2 帰還
勇者一行が旅に出てから五年経ったある日、ついに彼らは王都へと帰ってきた。
彼らはボロボロの服に傷だらけの身体という酷い状態であったし、国民も五年もかかる旅になるとは思っていなかったため、彼らが国内に帰って来ていても気づかない者が多かった。
そして、勇者は帰還後にすぐに王の元へ赴いた。
とても静かな凱旋であったが、城内では兵士達が勇者一行に対し、深い敬礼をして迎えた。
「おお、勇者よ。よくぞ無事に戻った。みな顔を見せよ……して、魔族はどうなった?」
五年でかなり老け込んだバリス王が王の間に入室してきた勇者ダグラスに声をかけた。
バリス王は五年前の堂々とした姿勢ではなく、少し腰を曲げて王座にゆったりと掛けていた。
「…我らが王よ。魔族は私の命を懸けて殲滅致しました。ご安心ください」
勇者は後ろに仲間たちを侍らせ、跪きながら淡々と報告を続ける。
顔を床と水平になるほど下げているため、彼の表情はそこにいた誰にも分からなかった。
「…魔族の首を証拠として持って帰りましたので、後ほど…」
(…こんな男だっただろうか?)
淡々と言葉を紡ぐ勇者の様子に何か違和感が拭えないバリス王は、彼が報告を終えた後に口を開いた。
「……其方、本当に…勇者ダグラスか?」
バリス王がその言葉を発した途端、空気が重くなり、沈黙が流れた。
勇者はゆっくりと顔を上げ、王に向かって微笑んだ。
「…もちろんでございます。この顔をお忘れですか?」
「あ、あぁ…勿論忘れていないとも。其方がなかなか顔を上げないものだから、つい気になってしまってな。すまぬ、許せよ…」
バリス王は勇者の顔を見て安堵した。
目の前にいる勇者の顔は五年前と変わらず、少し傷が多いだけであったからだ。
その後は勇者一行に労いの言葉をかけ、翌日にはそれぞれに褒美を与えた。
褒美は一生困らないほどの金銭と邸宅、そして爵位である。
これだけあれば何にも困らないだろう。
素晴らしい偉業を成し遂げた勇者一行の話はすぐに国民に伝えられ、彼らの存在を忘れかけていた国民もまた出発時と同じ熱量で称え始めた。
今や日々、歓声の絶えない土地と化した王都は、勇者一行と王家によって守られているという絶対的な信頼感が満ちていた。
突然、勇者一行が王都から消え失せるまでは。
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