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忘却の少女と忘却の竜

いつもと様子の違う風景にカナタは立ち尽くしていた。


そしてカナタは深く考える。




(…私は、どうしたらいいのかな…)





全ての記憶が蘇ったカナタ。

そして帰ってきたガデンだったが、カナタは自分の記憶と完全に向き合えていないまま、新たに向き合わなければならない問題へと直面した。


それは…






--------------------------------------



「―――この惑星は…間もなく滅びてしまうのだ。」



「…え?」


カナタは突然の宣告に頭が真っ白になりそうだった。


「どういう…こと…?」


気を確かにすることに精一杯だが、カナタはガデンに尋ねる。

「…今、外の世界では新しい世界が生まれたばかりであることは知っているね?」


「…うん、世界の管理者みたいな人が来てくれて…一応シンセライズ…っていう世界が見られるっていう力を貰ったけど…」

「そうだね、それは儂もエテルネルから聞いている。」


「世界は生まれ変わった。しかし…その生まれ変わる前…世界統合戦争でこの惑星の力は大きく弱まってしまった。だからこの惑星を守るために儂は眠りにつき、この惑星を守り続けてきた。」


「うん。ガデンが目覚めたってことは…もう大丈夫ってことじゃないの?それに…」

カナタはガデンが眠っていた木を見る。

葉の色がさっきまで緑色だったが、今は少し黒みを帯び始めて、枯れているように見えていた。


「…すまない。カナタ。儂の力が至らなかったのじゃ。この惑星は…間もなく限界を迎える。」

「…じゃぁ…」

「…あと24時間程度…といったところだろう。」


「たったそれだけ…なの…?」


あと1日。カナタにとってはあっという間の時間でこの惑星が滅びてしまう。



「…カナタ、君に儂はさっき聞いたな?」

「ここで生きたいか?…って…?でも…でも!この惑星が消えちゃったら…」

カナタは言葉を詰まらせながら訴える。


「カナタ、儂はこの惑星の命尽きるとともに力尽き、この惑星ごと消滅してしまうだろう。このままだと君もここに住む生き物たちも皆、この惑星の消滅と共に消え…魂の道へと行くことになるじゃろう。」


「……」

カナタは俯いてしまう。

せっかく記憶が戻った。それは決して良いことばかりでは無かったが…それでも、それと向き合う時間すら与えてくれないなんて。


「カナタ、君には2つの選択肢がある。」

「…2つ?」


「あぁ。まず1つはこの惑星と運命を共にし、皆と共に魂の道に乗り…シンセライズのエネルギーとして換地されること。」

この手段以外にもあるのかとカナタは思うが、最後まで話を聞くことにした。


「2つ目、それは…この惑星に“新しい管理者”を選定すること。」


「新しい…管理者?」


「そうだ。儂にはもう世界統合戦争で力を消耗し続けてしまった。元よりこの老骨よ…長くはなったが…君の決断が出るまではこの身体も持つだろうという算段であった。だが、その算段は狂ってしまったのじゃ。」


「…」




「カナタ、君が“新しい管理者”となること。それが2つ目の選択肢じゃ。」





「私が…?」


驚くカナタ。ガデンは頷いた。

「シンセライズも、かつてあった7つの世界にも共通することであるがね、世界を維持するためには管理者が…この惑星の核となるべく存在が必要なのじゃ。しかし儂にはもう管理者としてこの惑星を維持するだけの力は無い。だがカナタ、君なら可能じゃ。」


「…私が?私は…こんなにちっぽけだよ?何の力も持ってない。私は…生前は死竜として強い力を持っていたかもしれないけど…でも、今は…何も無いんだよ?」

「そんなことはない。君には確かに眠っている強い力がある。」


「…自覚は…無いよ。」


「ウム、それでも儂には分かる。死竜スファ・エグリマティアスとしての力は君の中にしっかりと残っている。これだけの強い力があればこんな小さな惑星の管理者になることぐらいは容易じゃ。」

