油断をした兄の後悔
【兄 アーク】
メイに関する問題が2つもあるなんて。
なんで私達の可愛いメイばかりがこんな目に!
早く調査を終えて解決させてメイを安心させなければ。
「アーク。落ち着け。」
「兄上。のんびりしてられないでしょう?」
「まぁ、そうだけど。でも、今は落ちついて危険人物を洗い出さないと。」
「わかってます!」
そんなことはわかってるけど、
メイを陰から覗いているヤツがいるんだ。
花束のあとは覗きだぞ!?
次は何するかわからない。
「くそっ。」
「アーク。私も同じ気持ちだよ。腹の中ではものすごく黒い事を考えてしまう。」
「黒い事?」
「口に出せないけどね。」
兄上が肩に置いた手に力が入った。
兄上が怒るのは家族の事。
一番はメイの事だ。
今まで兄上が怒った中では10日も毒で眠り続けた時だ。
もちろん私も父上もだ。
陛下も死罪だと息巻いていた。
あの時は私も腹がたったな。
「兄上。美しすぎたからメイが狙われているのだろうか?」
「美しいだけなら狙われないだろうね。」
「そうだよね。」
「恐らく美しいだけではないと気づいたら狙われる理由はいくらでも出てくるからな。」
「この国で一番美しくて純粋で才女なんて言われたら…気になるか。」
「しかも学院に入るまで人目につかないようにしていたんだ。余計に気になるだろう?」
「一時期あまりにも顔を見せないから酷い噂がたったしね。」
「いやー、あの時は腸が煮えくり返りそうだったよ。」
「虐待とか死亡説とかあったな…」
そんな理由がない。
美しいから隠すのはおかしいって言っていた奴がいた。
メイが10歳で久しぶりにパーティに出た時に、
ラルフ殿下とアダム殿下がメイに話しかけるのを見て慌てたな…
私とラルフ殿下は同い年だ。
私とラルフ殿下は16歳だった。
アダム殿下は兄上と同じ年だ。
その2人が急にメイを特別な存在で婚約者にと望んだのだ。
その話を聞いた時は…
いけない。
今はこんな事を考えている暇はない。
「アーク!」
兄上が急に大きな声を出した。
「どうかした?」
「メイの行動範囲は制限がかけられていて基本的に会話をしたりする事は殆どない。」
「そうだけど…?」
「唯一、会話をしている者がいる。」
「図書室?」
「ここの司書だ。」
「図書室を調べる!」
急いで図書室に向かった。
司書は18人。
メイは図書室に来る時は必ず本を借りていた。
図書室に着くと兄上は帳簿を確認し始めた。
私は司書達にメイと親しくしていた者がいたかどうかを確認した。
「アーク。この男が全て貸出の手続きをしている。」
「こいつはどこに?」
『あぁ…こいつはたまに休むんですよ。今日も急に休みたいと』
ドアの向こうから駆けてくる足音が聞こえる。
図書室はとにかく静かだからよく聞こえるな。
『ジャン様!アーク様!大変です!』
彼はメイについていた近衛兵だったな。
「何があった?」
『庭でまた視線を感じたそうです。侍女も視線を感じたと。』
「兄上。」
「行くぞ。」
『視線がしたほうは何もなく、壁しかありませんでした。』
「わかった。その壁の後ろを調べてくれ。」
急いで離宮に向かおうとしたら一人の司書が、
彼はメイに執着しているように見えたと言った。
執着か…
やはり、当たりだな。
「メイは大丈夫だろうか?」
「わからない。無事ならいいのだが…」
離宮に着く手前で近衛兵が男を追いかける姿を見た。
「あれは…」
「兄上急ごう。」
「逃げる先が離宮の庭のほうだ。」
嫌な予感がしてきた…
離宮で大きな音が聞こえた。
くっそ…
急いで離宮に入り、メイの部屋へと走る。
『メイリン様!なぜ私を選ばない!私はこんなにっ』
「え…私はお父様に言われた方と結婚するのです。それに…」
「「メイっ!!」」
「アークお兄様!ジャンお兄様!」
メイが必死に手を伸ばしている。
表情が少しおかしい気がしたが。
しかもなぜメイは刃物を向けられている?
「「メイリン!」」
「殿下!?」
「大丈夫か?今、助けてやるからな!?」
殿下達も走ってきたようだ。
「…司書さん…?」
『メイリン様!私を覚えていてくれたのですね!?やはり私を…』
「違いますっ…図書室に何度も行っていますし、覚えていますわ?」
『はぁ…この香りはやはり貴方の香り。こうして抱きしめて…』
「ちょっ…ちょっと!どこを触っているのですかっ!?」
あいつ…
メイの身体をベタベタと触りまくって…っ…
「おい、私達のメイに何してんだよ!」
「お兄様っ!」
『あぁ…これが貴方の柔らかさ…』
「いやっ!離してっ!?」
『嫌だ。もっと触れてから一緒に死にましょう!』
メイと一緒に死ぬだと!?
くっそ…
刃物を持っているから下手に近づけないっ!
この男の手がメイの身体を這い回るなど許さない!
しかもドレスをナイフで切り込みながら…
「お願い、離してください!」
『嫌ですっ!』
「メイリン!」
殿下達はメイの元に走り出そうとしているのだがっ!?
