忘却の少女と赤き炎の記憶
忘却の少女と赤き炎の記憶
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神様曰く、世界は危機を迎えていたがその危機は去ったらしい。
7つの世界は1つになり世界は1つになった。
世界の危機により悪影響を受けてしまった惑星を守るために力を使い眠りについたガデン。
それから実に30年の時間が流れた。
10年前、カナタは世界の主神と名乗る者からガデンが10年後ぐらいに目を覚ますだろうことを聞いた。
そしてその間の暇つぶし…のようなものであるが、1つになった新しい世界、シンセライズを見渡すことが出来る力を貰った。
時には惑星でのんびり過ごし、時にはシンセイライズを覗いたり。
カナタは来たるガデンが目覚める日まで待ち続けた。
そんなカナタに異変が起こったのはもうすぐガデンが目覚めるであろうと言われている時より少し前のことだ。
「…すー…すー…」
何も変わらない普通の日々を過ごすカナタ。
時刻は深夜。カナタはぐっすりと眠りについていた。
―――
「…ん…アレ?」
カナタは見知らぬ場所に居た。真っ暗だ。
少し焦げ臭いにおいがするような気がした。地面はゴツゴツしていて歩きにくい。明かりが無いため地面も、周囲の風景もはっきり見えない…
「ここ…何処?これは…夢?」
カナタはフラッと歩き出す。
足取りが重い。まるで何か重りが乗っかっているようだった。
「ハァ…ハァ…」
息が切れる。ついに歩けなくなり立ち止まるカナタ。
その時だ。目の前にほんのりと光が見えた。赤い光だ。
「…明かり…?いや…あれは…違う。あれは…“炎”…?」
見えた明かりは炎だった。よく見るとごうごうと物凄い勢いで燃えている。カナタは近くまで行ってみようと思ったが…次の瞬間だ。
ひゅうと音がする。上から聞こえるのだ。空を見上げると、火の玉が空から物凄い勢いで降ってきたのだ。
大地が揺れる大きな音に驚きながらもその光景を見つめるカナタ。
爆発の衝撃波がカナタを襲うが、カナタはそれに全く影響を受けていない。ここは夢。カナタはこの場には居るようで居ないのだ。
「私は…私は…この光景を知っている。」
カナタはこの景色に見覚えがあった。
赤く燃える大地、赤く燃える建物。その影響で大地からマグマが噴き出して地上を赤黒く染めていく。
真っ黒な煙が周囲の生物を死滅させ、その業火はあらゆる生物を灰にした。
「…あれは…」
カナタは空を見上げた。
空では大きなドラゴンと、大きなドラゴンとそれに乗る人間が戦っていたのだ。
片方は赤いドラゴンで、人間が乗っているドラゴンは黒く、ところどころ身体に金属のようなものが埋め込まれている。
そして、カナタはそれを見た時、頭を電気が走ったように衝撃を走らせた…
「…あなたは…私の何なの?」
カナタはドラゴンとその上に乗っている人間を知っているようだった。
ただ、だれなのかは分からない。ただ、知っている。本当にそれだけの認識であった。
―――
やがて戦いは人間とドラゴンの勝利で終わった。
しかし、それぞれは重い怪我を負ったようで、フラッと地面に不時着した。
「あっ…!」
カナタはドラゴンと人間の落ちた場所へと歩き出す。
カナタが重い足取りで辿り着いた時、1人の少年と1匹のドラゴンは壁に身体を寄せ、苦しそうにしていた。
「…あれは…」
それからしばらくして、遠くの方からドラゴンと人間が現れた。1匹のドラゴンと2人の人間だ。
(ダウト!ディオス!無事!?)
(あちゃ~また派手にやられたなァ。)
(イーラ!治療の準備!ディオスをお願い!)
(はいはいっと。)
(駆動系に多少の傷アリ。シカシ、生命活動に問題はナイ。)
ディオスと呼ばれる金属を身体に埋め込んだ黒いドラゴンが言う。
(あんさんの部品は特注や。あまり壊さんといて欲しいわ~)
イーラと呼ばれるドラゴンは「じっとしててや」とディオスに言い、治療に当たる。
小さな眼鏡をかけた少年が人間治療用の道具を持って治療にあたる。
(アベル…大丈夫。かすり傷だ。)
(ダウトもディオスも無理をし過ぎなんだよ!スファも手伝って!)
