4 彼らの行方
【帰還から一年後 王都ロザリオ 城内】
「大変です!」
突然、煌びやかな廊下に甲高い声が響いた。
先の言葉を何度も叫びながら、宰相のマークスが城内の一角にある会議室に飛び込んできたのである。
その部屋にいた者たちはみな驚いて一斉に彼に詰め寄った。
「どうした?」
「何かあったのか?」
「凄い汗だぞ! まずは落ち着け」
口々に政治面を担う役職についているマークスの部下たちが彼を質問攻めにする。
基本的に彼らの間には遠慮というモノがなく、日頃、それぞれの立場に関係なく話し合いを行っていたせいで、敬語なんていうものが存在していなかった。
その煩い声を聞いて、やっと少し落ち着いてきたマークスはゆっくりと口を開いた。
「大変なのですよ! 何故か「勇者一行」が姿を消したのです…!」
「なぜだ!?」
「何が起こっているというのだ?」
「…分かりません。何もかも、分からないのです。
彼らが忽然と邸宅から姿を消した事が判明してから、すぐに王都を捜索させていますが…手がかりも痕跡さえ見つからない…この中の誰でもいい…彼らの行方を誰か知りませんか?」
しばらくの沈黙の末、みな小声で「知らない」、「分からない」、「王都にいないのであれば、地方に出かけているだけなのでは」、「まだ大事にするほどのことではないはずだ…」などと呟き始めた。
(現在この国において勇者一行は「なくてはならない存在」へと昇華しており、彼らがいるという証拠があるからこそ、これまで反乱分子も育たずに安定した統治を行えていたのだ。
しかし、この事実を国民が知ったらどうなる?
彼らは我々にきっと「何故?」と問い始めるだろうし、長期間見つからなかった場合は…?)
「あぁ…考えるだけで恐ろしい…!」
マークスは頭を抱えた。
(何故私は『勇者』なんてものを作ってしまったのだろうか…)
ぼそぼそとぼやき始めた彼の声は止まらない。
「そもそも、そもそもだ…『勇者』の素性は本当に情報通りなのか?
彼は王都出身の十八歳だったが、本当にそうなのだろうか?…選別は一か月という短い期間であったから細かな確認なんてしていない…はずだ…いや、帰還後も怪しい動きはなかったが…もしかして他の仲間も…私達は一切「勇者一行」の情報を所有していないのではないか?」
そう、彼らは気づいてしまった。
なんと恐ろしい事にそこにいた誰も彼もが「勇者一行」の本当の情報を持っていなかったらしいということに。
この事は国民には悟られてはいけない。
「得体のしれない存在」である魔族を殲滅した偉大なる勇者一行が、私達の恐怖する「得体のしれない存在」だったなんて…。
マークスは急ぎその場にいた全員にこう告げた。
「いいですか皆さん…これは国を揺るがす問題です。
秘密裏に動かなければいけません。
まずは王に報告致しましょう…。
そして、彼らの代わりになるニセの「勇者一行」を探し出すのです…」
また『勇者』探しが始まった。
本物の代わりになる者を象徴として立たせるために。
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