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大迷宮の闇  作者: 文弱
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19.C 傭兵団の団長



個人的な頼みだろうと、クリスはウィルの言葉を聞くとはなしに聞いていた。


「グランピアージュ家のマルセルって小僧が、ハルマイルに入れないようにして欲しい」

「男爵家のガキか。何をやったんだ?」

「怪我したパーテイメンバーを10階に置き晒して逃げやがった」

「わかった。全傭兵団に直ぐに通達する」


聞き流せるような会話ではなく、思うよりもずっと重要な話だった。

にも拘わらず、わずかの逡巡もなく成立していく会話に目を見張り、クリスは密やかにため息を付いた。

アーロン・マリとシグル・シラー。

恐らくは対局にある二人の団長の、その格の違いを目の当たりにして、呆れるやら腹が立つやら。

そもそも傭兵団自体に差があったのだと、クリスはアーロンのハゲ頭と張り出した腹を思い出した。

あの頭の上で花火でもぶち上げてやりたいと、本気で思う。

だがそう思ったのはクリスだけではなかったようだ。


「アーロンのクソ野郎、ロクなヤツを雇わねぇな」


忌々しげに舌打ちしたのはシラー団長だった。

誰が見ても間違いようのないほど不機嫌な顔でそう言って、その表情をそのままクリスとマークに向けた。


「置き去りにされたのはお前らか?」

「あ、はい…」

「ひでぇ目にあったな。怪我は? 他のメンバーは大丈夫なのか?」


団員思いの良い団長なのだろう。

不機嫌な表情の中で、クリスたちを見る目には案ずるような色がある。

彼らの怪我を翌朝笑いに来たアーロンとはあまりに違う。


自分の不運は、どうやら入る傭兵団を間違えたところから始まっていたらしい。

ため息を吐き出しながら、クリスはシラー団長の問いに頷いた。


「幸いリーダーが怪我人を診てくれて、そいつらも、今日はもうすっかり元気です」

「そうか…。いい治癒師になったようだな、ウィル」


しんみりと、シラー団長はウィルを見ながらそう言って、目を細めた。

だが、ウィルはそれにフンと鼻を鳴らした。


「なにシミジミ言ってんだよ。気持ち悪りぃな」

「てめっ! 俺が珍しく褒めてやってんのに、なんだその態度は!」

「ああ、団長はそうでないと。変な気を使われるとゾッとする」


隔てのない親子のようなやりとりを、クリスは羨ましい気持ちで眺めた。

良い傭兵団に入り、良いリーダーに出会えれば、全く違った人生をクリスも歩んでいたのだろうか。

だが、きっとまだ遅くない。

新しいウィルというリーダーが、きっと、彼らのパーティを変えてくれる。


そう思ってウィルを見ると、ウィルはクリスに笑みを見せ、剣架から外した剣を無言で差し出した。

そしてもう1本をマークに。

それが済むと、ウィルはもう退出する気配で、シラー団長に念を押した。


「それじゃ、マルセルのこと、宜しく頼む」

「ああ、任せておけ。俺の傭兵生命をかけて、その若造は二度と迷宮に入らせねぇ」

「グランピアージュ家が難癖つけてきたら、義兄に動いてもらうから声かけてくれ」

「ああ、ネェちゃんの入り婿だったか?」

「姉が嫁に行ったんだ」

「管理局のおエラいさんな」

「迷宮管理局だけじゃなく、他の軍関係施設も監督してる軍部のお偉いさん」


シラー団長の間違いを一々直して答えながら、ウィルは団長室のドアを開けた。

それを惜しむようにシラー団長が声をかける。


「本当に、困ったことがあったらいつでも来いよ」

「わかってる。頼りにしてる」

「それならいい」


その会話を最後に廊下に出ると、マークが柔らかい笑みを浮かべて言った。


「いい団長ですね」

「そうだな。慕ってるヤツも多い」

