魔法奪奪 Ⅷ
「しぶといもんだねぇ。キミたちは。だけど、魔力の欠乏に抗う術は果たして持ち合わせているのかな? その無茶。続けて二度は使えないだろうしねぇ」
圧されている。
息が上がっているのは、指摘された通り、魔力が底をつきかけているせい。
手持ちの魔法の中で、一撃必殺の威力があり、捉えたなら、確実に当たる筈の、自身が辛うじて制御できている魔法であるフラッシュバインドまでもが、効かない。これまでに見たことのない形で、いなされている。
魔法的なものなのか、それとは別の手品の類なのかすら、はっきりしない。
おまけに、言ってくることまでいちいち、意味深であるという。
「てめぇが謝って魔法を差し出すというのなら、許してやってもいいぜ? どうするよぉ? はは! なかなか風変わりな趣向の魔法を持ってるようだしなぁ? 何より、雷魔法じゃ無ぇ光魔法とは。あの魔法も光属性。薪にできるもんなぁ? 菩提」
「分かってるよ、無憂。たださ。何だかさぁ。こんなやり方よりも、理由説明した方が早かった気がするんだけど。気の……せいかなぁ?」
「今更言ってもしょうがねぇって! どっちにしろ同じだ!」
(まるで、私以外に。私の剣も人格と意思を持っているかのような形容をしてくる。もしかすると、鎧も含んでいるかもしれない)
(もしそれが正しいのだとするのなら、私自身の武装ですら、目の前のこいつ、もしくは、こいつらの方が詳しいということになる)
(加えて、あの黒いテープの切れ端。あといくつ、使える状態で持っている……? ……。使うしか無いのか……? ライトニングボルトを。だが、制御不能。使えば私の戦闘不能は確定。こいつらを倒しきれるとも限らないのに、だ。それに、敵は、こいつらだけでは無い。彼女に知らせるか? 連絡方法、用意すらしてこなかった……。やるならせめて……負けが決まったときか、こいつらこそが黒幕と確信できたときだけだ)
「降参する気は無い。そちらこそ降参するつもりはないか? 話があるなら聞くのは構わないが。手を貸すかはまた別の話にはなるだろうが」
「圧されて負けそうな奴の台詞じゃねぇな! ま、もう決まったようなもんだ。てめぇの負けは。何せ、今から、お前の攻撃は、全て、不幸にも、俺たちに届くことはない」
キィィインンンンン!
甲高い音が、鳴り響いて、消えた。
「っ……!」
思わずふらつきつつも、剣は構えたまま。
敵は突っ込んでこないし、姿を消したり、花弁化したりもしていない。
(おか……しい……)
「回避行動しなければ、私の攻撃はお前たちに当たるのだろう? 構えを解くなんて、何のつもりだ?」
少年はだから探りを入れた。
「もうキミの攻撃が届くことはないということだよ。何かしてみるといい。嫌でも分かるから」
菩提のその言に、
「ああそうかい」
と、少年は、鎧を消し、懐に手を入れ、自分にも、そして当然相手にも、中に何が入っているか分からない黒いガムテープの断片を複数掴み、投げつけた。
菩提の腹辺りに当たり、散らばってその数が6個であったことが判明したと同時に、それらの中に込められてた魔法が、露わになる。
複数の人の声が、再生された。
「ふわふわわたわた」
「ほむら」
「空気よ、収縮せよ」
「ブーメランウォーターボール」
「もちもち、とりもち」
人の頭くらいの体積の白くもこもこした羊の毛のようなものが生成されたかと思うと、それに火がついて、そして、空気が圧縮されて、火の勢いが増し、水の塊がその上から生成されて火の勢いが一気に弱まりつつも、火を消し切る程ではなく、だがそのせいで燃え尽きてしまうことなく、何故か黒いガムテーブの断片を投げた少年の投擲の軌道を逆にたどるように、その塊は少年の方へ戻ってきて、そして、白く、ねちゃっとくっついて、ねばねばして、胸元にくっついて取れない上に、何だか、火が勢いを取り戻し始める。
咄嗟に少年はくるっと地面を転がる。が、何故か、地面には強くくっついて、地に伏せる羽目になる。火は消えてくれはしたが、その火のせいで、ねばねばの粘度と硬度が上がってしまったかのような。
酷い不運に見合われた訳である。
「新入りのくせに、いっちょこまえに抵抗なんてすっからそうなるんだ! 我が魔によって命じた! お前にはもう、不運しか引かせねぇ! 巻き添え上等の切り札を切る余力も無ぇ! 惨めに、諦めやがれ!」




