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魔法の家の落ちこぼれが、聖騎士叙勲を蹴ってまで、奇蹟を以て破滅の運命から誰かを救える魔法使いになろうとする話  作者: 鯣 肴
第二章 第三節 異質な世界の普通の日常

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魔法奪奪 Ⅸ

「……。こんな……ばかな……」


 さしもの少年も、愕然がくぜんとする。組み合わせが絶望的に悪かったのだ。乱雑に選んだだけなのに。この組み合わせ、この発動順でなければ、こうはならなかったのではないかと思えてしまうくらい。


「ざまぁ無ぇな! 最初からそうしとけってんだ! 新入りぃぃっ! 今更自爆しようったって無駄だぜ? もう分かったろう? そういう魔法がお前に掛かってるってことだ。抵抗は無駄だ。てめぇから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」


 無力に無様に地面に伏せ、せめてもの抵抗の証に首を上げて相手を見上げてにらみつけている少年。


 狙いは明かされた。魔力。光の魔力。だからこそ、狙いは自分なのだと。だが、それを集めることが目的なのだとしても、それを使って何ができるかを、自分はあまりに知らなさ過ぎる。


「集めてどうする? それで何ができるというのだ?」


「ボクたちには仲間が()()()()いるんだよ。()が、キミから吸い取った魔力をカタチにする力を持っている。なぁに。死にはしないよ。魔力が枯れるなんてことはないし、後遺症も無いよ。ただ、数か月くらい、昏倒するだけさ。多少のお礼くらいならしてあげてもいいと思ってるんだけど、何か、聞きたいことはあるかい? ボクたちからキミに提供できるモノの中で、キミが価値を最も感じるのはその辺りだと思うんだけども。勿論、これ以上抵抗しようとしたら、何もあげないけど、どうする?」


 少年を見下ろし、穏やかに微笑む。邪悪さも無しに。まるで何も悪いと思っていないように見えた。


 何か、常識や観念が違う存在のように思えた。


(自称精霊とは言ってはいたが。それにしても…―)


「おい! 菩提ボテイ!」


無憂ムユウ……。キミの為なんだよ? そのなりでキミってやたら感傷的じゃあないか。キミが引き摺らないで済むようにって、話を進めてるのにさぁ」


 真っ赤な毛皮みたいなローブを着た無表情に怒る魔法使い無憂ムユウと、のっぽで緑の葉っぱのローブ着た表情豊かではありつつも落ち着いた様子の魔法使い菩提ボテイの、少年を置いての遣り取り。


(……。多分、赤い方の魔法は、不運を引かせるとか、そういう類だ。元・師匠が言っていた、逸脱していない騎士では敵わない類の魔法使いの一種。ならば、切り替えるとしよう。覚悟をしよう。戦力としても数えられないくらい弱っても構わない。私ではこいつらに対する決め手になりそうなものが他には無い。運も糞もない、最低を引いても最高を引いても、決着になるような選択をする他ない。ここで何もできずに落ちるよりはましだろう。それに、狙いが彼女ではなく、私であるというのなら、もう負けても構わないのだから。もしそうでないにしても、こいつらだけでも無力化できれば、彼女もだいぶやりやすくはなるだろう)


「一応、く」


(探れるだけ探ることとしよう)


「あぁ?」

「眠っていればいいのに。あぁ、気付いているかい? そのねばねば、魔力を吸うようだしね。キミのなけなしの魔力を」


(やはり、口が軽い)


「そんなことはどうでもいい。私が聞きたいのはたった一つ。狙いは私だけか?」


(嘘をつく必要が無いと思っているのだ、こいつらは。ただ、引っ掛かる。私のライトニングボルト。恐らくこいつらは、あの映像経由で、目にしている筈。まさか、()()()()()()()()()()ことは無い、か?)


「そうではないよ? メインはキミさ。サブプランとして、キミの彼女のあの魔女かな。反対の属性だから変換効率が悪いんだよ。キミで足りてくれればいいけれども」


(嘘は、感じない。それに変わらず、私を嘗めきっている)


「勝手に話を進めるなよ。()()()()()()()()()()()。ストックできるならしときたいぜ俺は。()()()()()()()()()()()()()()()。できれば首輪をめて連れていきたい位だぜ!」


(未だ、だ。未だ)


無憂ムユウ。余計な情報を吐かないでくださいよ。()()()()()? っと! すみませんね。他に聞いておきたいことはあります? 無ければそろそろ…―」


(……未だ。未だ……。未だ……。次は、いいや……、)


 霞む視界。しかし、変に時折ピントが合うが故に。敵の油断が故に。


 少年の視界はその端に、確かなものを捉えた。自身の視界の端、地面に平行にのびている手、その肩。乗っているあの、夕焼け色の花弁の欠片と、その花弁の根元と繋がる、毛のようなおしべが、生えて刺さって、ぴたりとくっついていることに気づいた。


(やはり。もう一方の魔法は、認識の阻害。主に視界。しかし、意識し続けなければ途切れる類の、だろうな。良くも悪くも、尽きる、あの魔法であるならば、この影響も、完全にリセットできる。運も糞もない、巻き添え上等なこの魔法なら。気づかれれば、こんな自爆さえ、まともにさせてもらえない可能性がある。今しか、無い。疑問は追いやれ。今こそ、機だ)


「私は、お前たちの邪悪を赦さない。()()()()()()()()()


 わざわざ声に出して、油断しきっていた彼らの意識を引きつけて。もう止めようとも無駄だ。発音は、発動は、既に成された。


(後は任せる。今の私にこれ以上の手は打てないのだから。青藍せいらん。どうか、上手く、やってくれ)


 光が、全てを、呑み込んだ――


 根を張るようにくっついたこの身の花弁ごと、自身も、彼らも、周囲一帯も、なすすべなく、吹っ飛んでゆくのを、吹き飛ぶ目玉の終わりまで――

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他にも色々描いてます。
長編から連載中のものを1つ、
完結済のものを2つピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
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