頭が悪すぎるだろ…
慌てて殿下達を下がらせた。
「メイ!いい加減メイを離せよ!」
焦れば焦るほど…
んっ?
「気持ち悪いですっ!」
メイがハッとしたように護身術でかわして男を蹴り飛ばした。
忘れていた…
メイは自衛の手段を持っているじゃないか…
「お兄様っ!」
メイが私と兄上に向かって走り出した。
「そいつを捕まえろっ!!」
急いで男の捕獲させる。
「ジャンお兄様…」
「怖かっただろう?それに、目に毒だからちょっと抱きしめられてて?アーク!」
「あー…あー…うん、そうだね。メイ、これをきっちりとボタンを閉めて着てくれる?」
「…?」
メイのドレスは何箇所か切られたようで、
隙間から肌が見えてしまっている。
胸元に肩、足や背中など…
これであとに残るようなキズが出来ていたら、
公開処刑にでもしてもらおう。
とりあえず、私のジャケットで背中から覆ってあげたが、
足が見えてしまう。
侍女が大きなストールを持ってきて、
スカートの上から足が見えてしまう切り込み部分を隠してくれた。
あ、そうだ。
キレすぎて殿下達忘れていたな。
間違いなく役に立たないから仕事に戻ってもらう。
納得がいかないようだ。
「(アダム殿下。言っときますけど、メイを凝視して真っ赤になって固まったでしょう?)」
「(ラルフ殿下。あの男がメイのどこに触れているか目で追っていましたね?)」
この2人。
間違いなく、兄弟だな。
「(凝視するに決まっている。あのドレスは私が贈った物だ。)」
「(なるほど。)」
「(私は…)」
「(ガッツリと目を開いてあの男の手の動くほうを目で追っていたでしょう?)」
「(あれは…)」
「はい、殿下達は役に立ちませんので。」
「「くっ…」」
「悪いけど君達。メイの風呂を手伝ってくれ。」
「さすがに私達では出来ないからね?」
メイは状況の把握できていない。
ようやく、自分の格好に気づいたようだ。
「ジャンお兄様、アークお兄様…恥ずかしいです…」
「いや、それは…うん。私達もちょっと恥ずかしいな…」
「でもよく護身術で抜け出せたね?出来るならすぐに使えば…」
「あまりにもとっさの事で、状況が把握出来ていなかったので…」
「アークお兄様…酷いです…護身術や体術や剣術は封印しなさいと言われてたのに…」
「うっ…そうだったね。ごめん。」
「メイは入浴して綺麗に洗ってきなさい。傷は…どうしようか?自分で治癒魔法かける?」
「うっ…綺麗に洗います!思い出したら気持ち悪くなってきました…」
そういうと、メイの瞳から涙が?
「メイっ!?どうした?痛いのか!?」
「涙?」
兄上がハンカチで目元に押し当てた。
やっと涙に納得出来たようだ。
今になって恐怖に怯え始めたのか…?
「震えが強くなってきたね?」
「歯がカチカチ言ってます…」
「大丈夫。メイ、もう大丈夫だよ?」
「お兄様っ!!怖かったのですッ!気持ち悪かったのですっ!」
急にメイが大きな声で叫び始めた。
「メイ、大丈夫だよ。ほら今私達が抱きしめているからね?」
私達が抱きしめている事もようやく理解したのかと思ったら、
意識が無くなってしまった。
「くっそ…」
「落ち着け。」
「そもそも、近衛兵も護衛もいてなぜメイが捕まっていた?」
『申し訳ありませんッ!』
侍女がメイが捕まった時の事を教えてくれた。
どうやら、窓の外が騒がしくなって確認に行ったらしい。
2人は私達と殿下達に状況の報告に。
残りは護衛を2人残して庭の警戒をしていた。
壁の向こうから大捕物の声を聞いて、
取り押さえの応援に行ったらあの男が向かってきたらしい。
そこまでは理解できた。
護衛は窓に気づいて中に入らないように、
窓に向かったそうだ。
残りの1人の護衛は刃物に気づいてあの男を近づけないように、
向かって行ったと。
確かに、少し揉み合ったのか制服が切られている。
それでメイがフリーに…
状況が把握出来なくて処理落ちしたのか。
あの男の手が身体中を撫で回して気持ち悪くなって、
我にかえって護身術が出来たのか。
あの一瞬で蹴り飛ばした時に足が際どい所まで見えてしまっていた。
聞けば絶対に離れないための1人を残すか増員する必要があったな。
意識がないからベッドに寝かせた。
侍女達に着替えを頼んで部屋を出て終わるのを待った。
「はぁ…すぐに体制を整えるのを失念してしまった…」
「私が早く手配出来ていれば…」
「アークの責任ではないよ。」
「私の判断ミスだよ。申し訳ありません。」
「それなら、私も同罪だ。」
しばらくして侍女達が部屋に私達を呼び入れた。
「怪我は?」
「太ももとウエストと背中にかすり傷がありました。」
「くっそ…治癒魔法で治りそうか?」
「はい、あとも残らないと思いますよ。」
「良かった…」
「アーク。後始末、しに行くぞ。」
「はい…!」
絶対に重い罰にしてやる。