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大迷宮の闇  作者: 文弱
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03.R レフ



なんだか厭なヤツ


レフのマルセルに対する第一印象はそれだった。

貴族は一見紳士のように振る舞っていても、レフのように最底辺の暮らししか知らない弱者には容赦なく冷たい者が多い。

少なくともレフはそう信じていた。

レフの育った裏路地に住む大人たちは、貴族を悪し様に罵る。

王をこき下ろし、王女を物笑いの種にし、貴族をなんの役にも立たない能無し共と吐き捨てる。

そんな大人たちの言葉を子守唄のように聞いて育ったレフは、貴族と聞くだけで嫌悪感を覚える。

その貴族が、今レフの視界の中にいる。


仲間のリラに優しい言葉や態度を見せていても、それを鵜呑みに信じるほどレフはお人好しにはなれなかった。

女性のリラにばかり話しかけるのも、レフから見れば厭らしい。

迷宮は、お互いが命を掛けて征く場所だ。仲間に命を預けるという言葉が、決して大げさな言葉ではない。

そのことを知るレフは、最初の自己紹介以降、マルセルがリラ以外の仲間を見もしないことに、不快さもさることながら危うさも感じた。


「なあクリス。あいつ、どう思う?」


レフは小声でクリスに問いかけた。

いつもクリスは不機嫌だが、今は常よりも不機嫌になっているように見えた。

レフはその不機嫌のわけをマルセルが気に入らないからではないかと思い、声をかける相手にクリスを選んだ。

だが、それは間違いであったらしい。


「どうって? 何も問題ないだろ?」

「だって、こっちには何の挨拶もなしに、リラばっかりかまって…」

「いいだろ別に。リラも嫌がってるワケじゃねぇんだし」

「でも、あんな風に手なんか握っちゃって……」

「治癒してんだから当たり前だろ。リラの手荒れごときに使わねぇで、迷宮行くときまで温存して欲しいとは思うけどな」

「……もういいよ」


レフはぷいと横を向き、口をとがらせた。

クリスが今しがた紹介されたばかりのマルセルをかばうような口を利き、仲間のリラを全く心配していなことが面白くなかった。


「何が気に入らねぇんだよ」


レフが不貞腐れて話を途中でやめたのが気に入らないのか、クリスが尖った声をレフの横顔に投げた。

冷たい声だと、レフはしょんぼりと思う。

クリスが、レフやリラをもともと気に入っていないことは知っているが、冷たい態度で接せられるのは少し物悲しい気分になる。

だがそれも仕方がないことだと、レフはクリスの心情を理解もしている。


リラはあまり魔法が使えない魔術師だったし、レフは手先は器用だが魔物を倒す力は持っていない。

二人はパーティの戦力として余りにも心もとないのだ。

そもそもこのパーティは人数が少ない。

その少ない人数の半数が戦力外では、パーティ内でもっとも腕の優れた剣士のクリスが面白くないのもうなずける。


これからは、このパーティも変わるのだろうか。

期待とまではいかぬものの、ほんの僅かな希望のようなものを求めて、レフはクリスの言葉を無視してマルセルとリラを眺めた。

リラの手を両手で包んで治癒を施すマルセルの姿は、親切と静謐さを感じさせないでもない。


貴族に対する偏見を取り払えば、いいリーダーなのかも知れない。

少なくとも、リラの手荒れを治してくれていることだけは確かだ。


「あのリーダー、いい人だといいな」


ポツリと呟いた言葉をクリスが耳に拾ったらしく、鼻で笑う気配がする。

ちらりと目を転じると、片頬を歪めるようにクリスが笑っているのが見えた。

何かを含むような笑みにムッとするものを感じつつ、レフはクリスの笑みのワケを問うことなく立ち上がった。

リラの治癒を終えたらしいマルセルが、ちょうどリラの手を離すところだった。


貴族だからと相手のことを知ろうともせず第一印象と家柄だけで決めつけるのは、貧乏人と一括にレフたちを蔑む貴族と変わらない。

挨拶がないと怒るまえに自分たちから挨拶をするのだって大事なことだと、レフは考えを変えてマルセルに歩み寄った。


「はじめましてリーダー。おいらはレフ。罠解除と解錠が得意だよ」


努めて明るく声をかけると、マルセルは振り返り軽く笑みを見せた。


「やあ、レフ。解錠が得意ということは、君の専門は鍵師かな?」

「うん。そう呼ばれてる」

「それは楽しみだ。私は鍵師が解錠するところや罠の解除を見たことがないんだ」


レフの迷宮での仕事に興味を持ってくれた。

それだけで、レフはマルセルに対する悪印象を覆した。

貴族だけど、マルセルはいい貴族に違いない。

リラの治癒をし、レフの仕事に興味と理解を示し、顔に笑みまで浮かべている。


「それにしても、レフはまだ子供だろう? 鍵師なんて、随分難しいことをしているのだね」

「そうかな? そんなに難しくないよ。おいらは剣の使い方も分からないし、魔法も使えないから、戦闘する方がよっぽど難しいよ」

「ふむ、なるほど。まあ、戦闘は私たちに任せてくれればいい。私の魔術は学内でも一二を争うほどだし、彼は私の護衛騎士だから腕は確かだ」


マルセルが視線を転じた先に、護衛騎士と改めて紹介されたシンが、鋭い目でレフを見ていた。

こちらはマルセルと違ってニコリともせず、不機嫌などという言葉では言い表せないくらい悪感情がこもった瞳でレフを見ている。

そういえば、クリスにシンと名乗ったときにも彼はニコリともしなかった。

言葉は丁寧だったが、おおよそ親しみなどとはかけ離れた声音の冷たさをレフは思い出した。

シンは彼らと親しくするつもりは毛頭ないのだろう。


「彼は愛想はないが、私の命令には絶対服従だ。心配しなくていいよ」


マルセルの言葉にレフはうなずいた。

貴族の従者というものは、ときにその貴族以上に横柄で傲岸で、レフたちのような最下層の者たちに高圧的な態度を取ることも珍しくないのだ。

地位が高いのは彼らが仕える貴族なのに、そんなことも忘れて、まるで自分の地位が高くなったかのように錯覚してえばっているのだと、周囲の大人たちが話していたことをレフは思い出した。

今後もし迷宮で危機に陥れば、シンはマルセルの危険だけを重視して、決してレフやリラを助けたりはしないだろう。

マルセルはまだしも、シンを信用することはできないと、レフはそう思いながらマルセルのそばを離れた。


=================================


名前:レフ 【R:Ref】

年齢:12(推定)

性別:男性

呼名:レフ


物心ついたときには路地裏にいたという孤児で、名字はない。

年齢も定かではないが、10〜14才くらいだろう。

栄養が行き届いていなかったために体も小さい。

ジョブは鍵師。


裏路地ではスリや空き巣をして糊口をしのいでいた。

2年前に裏路地を離れて傭兵団に入ってきた。


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