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カナタ・ガデン(完)

あれから、数えるのも飽きるぐらい長い時間が経った…

ここは世界から少し外れた小さな惑星。


世界で死を迎えた魂が世界のエネルギーとなる為の道、魂の道の途中に少しずれた場所。

そんな場所にこの惑星はある。


そこにはたまに、いや、極々稀に魂が迷い込んでくることがあるという。

不思議なことにやってくる魂は死す前の肉体を得る。中には自分が望んだ異なる姿としてやってくる者もいる。


何かしらの強い無念、強い気持ち。そういったものが強い魂ほどこの惑星に迷い込んでくるのだとかなんとか。



そして、この小さな惑星にはとある管理者が住んでいた。

その管理者は大きな老竜だったと言われているが…つい最近、管理者が変わったらしい。


それはなんとも不思議な人間の姿をしたドラゴンなんだとか。


ちょっと、様子を見に行ってみる?




--------------------------------------




今日も何も変わらないいい天気だ。


小さな小鳥たちは楽しそうに鳴き、そして小動物たちはじゃれあうように草原を転がる。



そして色々な色の美しい花が広がる花畑に、その少女は居た。





「やぁ。カナタ。」


「…あぁ、こんにちはエテルネル。。」

「うん、こんにちは。元気そう…かな?」

「うん、多分。」


少女カナタ。

彼女がこの惑星の管理人だ。


青いワンピースを着ていて、大きなリボン紐が腰から足にかけてある。そして黄色の髪のポニーテール。

緑色の少し暗めの瞳をした、何処にでもいそうな少女。


だが、この少女は生前居た世界ではドラゴンだ。

人間の姿を植え付けられた存在。その内に秘めた潜在能力はこの惑星を管理するには十分の力だった。


―だが、この子はもう戦いの力などは持ち合わせていないようだ。



「あまり来れないって言ってたけど…思ったより早かったね。」

カナタは言う。


「早かったって言うけど結構時間たってるよ?」


「あぁ、そうなんだ。ごめん、時間の感覚とかもう無くって…それより今日は大勢で来たのね。」

カナタは後ろに居る仲間たちと思われる者たちを見る。


エテルネルの後ろには同じような気配を持った者たちが3人。


「彼らは僕たちと同じ神様の仲間たちだよ。本当なら僕含めて8人の神様がいるんだけど…えっと、今は4人だけかな!あはは!」

「まとまりがないんだね。」


「興味が無いんだってさ。全く、カナタだって新しい仲間みたいなものなのにさ。僕の時はみんな歓迎してくれたものなのにね!」

後ろにいた獣人の少年が言う。

「あっ、僕は“シアン”!よろしくね!」

「うん、よろしく。」


えへへと笑い元気そうな獣人の少年だ。

カナタよりも小さいのに神様だという。


「ねぇねぇカナタ!僕この惑星をもっと見たいんだ!見て回ってもいい!?」

「あ、うん。良いよ。」

「やった!レクシア!ナチュラル!エテルネル!行ってくるね!」

シアンは嬉しそうに森の方に両手を広げて走っていく。


「あはは、あの子は神様の中でも一番若い子でね。元気がホント、有り余ってるんだ。」

「うん、それは見てすぐわかるかな。」


「では、儂らも…儂は“レクシア”という。新しき仲間の誕生を歓迎しよう。」

レクシアは背中に亀の甲羅を背負った二足の獣人。

随分と高齢のようで、立派な髭を蓄えている。


「仲間…。」

「ウム、突然の来訪に戸惑っておるかもしれぬが…」

「ううん、誰かと話すの、楽しいから。」

カナタは小さく微笑んだ。


「ボクは“ナチュラル”だよ~君が退屈しないようにプレゼント持ってきたんだ~」

もう一人はナチュラル。

いや、人…なのだろうか。

ナチュラルは少し特殊な姿をしている。常に浮いていて、身体は球体で、電磁波のようなもので両手がふわふわと浮いている。

頭には獣人の耳のようなものがついている。


こういうのを何処かの世界では“UFO”という呼ぶこともありそうだ。


「これなんだけどさ~」

ナチュラルがもってきたのは何かの機械のようだ。

