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忘却の竜と全てを忘れた少女 Ⅱ

忘却の竜 Ⅱ 忘却の竜と全てを忘れた少女 Ⅱ



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その星は、生命が生きていくにはあまりにも小さい星だった。




でも、その小さな星の中で、彼女は見た。

ここで生きる美しい命を。







老竜に言われ、小動物たちに星を案内される少女。


全長約4m


色が抜け落ちた年老い、毛が力無く垂れる。

長く白いあごひげも力無く垂れている。

朽ちたボロボロの翼。所々欠けている色の抜け落ちた鱗。


顔に映るいくつものしわ…トカゲの顔。




それが少女の出会った竜。



迷い込んだ魂を送り返すと言っていた。

多くの生物は送り返されることを望むと言われ、少女は戸惑う。



記憶が抜け落ちて、自分の名前すらも思い出せない少女は、自分はどうすべきなのかを考えていた。




(私は…このまま何も知らないまま魂として消えていいんだろうか…)


そんなことを考えながら、星を歩く。



「あっ…ごめんね。考え事してたの。」


小動物たちは心配そうに少女を見る。

深刻な顔をしていたようだ。苦しい、悲しい。そんな感情に動物たちはとても敏感だ。


「ごめんね。」

少女はひとまずは、自分の為に星を案内してくれる小動物たちのことを大事にするようにした。



暖かい太陽の光が木々の隙間から木漏れ日を作り出す。

小さく鳴く小鳥の声。色々な種類の動物が、仲良く暮らしている様子。


見ていると、食事をしている光景が見当たらない。


肉を食べる動物と植物を食べる動物が仲良くしている。



(そういえば…お腹空かない…)

空腹感。満腹感。そういったものを感じない少女。

ここでは、食事をせずとも生きていけるのかもしれない。


もしそうであれば、食物連鎖などで誰かが食べられるという行為もなくなる。

だから肉を食べる動物と草を食べる動物も仲良くしているのだ。



「…あれは…なんだろう?」


しばらく歩いていると小さな祠が見えた。

随分と古い、石で出来た小さな祠。

大人1人は入れるか否かの小さな祠だ。


しかし、見てもわからないし、小動物たちも、「何故そんなものを見ているの?」と言わんばかりの顔で見ている。



「…行きましょう。」



少女は歩いた。







それから5分ほど。

歩いている感覚は平行なのだが、なんとなく、星を半周ほど回った気がしていた。


森が終わり、その先から潮の香りがする。


キラキラと輝く海だ。

だが、その海は広いわけではない。

湖程度の大きさだ。

だが、この星の小ささを考えると、この湖のような大きさの海はとても広大だ。



「わぁ…!」

とても透き通るような綺麗な海に驚く少女。


浜辺にて潮風を感じる少女。

すると…


バシャッと水しぶき。

現れたのは大きな魚だった。



トビウオのような姿をした魚だが、体調は2mぐらいはある。



「おっ、君が“ガデン”が導いたっていう記憶のない少女さんかい?」

「わっ!」



少女は驚いて尻餅をついてしまう。


「ははは、驚くよな!ごめんごめん!」

少し年老いたおじさんのような声で語りかける魚。


「ご、ごめんなさい、あの老竜以外にもお喋りできる…生き物が居たなんて…」


「良いんだよ、魚が喋るわけないもんな。この世界でおしゃべりができるのは、“ガデン”とこの私、“アレン”だけだ。」


「“ガデン”…?」


「あの老竜の名前さ。彼はこの世界の守護神のような存在でね。君のような迷い込んだ魂を送り返したり、本来の魂の流れの安定を保つのにこっそりと手を貸したりしているんだ。」