(うん。)
もう一人は少女だった。
しかし、その少女を見た時、カナタは今までにない衝撃を受けた。
「この人…!」
目の前に居たスファと呼ばれる少女は…カナタそっくりだったのだ。
「私…なの…?」
スファと呼ばれる少女はダウトと呼ばれる怪我をした少年の傍に行き、謝った。
(ごめんなさい、あなたたちばかりが傷ついてしまって。)
(いいんだスファ。君の願いの為に、みんなの願いの為に俺たちは戦ってるんだ。それに…また1匹ドラゴンを倒せた。これは大きな一歩。そうだろ?)
(えぇ、残るドラゴンはあと33匹。殲滅率50%。)
(半分だ。ここまで来たんだ…もうすぐだ。もうすぐ…)
ダウトという男は酷くやつれた目をしていたが、その瞳には強い意志を秘めていた。
(1匹1匹相手にしてこんなに大怪我してたら命がいくつあっても足りないって…)
(でも、俺たちがやらないと…この世界が空竜たちのものになってしまうんだ。それだけは阻止しないと…)
(気持ちは分かるけどな~…焦り過ぎや。焦ってもロクなことにならんで。)
アベルと呼ばれる少年とイーラと呼ばれるドラゴンはダウトとディオスの治療を続ける。
そして、スファはアベルの手伝いをしながら何度も謝っていた。
「…この子、謝ってばかり…これが私だとしたら…私は何なの…?それに…この気持ちは…嬉しい…?なんで…?」
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「…ン、ハッ…ハッ…」
うなされていたカナタ。
周りに小動物たちが集まって心配そうに見ている。
「私は…私は…誰……なの…?」
夜が明けた。
頭が混乱したまま目を覚ましてしまったカナタはため息をついた。
「…みんな。どうしたの?」
小動物たちがカナタを心配そうに見ていた。
「私、そんなにうなされてたのかな…ごめんね、もう大丈夫だから。」
カナタは起き上がり、いつものように惑星を散歩したりして過ごした。
だが、心の奥には見た夢の記憶がこびりついて取れることは無かった。
「私が気にしていたあの人は…見ていて少しドキドキした。」
カナタは夢の中でスファと呼ばれていた少女が気にかけていたダウトという青年を思い出していた。
「あの人は…私の…なんなんだろう。」
長いようで短かったあの夢がもし、自分の無くしてしまった記憶ならば…それを自分は思い出そうとしているのかもしれない。
しかし、それは自分の死んだ理由さえも思い出そうとしているということだ。
カナタはそれを思い出す時、どんな気持ちになるのだろう。思い出すことに少し恐怖を覚えたカナタは身体をぶるっと震わせる。
「なんだろう、怖い…私は…怖いんだ。思い出すのが。」
正直どうでもいいと思っていた。思い出してもそうでなくても自分は自分だと思ってきた。
だが、いざこうやって身体が思い出させようと働いていると…怖い。
昨日見た夢が明るくて綺麗なものであればここまで怖がったりはしないだろ言う。
だが、昨日見た夢は…間違いなくそれとは正反対だ。大きな戦いの真っ只中。
人間とドラゴンが手を組んでドラゴンと戦っていた。
多くの生物が死に、自然が、大地が焼かれていた。そんな中、心を強く持ち戦っていた青年たち。
カナタは自分がその中の1人だったのではないかと感じた。
そこにいたスファという少女は、確信は無いが…恐らくあの少女こそが、カナタが生きていたころのカナタなのだろう。
カナタはそう思った。
「また、夢を見るのかな。私は…これからもカナタで居られるのかな…私は…思い出すべきなのかな…」
答えが見えぬまま、カナタの時間は流れていく…
しかし…
「でも、私は…知る必要がある。だって…私は…」
(私は、あの人を見て…嬉しいと感じたんだ。この気持ちは…なんなのか、知りたいから。)
そして、数日経った夜、カナタはまたこの夢の続きを見ることになるのであった…
忘却の少女と赤き炎の記憶 END