「これ…なんだか見たことあるような…」

カナタはその機械に見覚えがあった。生前に居た世界で似たようなものを見たことがあるのだ。何に使うのかはよく分かっていなかったが…


ラジカセ…という名前だったような気がする。



「これを使えばねぇ~世界の狭間に声を送れるんだよ~他にも録音とかぁ~再生機能とかぁ~、あ、あとお気に入り機能も付けといたからね~」

ナチュラルが何を言っているのかさっぱり分からないカナタだったが…


「あ、うん、ありがと。」

とりあえず深く追求すると止まらなくなりそうな気がしたのでとりあえず受け取ることにした。


「ナチュラルは変なもの作るのが好きでね。まぁ…飾り物だと思って置いてあげてよ。」

「う、うん。」

エテルネルは笑いながらカナタに言う。

カナタは戸惑いながらもとりあえずそれを地面に置いた。


「さて、儂はシアンの様子を見てこよう。また後でな。」

レクシアはそう言い、シアンが走っていった方向にのしのしと歩いて行く。


「ボクもこの惑星見てこようかな~エテルネルはカナタとお話するでしょ~?」

「そうだね。」

「じゃあとでね~」

ナチュラルはフワフワと飛びながらシアンとは反対の方向へ向かっていった。


「…まとまりないね。ホントに。」

「あはは、ホントにね。」

エテルネルは図星で笑う。


「で、カナタ、どうだい?管理者として板についてきたかな。」

エテルネルはカナタに問う。


「管理者っていうけど…私特別何かしてるわけじゃないんだケド…」

カナタは本当に何もしておらず、何かを作った形跡もない。


あの老竜が…ガデンが居た時よりも随分大人しい。そして表情も豊かではなくなっていた。

たまに小さく微笑むことがあるぐらいだ。


「…確かに、この惑星に多くの変化は無いね…それよりも…君は随分と変わったね。」

「そうかな。」

「そうだよ。」


エテルネルはカナタを見つめる。

「…あ、一応言っておくけど…」

カナタは思い出したかのように言う。


「私はこの惑星に残ったこと、後悔はしてないから。」

「…そうなの?僕はてっきり…」


「最初は寂しいとか悲しいとか色々あったけど…何というか…忘れちゃったの。そういうの。

「…そっか…」


エテルネルはそれをすぐに嘘だと見抜いた。カナタの目が少し泳いだからだ。


だが、カナタは後悔をしていない…というのは本当のようだ。

しかし、心がある。寂しいや悲しいという感情はあって当たり前なのだ。


「でもね。感じるんだ。」

「何をだい?」


カナタは手を胸に当てる。



「ここにね、ガデンを感じるの。」

「ガデンを?」


「そう、ガデンはここに居る。その暖かさだけは今も変わらないの。そして…この惑星の暖かさもね。」

カナタは空を見上げて風を感じる。


(…そっか、君は…僕たちと同じになろうとしているんだね。僕ら神様は長い時間を生きてきた。その過程でいろんなものを失っていく。でも…君は…まだ“生物”らしさを失っていない。そして…それが失われることは…無さそうだね。)

エテルネルはそう思い微笑んだ。


「君には、心強い大切な人が居るんだね。」

「うん。」

カナタは小さく微笑んだ。


「…カナタ、世界は今とても安定している。でもいつか…いつか遠い未来に世界はまた不安定になるかもしれない。その時に真っ先に影響を受けるのは主神である僕だ。」

「…」


「そして、その不安定さがより強くなったら…この惑星にも影響が出るかもしれない。」

「…私に出来ることは?」

「…残念ながら…」

「…そう。」

カナタはあくまでこの小さな惑星の管理人でしかない。他の神々に比べたら力は非常に小さなものだ。

主となる大きな世界の不安定を正せるほどの力は持ち合わせてはいないのだ。


「でも、君に出来ることはあるよ。」


「そうなの?」


「それは、この惑星に迷い込んだ者たちを導くこと。ガデンがやってきたことと同じことだよ。」

「…ガデンが…」

「そう、今は安定している世界だ。当分誰かがここに迷い込むことは無いと思う。でも遠い未来。世界が不安定になった時、誰かがここに強い無念を持って迷い込んでくるかもしれない。その時は、君が導いてあげるんだよ。」


