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大迷宮の闇  作者: 文弱
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23.R 笑顔の表裏



部屋のドアが開き、ウィルが当たり前のように室内に入ってくる。

レフはバネが弾けるように立ち上がった。

そのまま廊下に飛び出しかねない勢いで飛んでいき、ウィルを見上げてニコリと笑う。


「おかえりなさい!」

「ただいま」


短い挨拶の間に、大きな手が頭を撫でてくる。

最初は頭を撫でられるほど子供じゃないと振り払ったが、嫌だったわけではない。

レフはウィルの大きな手に、ワケもなくホッとした。

だが今はレフの安心の前に、伝えたほうが良いだろうことを口にする。


「さっき、アンナさんが来たよ」

「ここに? いつ?」

「結構前。おいらたちが戻ってきたら、廊下に立ってたんだ」

「そうか。今ちょっと前に、俺たちも玄関先で会ったんだ」


納得したように頷きながら、ウィルはレフの肩に手を置いて身体の向きを変えさせ、歩を進める。

レフは部屋の入口で3人の入室を邪魔したことにようやく気づいた。

短気なクリスが怒ったかと思って顔色を伺ったが、クリスは何か考え事をしているようだった。

そのまま入室してくるクリスを見上げて「おかえり」と声をかけた。

クリスは「うん」と生返事をし、代わりにマークが「ただいま」と返してくれた。

こんな簡単な挨拶を、今まで殆ど交わしてこなかったことにレフは少し驚いた。


まだウィルと会ってから1日だって経っていない。

だが確実に、何かが変わった。

変えたのはきっとウィルだと思いながら、レフはウィルを見上げた。

そして気づいた。


「リーダー、ほっぺた、誰かに殴られた?」

「ん? ああ、アンナに張り飛ばされた」


ウィルは楽しそうに笑ったが、レフとリラはその返事に驚きを隠せなかった。

二人の目から見たアンナは、しとやかな淑女そのものだ。

どんな理由があろうとも、人を平手打ちにするようには見えない。


アンナと別れた後、リラはアンナのことを女神のように思うのだと、少し恥ずかしそうにレフに言った。

そして、ウィルとアンナはきっと恋人同士だったのだろうとレフが言えば、リラもそれに勢いよく頷いていた。


そんな二人の予想がもし当たっていたら、ウィルとアンナは今もとてもつらい思いをしているのではないだろうか。

今ウィルは、アンナに叩かれたと笑っているが、本当は傷ついたのではないかと心配になる。


レフは探るような目でウィルを見上げた。

大人は子供の前で、無理矢理にでも笑って、心を誤魔化すことがある。

子供が、大人の誤魔化しに気づいているとも知らず、わざと笑う。


ウィルもレフやリラの前ではよく笑う。

レフの前では最初から笑顔で、クリスに怒鳴りつけられながらも笑顔を見せようとし続けた。

レフはウィルを見上げたまま顔をしかめた。


「あのさ、リーダー」

「うん。どうした?」

「リーダーから見たら、おいらはまだ子供かも知んないけど、大人の事情とか世間とか、全く分からないほどガキじゃないよ」

「うん、それは、わかってる」

「ううん、わかってないよ。おいらもリラも、今どんな状況にあるのか、ちゃんと理解してるのに」


ウィルは苦笑いを浮かべて困ったように首を傾げた。


「俺が、二人を子供扱いするから、気を悪くしたんだな?」

「そうじゃなくて! 子供扱いとか、そんなことはいいんだ。そうじゃなくて…」


レフは口をとがらせ、一旦言葉を切った。

どう言えば伝わるのか。

そもそも、何を伝えたいのか。

レフは自分の心情ながら、少々目的を見失って眉を寄せた。

少し考えを纏めようと目を閉じる。


今朝は、片目が見えない絶望で、死にたいとまで思った。

そんなところにウィルがきて、レフの目が見えるように治癒をしてくれた。

