん達もそうなのですか?ふふふっ。」
「メイリン?会話をしているのか?」
「はい、いつもなんとなくですけど。小鳥さん達もうさぎさん達もラルフ様が好きみたいです。」
「そうなのか。私の気持ちと同じなのか?」
「そうなのですね?じゃあ、私の気持ちはわかるのかしら?」
私の事が好きだと…
小鳥やうさぎの言っている事だが、
メイリンが口にしただけで胸が高鳴った。
私とうさぎや小鳥が同じ気持ちか…
わからなくはないな?
どうやら小鳥やうさぎはメイリンの気持ちもわかるようだ。
私に教えて欲しいが…
本人から聞きたい。
「…そう、私にもわかっていないのにわかるなんてすごいわ。」
「でも、あなた達の気持ちは細かくはわからないのが悔しいわ…」
小鳥やうさぎと会話するメイリンはとても愛らしいが…
そろそろ私と…
「メイリン。私を放置して小鳥や、うさぎと会話をするなんて…ずるいぞ。」
「ずるい?ですか?じゃあ、小鳥さん達、うさぎさん達もラルフ様とも…」
「違う。私はメイリンと話したいのだ。」
あ…
正直過ぎたか?
「メイリンは兄上に触れられても嫌な気分になるか?」
「いいえ。とても恥ずかしいですけど…」
「では、私は?」
焦りは禁物だが…
聞くだけ聞いてみようと思った。
「いいえ。とても恥ずかしいですが…」
「そうか。では、抱きしめるとかは…?」
「以前、ラルフ様に何度か抱き寄せられましたよ?」
「?」
「覚えていらっしゃらなかったのですか?」
「いや、あれは抱きしめるとは言わないからな?」
あれか。観劇の時と花畑の時と馬の事か。
あれは抱き寄せただけだ。
「そうなのですね。すごく恥ずかしかったです。」
「メイリンは私に触れられても嫌な気分にはならないんだな?」
「はい」
「そうか。なら、今度からはエスコートの際に恋人繋ぎしても良いか?」
「恋人繋ぎ?」
「流行っているらしいのだ。」
「城下で?」
「一瞬だけやってみるか。」
「え…?」
恋人繋ぎを一瞬だけでもやってみたかった。
「どうした?」
「いえ…なんだか少し照れくさいですね。」
「そうだな。なんだか触れている箇所が多いからだろうか?」
「え…」
メイリンの顔が赤くなった。
本当に可愛らしい。
美しいと可愛らしいがセットになって、
正直悶絶レベルだ。
「あはは、顔が赤いのはわかっているのか?」
「本当ですね?」
「自覚がないのだな。」
「どういう事でしょうか?」
「まぁ…秘密だな。」
「秘密…」
「いつかわかる。」
「わかりました。」
心拍数が上がるという事は意識してくれたこと…
この意味を私から告げるのはイヤだな。
今日はメイリンが考え込む事が多いな?
「今日はメイリンがうわの空だな。」
「申し訳ありません、ラルフ様。なんだか考える事が多すぎて…」
「無理もない。一生の問題だ。王家に嫁げば簡単に離婚なんてできないのだから。」
「え…?離婚を考えて結婚するものなのですか?」
どうしてそうなった!?
悲しそうな顔をしてしまったから慌てて弁解した。
「違うぞッ!?例えばの話だ。最近、国民達が離婚する事が増えているのだ。それで言っただけだ!」
「そう…なのですね。結婚しても上手くいくかはわからないのですね…」
「私はメイリンなら上手くやっていけるぞ!?」
メイリンとの相性は良いはずだ。
それに…
「ラルフ様?」
「メイリンならずっと側から離さないし、今だってもっとくっついて触れたいと思っているのだ。」
すごく驚いているな?
本音を話してしまった。
「…イヤになったか?」
困らせて…?
「メイリン、なぜ泣いているのだ?」
「え…?」
メイリンが泣いている。
泣かせてしまった…
泣かせたくなどないのだが…
「頼む。泣かないでくれ。美しいが…胸が苦しくなる。」
「あ…」
泣き止んでほしくて思わず抱きしめてしまった。
すまん、アーク。
何か悲しませてしまったようだ。
「今日は…帰ろうか。」
「はい…」
離宮まで送り届けた。
今日のメイリンは少しおかしかったな?
泣き顔も美しかったが、
泣かせたくなどない。
なぜ泣いてしまったのかわからないが、
私の本音を聞いたからか…
その後に涙を零したのだ。
何が原因だろうか?
本音のくっついていたいと言ってしまったのが怖かったのだろうか?
もしそうだったら…
兄上に気持ちがいってしまうのだろうか?
本当ならもっと長く一緒にいるつもりだったのだが…
自己嫌悪に陥って立ち直れない…
気持ちが落ちたまま執務室に戻った。
「あれ、殿下?メイとお茶をすると言ってたけど、思ったより早かったですね?」
今1番会いたくないのだが、側近1位だ。
会わない事はまずない。
「あー…」
言葉が出てこなかった。
「メイに何かしたんですか?」
「いや…父上達に言われたことを話した。」
それは本当だ。
「それから?」
流石に鋭いな…
「メイに何をしたんですか?」
「プライベートな事をそんなに話すわけ無いだろう。」
全て話すのは絶対にイヤだ。
「わかりました。」
やけにあっさりと引き下がったな?
落ち込んだまま、仕事を始めた。
メイリンにあとで謝罪の手紙を…
「殿下。メイリン嬢からお手紙が届きましたが、読みますか?」
「…読むに決まっている。」
「メイの手紙を読まないわけが無い。」
…その通りなのだが。
すぐに手紙を開いた。
《ラルフ様
今日はありがとうございました。
とても貴重なお時間ですよね?
急に泣いてしまって申し訳ありません。
ですが、悲しいような事はなかったのです。
自分でも泣いてしまった事に驚きました。
なんだか胸がギューってなってしまいました。
それが何なのかはわからないのですが…
泣いてしまった時にラルフ様が…
抱きしめてくださって、落ち着きました。
勘違いをさせてしまって申し訳ありません。
お嫌でなければ、お茶に誘ってくださいませ。
メイリン・コールマン》
また誘って欲しいのか…?
抱きしめられて落ち着いた?
異性としてどうなのだろうか…
でも、あの時確かに心拍数が上がったと言っていたから意識はされている。
まだ望んでいいなら…
すぐにでも誘おう。
数日中に必ずお茶に誘おう。
少し、気持ちが上がった。
側近達には生温かい目で見られているが、この際どうでもいい。
次に会うために仕事を頑張ることにした。
最長記録…?
わからないけど。