「…でも…どっちにしても…貴方とはお別れなの?ガデン。」

カナタは涙を流す。


「…すまない。カナタ。」


ガデンはカナタに謝った。その言葉はとても辛そうだった。


ガデンはカナタと出会ってからとても楽しい時間を過ごした。アレンは例外であったが、皆がすぐに魂の道に帰ってしまう中、カナタは最後のこの時まで一緒に居てくれた。

ガデンにとってはそれがとても嬉しかった。そして、願わくばこんな形ではなく、きちんと寿命を全うし、カナタと別れたかった。


しかし、もうそのような夢は無い。ガデンはこんな形での別れを悔やむが…そんな弱音を口にはせずカナタにただ、謝った。


「…カナタ、消滅の時までまだ少し時間がある。君の…後悔の無いように決めて欲しい。この惑星の管理者になるということは…君によほどのことが無い限りほぼ無限ともいえる寿命を授かることになる。君は…そうだね…小さな神様のような存在になるのじゃから。」


「私が…神様…」



「選択の時になったら答えを聞く。だからそれまでは…君の足で、耳で、身体で、この惑星を改めて見て、感じてくるといい。」



ガデンはそう言い、木の傍に倒れ掛かるように腰を下ろした。

少ししんどそうだ。自身の消滅が近いが故に…命の光が消えようとしているのだ。



「…私は…」





--------------------------------------




カナタは枯れそうになっている木々を見ながら森を一人歩く。


約束の時間まであと22時間。

時間は待ってくれない。刻一刻とタイムリミットは近づいている。


小動物たちも姿を見せない。奥の方にいるのだろうか。

カナタはこの惑星を意味もなく歩いていた。

何も考えられないわけではないが、あまりにも突然のことと、あまりの時間の無さにカナタは混乱を隠しきれずにいた。


ガデンに頼りたいが、ガデンはきっと答えを知っていない。これは…自分が決めなければならないことなのだから。

「…海だ。」


カナタが辿りついたのは湖サイズの海。

アレンが居たところだ。

水は少し濁っている。昨日までは美しい青色だったのに、今は少し黒みがかかっている。魚たちも姿を見せずにいる。


「…あんなにきれいだったのに…」

カナタは座り、海を見つめる。



「…アレン、私はどうしたらいいのかな…」


カナタが初めてここに来た時、ガデンとは別にここで生きていた魚のアレン。

彼はドラゴンであり、ここに来るときに魚の姿となった。カナタと交流する中で、魚として海で過ごす自分だけでなくドラゴンであったあの時も自分にとって大切なものだったのだと思い、満足して還っていった。