「貴方もですか? リーダー」

「親父みたいなもんだな。16の時からここにいたから、家のように感じるよ」


頷いて、マークが表情を引き締めた。

その表情に厭な予感を覚えたが、クリスは黙っていた。

おそらく、クリスが今最も聞きたいと思っていることを、マークはウィルに尋ねるだろう。


「いいんですか? 戻らなくて」


やっぱりと、クリスは軽く目をつぶった。

ウィルがどう答えを返すのか、聞くのが怖いが返事が欲しい。

当のウィルは軽く息を吐いて苦笑いした。


「いつかは戻るのかも知れないが、今は、何を見てもハンスのことを思い出して、ここで寝起きできる気がしない」


ウィルのそんな答えを、良かったと喜ぶことは出来なかった。

だが、クリスたちにとって、それは幸運なことだとも思う。

事故自体はひどく不運だし、当事者のウィルは当然辛かろうし、哀しいだろうと思う。

だがそれでも、事故にはなんの関係もなかったクリスたちには、ウィルが自分たちのパーティリーダーになってくれたことは幸運だ。

だからとっいって、ただ喜んでいるだけでは、クリス自身が不甲斐ない。


「俺も、何か出来ることがあったら、遠慮なく言ってくれ」


ウィルは突然のその申し出に、嬉しそうに笑ってくれた。

そして、うんと頷き言った。


「そうだな。きっと、頼むことになると思う」

「ああ、言ってくれ」

「まずは、お互いの実力を知りたいところだな」

「迷宮に行くのか?」

「う〜ん、二三日は二人の治癒に専念したいから、週明けにでもどうだ?」


コクリと頷き、クリスは少し眉を寄せた。

迷宮に行くのは傭兵だから当たり前だが、またリラやレフの身に危険が及ぶような深い階層は避けたい。

だが、浅い階層にしようとも言い出しにくい。

今回のことで臆病風に吹かれたと思われたくなかったし、またクリスの実力が低いとも思われたくなかった。


訓練階と言われる地下1階から地下5階は逆に言い出しにくいが、地下6階くらいだったらどうだろう。

少なくとも、地下10階以降の階層は絶対に避けたい。

そんなことを思いながら、シラー傭兵団から街に出ると、ウィルがクリスたちを振り向いた。


「本人に聞きにくいから今のうちに聞きたいんだが、リラは少し魔力が少ないか?」

「ああ。他に出来ることがないから魔術士ってことになってるが、リラはあんまり魔法も得意じゃねぇ」

「でも魔法は撃てるんだな?」

「まあ、マッチよりは大きな火が出るかな」

「ふぅん。じゃあ、魔力の集め方を覚えさせれば良さそうだな」


クリスはポカンとウィルを見た。

実を明かせば、クリスはリラを戦力に数えたことがなかった。

マークは時々リラに魔法を撃つように指示していたが、クリスは戦闘にリラを組み込んで考えたことがなかった。


「リラは、戦力にならないと思うんだけど…」


クリスが控えめに言うとウィルは笑った。


「今のままだとそうかもな。出来れば魔法が得意なヤツに指導してもらいたいとこだが、まあ、初歩なら俺にも教えられるし、なんとかなるだろ」

「なんとか、なるか?」

「以前の仲間の魔術士が口癖のように言ってたんだが、魔法を撃つのに一番大事なのは魔力の操作だ、って。全く魔力のない人間も、魔力が充満しているハルマイルの迷宮でなら、魔力を操作できれば魔法が撃てるそうだ」

「それじゃあ、リラは…」

「魔法の撃ち方を知ってるなら、後は迷宮の魔力を上手く使えるようになるだけだ」


やはりウィルがリーダーになってくれてよかったと、クリスは思わず口元をほころばせた。

だが次にウィルが言った一言は、大きな衝撃をクリスに与えた。


「それじゃ、週明けそうそう、1階で訓練だな」


クリスの笑みはそのまま凍りついた。



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