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魔法の家の落ちこぼれが、聖騎士叙勲を蹴ってまで、奇蹟を以て破滅の運命から誰かを救える魔法使いになろうとする話  作者: 鯣 肴
第二章 第三節 異質な世界の普通の日常

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魔法奪奪 Ⅹ

 街の中。


 走る、青藍せいらんと、沙羅サラ


 青藍せいらんが、気配を辿り、少年の位置を特定している。


 そこには、少年のもの以外に、二つの、強大な気配。


「あれよね! 何なのよ! あのバカげたのは!」


 苛立いらだちを浮かべつつ、怒りを言葉に剥き出しにする。


ソウちゃんよりもあの二人はずっと強いんです……。でもとてもめんどくさがりで……。今回のことには乗り気じゃなかった筈なんですが……。動かないと思ってたんですが……」


 後をついてまわる沙羅サラは、全く息を切らしていない。


 一方、青藍せいらんは汗だくだ。何せ、少年が負けるような相手なんて、最低でも教師陣クラス。主席クラスですら届かなかったのが先日証明されたばかり。


 少年が狙われたとて、何も問題はない。相手は少年を倒せない。ましてや、捕えらることなぞ。


 沙羅サラにちゃんと話を聞く、という順当かつ確実な下準備も無しに、突っ込もうとしている青藍せいらんには、余裕も正気ももう、無い。


 光の柱が、上がり、広がり、周囲を飲み込んでゆく。


 最初の発生時点から軽く数百メートル、順当に数キロ離れた青藍せいらんたちの地点すらも…―


「止めるな! 足を!」


 青藍せいらんは、足を止めた沙羅サラの手をとり、引っ張り、走り続ける。光へ、向かって。


 魔法を唱えるでもない。青藍せいらんがしたのは、指輪を緩めただけ。溢れた闇が、膨れ上がる柱になって、青藍を中心に広がり、発生し続け、迫ってきた光の奔流にぶつかり、打ち消し合う。


 そして――







 ザサァ――!


 足を止めた。


 到達したのだ。光が消えたあとの爆心地へ。


 消し炭になった少年を魔力から察知し、そこにボロボロになりながらも、辛うじて立ち上がり、こちらに恐怖の視線を向けた赤と緑の二人の人物に、圧を向ける。


 嵌め直していた指輪を、虚空に、仕舞った。


 ゴォオオオオオオオオオオ――


 闇のもや、人のカタチ。恐怖を想起させる、冷たく、背をなぞられるような、声。


()()()()()()をこんなにしたのはキミたちだね?」


 その正体が分かっているのに、傍で、腰が抜けて、崩れて、立てない、震える沙羅サラ


「だとしたら、どうする?」

「未だ名も無き魔女様。貴方様より、ボクたちの方が、彼に近い。間に合いませんよ」


 震えながらも、声は保って、ちゃんと応答している。彼らは強者である。魔女の位階には到達しておらずとも、最低、少年のいる位置にはいるだけのことはあるのである。


「抵抗、するつもりかい? ゆるしていないよ?」


 闇が、うごめいた。


 緑の、つまり、菩提ボテイの、左目が、消失していた。


「ほぉら。その証拠に。緑のキミの魔法の起点はゆるされなかった。その存在を。おっと。花びらなんかになっていいのかい? そんな華奢きゃしゃだと、原型を留めていられないね」


 舞い散った、夕焼け色の花弁は、しおれ、枯れ、粉のように散って、ぐちゃっと血だらけな肉塊になって、無憂ムユウは、地に伏した。


「精霊の身で闇に抗おうなんて、愚かだね。そういえば()()()()()()()()()()()()()()()。此処の法則を知らなかった訳だ。笑えるね。そりゃこうなる訳だ。ねぇ。キミもそう思うでしょう? 沙羅サラ


 沙羅サラは、上からも下からも垂れ流しながら、泡を吹きながらも、涙を垂れ流しながらも、目をあけて、青藍せいらんを見ている。


「よくもこんなことをしてくれたね? ()()()()()()()()()()()。でも当然、ボクのライトの分が残っている。どう、あながわせようかな? 取り敢えずは、キミたちが目論んでいたのと同じように、こうしようか」


 闇の塊が、線になり、千切れ、それぞれが輪になり、噛み合うように閉じ合い、鎖になる。それが、三本。


 うち一本が、ぐるぐると、沙羅サラの首に巻き付いた。残りの二本はそれぞれ、菩提ボテイ無憂ムユウに。


 沙羅サラが、うめくような声をあげる。声は、音になって、周囲に広がる前に、消えてゆく。


「耳障りはこれ以上は勘弁してね。悪いのはボクではなくて君だ。そんな目で見るなよ。唯の自滅だろう? 存分に独り、勝手に苦しみ叫ぶといいよ」


 そうして。青藍せいらんと、一人。話をするために残された、菩提ボテイ


「魔女に魔法で勝とうだなんて、莫迦バカげたことを考えたね。絵を描いたのはキミだろう? 名乗らなくていいよ。耳に入れたくもない。それに、キミはボクの名前を知るに値しない。ボクが今から聞くことに偽りなく、全て答えろ! 首謀者たるキミへの沙汰さたはその後だ!」

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他にも色々描いてます。
長編から連載中のものを1つ、
完結済のものを2つピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
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