カナタという名前もアレンから貰った名前だ。カナタにとってはガデンと同じぐらい特別な存在であったアレン。

もう彼と別れてから何十年も経っている。アレンはとっくに魂の道へと還り、世界のエネルギーとして還元されているだろう。

つまり、もういない。カナタはもういないアレンに向かって語っている。意味の無いことだと分かっている。アレンがここに居ても答えが出ないことも分かっている。



カナタは呟いた。

「私一人じゃ…決められないよ…こんなこと……」

カナタは弱気になってしまっている。


このままでは中途半端な気持ちで選択してしまう。

どのみちガデンとはお別れしなければならないのだ。自分が仮にこの惑星に残ったとしてももう誰も頼る人は居ない。カナタは独りぼっちになってしまう。

そんな状態でカナタの決意が決まらないまま選択してしまうぐらいなら…いっそこの惑星ごと消滅した方が良いのではとも思ったが…



「…消えたく…ないなぁ…」


きっとこれが本音だ。


カナタにとって、記憶を取り戻したと言ってもやはりこの惑星がカナタにとって一番大切な場所なのだ。

確かに元の世界で関わった仲間も、大好きだったダウトたちも大切だ。だけど、やはりカナタにとっての気持ちはここなのだ。

この場所を守っていくというのはカナタにとっては…




--------------------------------------

あれはしばらくずっと座っていたカナタ。

時間まであと17時間。



「私なんかに…務まるのかな…神様なんて…」


カナタは立ち上がり、森を歩く。


すると、木の傍に小さな破片が落ちているのを見つけた。


「…これ、ガディの鎧?」

頭の無い騎士、ガディ。

彼は戦争で死に頭部を失ったままここに来た。

愛する人に魂の道の向こう側でまた会うために惑星を去った。


「…ガディ、会えたかなぁ…」


ここで出会った迷い人の数はほんのわずか。だが、アレンもガディも、この出会いはカナタにとっては宝物だ。

もちろん、ガデンとの出会いも、宝物なのだ。



「…そうだよ、私にとって…ここは…“宝物”なんだ…」



この世界は小さくて脆い。

だけど、そんな小さな惑星で過ごした時間は決して悪いものじゃない。


ガデンが眠っている間の時間は誰も迷い込まなかったし、シンセライズの管理人が来たぐらいで1人の時間が長かった。

それでも、カナタはやはりこの惑星が好きなのだ。



「…私は…」





しばらく歩くと今度は花畑。


「…ここは相変わらず綺麗だね。」


カナタは花畑に寝転がり、風を感じた。


「…気持ちいい。この感覚も、この気持ちも…私は……無くしたくない…」

ガデンが言うにはここに迷い込んでくる人は本当に珍しい。

故に、これからカナタがここを守っていくにしてもずっと誰も来ない可能性もあるのだ。

カナタはここを残す選択をするということは、無限ともいえる時間を独りで過ごすことになると言うことなのだ。


「…あっ。」


カナタは気配に気づき、起き上がる。

そこには小動物たちが集まっていた。カナタの近くに寄り添い各々で鳴きだす。


「…そっか、あなたたちも居るもんね。」

会話は出来なくても、ここに居る生き物たちもカナタにとっては大事な存在だ。


「…あなたたちは…ううん、聞くまでも無いよね。」


相手は動物だ。死ぬことなど恐れないだろう。

だが、動物たちは元気のないカナタを慰めようとしているのか、カナタに寄り添ってくる。


「ありがとう。」



暖かさに包まれ、カナタはウトウトと眠気に襲われる。


そして、気が付いたらカナタは眠ってしまった。



--------------------------------------




―――夢の中だろうか。身体がフワフワする。





「やぁ、カナタ。」



「この声…シンセライズの?」


「そう、ガデンから聞いたかもだけど、僕の名前はエテルネル・シンセライズ。」


「うん、どうしたの?ここは夢の中でしょ?」


「あはは、夢の中の方が実は君とコンタクトを取りやすくてね。僕は夢を操れる力を持っているからね。」

「そうなんだ。」

「そうさ。夢を経由して色々干渉出来る。だから今度は君の夢にお邪魔させてもらったよ。」



エテルネルはここで初めて姿を見せた。

小柄な少年のような姿をしているが、どこか人間とは異なり耳は尖っており、頭には角が生えていて小さな三日月に近い花びらのような羽を背中に生やしている。妖精のような姿をしていた。


「さて、カナタ。君はあの惑星をどうするか…という選択に迫られているね。」


「…うん、私はどうしていいのか分からない。でも、それは誰かに聞くことじゃない。私が決めなきゃいけないことだっていうのは分かってるの…でも、決められなくて…決心が持てないの。」



カナタは俯いてしまった。


「…そうだね、これは僕が決めることでもない。君自身で決断しなければならないことだ。」

エテルネルはそう言う。


「でもカナタ。僕は君がどう選択をしても君の手助けをしてあげるよ。」

「…手助け?」


「うん、君が魂の道に還るなら…僕はちゃんと君たちを送り届ける。君が別れた友達とも再会出来ることを約束してあげる。」

「…アレンやガディ…ダウトやアベルたちにも?」

「うん。」


エテルネルは微笑んだ。


「…」

カナタの気持ちは揺らいだ。だが、何故だろう。複雑な気持ちが抜けないカナタ。納得は出来ていない様子だ。




「そして君がここに残り管理者として生きるなら、僕と僕の仲間たちは君のサポートをすることを約束する。気軽に会いに行ったりとかは出来ないけど…何かしらの手助けは出来る。」