レフの目は光を取り戻し、心は生きる希望を得たのだ。


そして昨日は、アンナがリラの命を救い、レフの目を治そうと治癒してくれた。

今日も様子を見に、わざわざ立ち寄ってくれたのだ。


そんな二人に、辛い日々を過ごしてほしくない。

だから


「そんな風に、笑わないでよ」

「え?」

「辛いなら笑わないでよ。笑って誤魔化されたら、何もしてあげられないじゃん!」


再び目を瞠るウィルを見上げ、レフはため息を吐き出した。

そうは言ってもレフは子供で、何か特別なことが出来るわけでも、とりわけ頭がいいわけでもない。

何の力にもなれないことは、本当は分かっているのだ。

だが、笑顔で辛さを誤魔化されるのは嫌だった。


これ以上、何を言っていいのか分からず、レフは俯いた。

誰も何も言わず、部屋には沈黙が降りた。

そのまま、言わなければ良かったと後悔するくらいの時間が流れた。

音のない空気が酷く重たい。


「ごめんな、心配かけて」


そんな空気の中、ウィルが口を開いた。

ウィルは困ったような、切ないような、でも少し嬉しそうな、そんな顔をしている。

その顔が、ふと、イタズラな笑みを乗せる。


「今のうちに、もう一つ謝っとくな。さっきニキータを脅かしたから、ニキータパーティの奴と気まずくなるかも知れない」


クリスがプッとそれに笑った。


「あいつら、元々俺らのことなんか目にも入ってねぇだろうから、別に構わねぇよ」

「お互い、名前も知らないしな」


マークもそれに乗るように、意外に明るい声で応じた。

レフはホッと息をつく。

そんなレフの肩に腕を回しながら、クリスはウィルに更に笑ってみせた。


「お宝治癒師殿が、どうしてもリーダーに会いたくねぇって言うようだったら、俺らもドアぶち破るの手伝うぜ?」

「え? ドア破るって、何の話?」


レフはクリスを見上げて首を傾げる。

クリスがそれに笑みを返す。


「俺もリーダーから賄賂もらっちまったからな、ちったぁ役に立たねぇと」

「そういうことなら、おいらのほうが役に立つよ! だって、この建物で使ってる程度の鍵だったら、おいら全部開けられるもん」

「マジか……」

「おいら鍵師だよ? 団長の部屋の鍵だって開けられるよ」


驚きを隠さなかったクリスに向かって、レフは胸を張った。

口にこそしなかったが、レフは団長室の金庫だって開けられると自負している。

勿論それは、褒められるようなことではないと分かっているが、レフに出来る唯一の特技だ。


「ドアを破るなんて乱暴なこと言わないで、その時にはリーダー、ちゃんとおいらを頼ってよ」

「それは頼もしいな。いよいよ困ったら頼むよ」

「ちっ、俺の出番はなしかよ」


わざとだろうが、クリスが舌打ちをして盛大に眉をしかめた。

ウィルがそれを楽しそうに笑う。


「いやいや、クリスには迷宮で目一杯戦って貰うから、しっかり今のうちに休んでくれ」

「こき使う気満々かよ。賄賂なんて貰うんじゃなかったかな?」

「いやでも、これだけの賄賂もらっちゃ、試し斬りもしたいだろ」


ウィルの言葉にクリスとマークが自身の腰に下げた剣を見る。

お宝を見るようなその目を見て、レフは二人がとてもその剣を気に入っていることに気づいた。


ウィルはずるいなぁ、とふと思う。

レフとリラだけならまだしも、クリスとマークの心までウィルが掴んでしまったように、レフには見える。

カリスマだ指導力だと、難しいことはレフには分からないが、他人をなんとなく惹き付ける人がいることは分かる。


そういう人は、強く優しく頼もしい反面、どこか危うく、手を差し伸べたくなるようなところも合わせ持っているような気がする。

レフはそんなことを思いながら、再びウィルの笑顔を見る。

今度こそ、本当に楽しくて笑っているように見えた。



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