27.W 隊列を組んで
迷宮を歩くのに、パーティの人数は5人から6人が最適だと、シラー傭兵団に居た時にウィルは学んだ。
あまり少人数では戦力が乏しく危険だし、あまり多すぎると、決して広くはない迷宮の通路で武器すら抜けずに立ち往生してしまう。
迷宮内を探索するとき、ルシアーナパーテイでは決まった隊列を組んでいた。
ウィルは前列左が定位置で、ハンスは右だった。
中央は、現在ルシアーナパーティのリーダーを勤めているルーカスという大盾使いが守った。
ルーカスは常に最前線に身を置き、まさに仲間たちの盾として、どれほど危険な魔物の前にでも1人で立ちふさがってくれた。
このパーテイには、そんな守りの要になる者がいない。
食後の休憩をとりながら、ウィルはパーテイの隊形の組み立てに悩んでいた。
クリスは性格的にも剣の使い方からも、守勢には向かない。
マークは器用になんでもこなしそうだが、そもそも、剣士は守勢にはさほど向いてはいないのだ。
剣士が使う剣は、よほどの大剣でない限りは耐久値が高くない。
魔物がよく使う鈍器のような武器や、丸太のように太い手足が繰り出す肉弾攻撃を受けるには、最初から向いていないのだ。
だから真っ向から攻撃は受けずに、受け流すのが基本的な戦い方だ。
そんな剣士から見ても、自身を守って尚、仲間まで守れる大盾は、守勢の要として大層心強い。
だが、あまり大きな盾もこのパーティには不向きかも知れない。
成長過程にあるレフとリラの背丈はまだ低い。
大盾が前に立ちふさがれば、安全ではあるだろうが、二人が前を見るのは困難だ。
ともあれ、このメンバーで堅実に戦えるように仕上げるのが先決だ。
ウィルはパンと手を打って立ち上がった。
「よし、休憩終了! まずは、隊列を仮ぎめしよう。マークとクリス、二人で前を支えられるな?」
「ああ。いつもそうして戦ってたし、1階だし、問題ない」
「うん、宜しく。俺は今日は後列の真ん中で様子を見るから、レフは俺の左で、リラは右」
「了解! おいら頑張るよ!」
張り切って瞳を輝かせるレフの頭に、ウィルは無意識に手を伸ばして軽くポンポンと叩く。
そして直ぐに視線を上向けると、僅か苦笑いを漏らした。
若い傭兵を幾人も育てはしたが、レフほどの子供を育てたことは、さすがになかったと今更思う。
チラリと目線だけを下に向けてリラを視界に捉え、女性とパーティを組むのも初めてだと思う。
女性や子供が迷宮でどんな不便を感じるものなのか、全く見当がつかない。
二人の体力配分もよく分からない。
だがそれに関しては、追々なんとかしようと思いつつ、ウィルはもう一度パンと手を打った。
「それじゃ、今決めた隊列をなるべく崩さないように、これから実践に入る」
「おお、なんか、軍隊みたいだな」
「そうだな。傭兵も軍隊のように集団戦をする職業だ。集団戦ならある程度の規律や隊列はあった方が戦い易い」
「一応、定位置みたいなのはあるというか、出来るよな。暗黙の了解みたいなもんだけど」
ウィルはクリスの言葉に大きく頷いた。
「そういうパーティは多いが、うちは隊列を固定する。そしてなるべく隊列は崩さないように戦う。これは意外に難しいぞ」
「ああ、そうかも知れない。気がつくと、仲間から離れてるなんてことは良くある」
「今後そういのはなしだ。常に仲間との距離を測りながら戦うこと。その余裕がないような階層には行かないこと。それが守れない者はお留守番だ」
「や、守る。気をつける。了解だリーダー」
急いでクリスが答えるのに、ウィルは思わず笑った。
ウィルから見れば若いクリスも、手のかかる弟のように可愛く見えることがある。
パーティメンバーが可愛く見えるということは、彼らに情が湧いたということだ。
ならば余計に、より堅実に戦い、手堅く生きられるように導かなければならない。
決めた形に隊列を組み、まずは実践。
「ゴブリンだ」