「…」

カナタはまだ迷っている。



「カナタ、“君は、生きたいかい?”」


「…生きたい。」

カナタは声を出す。

「生きたいよ。生きたい。だって、私は何も向き合えていないもの…せっかく取り戻した記憶の整理も出来てない。こんな中途半端な気持ちでダウトたちに会えない。ごめんなさいって謝れない。アレンやガディも…違うって言ってくれると思う…私は…今の私は…まだ…還りたくないんだ。」


「…そっか。うん、それが君の本音かな。」

「…うん。」


「カナタ、君が自分で決めた選択に後悔をすることはあるかもしれない。でもね、その後悔を塗りつぶすほど、良い事もあるかもしれない。それは、君が“生きる”って選択をしたことで生まれる大事なことなんだ。だから…君がその選択をしてくれたこと、僕は嬉しく思うよ。」

「エテルネル…」


「カナタ、大丈夫。自分の気持ちを信じて。」


「…ありがとう。」


カナタの視界が白く染まる。夢から目覚めようとしているのだ。


--------------------------------------



陽が沈み、夜になった。

宙を漂っていた光の球体も姿を見せず、辺りの植物はすっかり枯れていた。


「…結論は、出たみたいじゃな。」



「…うん、待たせてごめん。」


消滅まであと2時間。

カナタの目は真っすぐだった。


「聞かせておくれ、カナタ。“君は…生きたいかい?”」


カナタはその口で伝えた。


「“生きたい”」



「…そうか。カナタ、ありがとう。」

「え?」


「君の選択がどうであれ、儂は受け入れるつもりじゃった。だが、儂は心の何処かでは君がその選択をすることを望んでいたのかもしれない。」

「…」


「カナタ、君はこれから儂の助けなく1人になる。でも大丈夫。君の心には…確かに多くの人の気持ちが刻まれている…忘れないでおくれ。君は…1人ではない。」


「…うん。私、ガデンのことも、みんなのことも忘れない。何万年、何千万年経っても…忘れない。」


カナタはガデンにぎゅっと抱き着く。大きな竜の身体を全て包み込みたい。そんな勢いでぎゅっと…抱いた。

ガデンもそれに応えるようにカナタを抱く。


「ガデン…あり…がと…ッ…」

カナタは涙を流しながら言う。


「カナタ、儂こそじゃ。君と過ごした時間、娘でも出来たかのようで…暖かで、本当にかけがえのないものであった。ありがとう。」

ガデンの目にも涙が流れた。


「私も、大切なものを貰ったよ…私はこの惑星に来れて良かった。この暖かさを…私がこれから守るから。」



そしてガデンの身体が淡く光り出す。


「!ガデン…!」


「カナタ、これから儂の魂を君に託す。儂のこの惑星の管理者としての権限が君に渡るじゃろう。」


「…お別れ…なんだね。」

「あぁ。でもカナタ。儂の魂は君の中に溶け込む。儂はこれからは君と共に…君は…カナタ・ガデンとして…生きてくれ。」

「…ガデン!」


ガデンの身体が粒子となり、カナタの身体に取り込まれている。

大きな足が、翼が、尻尾が、ガデンが消えていく。


「…君の、笑顔が見たい。カナタ。」

「…ガデン…ッ…うん、うんっ。」

カナタは涙を流しながらも笑顔を見せた。今までにないぐらい最高の笑顔で笑った。


ガデンも微笑み、再度抱き合った。



「カナタ、ありがとう。我が愛する子よ。」

「…さようなら…ガデン。」

「さようなら。カナタ。」






―――


粒子は、カナタの中に取り込まれ、目の前には何も残らない、ただ静寂だけが残った。











「…うあ…ああーーーーん!うあああーーーーん!!!あーーーーん!!」







カナタの泣き声だけが、ただ静かな惑星に響き渡った。









小さな世界は蘇る。


ここに新しい管理者は生まれた。


カナタ・ガデン。

忘却の少女は小さな神様となった。








next... Final Episode

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次回、最終回です。

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