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忘却の少女と頭無き鎧の兵士 Ⅱ

忘却の少女と頭無き鎧の兵士 Ⅱ





空から頭の無い人が降ってきた。


これだけ聞くと、とてもグロテスクなように感じるが首から血が出ているわけではない。

ただ、頭が無いだけだ。



ここは死者が迷い込む不思議な惑星。

ここで暮らす記憶の無い少女カナタは、突然降ってきた頭の無い鎧の騎士、ガディと出会った。

ガディは喋ることが出来ない為、文字を書いてカナタと会話をする。文字が読めないカナタを忘却の竜、ガデンが通訳をする。


話をした結果、ガディがこの後どうするべきか。このまま魂の流れに還るか。ここに残るか。

それを考える時間を設けようという話で落ち着いたカナタたち。


そしてガデンは、ガディと共に惑星を回っておいでとカナタに提案する。

管理人のガデンではなく、自身がガディの行く末を決めてしまうかもしれない。

それでもガデンはカナタにガディのことを託した。


カナタはガデンの意図を汲めないまま、ガディを連れて惑星を案内することになった。





「改めて聞くんだけど…ガディはこの景色が見えているんだよね。」

カナタはガディに尋ねる。ガディは頭部が無い。

言葉は話せないが何故か目は見えている。不思議なことだ。


「あとは…耳も聞こえてるよね。」

ガディはその問いに縦に身体を振る。

「なんだか本当に不思議だね。お喋りも出来たらもっと貴方のこと知れるのにな。」

カナタはそう言いながら森を歩く。

木洩れ日がキラキラと葉っぱの間からカナタたちを照らし、そして小動物たちがカナタの周りに集まってくる。

「今日も元気だね。」

カナタは微笑む。

「…」

ガディはじっとカナタを見つめているように見えた。

「どうしたの?」

カナタは尋ねる。

ガディは小動物に囲まれているカナタを羨ましそうに見ている。

「この子たちが気になるの?」

ガディは頷く。

「あの人はガディっていうんだよ。仲良くしてあげてね。」

少し警戒している小動物たちにカナタは声をかける。

すると1匹の鳥がガディの襟に止まり、ピピピと鳴く。


「!」

ガディは手を鳥に近づける。すると鳥はガディの指先をくちばしでツンツンとつつきだす。

「お友達の証かも。」

カナタはそう言うと、ガディは嬉しそうに笑っているように見えた。


この人は優しい人だ。

カナタはすぐに分かった。何故なら小動物たちがガディにも集まってきているからだ。

ガディは驚きながらも、小動物たちを撫でては、嬉しそうにしている。


「フフ、なんだか不思議だね。戦いに行く恰好をしているのに、こんなにも穏やかにしているなんて。」

カナタはガディの鎧を触り呟いた。


「…」

「あなたは優しい人。だから戦いたくなんてなかったんだよね。」

ガディはその言葉に頷いた。

仕方なかったのだろう。それほどにガディの居た世界は緊迫していたのだ。

そしてその優しさは戦いの中では命取りだった。だからガディは首を斬られて死んでしまったのかもしれない。

最も、これはあくまでカナタの想像だ。実際にガディがどのように死んだのかは分からない。

しかしガディは優しい。きっと誰かを守るために命をかけたのだろうと感じた。

小動物たちはそれが分かっているからガディに寄り添うのだ。


歩き続けると次は小さな湖だ。

だが、ここは小さな海。カナタがあの時出会った“彼”が居た海だ。


「思い出しちゃうんだよね。ここに来ると。」

カナタは小さく微笑んだ。

ガディは首をかしげる。


「私が初めてここに来た時にね、ガデンともう一人ここにね。アレンっていうお魚さんが居たんだ。」

カナタはアレンのことを語る。

アレンと話したこと、アレンの本当の姿で空を飛んだこと。

カナタはアレンのことをたくさんガディに聞かせた。


「――もうここに居なくてもね。私の大切な存在なの。」

カナタはそう呟く。


ガディは、その話を聞いて、身体をガクッと下に倒す。

そしてガディはしばらくしてから木の枝を持ち、地面に文字を書く。

ガディは何かを伝えようとしていた。文字をがりがりと地面に書き始めるが、カナタはそれを読むことが出来ない。

「ガデンに聞いてみないと分からないなぁ…」


―――――


「ガディには大切な人が居るらしい。」

「大切な人…」

「それは君に例えると、アレンのような存在のようじゃ。」

ガデンに文字を訳してもらい、カナタはそれを理解する。

「彼女…女性のようじゃな。彼女とは結婚の約束をしていたそうじゃ。この戦いが終わったら一緒に穏やかに、静かに暮らそうと約束していたらしい。」


「…そう、なんだ…」

しかし、その結婚の約束は叶わなかったのだ。

カナタは少しだけ胸がきゅっと締め付けられた。

「…悲しいね。」

「そうじゃな。だが戦争とはこのような残酷なことはよくあること…生物は争うことも生きるということなのじゃな。」

ガディが叶えられなかった夢。そしてそれはよくあることだと言うガデン。

カナタは、生物が生きるというのは、素晴らしい事でもあり、残酷でもあるのだと知る。

それに…


(…なんだろう、他人事のように…思えない)

