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気になるあの子

最近、俺は気になっていることがある。其れに関わっているのは、同じクラスの海野だ。海野と呼び捨てをしているが、別に友達ではない。あまりよく知らない同級生をフルネームで呼ぶような感じだ。という前置きはこれくらいにしておこう。海野に関して気になっていることは二つだ。海野は所謂マスク女子だ。体育中でもマスクをしていて、取ったことを一度も見たことがない。さすがに食事中は取るだろうとは思ったが、あの子は昼休みになった途端、すぐに弁当を持って教室から出て行ってしまう。つまり、俺が知りたいのは海野の素顔と何処で弁当を食べているか、だ。このたった二つのことだけに俺は青々としている好奇心を燃やし、明日の昼に海野を尾行する。


朝、今日はいつもより三十分も早く学校に向かった。俺が朝練で毎回一番乗りしそうな時間に来ているが、一番になったことはない。それは海野がいつも俺より先に来ているからだ。別にそれについては何もないが、俺が海野より早くに着いていれば、この作戦紛いの成功率が上がると、根拠のない自信からそう思ったからだ。このわくわく感を動力に校門を通り、四階に存在する教室に速足でたどり着いた。海野は果たして教室に居るのか居ないのか、その答えを知るべく扉を思い切りガラッと音を立てて開けた。

海野は居た。

思い切り音を立てて開けたから、海野はこっちを見ている。見ているのに挨拶をしないのは流石に失礼だろう。

「お、おはよ」

「…はよ」

返しは軽かった。こんな早い時間でも居るなんて…何か目的でもない限りこんなに早く来る必要はないだろう。

「海野…さんはさ、何でこんな早くに来ている?」

つい、口が動いてしまった。

「早く来ていると何か都合が悪いの?」

「いや、悪くはないけど…何で来ているのかなーって…早くに」

「これ、作っていたの」

机の中から竹を編んだ入れ物みたいなものを出した。一部ふちあたりの竹が編まれてないから、きっとまだ途中なんだろう。

「それ何?竹細工って…言うんだっけ」

「うん。ペットのざらめがそろそろ卵を産みそうだから…巣の土台を作っているの」

卵というんだから、インコとかかな。

「インコかな。写真見せてよ」

教室扉から彼女の近くに寄りながら頼んでみる。

「え…」

流石に距離が近すぎたかと言ってすぐに悔やむ。

「いいよ。あと、インコじゃない」

インコじゃないのか。じゃあ、亀かと頭の中で他の候補を上げ、海野はスマホの画面を見せてくれた。

「え、これって…」

ヘビだった。

全体的に白っぽくて、頭や体に所々明るめの茶色の模様がついている赤い目のヘビだった。

「うん。ヘビ。コーンスネークっていう種類なの。…びっくりした?」

「う、うん。ちょっと意外で…」

まさか、ヘビとは思わなかった。

「ヘビ、好きなの?」

「うん。ミルクヘビとかアオダイショウも好き。好きっていうと少し引かれるけど」

確かに、一般的にはヘビは嫌われる生き物だ。ニョロニョロと動く姿とか長い舌とか…。

「あんまり種類は知らないけど、そうなんだ」

……会話が途切れてしまった。少し気まずい。彼女も気まずく感じているかと視線をまた海野に移すと、気にせず先程見せてくれた竹細工のカゴを作り始めていた。やはり、気まずい。また何かしら話を振ろうと口を開いた途端、ガラッと前の教室扉が開けられ、向こう側から同じバレー部員の水沼が此方を見つめていた。

「ん、北。早いじゃんか。一緒に朝練行こうぜ」

「嗚呼、行こう」

海野に軽く会釈をしてから、自席の横に掛けてあるナップザックを担いで体育館に向かった。



朝練の片づけ中、昼のミッションの海野尾行作戦について関係のある、海野の昼飯を食べる場所に考えた。中庭か立ち入り禁止の屋上だろうか。海野が一人で昼飯を食べる理由はかなり変わった食べ物が好きとかそうゆう理由があるのかもしれない。考えれば考えるほど謎は深まるばかりで時の流れだけが早くて気づけば片づけは終わり、一時限らも終わり昼になっていた。

早速作戦を開始しよう。海野がいつも通り弁当を持って、教室から出ていくのを見送ってから、自分の飯を持って尾行開始した。別に、()()()()()じゃないさ。教室を出てから海野が左に曲がっていたのを確認してから大体二メートルくらい離れたところからついていった。階段を降りて、なるべく自然に且つ足音を立てないように慎重についていった先が中庭だった。

うちの中庭は校長の趣味で木が鬱蒼としていて、あまり周りが見えない場所だ。そうゆう場所に海野が来るのだから、海野は人に食べるところを見られるのがあまり好きじゃない説がより濃厚になった。俺の見立てが間違ってなかったんだと木陰に隠れながら思っていたら、俺が気になって仕方がなかった海野の素顔が明かされるその瞬間になった。つまり、海野は今マスクを取ろうとしているということだ。ベンチに座り、マスクに手をかけた。

