薔薇色のメモ 幽霊の歌姫
僕は君を離さない。
心が、体が、
君を忘れさせてはくれないから。
君が飛び降りた日
僕は首を切った
君のいない世界が怖くて
いつか君を忘れてしまうのではないかと不安で
君ともう話せないと思うと辛くて
僕はいなくなろうとした
三日間の短い家出
行く先も決めずに無心で歩いた
もう九月だというのに
真夏のように蒸し暑かった
僕は記憶力が悪い
君と話した内容なんてほとんど覚えていないんだ
君の好きな色
君の嫌いな食べ物
君がやってみたいこと
君の夢
何一つとして思い出せなかった
君は歌が好きで
アニメなんかにも詳しい
そのくらいしか
僕の引き出しには残っていなかった
僕が首を切った日
君は死に損なった
僕は涙が出るほど安堵した
君が生きている、それがとても嬉しかった
僕は病院で治療を受けた
出血が酷かったらしい
傷跡は残ってしまうだろうと言われた
「なぜこんなことをしたんだ」
医者に問われた
「愛していたからだ」
僕は答えた
きっと誰にも理解されない
そう簡単に分かってほしくはない
僕は君が好きだ
これは狂い愛
君を殺すのはこの僕だ
おやすみなさい、愛しているよ
幽霊の歌姫へ捧ぐ
泣き虫な僕の物語
僕のメモはここで終わり。
次はあなたの番さ。
いつか空を飛べる日がくることを願って。