カナタは心の奥底でなにか揺さぶるような気持ちを宿した。

戦い、そして死。カナタに何か関係があるのだろうか。


「カナタ、大丈夫か?」

「えっ、あっうん。」

ガデンに声を掛けられハッと我に返るカナタ。

そしてガディはこう言っている。


「ロゼリに会いたい。」


「ロゼリ…さん。それがあなたの大切な人の名前なのね?」

コクリと頷くガディ。

ガディはガデンに向かって字を書く。


「…フムフム。ロゼリに会いたい。どうしたらよいか…とな。」

ガデンはその答えに対して、少し言葉を選ぼうとしたが、呟く。


「ここに居るうちは不可能に等しいな。」

「!」

ガディはショックを受け、落ち込む。

「本当にどうしようもないの?」

カナタはガデンに尋ねる。

「“ここに居るうちは”じゃ。」

「…!」

ガデンは魂の流れを見る。


「あれは魂の流れる道。本来生物は皆、死んだらあそこを流れてやがて世界のエネルギーとなる。つまりだガディ。ロゼリが将来その命を散らした時、その魂はあの道の先に行く。この意味が分かるかい?」

ガデンはガディに問う。

ガディはすぐに頷いた。


そう、つまり、魂の道の先。つまり死後の場所に居ればいつかロゼリもそこにやってくるということだ。

「…ガディ、ロゼリに会いたい?」

カナタが尋ねるとガディは頷いた。

「そうよね。そうだよね。」

カナタはガデンを見る。


「送ってあげよう。」

「そうだな。本来魂は奥へ流れ込むと世界に浸透してしまい、その魂も吸収され消えてしまう。だが、君はここに偶然迷い込んだ運の良い男だ。私から君の大事な人…ロゼリが来るまで消滅を待ってもらうように管理人に伝えておこう。」


「!!」

ガディは身体を深く下げ、ガデンにお礼を伝えた。


「では、魂の還る時だ。」


ガデンは魔法陣を出現させ、ガディの下にその魔法陣を移した。


「これは…」

「これは“魂還り”。ここに来た者を魂の流れに還すだけの魔法じゃ。」

その魔法は白く、輝いており、白銀の光が強い光を点滅させていて、まるで小さな宝石の欠片が舞い散るような。美しい光景を見せる。

「綺麗…」

見惚れるカナタ。そしてガディはカナタの身体をつんつんとつつき、地面を見せた。


「…文字?」


「“ありがとう。話を聞いてくれて嬉しかった”」

ガデンがその文字を読んでカナタに伝えた。


「…私こそ。ロゼリさんに会えるといいね。」

カナタは微笑んだ。そしてガディは最後に深く身体を傾け、深く一礼し、白く輝く光に包まれて消えていく。

やがてそれは魂という名の輝く球体となり、魂の道へと流れていった。



「…寂しいかい?」

ガデンは尋ねる。

「少しだけ。ほんの少しの時間だったけど。でも…うん。寂しい。」


「…ガディがロゼリと会える可能性はかなり低い。」

「…そうなの?」

ガデンはここに来て、ガディには言わなかった真実を告げた。

「ガディが奥で待っていても、ロゼリは魂のまますぐに吸収されてしまうじゃろう。再開出来てもきっとそれは僅かな時間じゃ。」

「…そう、なんだ。」


「だがね、ここに居るよりはよっぽど確率は高い。ここに迷い込む魂など…本当に奇跡と呼べる確率なのじゃからな…私は大事なことをガディに言わなかった。そんな儂を酷いと思うか?」


「…うーん…分からないけど…でも、それがガデンにとっての最善だったんだよね。」

「そうじゃな…ガディに私がしてやれる最善の手段じゃ。どっちに転んでも必ず救われるとは限らない場合、嘘をついてでも最善を提示してやらねばならない。それがこの忘却の星の管理人たる、私の役目でもあるのだから。」


ふわふわと舞い上がっていくガディの魂にカナタは小さく見失うまで手を振り続けた。


「私、信じるよ。」

「?」


「ガディさんならきっとロゼリさんに会えるって。」

「…そうか。君は優しい子だね。」

カナタは空を見て小さく微笑んだ。

胸に抱えるちょっとした揺さぶる気持ちを忘れず、そしてまた1つ。新たな魂が還ったことに少しだけ寂しい気持ちも抱え…戦いから解放されたガディの優しさにも触れ。


カナタは今日もまた、新しいものを見て、新しいことを吸収し、そして今日も、明日も、この星で自分を探し続ける…



忘却の少女と頭無き鎧の兵士 END

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