なんで?
ショートショートです。ホラー要素は弱いです。
1. 『A子』
「サイコパスはツメが甘いよ。反社会的と思われたら迫害されるのは当たり前なのに。」
帰り道、A子が言った。彼女はいつもにこやかで、誰にでも優しくて、ユーモアがあって、気取らなくて、堂々としていて、運動神経抜群で、成績が頭抜けてよく、いつもいい匂いがして、清楚なのに無邪気で色気があって、可愛らしさを兼ね備えた美人で、好感度と人望の体現者。こりゃ殺されるな自分、と私は思った。
2. 『春の河川敷にて』
「殺したら死ぬのに、なんで殺しちゃダメなの?」
「…何言ってんの?」
「中には腸とか色々詰まってんだよ?開いたら見れるじゃん」
「……やばいよお前…」
「そう?」
「相手が苦しむとか思わないの?」
「苦しむとは思う」
「じゃあよくないだろ」
「でもそれ以上にその人がどんな反応してくれるかを見たい」
「……やめろよマジで。」
「…わかった」
「…」
「…」
「………倫理学でカントっていたけど」
「いたね」
「あれ、人間全員がやったら社会成り立たなくなることはすんなって言ってただろ確か。お前のはそれでいくとダメだろ。」
「人間絶滅するよね」
「だろ」
会話は済んだのに心臓の早鐘はおさまらない。
相当危うい思想の持ち主が身近にいる。しかも直に打ち明けてきた。殺人の被害者は親しい人が大半じゃなかったっけとか、こいつと一番親しい俺が被害を免れるにはどう距離を置けばいいだろうとか、保身が瞬間頭に浮かぶ。
切り出しは質問だった。ただ、こいつは集団から浮いている人間でもない。俺がどういう反応を返すか薄々わかった上で話してきたんだろう。なら自分の考えは間違っていると誰かに止めて貰いたいのかと思った。人を殺したくないという常識的な人間が持つ感情を有していないこいつには、感情を糸口にした説得は意味をなさないだろう。知識や論理で説得しようとそれっぽい倫理学の知識を引っ張り出してはみたが、効果があるのか全く自信がない。この日のためにもっと勉強頑張っておけば良かったと心底思った。
それが4日前。思いの外展開が早くてダメだった
とうせんぼって通せん坊って書くらしいですね。
防波堤の類語調べてたら出てきました。