「…私に、出来ると思う?」

カナタは尋ねる。

「君は昔それが出来ていたじゃないか。きっと出来るよ。」

エテルネルは微笑んだ。


--------------------------------------



「…そろそろだね。」

「帰るの?」

「うん。」

エテルネルたちの帰る時が来たようだ。


だが、カナタは表情を変えることは無い。


「カナタ、君はまたしばらく一人になってしまうけど、忘れないで。君には会えずとも僕ら神がいる。そして、君の胸にも…」


「うん、大丈夫だよ。私の居場所は、ここだから。」


「カナタ、元気で過ごすのじゃぞ。」

「またね~」


「楽しかった~また来てもいいかな?いいよね?」

「そのうちね。」

各々でカナタに挨拶をし、空に浮いて帰っていく。


残るのはエテルネルのみとなった。

「カナタ…」


「どうしたの?みんな行っちゃったよ。」

「…そうだね。じゃ、行くね。」


「うん、またね。」

「うん、また。」

エテルネルもまた空に浮き、レクシアたちを追って帰っていった。






カナタはエテルネルたちを見送り、歩き出す。


行先はガデンがよく居た木の下だった。



「…ガデン、私は大丈夫。大丈夫だから。」



--------------------------------------





自分の気持ちにはとっくに決着はついていた。

カナタが生前残してきた後悔はしばらくカナタを悩ませていた。

だが、それは皮肉にも時間が解決してくれた。


あまりにも長すぎる時間はカナタに無限とも言える考える時間をくれた。


確かに後悔はない。

それは間違いない。


カナタはこの惑星が好きだ。ガデンが守ってきたものを守りたい。

この暖かさを守りたい。

それは本心だ。


だが、その本心と同じぐらい…カナタの心にあったのは…“寂しさ”…だった。


エテルネルたちが来たこともカナタにとってはささいなこと。


悪い言い方をするなら…“どうでもいい”だろう。

ずっと居てくれないならば…居ないと同義だ。


「ガデン…ずっと、一緒だからね。」


カナタは木に寄り添い小さく呟いた。








“遠い未来。世界が不安定になった時、誰かがここに強い無念を持って迷い込んでくるかもしれない。その時は、君が導いてあげるんだよ”






そんな時が来たとしても…きっとすぐに何処かに行ってしまう。

ずっと、私の傍に居てくれるのは…この惑星と、ここの動物たち…そして…私の胸の中にあるガデンだけ。




―――




私は、この惑星でこれからも生きていく。

そしていつか…私は貴方にまた会えるだろうか。


その大きな身体で、私を抱きしめてくれるかな。



ねぇ、ガデン。





--------------------------------------




少女の目は真っすぐに、木を見つめていた。

その目には白い光の粒が零れ落ちる…



いつか、君の心が満たされるような…そんな誰かが…ここに迷い込んでくれたら。




僕はそう願いながらこの惑星をあとにした。



それは何千年後か、何万年後、いいやもっと…先の未来になるかもしれない。



いつか、このシンセライズが黒き闇で覆われそうになった時、きっと君の傍には…君の隣には…きっと誰かが居るよ。


そして、その誰かは…きっと、心優しい人であると、僕は信じている。

もし、君がそんな誰かに心を開けたなら…たくさん、たくさん甘えると良い。


もしかしたら…君の孤独を埋めてくれるそんな存在になってくれるかもしれないよ。







―――それから約1000万年後。



少女、カナタ・ガデンの前に、1人の竜人が迷い込むのだけど…それは、別のお話、だね。



to the next story...~Delighting World Break ボルドー・バーンと忘却の少女~に続く







最後までご閲覧いただき、ありがとうございました。

2015年に連載をpixivで行っていましたが、いろんな事情で約6年連載を止めていたこの忘却の竜。


時間をかけてしまいましたがついに完結することが出来ました。

カナタの物語は連載中のDelighting Worldと繋がっている作品です。

第2部では彼女の姿も出てきています。


Delighting World↓

https://ncode.syosetu.com/n9472hv/


Pixiv版はこちら↓

https://www.pixiv.net/novel/series/1548554


もしよければ併せてご覧ください。

今後ともDelighting Worldシリーズをよろしくお願いいたします。


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