マスクの下は別に変ったところはなかった。口がでかいとか鼻がでかいとかもない目鼻立ちが整った方だとは思う。何だ、ただの恥ずかしがり屋なだけだったじゃないかと少々期待はずれだと肩を落として、教室に戻ろうと後ろを向く瞬間、視界の端に何か赤っぽいものが映った。何だろうと後ろを向くのをやめ、正面に向き直ると海野の口から人間とは思えないくらいの長い舌が出ていた。大体、十cmだろうか。それくらいの長すぎる舌で弁当のおかずのハンバーグを巻きつかせ、一呑みした。あり得ない光景を目の当たりにして、驚きが隠しきれなく、後退りをした時落ちていた小枝を踏み折ってしまった。パキッと軽くて小さな音だけで一瞬で冷や汗が全身に出た。肝心な海野に気づかれてないかと背中の汗で体が冷えていく感覚を覚えながら彼女の手元から顔へと視線を移した。

海野はやはり此方を見ていた。

そして弁当を置いて俺の元まで来た。

「見た?」

「うん…」

そう、と視線を左下に下ろして小さく呟くように言ってから彼女はまた俺の目をまっすぐ見て、「誰にも言わないで」とだけ言ってから食いかけの弁当を持って中庭から出てった。呆けた状態で中庭から出ていく彼女を見送って暫く魂が抜けたかのようにその場に立ち尽くして、ふとスマホを確認をしたら昼休みが終わる三分前を示していて、急いで近くのベンチで飯を食い始めた。



昼が終わって五限に入り、六限に入った。授業中、斜め右前に座っている海野を見た。昼の出来事がなかったかのように彼女は授業を受けている。先程よりはマシになったが、心臓が未だにドクドクと早く動いている。彼女は、気にしていないのだろうか。気にしていなかったらあんなにつまらなそうに科学の授業なんか聞かない。本当に、気にしていないのだろうか。先生の授業の内容とよく挟んでいる飼っている亀の話をぼうっと聞いているうちに今日最後の授業は終わった。



掃除当番に部活、いつも通りの放課後を過ごしたあと帰路に着いた。帰り道、色々と考えた。今日の晩飯、明日の授業、海野、部活、ゲーム、海野……。二回に一回は海野のことを考えている。あんなのを見て、彼女のことを一回も見ない方が可笑しい。舌が長い人も世の中には居るけど、あそこまで長いのは居ない。バケモノ級だ。舌でハンバーグを掴んで食べていた。ゾウが鼻でものを掴むような感じでやってみせた。こんなことがあって、一回も考えない方が可笑しい。あいつは俺よりも早く学校に来て、その後に必ず俺が来て次のやつが来るまで二十分くらい空く。此れからの学校生活、気まずいこと間違いなし、だ。如何ゆう気持ちで海野の顔を見なければ、顔を合わせなければならないんだろう…。――そういえば、あの時あの長い舌を見ても気持ち悪いとかは思わなかった。むしろ、カッコイイというよくわからない憧れのような気持ちがあった。

何故、如何したらという文字が頭いっぱいになる一歩手前で、普段人があまり通らない通りに人が居たのが見えた。しかも、うちの制服。ズボンだから男かとよく見てみたら、ズボン女子でもあった海野だった。凄くタイムリーだと思ったが、こんな街頭がより少ないとこで突っ立って何をしているんだろう。海野が見ている先には少し遠くに神社がある方角だ。こんな薄暗くなった夕暮れ時にお参りでもするのか?道中でイノシシとかに遭遇したら危ない。好奇心なんかよりも心配が勝っていて、気づいたら海野がいる方へ歩いていた。海野と空いている距離は大体十m。だからまだ此方には気づいていないみたいだし、やはり用があるのか前に進み始めた。気づいていない、気づいていないが、何故が近づけば近づくほど空気がひんやりとしてくる。此処は人の手があまり入っていない低い山道だからっていうのもあるけど、やはり寒い。六月なんて寒い方だけど、此処まで寒くなるなんて秋くらいじゃないとならない。寒さで歩幅が小さくなっていって、海野の背中がどんどん小さくなっていく。彼女は寒くないのだろうか。寒くないからさっさと進んでいるのか。……海野は、こんな道の先に家でもあるんだろうか。仮にそうだとしても他に明るくて人が通る道があるじゃないか。近道だとしても危なすぎる。寒さで下を向きそうになったけど、海野を見失うわけにはいかない。必死に前を向いて歩いたが、海野の歩く速さに着いて行けず、いつの間にか見失ってしまった。もうだいぶ暗くなってきた。これくらいの時間帯が結構危ないと聞くし、海野のことも心配だけど自分のことが一番大事だから帰ることにした。

つい最近までマスクをする生活で新しく出来た友達の素顔を初めて見たという人が沢山居ました。勿論我もその一人でした。要素としてマスクを常にしている子、を入れてみました。あの子の素顔を見てみたい!となったことがある人なら共感できるかなと思います。あと、今回は中々書き終わらなかったので連載ものです!

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