「…そうなんだ…」


ガデン…それが老竜の名前。

そのガデンは、相当に凄い生物のようだ。


「君はこの世界を見て回っているんだろう?だったら私の背中に乗りたまえ。海の向こうへと連れて行こうじゃないか。」


「良いの…?」


「私はこう見えても、生者だった頃は大きなドラゴンだったんだよ。」


「生者だった時と姿が…違うのはどうしてなの?」

少女は尋ねた。


「私が望んだからさ。空はもう飛びつくした。だから私は魚になったのさ」


少女は姿も変えられるこの死後の世界はなんでもありなんだなぁと思いながらも、曖昧な返事をして、アレンと名乗る魚に乗った。


少女は、小動物たちに手を振り、海へと出た。

小動物たちは小さく手を振る。

それからすぐに反対側へ走り出す。


またすぐに向こう岸で出会うことになりそうだ。


2mほどあるその大きな魚体の上。

しかし不思議と乗り心地の良いものであった。


やはり前世(?)がドラゴンなだけあるようだ。



「どうだい?なかなかなものだろう」


「う、うん。凄く快適…驚いた。」

「はっはっは、そう言ってくれるとおじさん頑張っちゃうよ」


「…とても綺麗な海…」

「そうだろう?私は魚として生まれ変わってこの海に入った瞬間に決めたよ。ここに住みたいってね。」


「…そうなんだ…」


少女はアレンの楽しそうな顔に心を打たれていた。

私は記憶が全くないけれど、ここまで楽しそうな顔をしたことがない気がした。


「アレンさんは…ここで生きるって決めたんだね。」


「そうさ、君はどうする?魂の道に戻るって、結局本当に死んでしまうのと同じなんだよ。」


「…そうだよね。私は…もう死んでいる。本来行くべきところに行けばそれは正しいのかもしれない…でも…」


少女は考える。


「もうすぐ陸だ。お嬢ちゃん。君が今思う通りにしていいんだよ。ここに居る生き物たちは君の選択を誰も否定しない。」


「…」


「君の意思で決めるんだよ。」


「…うん。ありがとう、アレンさん。」

少女は陸に着いたので、浜辺へと降りる。



「また会うことがあったら今度は海の底へ案内してあげるよ。この世界では君たちのような魚でない生き物でも水の中で息ができるんだ。」


「…ありがとう。」


「ガデンの居る樹の下はもうすぐだよ。」





少女はアレンとお別れし、反対側から走って来た小動物たちと再び合流。


平原を歩き、すぐに森へ。

この平原は最初に少女が居た場所だ


と、するならば森に入ると…



「おや、早かったの。」


「あっ。」

少女は軽く一礼。


「アレンから色々聞いたかの?」

「う、うん、あっ、はい。ガデン…さん。」

少女は言い方を直した。


相手は守護神のような存在。そうアレンが言っていたからだ。


「普通の喋り方で良い。さんもいらんぞ。堅苦しいのは好きではないのでな。」

「あっ、うん…」



「さて、答えは決まったか?」


「…まだ、迷ってる。」

「ほう。」


「でも、思ったの。ここの生き物たちは生きているって。」

少女は手を胸に置いた。


「ほんの数十分で、こんなにも暖かくなったの…今まで無かった気がする…それぐらい…ここの生き物たちは輝いている。」

「そうじゃろうな。アレンの奴をはじめとする、ここの生き物たちは輝いておる。」


少女は少し間を置いて顔をガデンに合わせる。



「…私、まだ答えは出せない。でも…今は…ここに残りたい。それが私の答え。」


少女はここに残ることを選んだ。



「それがお主の答えということじゃ。お主の心にはまだ迷いが見える。じゃが、ここで暮らすことでその迷いとも、おのずと決着がつくじゃろう。」


「うん、だから…しばらく…お世話になります。」

「あぁ、ゆっくりと考え、過ごすがいい。」



少女はこの星で迷いが消えるまで考えながら生きることを決めた。


本来、来るはずのない場所に偶然迷い込み、記憶を失った少女。



これは、少女が生者だった頃の未練が引き起こしたことなのか。

それは分からない。

だが、この偶然と、この出会い。


無駄にはしたくない。



(私は何者なのか。それは分からない。だけど、ここで過ごしていれば…思い出せるような気がする…)






少女はそう思い、ここで生きる。

いつか本当の自分を取り戻し、その時こそ、ちゃんとした答えを伝えられるように…





忘却の竜と全てを忘れた少女


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