早速クリスが数匹のゴブリンの群れを見つけ、小声で言う。
まだ、ゴブリンの群れは彼らに気づいていない。
ウィルは頷き、同様に小声で指示を出す。
「クリスとマークは少し待ちだ。レフとリラは、ここから一当て出来るな?」
「うん。任せて」
レフが弓を引き絞る音。
杖の先に魔力を集中するリラ。
二人は食前にウィルが教えたことを忠実になそうとしている。
「撃て」
短く命じるウイルの声と同時に、レフは矢を放ち、リラは魔法を放った。
ゴブリンが二匹、弾け飛ぶように倒れた。
「前列!」
「了解!」
マークとクリスが短い言葉に即座に反応して剣を抜く。
軽快な疾走、なめらかな剣の軌道と、切り抜けた二人の背後に飛ぶ血しぶき。
唐突な魔法と矢に仲間を倒され、怯んだ残りのゴブリンは体勢を整える間もなく二人の剣の下に果てた。
「よぉし、リラ、レフ、行くぞ!」
全てのゴブリンが地に伏したのを確認し、ウィルは最後の命令を後列の二人に下す。
すなわち、お宝奪取タイムだ。
「どうだリラ、魔晶石採れそうか?」
「採れました!」
「おいらもお宝はっけぇえん!」
レフが高々と上げた手の中に、ゴブリンの持っていた短刀、ポーション、薬草などが握られている。
リラが開いた手のひらの中に、小さい魔晶石が3つほど、キラキラと輝いている。
ウィルも魔晶石を1つ、親指と人差し指で挟み、皆に見えるように胸の高さに上げた。
「あの…これは、一体…」
マークが呆然と口を開いた。
クリスは黙ったまま、ただあんぐりと口を開いている。
二人の表情に、思わずウィルも笑ったが、リラとレフも笑った。
戦闘終了後とは思えない、明るい笑い声が迷宮に響く。
ウィルはまだ笑ったまま、驚く二人に種明かしする。
「お前たちが魔物を斬りまくってる間に、二人には戦い方と、コレを教えてたんだ」
「それは…魔晶石、ですよね?」
「そう。ハンスに魔晶石の取り出し方も仕込まれててな。ランクの高い魔晶石は採れないが、ゴブリンやスライムの魔晶石くらいなら採れる」
「驚いた…リーダーは何でも出来るんですね」
「ハンスは人使いが荒くて、お前はサブなんだからサブなんだからと、口癖みたいに言っちゃあ、色々なことをやらされたんだ。治癒をしろだとか、鍋を持ってあるけだとか、魔晶石採れだとか、売りに行けだぁ、宴会の準備しろだぁ、経理とれだぁ、とにかく何でも俺に仕事を余越した。やらせ過ぎだよな」
「いやいや、それにしても、凄いです」
最後には笑いながら言うマークの肩を叩き、ウィルはまだ呆然とするクリスの肩も軽く叩いた。
二人は思ったとおり、剣士として良い動きをする。
特にマークは問題がない。
「二人ともいい腕だな。今度、軽く打ち合おう」
そういうと、ようやく我に返ったクリスが嬉しそうに頷いた。
「いいな。俺もリーダーの剣筋を見てみたい」
「う〜ん、片手剣になって間もないからか、未だにバランスが取れなくて、あんまり褒められた動きはできないぞ?」
「や、それでも見たいし、合わせてみたい」
「それじゃ、明日は軽く切り上げて、団の地下でちょいと剣合わせでもするか」
「傭兵団の地下で? そりゃ無理だリーダー」
「何でだ?」
「アーロンは地下を倉庫にしてて、なんだかゴチャゴチャと私物なんかも置いていあるみたいだ」
ウィルは無意識に舌打ちした。
どの傭兵団も、地下は自主訓練をする傭兵のために開けてあるものと思い込んでいた。
少なくとも、シラー傭兵団とマルタ傭兵団の地下はそうだった。
ただ開けるだけではなく、的場を用意したり、魔法を放てる場所を用意したりもしてあった。
シラー傭兵団の団長シグル・シラーはかつて傭兵だったし、マルタ傭兵団の団長カレン・マルタは現役の傭兵だ。
対するアーロンは傭兵の経験がない団長だから、傭兵を遇するのが上手くないのかも知れない。
これだから現場を知らないおエライさんは。
そんな言葉を飲み込んで、ウィルは盛大なため息をついた。




